The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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こちらの回をメインにしていくつもりです。


第39話 The little-Cinderellas talk in stadio

 企画の承認から撮影までは、まるで光のように早かった。何でも今西部長が裏で一枚も二枚も噛んでいるという噂なのだが、敵でなくて良かったと思う他ない。あの人が常務の側についていたら、つくづく詰んでたな。

 

 今日は「とときら学園」の初回収録、E.G.G.Sのテレビ番組デビューだ。……それは別にいい。彼女達の目標の一つではあったし、この番組が常務への反撃の一手になるし。ただ、予想外の問題が一つだけ。

 

「ねえ、プロデューサー。これ、どうなのかしら?」

 

 訝しむような顔で訊いてきたのは、番組の衣装に身を包んだハーミーだった。

 

「まあ、違和感がないんじゃないか?」

 

「どういう事よ! わたしが子供だって言いたいの!?」

 

「違う違う! そんなつもりはなかったんだ、マジでスマン!」

 

 予想外の問題――それは、「衣装が足りない」という事だった。余りのスピード採択により、出演するローティーンアイドル――莉嘉とか双葉ちゃんとかも紛れているのだが――全員の分の衣装が用意できなかったのだ。急いで連絡をとった所、当初予定していたものの代わりに運び込まれたのが何を隠そう、スモックだった。

 

 「スモック」と聞いて首を傾げたエバンスさんに、双葉ちゃんが「幼稚園児の制服だよ。ほらあの、水色のヤツ」と簡単な説明をしているのを、呆然と聞く事しか出来なかった。

 

 そのスモックの山は何でも他の番組の収録で使っていたものらしく、子供用の一〇センチ刻みサイズから大人用のSMLまで、幅広く取り揃えてあるらしい。いや何でだよ。何処でそれだけの数とレパートリーが必要だったんだよ。そもそもそんな事より――。

 

「左さん。これは、『学園』と言えるのでしょうか」

 

 これじゃ「とときら幼稚園」じゃないか。どういう層にアピールするんだよこれ。下手すりゃ特殊なプレイじゃねえか。

 

「……ま、そこは二人の手腕に任せるさ」

 

 相変わらず帽子をキザに被った左さんが、これまた保育士然とした淡いピンクのエプロンをしたMCを眺めながらふうとため息をつく。根本的な解決にもなっちゃいねえ。武内さんもまた、がっくりと項垂れるのみだった。

 

 ――俺としては、鬼の形相をしている莉嘉が気がかりではあるのだが。

 

――――

 

 結局、数とレパートリーに負けて、スモックで撮影を行なう事になった。左さんはどうか分からないが、俺と武内さんは納得してないからな。

 

『皆ー! 授業がはっじまーるよー!』

 

 軽やかなチャイムのSEに続いて、諸星さんのかけ声が上がる。

 

『皆さぁん、席についてくださいねー?』

 

 十時さんも続いた。――「十時」と「きらり」で「とときら」とは、左さんも考えたな。

 

『この番組では、ちょこっと疑問に思っちゃう事や、はぴはぴな事を皆で学んでいくにぃ!』

 

『では号令をかけまぁす! 起立、礼!』

 

 十時さんの号令に合わせて、スモックを着たアイドル集団が一カメに向かってお辞儀をした。諸星さんの説明にも少しあった通り、この番組は検証バラエティとなっている。スタジオで実際に実験を行なったりVTRを用意したりして、アイドルのリアクションを見せていく番組だ。

 

『そして、生徒の皆さんと一緒に学んでいくのは、この子達!』

 

 諸星さんの台詞と共に、セットの中へエバンスさんとダフネが入ってきた。

 

『こんばんは、教育実習生のハリエット・エバンスです!』

 

『同じく、ダフネ・グリーングラスよ。よろしくね?』

 

 ――俺が思いついたアイディア、それがこの「教育実習生」というシステムである。簡単に言ってしまえば「ゲスト」なのだが、二〇代も半ばを過ぎたアイドルが生徒側でそれを導入するのは、流石に難しい。需要は兎も角。

 

 そのような年齢の問題もあるし、今では豊富なスモックがあるから問題ではなくなったが、衣装を一々用意するというのも煩雑である。

 

 しかし、「教育実習生」というやり方ならば、ある程度は融通が利く。衣装もMCの二人が付けているようなエプロンを用意すればいいし、毎週変わったとしても不自然ではない。更には、成人したアイドルやスモックではミスマッチな雰囲気のアイドル、更にはアイドル以外の男性芸能人も自然に番組のゲストとして呼べる。「学校」という設定の枠組みを利用するに当たって、これほど最適なポジションはないだろう。……現在のスタジオの様相を見ると、完全に「幼稚園」なのだが。

