The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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しばらくはアニメ準拠になります。


第3話 Is she a Monster(1)

 青天の霹靂、とはこのような事をいうのだろうか。

 

 月曜日、ユニット名が決まったこともあって上機嫌だった俺は、従妹と遭遇してしまった。

 

「うげ、進兄」

 

「うげ、とはなんだうげとは」

 

 失礼なやつである。小さい頃はあんなに「しんにいさん」って慕っていたのに。時の流れは残酷なものである。娘が出来たらこんな感じの反抗期が来るのだろうか。

 

「なんて言うか、慣れないっていうか……」

 

「従兄が入社してきた事にか?」

 

「そうだけどさあ! もっとこう、シゴトって感じで会話した方がいいじゃん?!」

 

「美嘉は相変わらず真面目だな」

 

「進兄に言われても嬉しくないんだけど!」

 

 そう言うと、俺の従妹――城ヶ崎美嘉はわざとらしくため息をついた。……確か読モをしていたはずなんだが、気がついたらアイドルをやっていた。何を言っているか分からないと思うが。

 

 入社して間もない頃に遭遇した時はヤバかった。無言で近付いてきたかと思うと、そのまま俺の脛を蹴り続けたし。どういうつもりだったのやら。普通に痛かったぞ。ヒールで蹴るのは頂けないな。

 

「それよりも、担当アイドルの方はどうなったの? あと一人足りないって話だったじゃん」

 

「おう、見つかったんだよ。今は絶賛調整中だ」

 

 346の中では比較的耳が早い方の美嘉も、流石に知らなかったらしい。「へー」と意外そうに声を上げる。

 

「進兄の事だから、見つからないと思ってたけど」

 

「何か評価低くない? 俺何かしたかな?」

 

 当たりがキツすぎる。お兄さん泣いちゃうよ。

 

「そういう訳じゃなくて、武内プロデューサーが大体スカウトしちゃったかなーって」

 

「ああ、そういう事か……」

 

 武内さんが346プロの中で評価されている理由の一つに、スカウトの手腕もあるくらいである。めぼしい有望株は、シンデレラプロジェクトにほとんど引き抜かれていると考えていいかもしれない。

 

 ――それを考えると、「E.G.G.S」の三人を確保出来たのは奇跡に近い。きっちり売り出していかないと。

 

 スマホをちらりと見た美嘉が「やっば」と声を出す。

 

「ゴメン進兄、遅れちゃいそうだから」

 

「おう、打ち合わせか?」

 

 にししっ、と美嘉は悪戯っぽく笑う。……昔っからこういう笑い方する時って、大体碌でもない事なんだよな、こいつ。

 

「実は――」

 

――――

 

 俺は頭を抱えて、机に突っ伏していた。

 

「次は何よ」

 

 半ば呆れたような声でハーミーが訊く。

 

「春の定例ライブ、シンデレラプロジェクトの子がバックダンサーとして出るらしい」

 

 美嘉が別れ際に言ったのは、「自身のステージで新人の子を参加させる」という話だった。

 

「えっ、でも」

 

「ああ、もう時間がないはずなんだけどな」

 

 ライブはゴールデンウィークに行なわれる。今は四月も下旬、相当頑張らないと間に合わない。

 

「346プロも末恐ろしいわね。新人にそんな事させるなんて」

 

 ダフネも困惑しきりである。まあ今回は346プロもそうだが、言い出しっぺの美嘉も末恐ろしい。バックダンサーをする予定の三人の子の名前を聞いてもピンと来ないことから、新しく所属した子に違いない。――確か、欠員の補充をしたんだっけか。

 

 新人どころか、素人に無茶振りを行なっている。無茶苦茶過ぎる事この上ない。

 

「えっと、ぼく達はどうすれば」

 

 恐る恐る訊いてきたのはエバンスさんだ。困惑している俺達の空気に困惑しているようだ。

 

「どうにもこうにも出来ないさ。せいぜい、成功を祈るしかないってとこか」

 

 それに、と俺はエバンスさんを見て言葉を続ける。

 

「人様の心配をしている暇があったら、自分達の心配をしないとな」

 

 定例ライブが終われば、その次はE.G.G.Sのデビューライブだ。五月中旬頃を予定しているので、一先ずエバンスさんには曲をマスターしてもらいたいのだ。

 

