The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
それは、今後の方針についてE.G.G.Sの皆に話している時に起こった。
「で、取り敢えず作曲の先生から送られてきた音源がある」
俺がCDを取り出して見せると、三人は口々に「やっとね」といった事を呟く。
「早速聴かせてくれないかしら、プロデューサーさん」
ダフネの言葉に渋々と頷きながらも俺はCDをパソコンに突っ込み、再生させる。EDM調の、高音と低音がずんと響くスローテンポな曲が流れ始めた。
「いいじゃないですか! とてもカッコいいです」
エバンスさんは目を輝かせ、ハーミーとダフネもこくりと頷く。――うん、確かにカッコいい。「Union-jAck」よりもクールな曲調で、静かにアガるタイプの曲だ。だが。
「この仮音源だが、三〇秒程度しかない」
俺の言葉と共に、音源は音色の数を徐々に減らしていき、静かにフェードアウトしていった。
「三〇秒……? 新曲として出すには、短くないかしら」
ハーミーの言う通り、問題はまさにそこなのである。
「余りにも短すぎる。作曲の先生を急かしてはいるが、なかなか作業が進まないらしい」
E.G.G.Sの皆は、がっかりしたように視線を下げた。
「タイトルは決まっているんですか?」
エバンスさんが視線を下げたまま訊いてくる。俺は「ああ」と返事をしながら、パソコンからCDを取り出す。
「ああ、決まっている」
兎にも角にも曲名を早々と決めてしまい、作曲の先生を急かす事にした。作詞の先生も煮え切らない様子ではあったのだが、何も無いよりかはマシである。とは言え、今手元にあるこの状態では未完成だ。……正直、夏フェスにはどうしても間に合わない。
「取り敢えず、今ある音源で新曲のレッスンをしていくしかない。もしかしたら、二曲目が出るのはもう少し先――夏フェスが終わった頃になるかも知れない。――悪い。許してくれ」
三人に向かって頭を下げる。しばしの静寂の後、ため息が聞こえた。
「……別にいいわ。夏フェスに出れるなら」
ハーミーは紅茶を一口飲みながら言う。そろそろ蒸し暑くなってきたので、アイスティーだ。
「そうね。付け焼き刃で挑むより、扱い慣れた得物を大事にする方がいいもの」
ダフネはふふっと静かに笑うと、ハーミーに続いてアイスティーを飲む。
「プロデューサー、夏フェスには出演出来るんですよね?」
エバンスさんが確かめるように訊いてきた。
「そこは問題ない。……実際はシンデレラプロジェクトの便乗、といった形だが、出られないよりは何倍もマシだ」
「シンデレラプロジェクトが出るならば、同じ時期にデビューした新人であるE.G.G.Sも出られるのではないか」と提言し、参加が決まった形である。今のE.G.G.Sの境遇は、シンデレラプロジェクトの金魚のフンのようなものになりかけている。
……この夏フェスが勝負だ。この夏フェスの結果を受けて、E.G.G.Sが金魚のフンに甘んじるのか、高みに登る龍へと変貌するのかが決まる。
「その為に、夏フェスまでの期間にミニライブをしたり、別の先輩ユニットの前座を請け負う事で知名度を上げていく。――もちろん、三人にライブ慣れをしてもらう目的もある」
「構わないわ。わたし達に出来ること、なんでしょ?」
「こなしていくしかないものね」
「……アイドルに王道なし、ですね」
話が早くて助かる。さて、シンデレラプロジェクトは夏に地方で合宿を行なう予定だ、と武内さんは言っていたが、こちらも合宿を行なうべきだろうか。いやしかし、俺を含めても四人だしなあ――。
部屋のドアが思い切り開かれたのは、そのような事を考えている時だ。何事かと動きを止めた俺達が見たのは、二人の不機嫌そうな少女達だった。一人は前川さんである。相変わらず、白い猫耳を頭に付けていた。もう一人は、見覚えがない子だ。真新しい感じのコードレスヘッドホンを首にぶら下げている。……よく分からないが、ファッションの一種だろうか。
