The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
武内さんのいる場所が分かり、急いで美嘉と向かう。
「どうしてまた、交番にいるのかなあの人は!」
「アタシが知ってるワケないじゃん! また不審者だと思われたんでしょ!」
目的地に着き、走ってきた俺と美嘉は肩で息をする。久々に走ったぞ。くそ、体力がなくなってるな俺。
「お疲れ様です。城戸さん、美嘉ちゃん」
出迎えてくれたのは、俺が武内さんの代わりに連絡をした相手――千川さんだ。
「はあ、千川さん、武内さんの居場所を、はあ、探し出してくれて、ありがとうございます、ふう」
「いえ、事務員として当然の事をしたまでですよ」
……正直、この人に頼ることはしたくなかった。いつもこの人は、武内さんがどの辺にいるのかすぐに分かるのだ。現に今回も、近くの交番ではなく少し遠めの交番にいると言ったのが彼女である。色々と千川さんの秘密を知りすぎたらタダでは済まないような、とても嫌な予感がする。堀さんよりもサイキックじゃないか。
「武内さんは?」
「もうそろそろ……あ、来ましたね」
交番からすごすごと出てきた、大柄の男性。違いない、武内さんだ。
「すみません。警察のお世話になっていまして」
「また職務質問ですか?」
「ええ、まあ」
武内さんは首筋に手を当て、視線を下ろす。……まあ、一番参ってしまったのは彼だろう。
「莉嘉は? 皆は何処?」
美嘉の言葉を受け、武内さんはすぐに社用携帯を取り出す。少し操作して耳に当てるが、彼は首を横に振ってため息をついた。
「……電源が切られているみたいです」
「そんな!」
美嘉が武内さんに詰め寄ろうとするところを、肩を掴んで止める。
「美嘉、落ち着けって」
「落ち着けないって! もし、莉嘉達に何かがあったら、アンタは責任取れるの!?」
くそ、落ち着けってんだ。……俺もメッセージアプリで軽くメッセージを送るが、確かに既読にならない。
「武内さん、他の二人は」
武内さんは小さく頷くと、再び電話をかける。
「――諸星さんに電話をかけましたが、繋がらないです。……赤城さんは、まだ携帯を持っていません」
いよいよやべえぞ。完全に連絡がつかないなんて。俺は千川さんの方を向く。
「千川さん、武内さんの時みたいに、莉嘉達がいる場所を割り出せませんか?」
千川さんはゆっくりと首を横に振った。
「……いえ、一度事務所に戻らないと」
……くそ、それじゃあダメだ。「事務所に戻れば分かる」というのはひとまず置いといて。
「二手に分かれて探しましょうか?」
俺が武内さんに声をかけると、彼は腕時計をちらりと見て固まる。
「……二回目のトークイベントの時間が差し迫っています。私はスタッフに調整の連絡をする為、会場へ戻ろうかと」
「でもそれじゃ……!」
武内さんに抗議しようとする美嘉を、必死に抑える。
「それで問題ないんですね、武内さん」
「はい。彼女達もアイドルです。イベントへの出演を優先すると信じています」
彼の目は真剣そのものだ。
「分かりました。……俺と千川さんは引き続き、彼女達を探します。美嘉、お前は武内さんと会場に向かってろ」
「でも――」
「お前がブラブラしている所を見つかったら、それだけでも騒ぎになりかねない。ここは俺と千川さんに任せろ」
美嘉は逡巡しながらも、千川さんの方を見る。
「はい、任せてください美嘉ちゃん! 必ず見つけますよ!」
千川さんは力強く頷いた。
――――
武内さん達と分かれ、俺と千川さんは莉嘉達の捜索に向かう。
「間に合わなかった場合は、どうしましょうか」
探しているとは言え、最悪の事態はある程度想定しておかないといけない。
「その場合も考えて、予めシンデレラプロジェクトの子達から直ぐに動ける子に連絡しておきました。少なくとも、イベントの中止はありません」
流石は千川さんと言ったところか。それならば、莉嘉達の捜索に集中出来る。
