The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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若干アニメとは違う展開もあるとは思いますが、生暖かい目で見守ってください。


第36話 The Cinderellas who was taken off shoes

 いつも通りの日だった。特に雨が降っているわけでもなく、極端に暑い訳でもなく。いわば、なんて事ない日だった。

 

 ただ、一つだけ引っかかる。なぜ、エントランスにいる関係者は皆忙しなく動いているのだろうか。ある者はダンボールの箱を抱えて。また別の者は携帯で通話しながら。

 

「あら、ハリエット」

 

「ああ、うん、ハーミー、ダフネさん」

 

 少し遅れて顔を出してきた二人に軽く挨拶をしながら、ハリエットは首を傾げる。

 

「どうかしたの? 気分悪いとか?」

 

 ハーマイオニーが彼女の顔を覗き込むが、「ううん」と首を横に振った。

 

「ううん、何でもないよ」

 

 「嫌な予感がする」という、漫然とした不安を口にするぐらいしか出来ないのだから。

 

――――

 

 いつも通り地下のプロジェクトルームへと足を運ぶ。何だか、ドアの前が少しだけ賑やかだ。

 

「……あ、はみはみ、フナちゃん、えっちゃん」

 

 真っ先に気付いたのは、浮かない顔をしている本田だった。どういう事なのか、シンデレラプロジェクトの一同が揃いも揃ってドアの前で固まっていた。

 

「ちょっと、一体何なのよ未央さん。そんな所で集まって」

 

 E.G.G.Sの三人は、珍しい光景に首を傾げながらもドアを解錠しようと歩み寄る。……鍵を開けようとしたその時、一枚の張り紙がドアに引っ付いているのが見えた。

 

「――何よ、これ」

 

 ダフネがぼそりと呟く。張り紙には「E.G.G.S及びシンデレラプロジェクト・プロジェクトルーム」と書かれている。おかしい話だ。シンデレラプロジェクトのプロジェクトルームはこの地下一階よりもずっと上の、三〇階に位置していたはずだ。

 

「どういう事ですか、渋谷さん? 三〇階のあの部屋は?」

 

 ハリエットが渋谷に訊くが、彼女は事態を飲み込めていないような様子で首を横に振った。

 

「分からない。ただ、部屋から家具が運び込まれてて」

 

 ……ドッキリの企画だろうか。しかし、それにしては不自然だ。わざわざこのような、視聴者に伝わらない「テレビ的に地味な事」をするのだろうか。それに加え、シンデレラプロジェクトのアイドル全員が一様に不安そうな表情をしている事もおかしい。諸星や渋谷はともかく、演技があまり得意そうではない赤城や島村でさえ浮かない顔をしているのだから。

 

「――皆さん、ここにいましたか!」

 

 駆け寄ってきたのは、三人の人影だった。武内と城戸、それに千川である。

 

「……悪い、連絡が遅れた」

 

 三人の大人の顔は、切羽詰まっているかのような真剣な顔だった。急いで来たのか、それぞれが肩で息をしている。

 

「プロデューサー、一体どうしたの!? プロジェクトルームは?」

 

 本田が武内に訊く。彼は首筋に右手を当て、相変わらず低い声で彼女の質問に答えた。

 

「それが……。常務の方針で、アイドル事業は全てが白紙に戻されて」

 

 彼の言葉に続いたのは、千川だ。

 

「事業の見直しを図るとの事で、一旦あの部屋はシンデレラプロジェクトの手を離れる事になりました」

 

 ――言葉が出なかった。それは、ハリエット以外の皆も同じだったらしい。

 

「白紙、って……。それじゃ、みく達はどうなるにゃ! アスタリスクとしての仕事は、まだまだ残っているにゃ!」

 

「慌てないでくれ。今入っている仕事が急に無くなる事はない」

 

「でも進にーちゃん、どうなっちゃうの!? 莉嘉たち、バラバラになっちゃうの?」

 

「えー! みりあ、離れ離れになるのはやだー!」

 

「よもや、遥か天上の宣告により、我らが引き裂かれようとは……」

 

「プロデューサー、全てって事はE.G.G.Sも!? どういう事なのよ!」

 

「仮にシンデレラプロジェクトも入ると、あの部屋じゃ手狭になってしまいそうね……」

 

「プロデューサー、きらり達どうなっちゃうの?」

 

「落ち着いてください!」

 