「城戸チャン! 訊きたい事があるにゃ!」
ばん、と事務机の天板を両手で叩く前川さんに、ヘッドホンガールは「ふんふん」と勢いよく頷いた。
「あ、ああ……? どうした急に」
武内さんからは、この二人がここにやって来るという連絡を受けていない。唐突にどうしたと言うのだ。
「ネコとロック、どっちがいいと思う?」
ヘッドホンガールがむすっとした顔のまま訊いてくる。
「……へ?」
質問の意図が分からずに返答に困っていると、前川さんがずいと詰め寄る。
「もちろん、城戸チャンはネコチャンに決まってるにゃ!」
ヘッドホンガールも、前川さんに負けじと詰め寄ってきた。
「何言ってんの!? オトコだから、ロックがいいに決まってるって!」
だから、一体何だと言うのか。
「……あのー」
エバンスさんの声で我に返った二人は、恥ずかしさからか顔を真っ赤にして俺から離れた。
――――
ネコかロックか。よく分からない選択肢の根幹には、彼女達がユニットを組むといったところにあった。
「最後の一組、って所だな」
特に、前川さんはずっと前からデビューしたがっていたので、今回のデビューに感慨もひとしおだろう。
「でも、ネコとロック……」
「中々にエキセントリックな組み合わせね」
ただ、前川さんともう一人、多田李衣菜さんはユニットの方針について「ネコかロックか」で大モメしており、第三者の意見を参考にしようとして俺の元に来たとか。
「あら、まるで駆け込み寺ね、プロデューサーさん」
「俺はそうなった記憶がないんだが」
「え?」と前川さんと多田さんは声を揃えて首を傾げる。
「シンデレラプロジェクトで何か困ったことがあった時、大体いつも城戸チャンがいるって聞いたにゃ」
「しかも関わったら絶対に解決するんでしょ? なら使わない手はないよ」
だから俺を何だと思ってるんだ。しかもシンデレラプロジェクトに直接の関係はねえし。
「そもそも、俺に言われたからって素直に受け止める気もないんだろ」
う、と言葉に詰まった前川さんは不満げに俺を睨む。対して多田さんは、視線を逸らして何らかのメロディーを口笛で吹き始めた。――こいつらめ。
「……そもそも、両方混ぜちゃえばいい気もするんですけど」
エバンスさんの言葉に、前川さんと多田さんはぬっと彼女の方を向く。……タイミングがばっちり合ってる。
「だったら、ネコチャンとロックの比率は何対何にするにゃ!? もちろん、一〇対ゼロだよね!?」
「逆だよ! ゼロ対一〇!」
「ひゃっ、ひゃいぃ!? えっ、えっと……」
「……って、それじゃ意味ないにゃ!」
「そっちこそ!」
こいつらめ……。
「はいはい。エバンスさんも怖がっちゃってるし、プロデューサーさんもイラついちゃってるから、言い争いはここまで」
ダフネがパンパンと手を叩き、場を仕切り直す。グッジョブだ、ダフネ。
「一旦冷静になれよ。何だったら、俺達にプレゼンしてみな」
二人はまたしても同じタイミングで振り向き、「プレゼン……?」と声を揃えた。お前ら本当は仲良しだろ。
「つまり、順序立ててわたし達にアピールするって事よ! ちゃんと資料も作って、心に響くように説明するの」
「ね、プロデューサー?」と得意げに説明したハーミーが、視線で訊いてくる。俺はそれに頷き、前川さんと多田さんの方に向き直った。
「今すぐやれ、という訳じゃない。ハーミーの言う通り、資料を準備して貰わないと聞く側も困るからな。そうだなあ……今週の日曜日でどうだ」
その日はレッスンが入っている訳では無いが、E.G.G.Sの三人が自主的にレッスンを行なおうと言っていたのを聞いた。だったら俺も見に行こうかとも思っていたし、そこそこにいいタイミングだろう。プレゼンに慣れていないであろう二人には、しっかりとした準備期間も確保しないといけないだろうし。
「……分かったにゃ。日曜日、それが勝負の時にゃ! 李衣菜ちゃん、首を洗って待ってるにゃ!」