 

「いやあ、改めて言うが、よく考えたな後輩。確かにこれなら、実質的な制限はない」

 

 左さんが頷きながら感慨深そうに言った。

 

「はい。すっかり失念していました。左さん。今回と次回は試験的な導入として、城戸さんと私の担当アイドルが務めます。他のアイドルを呼ぶのは、三回目の収録からとなります」

 

「うっす、よろしくお願いします、武内さん!」

 

 自分でもつくづく思うが、これは無茶苦茶いいアイディアだ。――というふうに心の中で自画自賛していると、ADが見せてきたカンペをちらりと見た十時さんが、生徒側のアイドル達に向いた。

 

『では、今日は初めての授業なので、自己紹介をよろしくお願いしまぁす! 最初はー……杏ちゃん!』

 

『えー、杏はラストにしてくんない?』

 

 どうやら双葉ちゃんは、素の状態で収録に臨む事にしたらしい。「アイドルの個性を前面に押し出す」という俺達のポリシーを、彼女なりに汲み取ってくれたのだろうか。

 

『もー杏ちゃん! 年長さんなんだから、しっかりするの!』

 

 『うへぇー……』と観念したような声を上げながらも、双葉ちゃんはテキパキと自己紹介をした。勿論、寄ってきたカメラに向かって。テキトーに見えてしっかりと仕事をこなす姿からは、既に貫禄が出ている。君まだデビューして間もないよね?

 

『じゃあー次は……ハーマイオニーちゃん!』

 

 十時さんに指名されたハーミーは勝気な顔で立ち上がると、すっと移動したカメラに向かって胸を張る。

 

『ハーマイオニー・グレンジャーよ! ハーミーでいいわ!』

 

 うんうん、変に緊張していないようだ。むしろ、カメラの外とはいえソワソワし出したエバンスさんが心配だな。……少なくとも、E.G.G.Sの中では。わざわざそのように付け加えたのには、依然としてむすっとしたままの莉嘉の存在がある。今は本番だし、収録に集中して欲しいんだけどな。

 

『はーい! 龍崎薫です! よろしくお願いしまーす!』

 

 左さんの担当アイドルが、元気に自己紹介をした。うんうん、と左さんは満足気に頷く。

 

「左さんも大変ですよね。武内さん程ではないとは言え、大勢のアイドルを見ているんですから」

 

 彼は「そうかぁ?」と返事をしながら俺の方を向く。

 

「一つのユニットとして見てるから、意外と何とかなるぜ。武内さんみたいに、複数のユニットの管理はしたくねえけどな」

 

「はは、そうですか。ですが、小さな子達ばかりじゃないですか? 本当、良くやるものですよ」

 

「ま、しっかりした子もいるからな」

 

 そこまで言った左さんは、まるで項垂れるようにため息をついた。

 

「……どうしたんですか?」

 

 急に分かりやすく落ち込まれると、正直扱いに困るんですけど。

 

「ああ、いや。……目をつけていた子が、常務に引き抜かれてな」

 

「……マジですか」

 

 予想していたよりも深刻な話じゃん。

 

「年齢の割にはしっかりした子だから、上手いことセーブ役になると思ってたんだけどな。くそ、俺が甘かったぜ」

 

 簡単に話を聞いてみると、僅かな差で常務のスカウトの方が先だったらしい。ううむ、あの人が直々に新人をスカウトするとは。しかし、そういう事はつまり――。

 

「……はい。近々、何らかの形でユニットを発表するかと」

 

 いつの間にか話を聞いていた武内さんが、俺と左さんの会話に加わってきた。少しだけびっくりして声を上げそうになったが、そこは我慢我慢。なんてったって本番中だぞ。

 

「やはり、そうとしか考えられませんね」

 

 常務が言っていた「資格を持つアイドル」の具体例の一人として、左さんが目をつけていた子がスカウトされた。てっきり既に所属しているアイドルのみで引き抜きを行なうとばかり思っていた俺達は、完全に出し抜かれた形になってしまったようだ。

 

『最後はー、莉嘉ちゃん!』

 

 プロデューサー同士で話し込んでいる間でも、番組はきっちり進行していたらしい。自己紹介の手番は、不機嫌な様子の莉嘉へと渡った。頼むから、きっちり仕事してくれよ――。

 