 声を荒らげて場を制したのは、普段静かな武内だった。物珍しいその光景に、地下一階の廊下はしんと静まり返った。思わず大きな声を出してしまった事に彼本人が動揺した様子を見せたが、すぐにいつもの仏頂面に戻った。

 

「……現在、私達で打開策を検討しています」

 

「他のプロデューサーやアイドル達にも声を掛けることにしている。いくら何でも、唐突が過ぎるからな」

 

 城戸は頭を掻きながらため息をつく。

 

「――皆さん。私達を信じてください。絶対に、シンデレラプロジェクトを解体させるような事はさせません」

 

 こくりと小さく、城戸と千川が頷いた。

 

「俺達は緊急で会議をする。それぞれ、レッスンや仕事に向かってくれ。部屋が必要になったら、今はE.G.G.Sに言うように。シンデレラプロジェクトの分の合鍵も、取り急ぎ準備する」

 

 スーツ姿の男二人は、それだけ言い残すと慌てたように階段へと向かっていった。

 

「……それでは皆さん、お仕事頑張ってください」

 

 千川は曇った表情のまま一礼すると、二人の後を追っていった。

 

――――

 

 大変なことになってしまった。あの常務は、今の346アイドル事業部の状態を知らないのだろうか。確かに成長は少し遅いのだが、このままの伸び率をキープすれば来年には投資を上回る計算である。何も事業全てを白紙に戻して検討するほどに、取り返しの付かない窮地に陥っている訳ではないはずだ。

 

「武内さん、今回の会議には誰が?」

 

 早歩きで会議室へと向かう武内さんに訊く。彼は苦虫を噛み潰したような顔で首を横に振りながら答える。

 

「現在、剣崎さんと五代さんには話を取り付けました。左さんは遅れて来るそうです。また、野上さんと操真さん、紅さんには後に議事録を送ります。っ、すみません。……葛葉さんも会議に顔を出すみたいです」

 

 やはり、常務のやり方に違和感を持つプロデューサーは多いらしい。

 

「二人とも、ここですよ」

 

 千川さんに呼び止められ、危うく通り過ぎそうになった会議室の中へと入る。広めの会議室の中には、ぽつんと二人の男が席についていた。

 

「剣崎さん、五代さん。急な呼び出しに応じてもらい、ありがとうございます」

 

 武内さんが二人に声を掛けると、彼らは神妙な面持ちで会釈を返した。

 

「困っているのは武内さんと城戸くんだけじゃない。うちのアイドル達にとっても大きな問題ですから」

 

 五代さんがため息をつきながらぼやく。……確かに、彼の担当するセクシーギルティは、確実な人気を博しつつある。順調に進んでいる今、プロジェクトの凍結を言い渡されてしまってはたまったものじゃない。

 

「……今日集まったのは、これからの為ですよね? 他には、誰が来るんですか?」

 

「はい、左さんと葛葉さんが遅れて――」

 

 武内さんが剣崎さんの質問に答えている途中、ドアが乱暴に開かれた。

 

「遅れた! 武内、これからどうするつもりだ!?」

 

 ――葛葉さんか。

 

「まだ始めたばかりです。葛葉さん、これから話し合っていきますので落ち着いて座ってください」

 

「――ああ、悪い」

 

 息を切らした葛葉さんが椅子に座ったところで、武内さんは周りを見渡す。会議の始まりだ。

 

「現在、アイドル事業部の全プロジェクトが凍結、見直しを図られることになりました」

 

「理由に思い当たる節は? いくらニューヨーク帰りで日本の芸能界がよく分からないとは言え、こんな事をするのは無茶苦茶だ」

 

 葛葉さんの言葉に、他のプロデューサーも一斉に頷く。視線は皆の前に立っている、武内さんに注がれた。――ニューヨーク帰りの常務がこの方針を打ち出す前によく会話をしていたのは、この中では武内さんただ一人だ。彼女の切っ掛けについて、彼ならば何か掴んでいるのかもしれない。

 

「常務の方針発表の後、直ぐに問いただしました。彼女が何を考えているのか、何を行なうのか。……私が会議を開いたのも、それを皆さんと共有する為です」

 

 会議室のプロデューサー達は、依然として押し黙っている。

 

「彼女は、実力主義のようです。資格があるものを大々的にプロデュースし、他を切り捨てるとの事でした。現在多角化しているアイドル事業部の売り込み方をやめ、346プロのブランドイメージを一本化すると」