「武内さんから心当たりのある場所は聞きましたか?」
「はい。大通りではぐれてしまった――もとい、交番まで行くことになったとの事だったので、そこまで遠くには行っていないと思います」
「大通り、ですか」
人目につかない所、という訳では無い。ただ、人を探すのには難しい場所だ。余りにも多くの人が行き来しており、小さな女の子を探すのには一苦労である。――つまり。
「兎に角、諸星さんを探しましょう。彼女の身長なら目立ちますから」
武内さんに迫る身長の彼女ならば、幾ら人混みが激しくても見つかるはずだ。それに、彼女ならばあの二人を置いていくということもないはずだし。
「はい、そうしましょう」
周りを見渡す。人、人、人。しかしその中に、あの少女の姿はない。
「……見つからねえ! くそ、何処に行ったっていうんだよ」
「路地裏も探していたら、それこそ間に合いませんね……」
千川さんの言う通り、大通りから伸びる細道は無数にあるので、闇雲に探すのはかなり効率が悪い。こちらとしては、そんな所に迷い込んでいない事を祈るばかりだ。
「くそ、何処にいるんだあいつら……」
ふと、千川さんの動きが止まる。彼女はキョロキョロと辺りを見回すと、不思議そうな顔で俺に訊く。
「……何か聞こえてきませんか?」
「……何か、ですか?」
少なくとも、俺には街の喧騒しか聞こえてこない。
「はい、女の子が歌っているような……」
「女の子が? ちょっと待ってください」
耳を澄ます。……確かに、微かだが聞こえてくる。
「後ろ……!」
振り向いた千川さんは、何かを見つけたように俺の肩を叩いた。
「どうしたんですか千川……さん……」
なるほど、そういう事か!
――――
「それ」に連れ立って歩き、たどり着いた先は次の会場だった。
「進兄、あれは……!」
予め連絡しておいた美嘉と武内さんが、俺達に合流する。
「……何を考えたのかは知らんが、兎に角そういう事だ」
俺達の視線の先には、莉嘉がいた。いや、正確には「諸星さんに肩車された莉嘉」だろうか。莉嘉を肩車している諸星さんの手を握り、みりあちゃんも一緒に歩いている。……ただ歩いているのではなく、彼女達のユニットの歌を「歌って」。その周りを、まるでハーメルンの笛吹きにつられた子供達のように、群衆が取り囲んで移動していた。
「……周りの人達を、巻き込んでいます」
千川さんの言葉を受けて、武内さんははっとしたように息を呑む。
「あの子達……!」
「……ああ、莉嘉達は周りの人を巻き込んでいる」
それは正に、武内さんが言っていた事だ。ただでさえ長身で目立つ諸星さんが莉嘉を肩車し、三人で歌いながら移動する。素人がやっても痛いだけだし、熟練のアイドルがやれば困惑しか与えない。新人のアイドルだからこそ出来た、「通行人の巻き込み方」だと言っていいだろう。
「あ、プロデューサーだー!」
莉嘉は武内さんを指差した後、笑顔で腕を振る。すげえな諸星さん。全然体勢がぶれねえ。体幹が強いな。
「……っと、俺達は一旦離れるか、美嘉」
莉嘉は俺達に気付いていないようだが、仮に気付かれると少し面倒だ。あの城ヶ崎美嘉がいると知られたら、凸レーションが持っているはずの主役の座を奪いかねない。
「うん、そうしよっか」
「……会場近くのテントなら、問題はないかと」
武内さんの言葉に頷き、ポケットに突っ込んだままだった社員証を首にかける。確かにあのテントならば、外からは美嘉が見えないし、俺も社員証をぶら下げているので不審に思われることも無いだろう。
「では、また後ほど」
武内さんと千川さんに軽く会釈をしながら、美嘉と共にテントの中に入る。
「プロデューサー! ……じゃない?」
……テントの中には先客がいた。ビビッドな色合いでフリフリの衣装に身を包んだ、渋谷さんと神崎さんと――もう一人はラブライカの新田さんだったはずだ。
「……へ?」
あれ? もしかして俺、ピンチ? いやいやいや、三人とも着替え終わっているし、社会的に死ぬ事はないよな?
