The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
武内さんと一緒に一晩ほどで書き上げた、「常務への対抗策」となる企画書に目を通す。
「こんなものでしょうか」
アイドルの個性を前面に打ち出し、様々な企画とステージを取り行う。一言で言ってしまえば、準備がものすごく大変なイベントではある。
「はい。城戸さん、追加で何か要望があるならば是非意見を言って頂けたら」
「――いえ、問題はないです。ただ、決めなければいけないならイベント名ですかね」
画竜点睛を欠く。簡単に言ってしまえば、どんなに素晴らしいイベントの計画が出来たとしても、「チキチキ346アイドル博覧会」とかいう名前を付けてしまっては台無しなのである。……うーん、「チキチキ」は流石にないな。いや、「博覧会」なんて言い方も宜しくない。
「では……『シンデレラの卵の舞踏会』はどうでしょう」
武内さんがホワイトボードに書き込む。「舞踏会」か、成程。ロマンチックでいい響きだ。しかし。
「『シンデレラの卵』と言うのは? 346のアイドルが全員出るとなれば、卵という言い方には引っかかりますけど」
仮に高垣楓が出るとなれば、卵という言葉は相応しくないだろう。あの人は既にトップアイドルとして羽ばたいているしな。「あ、いえ」と武内さんは説明を続ける。
「企画者がシンデレラプロジェクトの私と、E.G.G.Sの城戸さんですので」
はあ、別にそんな所で気を使わなくてもいいのにな。
「語呂が悪いですから、『シンデレラの舞踏会』にしましょう。それに、武内さん――」
俺はパイプ椅子から立ち上がり、ホワイトボードにユニット名を書いていく。Candy Island、New generations、凸レーション、Eggs、Rosenburg Engel、Love Laika、Asterisk。それぞれ大文字になっている所に丸印をつけ、凸レーションの近くには「D」とだけ書いて丸印を同じようにつけた。……相変わらず、偶然にしてはよく出来ているな。
「これで、シンデレラですよ」
ホワイトボードに「CINDERELLA」と書いた。わざわざ「卵」と付け加えなくてもいい。E.G.G.Sは、シンデレラに既に加わっているんだから。
「――っ! ……そ、そうですね」
武内さんは初めて気付いたのか、慌てて仮題の「卵の」をクリーナーで消しとる。
「では、イベント名は『シンデレラの舞踏会』でよろしいですね」
「はい、すんなり決まって良かったです」
さて、こちらもこちらで準備を始めていかないと。
――――
今西は武内の手から企画書を受け取ると、慌てる素振りも見せずにのんびりと目を通し始めた。
「成程……君らしいね」
今西の言葉を受けて、彼は「はい」と落ち着いた様子で返事をした。
「城戸君もお疲れ様。とはいえ、まだまだこれからだけどね?」
「はい、承知しております!」
かたや城戸は、緊張した面持ちで答えた。今西は既に、武内に付いている事務員から話を聞いていた。「武内と城戸が、常務に企画を提案する事」、「所属アイドルを守り抜こうとしている事」を。
「私の方からも言っておくけどね。なるべく部下の話を聞くようには。古い仲だから聞いて欲しいものだけど」
今西は呟くように言いながら、部長の承認欄に丸い判を押しつける。欄内の捺印は、寸分違わず真っ直ぐ押されていた。
「あの……部長」
「どうしたんだい城戸君」
「その、常務の事についてなんですが……。以前から、このような調子だったのですか?」
うーむ、と今西は唸りながら白髪を掻く。
「彼女は昔から堅物ではあったね。堅物というか、猪突猛進というか。一度決めたら、なかなか曲げない子だ」
武内は今西から手渡された企画書を受け取りながら、城戸の言葉に続く。
「いえ、そうではなく……。私達が疑問に思っているのは、『順調な事業に思い切りメスを入れるような、勝負師であったのか』という事です」
びたり、と今西の動きが止まる。ああそうか、と彼はため息をついた。
「確かに、そうだね。思い切りがいい方ではあったけど、今回はちょっと行き過ぎかもしれない」
