The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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遅れてしまい申し訳ありません。


第34話 The silhouette behind us(1)

 珍しく、武内さんが疲れたようなため息をついた。

 

「どうかしましたか?」

 

 声を掛けてやっと気付いたように顔を上げた彼は、「ああ、いえ」と歯切れの悪い返事を寄越すのみだ。

 

「何か悩みでもあるんですか?」

 

 とは言え、思いつくような悩みはない。シンデレラプロジェクトも夏フェス後は軌道に乗っており、大きな問題も特には耳に入ってきていない。――流石の武内さんも、激務に悲鳴を上げそうになったのだろうか。……ニューヨーク帰りの常務の事もあり、気苦労が絶えないのかもしれない。優秀故に目を付けられてしまったらしく、こちらとしては応援する他ないのだが。

 

「大きな問題ではないのですが――」

 

 彼からため息の理由を聞いた俺は、「ああ……」と苦い顔をする以外になかった。

 

「……武内さんもですか」

 

 俺もまた、同じような悩みに苛まれていたのだから。

 

――――

 

「ストーカーぁ!?」

 

 ハーミーがキョロキョロとプロジェクトルームの中を見渡しながら叫ぶ。

 

「思い上がりじゃなくて?」

 

 ダフネが首を傾げて訊く。

 

「そう思いたいのは山々なんだが、そうでもないらしい」

 

 でも、とエバンスさんは腕を組んで考え込む。

 

「アイドルにストーカーがつくならともかく、プロデューサーにつくんですか?」

 

「そう、そこなんだよ」

 

 俺と武内さんが苛まれている悩み。それはまさに、「プロデューサーがストーキングされている」という事だった。エバンスさんの言う通り、アイドルにストーカーがつくのはまだ分かる。その場合は然るべき対処をするし、用心もする。深刻な事態である事には変わりないのだが、奇妙な事ではない。しかしストーキングされているのは、武内さんと俺なのだ。アイドルではなく、アイドルのプロデューサーがストーキングされている。そこが奇妙な点であると言っても差し支えないだろう。

 

「どう言った時に視線を感じるとか、そういうのはあるんですか?」

 

 エバンスさんの質問に「そうだなあ」と考えを巡らせる。

 

「……あまり疑いたくはないんだが、社内でも感じるんだよ」

 

「まさかの身内なのね」

 

「――ああ」

 

 大きくため息をついた。心当たりがないので、尚更頭を痛めているのである。

 

「やめてよねプロデューサー。後ろからグサーッて言うのは洒落になんないわよ」

 

「おいこらハーミー、俺はそんなに恨みつらみを持たれるような奴に見えるのか?」

 

「例え話よ例え話!」

 

 ぎゃいぎゃい騒いでいると、ハーミーのスマホがメッセージアプリの通知音を鳴らす。

 

「未央さんからね。どれどれ……。――っ!」

 

 スマホの画面をのぞき込んだハーミーは、息を呑むとダフネに画面を見せる。

 

「どうしたのよハーミー、急に黙り込ん、で……」

 

 画面を見たダフネもまた、途端に動きを止めた。彼女にしては珍しく、顔が真っ青になっている。

 

「二人とも、どうしたの……きゃああ!?」

 

 同じく画面を見たエバンスさんも、悲鳴を上げてスマホに背を向けると屈み込んでしまった。一体何なんだよ。

 

「……プロデューサー、見る覚悟はある?」

 

「どうして勿体ぶるんだよ。呪いの写真でも送られたのか?」

 

 ふるふると震えるハーミーの手から、スマホを受け取る。そこに映っていたのは、一枚の写真だった。武内さんを中心に、島村さんと莉嘉、渋谷さんとみりあちゃんが横に立ち、武内さんの後ろには諸星さんが立っているような、何てことない集合写真である。ただ一つ、少しだけ開かれたドアの背後に謎の影が見えること以外は。

 

「……心霊写真?」

 

 俺がそう呟くや否や、E.G.G.Sの三人は各々悲鳴を上げる。ああもう、うっさいなあ。ある意味幽霊みたいな存在なら、目の前にいるっての。

 

「地縛霊よ地縛霊! 346プロには地縛霊がいたのよ!」

 

 ガタガタと分かりやすく震えながら、ハーミーはそんな事を言い出す。

 

「いいえ、それはおかしいわ。だって、今までそんな話は聞いた事ないもの」

 

