The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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続けての投稿です。


第4話 Is she a Monster(2)

 頭が働かない。振り付けに気合いを入れすぎた上、ダフネに釣られて歌ったからだろうか。体の疲労以上に、思考がまとまらない状態だった。

 

「ダフネ、どういう事か分かる?」

 

 ハリエットが「覚えた」と言った途端に、プロデューサーとトレーナーが驚愕したような表情を見せたのだ。ハーマイオニーには、それが何故なのか見当も付かなかった。

 

「ハーミー。あなたは、ワンフレーズの振り付けをすぐに覚える事が出来るかしら?」

 

「覚えられるわ。余程じゃなかったら」

 

 質問を質問で返してきたダフネに、ハーマイオニーは訝しみながらも返答する。

 

「じゃあ、曲の一番目の振り付けを丸々覚える事になったら?」

 

「……ちょっと、確認が必要、かしら」

 

 イントロからサビの終わりまで、おおよそ一分半から二分ほど。とは言え、その間の情報量はとても多い。大まかな流れを掴む事が出来ても、細かいところまで習得するのは至難の業である。

 

 そこで、ハーマイオニーはやっと気付いた。

 

「……エバンスさん、『覚えた』って言ったわよね?」

 

 ハーマイオニーの質問に、ダフネは頷く。

 

「ええ。ただでさえ、動きが速いこの曲の振り付けを」

 

「それって――」

 

 「まるで化け物じゃない」という言葉を、ハーマイオニーはすんでのところで飲み込んだ。

 

――――

 

 いそいそと立ち位置を確認するエバンスさんを見て、トレーナーは困惑したように俺を見る。おそらく、曲を流すべきかどうかの判断を俺に任せているらしい。

 

「エバンスさん、準備出来た?」

 

 俺が訊くと、エバンスさんは視線を足元から俺の方に上げ、こくりと頷く。

 

「はい、大丈夫です」

 

「……眼鏡は? 掛けたままで大丈夫?」

 

 この子には、お辞儀で眼鏡を落とした実績がある。何かの拍子に落とし、踏んづけたりして壊したり怪我をしようものなら目も当てられない。

 

「はい、問題ない……と思います」

 

「……落ちたら音楽を止めるから」

 

 トレーナーの方を見る。特に困惑した様子も見せない。眼鏡をかけたままのアイドルは、世の中にもある程度いる。有名どころで言うならば、765プロの秋月律子だろうか。その為、眼鏡を掛けたままでも「そういったキャラクター」だと認識される……ものらしい。しかし、彼女達は眼鏡をずらす事なく踊り切る。どんな種があるのやら。機会があれば聞いてみたいものだ。

 

「じゃあ、さっきの曲を流すからね」

 

 ――イントロが流れた瞬間、エバンスさんの空気が変わった。

 

 余りの変貌ぶりに、俺以外の面々も息を呑むのが聞こえる。

 

 先程の二人とは違い、歌ってはいない。歌ってはいないのだが、こちらから声を出すことが出来ない。

 

「すっご……」

 

やっとの事で絞り出したような、ハーミーの感嘆が聞こえた。それだけ、エバンスさんの振り付けは完璧だった。

 

 たった一回、通して見ただけなのに。

 

 トレーナーの動きをそっくりそのまま再現しているかと思えば、そういう訳でもないらしい。所々、エバンスさんに合うように調整されている。いつそんな事を考える暇があったのか――もしかして本能的にか!?

 

 二人の時と同じタイミングで、音楽が終わる。長かったような、短かったような、時が止まっていたかのような。

 

「どうでした?」

 

 エバンスさんは、元のエバンスさんに戻っていた。自信がなさそうな、普通の少女に。

 

「えっ、と、トンクスさん?」

 

 返答に困り、トレーナーの方を見る。彼女は満足気に頷いていた。

 

「ダンスの経験があるのね! 文句なしよ!」

 

 ……いや、エバンスさんにダンスの経験があるとは聞いていない。仮にあるのならば俺も聞いているだろうし、現にこうして、本人が困惑する様子も見せない。

 

「すっごいじゃない! エバンスさん、これなら問題ないわ!」

 

「プロデューサーさんも、凄い子見つけたじゃない」

 

 ハーミーとダフネも、各々感嘆している。

 

「――との事だ。やるじゃないか、エバンスさん」

 

 これは、プランの見直しが必要みたいだ。

 

 プランその二、三人でダンスと歌を同時に披露する。理想の形が今、現実になりそうだ。

 

――――

 

 休憩後に三人で振り付けを合わせようと話し合った時に、部屋のドアが勢いよく開かれる。

 

「おはようございまーす!」

 

 同時に、元気が良い挨拶が飛び出てきた。

 