アイドル事業とは――言い方が悪いかもしれないが、水商売である。ファンの人気で成り立っており、おいそれとプロジェクトの再編を行なってしまうのは危険な賭けである。ファン一同はそれにより、冷や水をぶっかけられたような気持ちになってしまいかねないからだ。
今回はその所業を、346プロ所属アイドルのファン全員に行なうものと言っても過言ではない。一つでも噛み合わなかった場合――冷や水を掛けられたファン達のずぶ濡れの視線は、346を離れるかもしれない。
「常務にとっても、分の悪い大博打でしかないはずです。一体何が、彼女をつき動かしたと言うのですか」
城戸が半ば詰め寄るような形で今西に迫る。今西は、ばつが悪そうに苦笑する事しか出来なかった。
「分からないんだ、それが。向こうで何があったのか、彼女が何に触れて、何を思ったのか」
彼の予想に反し、城戸は「そう、ですか……」とあっさり引いた。仮に左だったならば、それでも何かを聞き出そうと食い下がっていたかもしれない。
「幸い、彼女は社内にいる筈だ。その企画書を持って行ってはどうかね」
――――
部長の進言を受けて武内さんと一緒に常務の所へ向かう途中、これまた珍しい人物とすれ違った。高垣楓――346プロアイドルのドル箱である。
「お疲れ様です、高垣さん」
俺が会釈すると、彼女はじっと俺達を睨んだ。……へ、何か悪かったかな俺。恐る恐る背後を見る。武内さんが微動だにせず、高垣さんを見ていた。
「っ、……」
我に返ったらしい武内さんは、まるで蛇に睨まれた蛙か何かのように、ぎこちない会釈をした。高垣さんは冷ややかな目で武内さんを見ていたが、ふいと視線を下ろすとそそくさと去って行ってしまった。
「……何かあったんですか?」
まるで喧嘩別れした元カップルのようなピリピリとした空気に耐え切れる訳もなく、高垣さんの姿が見えなくなった途端につい訊いてしまった。
「……いえ、何でもありません」
彼の額には冷や汗が浮かんでいる。あまり追及するのも悪いか。ここに向かった目的とはかけ離れているし。――まあ、気になる事と言えば。
「彼女も、常務に呼ばれたという事でしょうか」
ここ最近、常務は一部のアイドルやプロデューサーを呼びつけている。遂にその魔の手が、346プロを代表するような筆頭アイドルにまで及んだという事だろう。
「……急ぐ必要がありますね」
「……はい、そうですね」
これ以上滅茶苦茶に掻き回される前に、一手でも打っておかないと。
――――
常務の執務室は、シックな色合いで纏められている落ち着いた部屋だ。洋城を模した346のエントランスのイメージを崩さない、上品な内装。ただ一つケチを付けるならば、王族然としたエレガントな物は見受けられず、若干シンプルな調度品が整えられている所か。
「今西から連絡があった。何やら、企画書を提出すると」
これまたシンプルなデザインの黒い革の椅子に座った常務が、冷徹な眼光を俺達に浴びせる。びしっと着こなされたレディーススーツと相まって、威圧感が凄いな。
「はい。是非ともお目通し頂きたい企画が」
武内さんは、「シンデレラの舞踏会」についてまとめられた企画書を常務に手渡す。彼女は受け取るや否や破り捨てるような事はせず、丁寧に中身を吟味し始めた。
「アイドルの個性を活かし、彼女達の可能性――『パワー・オブ・スマイル』を引き出す。成程」
常務は顔を上げて、武内さんと俺をまじまじと見る。
「私の方針とは一線を画すものだな」
武内さんの話では、選んだごく一部のアイドルにリソースを集中させ、346のブランドイメージを確立させるのが常務の方針である。武内さんと俺が提示してきたような、アイドルの個性を前面に押し出す――言い換えれば、「ブランドのイメージがブレる」この企画は、まさに正反対の位置にあると言ってもおかしくない。
「はい。私と城戸さんの二人で、企画の管理を行なう予定です」
「……ほう? 君もか」
まるで値踏みするような常務の視線が、俺に突き刺さる。
「はい。武内さんと共同で立案致しました。運営管理もまた、自分達で責任を負うつもりです」