 聞いてたまるかよそんな話。大手芸能プロダクションを何だと思ってんだ。

 

「じゃあ、ストーカーの正体はお化け……?」

 

 エバンスさんの言葉に、他の二人の血の気がさっと引いた。

 

「……どうするのよそうだったら! 本当にプロデューサーが刺されちゃう!」

 

「いいえ、お化けなんだから呪い殺されるかもしれないわよ」

 

「んな事あるかよ、ホラー映画の見すぎだ」

 

 転生した俺が言うんだから間違いないぞ。ふと、俺が手にしていたハーミーのスマホが、再びメッセージを受信する。

 

「今度は何かしら……」

 

 俺からスマホを奪い取ったハーミーは、画面を見ると「むっ」と唸り、何かを打ち込んで返信した。

 

「……ハーミー、どうしたの?」

 

 エバンスさんが訊くと、ハーミーはコクリと頷いた。

 

「……餅は餅屋よ」

 

 ――なーんだそりゃ。

 

――――

 

 ハーミーに連れられて来たのは、346のエントランスだった。そこには武内さんとシンデレラプロジェクトの面々に加えて、二人のアイドルが立っている。ドジっ子系アイドルの道明寺歌鈴と、ホラー系アイドルの白坂小梅か。道明寺さんが巫女装束を着ていることにはツッコミを入れるべきなのかどうなのか。

 

「幽霊ときたら、専門家に見てもらうのが一番! という訳で、アイドル界ナンバーワンの霊感の持ち主に、実家が神社の巫女さんにゃ!」

 

 それでこの二人というわけか。シンデレラプロジェクトとE.G.G.Sの三人は口々に感心しているが、武内さんと俺は苦い顔をする他にない。

 

「……一体これは何なんですか、武内さん」

 

 俺の質問を受けて、彼は困惑したように首筋を抑えた。

 

「いえ、私にもわかりません」

 

 ……ですよねー。

 

「じゃあ早速、お願いします!」

 

 お願いします、の掛け声とともに、一同が頭を下げて……武内さんも頭を下げるのかよ。わざわざ付き合わなくてもいいのに。

 

「では……。かしこみ〜、かしこみ〜」

 

 道明寺さんが、数枚のひらひらした紙がついた棒――後に調べたところ、あれは(ぬさ)と言うらしい――を、頭を下げた武内さんの頭上で左右にしゃなりしゃなりと振る。

 

「ほら、シロちゃんも!」

 

「え、俺も?」

 

 本田さんに急かされて、結局俺も武内さんと共にお祓いをする事になってしまった。……つーか、ストーカー騒動がどう間違えたら、お祓いになるんだよ。

 

――――

 

 プロデューサー達がお祓いをしてもらっている時に、白坂さんがぽつりと呟いた。

 

「何をしてるの?」

 

「何って、お祓いにゃ」

 

 前川さんが、お祓いをしてもらっている二人をじっと見ながら言った。

 

「誰を?」

 

「誰って、もちろん、Pチャンと城戸チャンを」

 

 白坂さんは、疑問を持ったように首を傾げながら前川さんに向かって言った。

 

「……何も、憑いてないよ?」

 

「へ?」

 

 驚きの声が、346のロビーに響いた。えっ嘘、心霊写真になっていたのに!

 

「でも、本田さんが送ってきた写真には確かに映ってましたよ?」

 

 ハリエットが未央さんの方を見ながら言う。未央さんは未央さんで、こくこくと頷きながら白坂さんに詰め寄った。

 

「じゃあ、志半ばに敗れ去ったアイドル見習いは!?」

 

 白坂さんは、また首を傾げた。

 

「女の人の霊? ……見えないよ?」

 

 はあ、とプロデューサーはわざとらしくため息をついた。道明寺さんの手は止まっていて、三人は困惑したような表情を浮かべている。

 

「言った通りだっただろ、ハーミー。気のせいだって」

 

「ぐぬぬ……!」

 

 プロデューサーのくせに生意気ね!