 今立てているプランは二つある。一つは、ハーミーとダフネが踊りながら歌い、エバンスさんは歌に集中するというプランだ。二人は前もってデビュー曲のレッスンをしており、二人だけでの振り付けならば粗方仕上がっている。しかし、エバンスさんは素人だ。いきなり振り付けと歌を両方覚え、二人に合わせるのは至難の業だろう。そこで、デビューライブ時には歌の方に集中してもらい、振り付けやMVは後に回す方法である。今回は物販もないからこそ出来るのだが。

 

 もう一つの方法は――まあ、考えない方針でいこう。

 

「ダンスレッスンだろ? 俺もついていくよ」

 

「プロデューサー、暇なの?」

 

「暇じゃねえって」

 

 わざわざ時間を作ったんだっての。

 

――――

 

 ダンスレッスンを行なう部屋には、トレーナーがいた。髪を脱色し、ピンク色に染めた若い外国人の女性である。

 

「城戸プロデューサーさん? その子が新しく入った?」

 

 トレーナーの女性がエバンスさんを見て、俺に訊いてくる。

 

「はい、そうです」

 

「ハリエット・エバンスです! よろしくお願いします!」

 

 エバンスさんの自己紹介を受けて、トレーナーはにこりと微笑む。

 

「私はトンクス。よろしくね、エバンスさん」

 

 はい、と勢い良く返事をしたエバンスさんを見て、一旦俺は部屋の外に出た。……通りすがりに、気になる曲が流れていたのだ。

 

「……城戸さん」

 低く、落ち着いた声で呼びかけられる。

 

「武内さん」

 

 俺が軽く会釈をすると、彼もそれに応じて頭を下げた。――武内駿輔。シンデレラプロジェクトの担当プロデューサーであり、俺の先輩にあたる。背が高く、ガッチリとした体格は中々に迫力があるが、その実真面目で物静かな、仕事のできる男である。

 

「聞きましたよ、シンデレラプロジェクトの子がバックダンサーをすると」

 

 ええ、と武内さんは返事しながら、首筋に右手を添える。彼の近くの扉からは、「TOKIMEKIエスカレート」――美嘉の曲が僅かに漏れ出ていた。

 

「城戸さんは、どう思いますか?」

 

「……そうですね。正直、無茶苦茶だと思います」

 

 ふう、と武内さんが小さくため息を漏らす。どうやら、彼も見解は同じらしい。

 

「全く、美嘉は何を考えているのか……」

 

「最終的なGOサインを出したのは、今西部長です」

 

「……あの人ですか」

 

 俺の時もそうだが、あの人は突拍子もない事を突然言うからな。部下の身からしてみたらとても怖い。

 

「武内さん、あなたはどう思いますか?」

 

 武内さんは俺に向けていた視線を下に外し、しばし黙り込んだ。

 

「信じています。彼女達を」

 

 視線を外したまま、武内さんは絞り出すように答えた。……現状、そのように答えるのが精一杯だろう。

 

「――成功するといいですね」

 

「……はい。城戸さんも、調整頑張ってください」

 

「ええ、勿論ですよ」

 

 微笑みながら別れの会釈をすると、彼も仏頂面のままそれに応じた。さて、エバンスさんの実力はどうなのやら。

 

 三人の元に戻る。どうやら柔軟のための、準備運動の途中だったらしい。俺の帰還に真っ先に気付いたハーミーが、ダフネに背中を伸ばされながら声を上げる。

 

「あっ、プロデューサー! どこに行ってたの?」

 

「悪い悪い。トイレ行ってた」

 

 武内さんと話していたことは、特に言う必要もないかな。

 

「城戸プロデューサーさん」

 

 エバンスさんの背中を伸ばしていたトレーナーが、ゆっくりと上体を起こして俺に声を掛ける。

 

「今日の予定ですが、エバンスさんの実力を見る……ということでいいんですよね」

 

「そうですね。今後の為にも把握しておきたいので」

 

 ハーミーとダフネには悪いことをしたが、二人には「デュオユニット」と「トリオユニット」、両方のパターンの振り付けをレッスンさせた。トレーナーをもう一人のメンバーに見立てて、三人になった場合に備えられるようにしたのだ。

 

 今回はまずトレーナーの動きを見てもらい、その振り付けがある程度出来るかどうかを見ていく。――つまり一言で言えば、エバンスさんに「筋があるかないか」を知るのが目的である。

 

「まさか、三人バージョンが無駄にならなかったなんて」

 

 ハーミーが愚痴を漏らすように言う。

 

「賭けはあたしの勝ちよ? ハーミー、後でジュース一本ね?」

 

「……分かってるわよ!」

 

「俺の仕事で賭け事しないでくれるかなあ……」

 