正直、この人にあまり目を付けられたくはなかったのだが、ここまで来たらやむを得ない。武内さんに助力する時点で、覚悟はしていた。俺と武内さんにヘイトを集中させ、他のプロデューサーがある程度自由に動けるようにする。この企画書を提出する、「二つ目の理由」だ。勿論、「一つ目の理由」は言う必要もないだろう。
「こちらとしては、企画の立案や遂行に反対する気はない」
常務の口から飛び出してきたのは、意外な言葉だった。……てっきり、強く反対されるなり妨害を示唆されるものだとばかり思っていたが。
「ただ、利益が見込めなかった場合。――その時は、分かっているだろうな?」
刺すような常務の視線が、より冷ややかなものになる。……成程、結局はそういう事か。常務にとっての目的は「アイドル事業部の売上を伸ばす事」であり、「プロデューサーの邪魔をする事」ではない。「アイドル事業部の全プロジェクト解体」も、「346プロのブランドイメージ確立」も、あくまで手段であって目的ではない、といった所か。
「はい。承知しております」
武内さんが覚悟を決めたような眼差しで、常務の冷たい視線に立ち向かう。静かに交わった視線の先で、バチバチと激しい火花が散ったように思えた。先に視線を外したのは、憮然とした態度で鼻を鳴らした常務だった。
「いいだろう。ならばその覚悟、見せてみろ」
……何だかゲームのキャラクターみてーなこと言い出したぞこの人。――「プロデューサーの邪魔」が目的ではなく手段だと言うならば。あくまで「アイドル事業部の売上を伸ばす」という目的に固執しているのならば。ここで一つ、賭けに出てみるか。
「では、約束して欲しい事が一つあります」
俺が切り出すと、常務は「何だ」と冷たい視線を向けてきた。武内さんも俺が突如口を開いた事に驚いた様子だ。――まあ、今思いついた事だし。
「全プロジェクトの解体を、少しの間留保して頂きたいのです。少なくとも、この企画の結果が出るまでは」
「……メリットは?」
ぐっ、こえーなこの視線。だが、これこそ今思いついた「第三の目的」、ここでやっぱ辞めはなしだ。
「この企画――『シンデレラの舞踏会』の真髄は、ここに所属しているアイドルの個性を引き出す事にあります。言い換えてしまうと、既存のプロデュースによって見出された彼女達のポテンシャルが、直接収益に影響するイベントです。解体を今すぐ撤回しろ、とは言いません。ですが――」
息継ぎがてら、常務の顔を窺う。眉をぴくりとも動かさず、俺の話を聞いている。
「――ですが、プロジェクトの解体によって彼女達の個性が塗り潰された場合、我々がこの企画書に打ち立てた利益は見込めなくなる可能性があります」
俺がそこまで話し終えると、常務はぴくりと眉を釣り上げた。武内さんがはっと息を呑む。
「つまり――脅迫と捉えていいのか?」
うっ、怖ぇ。確かにそう聞こえるかもしれないけどさあ。
「城戸さん――」
「ここは任せてください」
武内さんが止めようとして来るのを制す。ここまで言ってしまったからには、きっちりと最後まで伝えるべきだろう。
「いいえ。ただ一つ言えるのは――美城常務、我々も貴女と同じく、346プロダクションの事を考えてこの企画を打ち立てた、という事です」
さて、切れる手札はある程度打った。どうだ。
「――良いだろう。未だ私に賛同できない者達には、具体例を以て分からせる必要があるだろうからな」
常務が、俺と武内さんをじろりと睨み付ける。
「そこまで言うならば、やって見せろ。邪魔立てはしない」
「っ、ありがとうございます」
「……あ、ありがとうございます!」
よおし、第一関門突破だ。今日は祝杯だな。
■ユニット名
本来ならアニメ本編の状態でもシンデレラになるが(DEは凸レーションが二文字担当)、たまたまそのままそっくり当てはまってしまった。ネットの考察でも「すごい」と思ったのにプラスしてこれなので、ちょっと驚きが抑えられない。
■美城常務
二次創作だと面白キャラになったりもしますが、この作品ではキッチリ怖い上司にする予定です。
■何か追加してきた城戸くん
現実だとそのまま首を切られそうですが、ここはデレマスの世界ということで一つ。
偶然に偶然が重なってます。