 

「じゃあ、霊はいないんですね!」

 

 ハリエットが安堵したようにため息をつくと、白坂さんは「ううん」と言いながら首を横に振った。

 

「この辺りに、笑ってるお侍さんがいるよ」

 

 そう言って、諸星さん達の方を指さした……けど、サムライなんて当然いない。近くにいた諸星さんの血の気がさあっと引いた。

 

「にょわぁぁぁ!!?」

 

 悲鳴がロビーに響いた。

 

――――

 

 あの子には何が見えてんだよ。もしかしなくてもガチ中のガチかよ。とは言え。

 

「霊でもないって事は、普通のストーカーだな。……ストーカーって時点で普通じゃないだろうけど」

 

 しかも、アイドルのプロデューサーを付け狙うとかいう、特殊なタイプのストーカーである。ぎゃいぎゃい騒ぐアイドル達を眺めながら、武内さんはいつものように、首筋に右手を添えた。……最近この人もそればっかだな。何とかしたいが、正直難しいだろう。常務にマークされている件なんか特に。

 

「すみません城戸さん。巻き込んでしまうような形になってしまって」

 

「ああ、いえ、なんて事ないですよ」

 

 頭を下げた武内さんに向かって苦笑する。俺も武内さんも、ストーカーの被害者である事にあまり変わりはないし。

 

「兎にも角にも、アイドルの無事が第一です。――ストーカーの狙いが、私達とは言い切れないので」

 

 武内さんは変わらぬ仏頂面で言ってきた。……確かに、プロデューサーのストーキングをしているからと言って、その狙いがプロデューサー本人であるとは言えない。その実、プロデューサー経由でアイドルを付け狙っているとも判断出来る。……くそ、その可能性も考慮すべきだったか。

 

「用心しておいた方がいいですね」

 

 この売り出し中の時期に、大きなトラブルが起きてしまうのは何としてでも避けたい。その前に、犯人を特定してこの騒動を終わらせないと。

 

「社内でも視線を感じる時があるので、やはり346の関係者でしょうか」

 

「……あまり疑いたくはありませんが。城戸さんには、心当たりがありますか?」

 

「いえ、全くないです」

 

 俺の知る限りでは、この会社にそんな輩はいない。人間関係でいうならば、前世に勤めていた会社なんかよりも真っ白である。一番人物像がよく分からないのはニューヨーク帰りの常務だが、あんなバリバリのキャリアウーマンがストーカーをするとは到底思えないし。

 

 ……そもそも、何故俺と武内さんなのだろうか。共通している点と言えば、新人のアイドルをプロデュースしている事ぐらいで……つまり身内の中でも、妬んでいる同業者が? いやいやいや、思いつく限りでもそんな事で妬んでくるプロデューサーが思い浮かばない。もしかしたら俺が知らないだけで、この会社にはそんな奴がいるのかも――。

 

「プロデューサーさん、あたし達、決めたわよ」

 

 俺の思考を遮るかのように、突如ダフネが声を掛けてきた。

 

「はあ、何をだ」

 

 すんげー嫌な予感がする。

 

「皆と話し合ったの。武内プロデューサーとプロデューサーさんは、ストーカー被害に困っている、そうよね?」

 

「え、ええ」

 

「まあ、そうだな」

 

 武内さんと俺は渋々頷いた。結論だけを言ってしまえば、まさにそんな感じだしな。

 

「だから、ここはアイドル同士協力する事にしたのよ」

 

 ハーミーがダフネの後ろから声を上げると、その場にいたアイドルが「うんうん」と力強く頷く。……やっぱり嫌な予感がしてきた。そんな俺と武内さんの懸念を知ってか知らずか、本田さんが胸を張って言葉を続ける。

 

「その名もズバリ! 『アイドルSP大作戦』!」

 

「却下だ」

 

「私も反対します」

 

 もう作戦名だけで嫌な予感が当たったような気分だ。流れるように反対した俺達に向かって、少女達は「ええー」と落胆する。ええー、じゃないんだよ。君ら一体何を話し合ったんだ?

 

「だって、プロデューサーとシロちゃんのピンチだよ! ここは私達がいっちょ一肌脱がないと!」

 

「いえ、本田さん、その必要は」

 

 こりゃ武内さんじゃ制御しきれないな。オイオイ渋谷さん、シンデレラプロジェクトのストッパーだろ。早く止めてくれよ。

 

「……」

 

 あ、この子も目がマジだ。




■警戒している武内P
城戸Pもストーカー被害にあっているので、おそらくこのような事を言うのではないかと。


■目がマジのしぶりん
これも城戸Pが関わっているからかもしれない。


アニメ二期分の構成を考えていたらかなり遅れてしまいました。これからは書きながら考えていけたらと思います(行き当たりばったり)
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