「あれ? どうしたのさ皆?」
美嘉はきょとんとした顔で三人に訊く。
「……ちひろさんから連絡があって、直ぐにここに来て欲しいって言われて」
渋谷さんの言葉に、神崎さんと新田さんも頷く。そういえばそんな事言ってたな、千川さん。
「千川さんが言ってた動ける子って、渋谷さん達の事だったのか」
「別にそれはいいんだけど……。正直、城戸さんにだけは見られたくなかったというか……」
渋谷さんがじろりと睨む。
「よもやインキュベーターがこの場にいるとは。運命の歯車とは、かくも恐ろしいものね」
神崎さんは神崎さん語をやめて欲しい。……しかし、「孵卵器」とはまた、仰々しい響きの割にみみっちい単語を選ぶな。
「えーと、……進兄、どういう事?」
「俺に訊くな」
わざとらしく咳払いをし、ポップでフリフリの衣装がミスマッチな新田さんの方を向く。
「初めまして。自分は城戸進ノ介、346でプロデューサーをやっています。もしかしたら、他の子から話は聞いているかも知れませんが――」
「ああ、はい。何でも、美嘉ちゃんと莉嘉ちゃんの従兄だとか」
「はい、そうです。自分が担当しているのも新人のアイドルなので、もしかしたらまたお仕事の方でご縁があるかと」
「――ふふっ」
渋谷さんと神崎さん、新田さんさえも急に吹き出す。ちなみに美嘉はずっと腹を抱えて笑ってる。
「……渋谷さん、何か笑いどころあった?」
「いや、ごめん、ふふっ。らしくないなって」
「らしくない?」
「もっと愉快な人だって話を聞いていて、無理している感じが……ふふふっ」
「えっ俺どう思われてんの!? 渋谷さん、俺の事なんて言ってんの!?」
「『頼りない近所のお兄さんみたいな人』って言ったら、知ってる子全員納得してたよ」
「ホントに俺どう思われてんだよ!」
「うぷぷぷっ、し、進兄らしいやそれ!」
「美嘉ぁ! あんまり過ぎるだろそれは!」
――――
莉嘉のスマホは充電が切れてしまい、諸星さんは持っていくのを忘れてしまっていた。そして諸星さんが莉嘉を肩車していたのは、莉嘉の靴擦れが原因。結局は、ちょっとついていない出来事が重なってしまったのが発端だった。
「災い転じて福となす、ってか」
社員証をポケットに仕舞いながら、俺はため息をついた。
「ええ。凸レーションの皆さんに、もしもの事がなくて安心しました」
武内さんを睨みつけたのは渋谷さんだ。
「そもそも、プロデューサーが警察に連行されたからこんな事になったと思うんだけど」
「凛の言う通り。アンタももっと、愛想良く笑えるようになった方がいいんじゃない?」
美嘉への返答に窮した武内さんは、困ったように右手を首筋に当てた。空いた彼の左腕の袖を、みりあちゃんはぐいぐいと引っ張る。
「だったら、一緒に写真とろーよ! イベント成功祝いに!」
「お、いいねー! 撮っちゃう?」
「美嘉ちゃんもぉー、一緒に写真撮るにぃ!」
「もちろん、Pクンも一緒にだから!」
美嘉は俺の方を見る。俺は彼女に向かって首を左右に振った。
「俺は遠慮しとくよ。休日だからな」
じろりと睨む美嘉は無視して、千川さんに向き直る。
「……本日はご迷惑をお掛けして、申し訳ございませんでした」
キッチリと彼女に向かって頭を下げると、千川さんは「まあまあ」と声をかける。
「仕方ないですよ。城戸さんも、休日なのに力になってくれてありがとうございます。流石は、美嘉ちゃんと莉嘉ちゃんのお兄さん、ですか」
「いや、そういう訳じゃないですけども」
今回は美嘉の気まぐれに巻き込まれた感じでもあったし。
「それに」
「それに?」
千川さんの視線の先には、笑いを堪えている渋谷さん達の姿があった。……てか今気付いたが、神崎さん私服じゃなくて衣装のままだし。ちゃんと返せよ。
「――何だか真面目に仕事をしている城戸さんの姿が、ちょっと滑稽みたいですよ?」
「……ははは」
だから、シンデレラプロジェクトの中で俺はどういった印象を持たれてんだよ。
■ちひろさん
※悪用はしません。
■インキュベーター
/人◕ ‿‿ ◕人\僕と契約して、アイドルになってよ!
「ハリポタ要素は?」と思われるかもしれませんが、もう少し待っていただきたい……。