「みくちゃんも! こういう勝負に勝つのが、ロックってもんだから!」
俺の目の前で再び、前川さんと多田さんがヒートアップする。これが若さだろうか。俺にはさっぱり分からんが。
――――
日曜日、プレゼン当日。自販機で買った缶コーヒーを飲んでいると、渋谷さんが突然やって来て、スマホの画面をずいと差し出してきた。……何故か少し怒っている様子で。
「……えーと?」
「見たら分かると思うけど」
画面にはでかでかと、正方形状のモザイク柄――QRコードが映し出されていた。
「……いや、俺が聞いているのはそこじゃなくて」
メッセージアプリの友だち登録用のものである事は分かる。ただ、渋谷さんがそれを差し出してきた理由が分からないのだ。
「未央と相互なんでしょ?」
「ああ、まあな」
美嘉との話の流れでそうなったのだが。
「一応、未央以外にも連絡がついた方がいいと思って」
……まあ確かに、彼女は割と思い込みが激しいタイプだ。彼女以外の視点も、必要になる事はあるだろう――って待て待て。
「いやいや、だったら武内さんに訊けばいいと思うんだけど俺は」
「忙しいじゃん、あの人。何時でも連絡がつく保証はないし」
まあ、そうだな。あの人は普通のプロデューサーの何倍も忙しい。……いや、そうじゃなくてだな。
「俺と連絡先を交換する意味はあるのかよ」
友だち追加とは言っても、関係性としては仕事で関わりがあるぐらいだろ。
「また何か相談事があったら、頼るつもりだから」
「だから皆、俺を何だと思ってるんだよ……」
しかし、一人で抱え込んでしまうよりかは捌け口があった方が良いだろう。どうも、この子は人知れず抱え込んでいって、爆発してしまう感じっぽいし。
「……分かった分かった。追加しとくよ」
私用のスマホを取り出し、QRコードを読み込む。すぐ様出て来たダイアログで、「追加」のボタンをタップした。
「――ん」
何処か満足げに微笑む渋谷さんだが、まあ兎も角。
「渋谷さん達も自主練か?」
俺の質問に渋谷さんは「うん、そうだよ」と返事をしながら、自分のスマホを仕舞う。
「ハリエット達も自主練している事を知って、今は一緒にやってるけど」
「ああ、助かるよ」
E.G.G.Sの三人だけでは受けることの無い、様々な刺激を貰うチャンスだ。ハーミーが本田さんと仲良くなった影響が、いい方向に作用していて良かった。
「こっちも自主練だから、人数は揃っていないけど 」
「それでもいいよ。一足す一足す一は、三ではなく一〇〇にも一〇〇〇にもなるってね」
「ふふ、何それ」
渋谷さんと談笑しながら、皆が自主練を行なっているであろう部屋へ向かう。ドアを開けると、休憩中なのか各々リラックスした様子で話をしていた。
「――て感じで、最近トンクス先生の調子が悪いんだ」
「ありゃー、それはいけないね。トレーナーが上の空じゃ、レッスンが捗らないでしょ?」
エバンスさんは本田さんと話をしていた。……話題はトンクスさんの様子がおかしい事についてか。三人がちょくちょく話題に上げていたので知っている。
「――だから、そういう時はきっぱりと断ること! 大人の人呼びますとか言うのよ!」
「ダー。スパシーバ……ありがとうございます」
ハーミーは一体何の話をしているんだ。会話の相手は……ラブライカのアナスタシアさんか。
「――あら、本当に美味しい。作るのも好きなのね」
「うん! 智絵里ちゃんも、どうぞ!」
「あっ、ありがとうございます……」
ダフネは三村さんと緒方さんの三人で、カップケーキを食べている。
「……結構自由にやってんな」
俺は、一人で黙々とノートにペンを走らせる島村さんを見ながら呟く。
「まあ、それがシンデレラプロジェクトと言うか……」
渋谷さんも苦笑いしているが、そちら側だぞ君も。
■夏ライブへの参加
何らかの交渉は全カットしてますが、まあそんな事があったよぐらいに。
■トンクスさんが上の空
一体何ーマス・何ーピンなんだ……