 君らはジュース一本で済むんだろうが、俺の場合は自分の首がかかってんだぞ。

 

「それでは、始めましょうか。エバンスさん、まずは私の動きを見ていてね」

 

 ハーミーとダフネが決められた位置に立ち、顔を下げる。トレーナーはその事を確認すると、オーディオ機器の再生ボタンを押した。

 

 エバンスさん以外にとっては、聞き慣れたイントロが流れ始める。E.G.G.Sのデビュー曲である「Union-jAck」だ。イントロが流れた瞬間から、振り付けは始まっている。アップテンポの曲調に合わせた、元気あふれる振り付けである。

 

――耳を塞がないで わたしの声を聴いて

 

 ダフネが歌い出す。後ろを向いていたハーミーは、ぱっと振り向き、ダフネに続いて歌い出した。

 

――繰り返してく日々 綺麗事だけじゃ打ち勝てない

 

 ……確か振り付けを見せるだけだから、歌うまでは求めていないはずだ。これは、ついつい歌いだしてしまったダフネに、ハーミーが乗っかってしまった流れか? 意外と、二人とも気合いが入っているようだ。

 

 Bメロに入ってきた所で、エバンスさんをちらりと見る。彼女は無表情だった。無表情で、踊っている三人をじっと見つめている。薄い茶色の瞳で瞬きもせず見ている様は、丸い眼鏡の事もあってビデオカメラを連想してしまった。

 

――さあ 限界振り切って!

 

 サビに入り、三人が同時に右腕を頭上に掲げ……若干ハーミーの動きが遅れたか。そこで動揺した様子を見せないのは意地だろう。

 

――ユニオンジャック 釘付けにする

 

――わたし達の 声で

 

 サビの間は三人の動きを揃えたダンスだ。メロディのキーも揃っている。練習の賜物だろう。少しでもズレると大きく目立つのだが、ズレたと感じるような事は無い。フォローが効かない分、練習を重ねたに違いない。

 

 サビが終わり再びAメロになるという所で、トレーナーはオーディオ機器の再生を止める。

 

「どう、エバンスさん?」

 

 トレーナーはエバンスさんの方を向いて訊く。音楽が終わるや否やその場にへたり込むハーミーとダフネは、今は見なかったことにしよう。後でこっそり、トレーナーに基礎体力を付けさせるように言っておくとして。

 

「……その、凄かったです。やっぱり、二人ともアイドルなんだなって思いました」

 

「……ぜえ、当たり前よ。はあ、わたし達も、ふう、練習を、してきたんだから、はあ」

 

「……ハーミー、息、整えてから、話をしましょう?」

 

 褒められたハーミーとダフネは、疲労困憊ながらもご満悦のようだ。……じゃなくて。

 

「いやいやエバンスさん、感想じゃないよ」

 

 俺の言葉によってエバンスさんは気付いたようで、「えっ、あっ!」と恥ずかしそうに頬をかく。今求めているのは感想ではなく、「いけそうかどうか」である。

 

 とは言え、緩急が激しい振り付けだ。養成所である程度基礎を積んだ二人でさえ、踊れるようになるまで時間がかかった。それに、細かいところのブラッシュアップや基礎体力の事も考えると、まだ粗削りにもほどがある。そこに経験ゼロのエバンスさんを放り込めば、しっちゃかめっちゃかになる事は容易に想像出来る。

 

「……はい、覚えました!」

 

 エバンスさんはにっこりと笑いながら頷いた。

 

「おっ、そうかそうか」

 

 オドオドとした様子もないし、問題ないんだろう。

 

 ――いや、待て。何かがおかしい。

 

「……エバンスさん? さっき何て言ったの?」

 

「はい?」

 

 トレーナーも、俺と同じ違和感を覚えたらしい。一転して困惑した表情を見せたエバンスさんは、俺の方を見る。

 

「えっと、覚えた、んですけど」

 

 ――どうやら、聞き間違いではなかったらしい。




■城ケ崎美嘉
おなじみカリスマギャルJKモデルアイドル。名字がそれぞれ「城」で始まるので、従妹という設定にした。
実は「進兄」という呼び方を使いたかっただけという。


■トレーナーのトンクスさん
年齢差のある彼氏がいるという裏設定があったりなかったりする。


■Union-jAck
「イギリスっぽい曲名がいいよな」とか考えた結果こうなった。没になった曲名のアイディアにはパンジャンドラムとかもあったが、正直そのアイディアをどう使えばいいかいまだに分かっていない。
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