『じょ……城ヶ崎、莉嘉、です……』

 

 俺の思いはある程度届いたらしく、莉嘉は引きつった笑顔で、消え入りそうな声で自己紹介をした。番組ディレクターが不満タラタラに「カット」と声を張り上げる。

 

「莉嘉ちゃん、もっと元気よく出来るかな?」

 

 莉嘉にしては珍しく、元気がない。――とは言え、理由は何となく分かるのだが。

 

「は、はい」

 

 再びカメラの前で、莉嘉が自己紹介する。

 

『じょ、城ヶ崎莉嘉、でーす……。よ、よろしく』

 

 ……こりゃいかんな。さっきとあまり代わり映えしない。このままじゃ、全カットされちまう。

 

『んもー! 莉嘉ちゃん、緊張しちゃった?』

 

 すかさず諸星さんが助け舟を出した。彼女の意図を察したらしい十時さんもそれに応じる。

 

『初めての授業ですから、緊張しちゃうのは仕方ないですねぇ。緊張しちゃってる人ー?』

 

 十時さんが生徒側に呼びかけながら右手を上げると、生徒側のほとんどが元気よく手を挙げた。手を挙げたアイドルの中には、ゲストのエバンスさんも混じっている。

 

『エバンスさんも緊張しちゃってるんですねー。確か、E.G.G.Sはテレビ出演が初めてとか』

 

 『はっ、はい!』と急にカメラを向けられたエバンスさんは、ガチガチに緊張した様子で答える。

 

『がっ、頑張りまふ!』

 

『噛んじゃってるじゃないハリエット!』

 

 生徒側のアイドルが朗らかに笑う。――しかし、莉嘉の笑顔はやはりぎこちないものだった。

 

――――

 

 休憩に入った後、武内さんは莉嘉を呼び出していた。何故か、俺と一緒に。

 

「……撮影に集中出来ていない様子でしたが」

 

 武内さんがそう話を切り出すと、莉嘉はむすっとした顔を俺達から逸らす。

 

「その、私に話しにくい事でしたら、城戸さんでもよろしいので」

 

 ああ、だから俺もか。確かに、身内になら話せる事もあるかもしれない。むすりとした顔の莉嘉は、俺の顔を窺う。

 

「……進にーちゃん、怒らない?」

 

 何だか懐かしいな、そのやり取り。

 

「分かった分かった。言ってみろ」

 

 原因が有耶無耶のまま放ったらかしてしまうよりは、話を聞いてやった方がいいに決まっている。もじもじとしている莉嘉に耳を貸してやる。

 

「その……これじゃクラスメートの男子に馬鹿にされちゃうと思って……」

 

「……あー」

 

 確かに、年齢的にはそこの心配をしてしまうかもしれない。莉嘉は多感な一四歳、クラスメートも同じ年齢である。少しでも莉嘉が気になる男子達にとってみたら、幼稚園児よろしくスモックを着たクラスメートなど、格好の話題になるだろう。中二の男子なんて、下手すりゃ小学生とおんなじだからな。

 

「城戸さん」

 

 答えをせがむ武内さんを少し待たせて、莉嘉に耳打ちする。

 

「そこら辺はほら、他の女子達にフォローしてもらえばいいじゃないか。仲が悪い訳じゃないんだろ?」

 

 そういう時の女子は強い。ちらほら女友達と遊ぶ事もある莉嘉ならば、孤立無援って事もないと思うんだが。

 

「その……」

 

 莉嘉は覚悟を決めたような顔をすると、再び俺に言った。

 

「その、皆に『お姉ちゃんみたいにセクシーに映る』って言っちゃってて……」

 

「……ええ?」

 

 いやいやいや、どう考えても無理だろそれ! 番組名知ってただろ!? 「とときら学園」の生徒側として出演で、セクシーってどうやりゃいいんだよ! スモックになる前の衣装ですら、どうすりゃいいか分かんねえんだけど!

 

「進にーちゃん、怒った?」

 

 不安げに訊いてくる莉嘉に、俺は首を横に振る。

 

「いいや、呆れた」

 

 こりゃ、どうするべきなのやら。




■番組ジャンル
やはり「学園」とつくので、こんな内容だろうなあと想像しながら。


■教育実習生システム
城戸Pが思いついたシステム。川島さんの生徒姿も需要があるかもしれませんが、この世界では突っ込みどころしかない状態になりますので、急遽付け加えた形になります。


■左Pが目をつけていた子
後々出てきます。


ちょっとしたミスが重なります。
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