The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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何話か番外編を挟みます。


第31話 Her start-line like a doll

 俺達がいるのは市内の総合病院だ。ダフネが受付で見舞いの確認をしている間、エバンスさんはそわそわと周りを見渡す。

 

「あ、あの、いきなりこんな人数で押しかけたら、迷惑になりませんか?」

 

「多分大丈夫だよ。今はそこまで深刻じゃないだろうし」

 

 それに、と俺は言葉を続ける。

 

「アイドルの見舞いだから、相当喜んでると思うぜ」

 

 ダフネがニコニコ顔で戻ってきたのを見て、肩を竦める。テレビでは、芸能関連のニュースをやっている所だった。やはり、高垣楓のメディア露出がかなり多い。――俺も、E.G.G.Sをここまで有名にしていかないと。

 

「さ、行くわよ。ハーミー、エバンスさん、プロデューサーさん、付いてきて」

 

 今までになく、ダフネはいい笑顔をしていた。

 

「楽しみね、プロデューサー」

 

「ああ、そうだな」

 

 やっと彼女にいい報告が出来る。

 

――――

 

 個室の扉を開くと、今か今かと待ちくたびれた様子の少女がベッドの上で上体を起こしていた。絹のように滑らかな金髪と宝石のように青い瞳、新品のシーツのように真っ白な肌は、まるでフランス人形のようである。

 

「お姉様!」

 

「こらこら、じっとしてなさい?」

 

 ダフネがゆっくりとベッドに近寄り、持っていた紙袋を少女に渡す。

 

「元気そうで何よりだよ、アストリアさん」

 

 アストリア・グリーングラス。ダフネの妹である。彼女はベッドの上で会釈をした。

 

「ご無沙汰しています、城戸プロデューサー。そちらの二人は、E.G.G.Sの人ですよね?」

 

 ああ、と相槌を打ち、ハーミーとエバンスさんを前に出す。

 

「わたしはハーマイオニー・グレンジャーよ。直接会うのは初めてね」

 

「はい、姉から話は聞いています!」

 

 アストリアさんは嬉しそうにハーミーを見る。ほとんど同じくらいの年齢だから、友達になれそうだな。

 

「ハリエット・エバンスです! ……えっと」

 

「アストリアです」

 

「あっ、はい、よろしくお願いします、アストリアさん!」

 

 ハーミーよりも少し歳下の女の子に、エバンスさんは深々と頭を下げた。まあ、上品なオーラに気圧されちゃうよな。姉のダフネとは違って、本当にいい所のお嬢さんみたいな振る舞いだし。

 

「そうだ、アストリア。紙袋の中見てみなさい?」

 

 ダフネに言われて紙袋の中を覗き込んだ彼女は、ぱあっと目を輝かせる。中から出てきたのは、「Union-jAck」のシングルCDだった。

 

「お姉様、これって!」

 

「ええ、そうよ。あたし達のデビューシングル」

 

 アストリアさんは嬉々とした顔のまま、ベッド脇の台から何かを取り出して大事そうに抱え込む。――って、同じシングルじゃねえか。しかも三枚も。

 

「嬉しいです、お姉様! この子達共々、大切にしますね!」

 

「え、ええ、そ、そうね」

 

 流石のダフネも、これにはドン引きのようである。えーと、観賞用、保存用、布教用、布教用その二か? 熱心なファンが身近にいるもんだな。

 

「……あの、皆さんにお願いがあるのですが」

 

 シングル四枚を抱えたまま、アストリアさんは不安げに視線を下げる。

 

「何だい? 出来る範囲なら、俺達で何とかするよ」

 

 「あ、あの」と彼女は恐る恐る口を開く。ハーミーとエバンスさんはどのような要望が来るのか分からず、警戒しているみたいだが――身構える必要はないだろう。

 

「あの! この子達にサインして貰えますか!?」

 

 ……ほらな、やっぱり。

 

――――

 

 保存用三枚に一人づつサインをして貰ったアストリアさんは、驚く程に上機嫌だった。ベッドの上で身悶えするくらいには。つーか、滅茶苦茶元気になったんだな。

 

「ああっ! お姉様のみならず、ハーマイオニーさんやハリエットさんのサインまで! 生きててよかった!」

 