「ちょっと、未央ちゃん、迷惑ですよ」

 

「いいじゃんいいじゃん、向こうも休憩中みたいだからさ」

 

 入ってきたのは見慣れない少女三人組と、武内さんだった。何だか賑やかだな。

 

「……申し訳ありません、城戸さん」

 

 入ってくるなり、武内さんは深々と頭を下げる。

 

「いえ、謝られるほどでは。……どうしました?」

 

 武内さんに向けた俺の疑問に、長い黒髪の少女が答える。

 

「ごめんなさい。私達と同じ、デビュー前の新人がレッスンしていると聞いて、未央が――」

 

「固いこと言うなよ、しぶりん! 新人同士、仲良くなるチャンスじゃん!」

 

 どうやら、未央とは茶髪ショートの少女の事らしい。黒髪の少女を「しぶりん」と呼ぶその少女は、三人を見て笑顔で近付いてくる。

 

「うわー! 可愛いー! 外国人!? えーと、ハロー、ボンジュール、ボンジョルノ……」

 

 全部意味一緒じゃん。それにしても、やけに活発な子だな。武内さんとは正反対な印象である。

 

「……あの、放っておいていいんですか?」

 

 ウェーブが緩やかにかかった髪の子が、おそるおそる俺に尋ねる。

 

「アイドル同士、仲良くするんだろ? 俺達が割って入る理由はないさ」

 

 ですよね、と武内さんの方を向くと、彼は右手を首筋に当てながらもこくりと頷いた。

 

「島村さんと渋谷さんも、いい機会ですのでお話してみてはどうでしょうか」

 

 武内さんが言うや否や、活発な少女が「しまむー! しぶりーん!」と二人を呼ぶ。いいタイミングじゃないか、未央とやら。

 

「……どうだったでしょうか」

 

 島村さんと渋谷さんが俺達の元を離れてすぐ、武内さんは小声で俺に訊いてきた。おそらく、エバンスさんの事について訊いているのだろう。

 

「ダンスに問題はなかったですね。それどころか、天才と言っても過言じゃないです」

 

「天才、ですか」

 

 ――まあ、いきなりそんな事を言われても分からないだろうな。俺は、エバンスさんが通しで見ただけで振り付けを覚えた事を話した。

 

「彼女に、ダンスの経験は?」

 

「ないみたいですね。ズブの素人そのものです」

 

「それが、突然?」

 

「ええ。さっきも話しましたが、『覚えた』とだけ言って」

 

 武内さんは、考えあぐねるようにエバンスさんを遠目に見た。彼女は他の新人アイドル達に混ざって談笑している。

 

「彼女は――」

 

 武内さんは、エバンスさんから視線を逸らさずに、俺に訊いてくる。

 

「彼女は、何者ですか?」

 

「彼女は……」

 

 武内さんに釣られるような形で、俺もエバンスさんの方を眺める。振り付けを通した時に見せた、あの凍り付くような感じは既になりを潜めていた。

 

「彼女は、俺の担当アイドルですよ」

 

――――

 

 その少女は、躊躇する様子も見せずにハリエット達の元に近付いてきた。

 

「うわー! 可愛いー! 外国人!? えーと、ハロー、ボンジュール、ボンジョルノ……」

 

 ハーマイオニーは、その様子に顔をしかめた。

 

「こんにちはでいいわよ」

 

「うわっ、日本語オーケー!? 良かったー、英会話に自信がなかったんだよね」

 

「英語以外の挨拶も混じっていたけどね」

 

 ダフネの指摘に、少女は「たはは」と申し訳なさそうに笑った。

 

「私、本田未央っていうの。よろしく!」

 

「は、ハリエット・エバンスです」

 

 少女――本田未央の自己紹介を受け、ハリエットも釣られて自己紹介をした。

 

「ハーマイオニー・グレンジャーよ。ハーミーでいいわ」

 

「ダフネ・グリーングラス。気軽にダフネって呼んで」

 

 他の二人も、それぞれ本田に自己紹介をした。

 

「うんうん、よろしくね! えっちゃん、はみはみ、フナちゃん!」

 

「えっちゃん……?」

 

「はみはみ……?」

 

「フナ、ちゃん?」

 

 本田から突如飛び出た呼び名に、ハリエット達は首を傾げる。

 

「しまむー! しぶりーん! 三人とも日本語大丈夫みたい! 来て来て!」

 

 三人が困惑しているのを尻目に、本田はプロデューサー達と話していた他の少女達を呼んだ。ウェーブが緩く掛かった髪の少女は小走りで近付いてきたのに対し、長い黒髪の少女は「やれやれ」とでも言うように首を横にゆっくりと振りながら歩み寄ってきた。

 

「島村卯月です! よろしくお願いします!」

 