 

 ……確かに、悪くはない話ではある。企業のブランドイメージを固め、それに集中する事は間違ってはいないやり方だろう。間違ってはいないのだが。

 

「――切り捨てるってのは納得がいかねえっすね」

 

 いつの間にか来ていた左さんが、カッコつけながら黒いハットをくいと動かす。……ここ室内なんですが。俺の次に若いプロデューサーだが、カッコつけようとする所は若干子供っぽい。

 

「左さん、来ていたんですね」

 

「後輩、どう思う? オレは気に食わねーかな」

 

 俺はキメ顔の彼に向かって頷く。ブランドイメージを固める為に、成長の見込みがあるアイドル達を切り捨てるのは何かズレている。

 

「俺も同じです。切り捨てられたアイドル達はどうしろって言うんですか」

 

 五代さんも「ああ」と首肯する。

 

「武内さん、勿論反対でしょう? 貴方が一番、切り捨てられる痛みを分かっているはずです」

 

 剣崎さんの言葉に、武内さんは顔を俯かせる。――そうか、以前彼はかつて担当していたアイドル達から離れる事となった。それはつまり、「以前のアイドル達に切り捨てられた」という事でもあるのだろう。

 

「はい。……私達は、彼女達に可能性を感じてプロデュースしています。例え彼女が言う『資格』とは違っていても、それは変わりません」

 

 会議室にいるプロデューサー達は、俺を含めて全員一斉に頷いた。

 

「それで、どうするんだ?」

 

 葛葉さんが武内さんに訊く。

 

「常務が事業の再編を本格的に行なうのは来月からです。なるべく早い段階で私の方で対抗策を打ち出し、彼女に打診を試みます」

 

 つまり、早くて今月末、仮に遅れたとしても来月上旬がタイムリミットか。もう時間がない。

 

「恐らく、皆さんの助力を求める形になるかと思います。申し訳ありませんが、その際にはお力添え頂けると幸いです」

 

 彼は頭を下げた。

 

「勿論ですよ、武内さん」

 

 俺はそれだけ言うと、会議室の中を見渡す。返事こそなかったものの、他のプロデューサー達はこくりと頷いた。

 

「後輩も言ってたもんな。『プロデューサーは助け合い』、だろ?」

 

「えっ、左さん、夏フェスのアレ聞いていたんですか?」

 

「なかなかアツい言葉だったぜ?」

 

 今こうして改めて言われると、なんか顔が熱くなるな。めっちゃ恥ずかしい事言ってんじゃん俺。

 

「だったら今がその時、だな!」

 

 葛葉さんが気合いを入れるように握りこぶしを自らの手のひらに打ち込み、ぎらりと目を輝かせる。

 

「千川さん、武内さんのサポートをお願いします。……オレ達も、出来る限りの手助けはしていきます」

 

 五代さんの言葉に、千川さんは頷いた。

 

「はい。精一杯サポートします」

 

「だったら、自分も武内さんのサポートをします」

 

 俺も続いて名乗りを上げる。

 

「自分と武内さんは、プロジェクトが違えど新人のアイドルを見ている事に変わりはありません。それに――」

 

「それに?」

 

 目を丸くした武内さんの方をしっかりと見据える。

 

「……俺も、何かできる事をしたいですから」

 

 彼がはっとした表情をした事を見届けると、他のプロデューサーの方を向く。彼らも腹を決めたようだ。

 

「分かりました。では城戸さん、お願いします」

 

 剣崎さんに続いて、左さんと五代さん、葛葉さんも頷いた。

 

「城戸、武内。アイドル事業部を頼む」

 

 ああ。やってやる。俺と武内さんだけじゃない。この戦いは、他のプロデューサーも付いているんだ。




■E.G.G.S及びシンデレラプロジェクト・プロジェクトルーム
本来ならばシンデレラプロジェクトがあそこに行く流れになりますが、既にE.G.G.Sがいるのでこのような形に。


■プロデューサーの名前
平成ジェネレーションズから引っ張ってきています。既存のキャラと被る名字は、今のところ省く予定です。


■プロデューサー達の結束
アニメ本編では描写されていませんでしたが、このようなやり取りがあったのかなあという妄想です。


この話に差し掛かると、「二期が始まったな」という気持ちになります。
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