 君が言うとシャレになんねーからやめてくれないかなそれ。

 

「……あの、その、好きなんですね、ダフネさんの事が」

 

 エバンスさんが恐る恐る訊くと、アストリアさんは素早くエバンスさんの方を向き、ふんすと鼻を鳴らす。

 

「はい! わたくしが持ち得ていない大人の魅力! ふとした時に見せる大人の余裕! わたくしとたった二歳しか離れていないのにそれを持ち合わせている神秘! まさに、理想の姉です!」

 

 力説するアストリアさんに、質問をしたエバンスさんが後ずさる。ふと俺と目が合ったアストリアさんは、「ふふっ」と上品な笑顔を見せた。

 

「もちろん、そのお姉様を見つけて下さった城戸プロデューサーにも感謝しています。お姉様の魅力を、全世界に発信して下さるんですから」

 

「お、おお、そうだな」

 

 俺の仕事を端的に言えばそれで合ってはいるのだが、微妙に意味が食い違っているような気がするのはなんなんだ。

 

「そう言えばハリエットは知らないんじゃない? ダフネがアイドルを目指した理由」

 

 ハーミーがエバンスさんに訊く。

 

「えっと、約束した、と言うのは聞いていたけど――」

 

 エバンスさんの視線は、今にも恍惚でよだれを垂らしそうなアストリアさんの方を向く。うん、分かるよ。そんな感じに見えないからね。

 

「今でこそこんな感じだが、少し前まではヤバかったんだ。それこそ、生死の境を彷徨う程に」

 

 生まれつき体が弱かったらしい。それこそ、峠を越えた今でさえ療養中であるぐらいには。

 

「そんな時だったんだ。ダフネが、『アイドルとしてパフォーマンスをしている姉を見たい』って言われたのが」

 

 自分ではステージに立てないと、彼女は悟ったのだろう。――だから敢えて、自慢の姉に自分の願いを託したのかもしれない。

 

「そう、だったんですね」

 

 エバンスさんは返答に詰まり、視線を下げた。まるで、聞いてはいけない事を聞いてしまったかのように。しょんぼりしてしまったエバンスさんの肩をポンポンと軽く叩き、俺は言葉を続ける。

 

「ま、俺がプロデュースするって事になってからは面白いぐらい回復したんだ。今になって気にする事じゃないさ」

 

 元来、人間とは欲深い生き物である。金を持っていても更に懐を潤したがるし、美味いものに囲まれていても更に美味いものを求める。……例を上げたら正直どうしようもない性質だなこりゃ。

 

 ただ、アストリアさんの場合は、「アイドルの夢を託した姉を応援したいから、もっと元気になろう」といった具合のものだ。そこには、真っ直ぐな少女の願いが込められている……はずだろう。元気になった今では、アイドルオタクまっしぐらな言動をしているけど。

 

「ハーミーは知ってたの? ダフネさんが、そんな約束をしたって事」

 

 エバンスさんの質問に、ハーミーは「いいえ」と首を横に振った。

 

「でも、体が弱い妹がいるって事は知ってたから、何となく察する事は出来たわ。だって、唐突だったもの。急に『アイドルになる』なんて、ダフネらしくなかったから」

 

「ふふっ、じゃあダフネさんをサポートしようとして、ハーミーもアイドルになったんだ」

 

「そっ、そんなんじゃないわよ」

 

 さて、どうだろうな。

 

「ちょっ、にやにやしないでよプロデューサー!」

 

「気のせいだよ気のせい。ハッハッハ」

 

「もう!」

 

 ぷりぷり怒ったハーミーを尻目に、ダフネは「そう言えば」と話題を変える。

 

「アストリア。カレンさんの事、覚えてる?」

 

 北条さんの名前が出た途端、アストリアさんの顔色が変わる。

 

「はい。覚えています。……もしかして、何かあったのでしょうか」

 

 途端に心配するような表情になる彼女に、ダフネは不安を払拭するような笑みを浮かべる。……北条さんも中々に体が弱かったのだろうか。こうして、不幸な知らせを覚悟されるぐらいに。

 

「大丈夫よ、元気になってたもの。あの人、アイドルになるみたいよ」

 