 ウェーブの掛かった髪の少女は、明らかに年下であろうハリエット達にも丁寧な口調で挨拶した。

 

「渋谷凛。これからよろしく」

 

 黒髪の少女は、落ち着いた雰囲気だ。

 

「しまむー、しぶりん、眼鏡掛けてるのがえっちゃんで、茶髪の子がはみはみ、大人っぽい人がフナちゃん!」

 

 ハリエット達が自己紹介するよりも先に、本田が紹介した。だが、彼女が先程付けたニックネームで紹介したのもあり、今やって来た二人も困惑しているようだった。

 

「未央、ちゃんと名前が知りたいんだけど」

 

「外国の人ですよね? 何だか日本人っぽいあだ名でしたけど……」

 

 ダフネは、「ふふっ」と度々ハリエットに見せてきたような微笑を顔にたたえながら答える。

 

「あたしはフナちゃんでもいいわよ? そんなニックネームを付けられるの、初めてだから」

 

 「ほうほう」と本田は感心したように頷く。

 

「フナちゃん、オトナのオンナって感じ!」

 

 その言葉に真っ先に反応したのは、ダフネ本人ではなくハーマイオニーだった。

 

「そんな事ないわよ! わたしと同じくらいの年齢だし!」

 

 えっ、と声を漏らしたのは誰だろうか。三人の目が、ダフネとハーマイオニーを交互に行き来した。

 

「……妹とお姉さん、って感じだったけど」

 

 渋谷の言葉に、ハーマイオニーは薄い胸を張りながら答える。

 

「わたしが中一で、ダフネが中二。一歳しか違わないんだから」

 

 その様子を見た本田は、にたりと笑う。

 

「ほうほう、そちらのプロデューサーもやり手のようですな」

 

 他の少女達は、自然とスーツ姿の男性二人を見る。一方は大柄で仏頂面の武内。もう一方は、話題に上がってきた若々しい青年の城戸。ふと、向こうもこちらを見る。武内はじっと表情を変えずにハリエット達を見ているが、城戸はこちらが見ていたことに気付くと、にっと頬を緩ませた。

 

「武内プロデューサーみたいな人ばかりかと思ってたけど、あんな人もいるんだね」

 

 渋谷が意外そうに言う。

 

「ん? しぶりんもしかして、ああいうのがタイプ? 確かに、そこそこイケメンだしー?」

 

「そうじゃないって。何だか、近所のお兄さんって感じ」

 

「実際にそんな感じよ? 本当に、近所の仲がいいお兄さんって感じ」

 

「そうかしらダフネ。近所の変な人って感じよ、わたしからしてみたら」

 

「あら? 傍目に見たら、仲のいい兄妹みたいだけど。ね、エバンスさん?」

 

「そうですね、少なくとも仲が悪いようには見えないです」

 

「あ、あはは、全然違いますね。同じプロデューサーなのに」

 

 島村の言う通り、ハリエットから見ても武内と城戸は対照的に見えた。――しかし同時に、似た者同士のような気がしないでもなかった。

 

――――

 

 壁掛けの時計をちらりと見る。……そろそろいい時間か。

 

「武内さん、休憩時間の方は大丈夫ですか?」

 

 武内さんはふと気付いたように、時計をじっと見る。

 

「……そろそろ終わりですね。急に押しかけるような形になり、申し訳ありません」

 

「いえ、武内さんが気にするような事ではありませんよ。彼女達にとっても、良い刺激になったはずです」

 

 E.G.G.Sの三人にとって、アイドル同士の親交を深めるのはプラスの働きになる筈だ。それに、大型のプロジェクトであるシンデレラプロジェクトには、ある程度媚びを売っておいた方がいい気もする。――打算的な考え方かもしれないが。

 

「では、戻ります。城戸さん、ありがとうございました」

 

 武内さんは少女達の集まりに近付くと、こちらからは聞こえないような小声で何かを諭す。その瞬間、思い出したかのようにわたわたとし出したシンデレラプロジェクトの三人は、各々エバンスさん達に手を振って挨拶し、俺の元へと駆け寄ってくる。

 

「ありがとうございました!」

 

「それじゃあね、城戸プロデューサー」

 

「これからよろしくお願いします、シロちゃん!」

 

 急かす武内さんに連れられて、三人は部屋を去っていった。

 

 ……シロちゃんって呼び方はあれじゃねえかなあ。




■後のニュージェネ三人
やっぱりアニメのシナリオに寄せるなら、この三人は外せない気がする。


■ちゃんみおのあだ名
ダフネに関しては、いいあだ名が思いつかなかった。「はみはみ」はちょっと気に入っている。


次回にはまた、ハリポタキャラを出していく予定です。
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