 ダフネの知らせに、アストリアさんは顔色を二転三転させる。

 

「加蓮さんが!? 本当に元気になられたんですね!」

 

「ええ。もうすぐデビューするみたいよ」

 

 アストリアさんは何かを決意したように、ゆっくりと頷く。

 

「――決めましたわ、お姉様」

 

 ダフネの顔が微妙に曇る。彼女のそんな顔を見るのは正直に言って初めてだ。

 

「何かしら。もしかして……」

 

 アストリアさんはダフネと俺の顔を交互に見ると、再びこくりと頷いた。

 

「ええ。わたくしも――わたくしも、アイドルになります」

 

 そうくるよなー。うん、知ってた知ってた。

 

「だ、ダメよアストリア!」

 

 その決心に異を唱えたのは、血相を変えたダフネだった。

 

「まだ退院の目処が――」

 

 姉の主張を、妹は遮る。

 

「来年の二月には退院出来るみたいです。――遅くはありませんよね、城戸プロデューサー?」

 

 ダフネとアストリアさんは俺の方を向く。一人は口の動きで「やめて、やめて」と繰り返し、もう一人はただ押し黙って俺の反応を窺っている。――悪いがダフネ、嘘をつく訳にはいかない。

 

「……勿論、遅過ぎるなんて事はない。なんせ、アラサーでデビューした人もいるくらいだ。もし通院が必要なら、それも考慮してプロデュースするぐらいの余裕は346にある。もし、選考に通るなりスカウトされるなりって前提はつくけど」

 

 しかし、容姿に関して言えば問題がない。体力面でのリスクを除いてしまえば、彼女もアイドルになれるだろう。

 

「……プロデューサーさん」

 

 ダフネが恨めしそうに俺を見る。やめてくれよ、そんな顔をしないでくれ。

 

「――とは言え、君のお姉さんの心配も分かる。峠を越えたとは言え、今はまだ療養中だからね。……アストリアさん、まずはお医者さんのお墨付きを貰う事。兎にも角にも元気にならないと、アイドルなんて夢のまた夢だよ」

 

 どうだダフネ。――まだ足りないか。未だに、彼女は渋っているような顔を崩さない。

 

「もう一声」

 

 もう一声って言われても……そうだなあ。

 

「じゃ、俺がスカウトなり推薦なりしないって事で」

 

 ええっ、とアストリアさんは落胆するような声を出す。

 

「いけずですわ、城戸プロデューサー!」

 

「まあまあ。アストリアさん、自分の力でアイドルになってみなよ。E.G.G.Sの三人も、自分の力でアイドルになったんだ。……それぐらい、出来るだろ?」

 

 エバンスさんは「あの」と弱々しく声を上げる。

 

「ぼくはプロデューサーにスカウトされたんですけど」

 

 まあ、そうだけどさ。

 

「運も実力のうちって考えな。――さて、これでどうかなダフネ? 346プロの人間としては、是非ともアイドルになって欲しい人材ではあるんだが」

 

 むう、と不満そうな顔ではあるが、ダフネは観念したように頷いた。

 

「分かったわよ。随分と譲歩したのは分かったもの」

 

 それなら良かった。

 

「……よーし! 目標が出来たわね、ダフネ!」

 

 ハーミーが威勢よく大声を上げた。

 

「目標?」

 

「ハリエット、アストリアとも共演が出来るようにわたし達も頑張るのよ! せっかくなんだから、モチベーションを上げていかなきゃ!」

 

 ハーミーの言葉に、ダフネはふっと微笑んだ。

 

「……そうね。新しい目標が出来たと思わないと」

 

 ダフネは再び、アストリアさんの方を向く。

 

「先に待っているわ。本当にアイドルになりたいなら――まずは、しっかりと療養する事。分かった?」

 

 アストリアさんは、満開の花のような笑顔を見せた。

 

「はい! お姉様!」

 

 さて、だったらその約束を破らないように、俺も仕事を頑張っていかないとな。




■アストリア・グリーングラス
ダフネの妹。原作では「血の呪い」により、長生きすることが出来なかった。
流石に重すぎる設定は合わないと考え、単純に病弱な設定に変更。


何だか次もサブキャラの回収回になりそう……。
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