The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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第40話 The distress of Cinderella-gal

 「スモックが子供っぽい」という莉嘉のクレームを何とか押さえつけ、今回の収録は終わった。相変わらずカメラの外ではむすっとした莉嘉だったが、「美嘉だったらそれでもキッチリ仕事はこなすぞ」という俺の言葉を飲み込んだのだろう、ぎこちないながらもダメ出しを食らうような事はなかった。撮影スタッフはオープニングトークで諸星さんが言った、「緊張している」という話を信じたのだろう。――ホント、頭が下がる思いである。

 

「諸星さん、ありがとうございます。アイツが迷惑をかけてしまって」

 

 撮影が終わり、十時さんと世間話をしていた諸星さんに声をかける。にっこりと人懐っこい笑みを浮かべている彼女は、まるで小動物のように首を傾げる。

 

「んゆ?」

 

「……ありゃ、ホントに緊張してると思ってたのか」

 

 十時さんも俺の感謝の意味が分からなかったらしく、首を傾げた。

 

「えっと、何かあったんですかぁ?」

 

「ああ、実は――」

 

 MC二人に、莉嘉が撮影に集中出来ていなかった理由を話す。……言いふらすのもアレかもしれないが、一応二人は気配りの出来る番組MCである。この際、問題点は共有しておくべきだろう。話を聞き終えた二人はそれぞれ、「へぇ〜……」だの「そんな事があったんですねー」だの、深刻そうな表情を見せる。

 

「莉嘉ちゃんにとっては、すっごい問題だにぃ」

 

「何とかしてあげたいですけどねぇ」

 

 まあ結局、本人が腹を決めるしかないのが大きな問題なのだが。

 

「それで、お兄さんはどうするんですかぁ?」

 

 十時さんの質問に「ううん」と首を横に振る。

 

「取り敢えず、美嘉に相談してみるように言っといた。スモックでセクシーに見せるだのなんだのなんて、俺には想像が付かないからな」

 

 その分野に関して言えば、モデルとしてのノウハウも持ち合わせる美嘉に助言して貰う方が良いだろう。

 

「うんうん! 餅は餅屋!」

 

 諸星さんがそんな事を言いながら手を叩いた。

 

「ま、次の収録に間に合うように祈るしか出来ないな」

 

 頼むよ美嘉。「とときら学園」はお前の手にかかってるぞ。

 

――――

 

 勿論、テレビ収録だけがE.G.G.Sの仕事ではない。三人のソロ曲に向けたレッスンも、大きな仕事の一つである。……とは言え、俺は会議や打ち合わせもあるので顔を出せないのだが。最近は三人も夜遅くまでレッスンをする事が多くなり、本当に申し訳ない気持ちで一杯である。三人とも、「今踏ん張らないといけないから」と口を揃えて言ってくれるのには感謝してもしきれない。

 

 さて、一服がてら缶コーヒーを一つ買って地下のプロジェクトルームに戻ると、珍しい人物が一人、部屋の中のソファーに座っていた。前川さんである。重い表情と頭のネコ耳が凄いアンバランスだ。

 

「……あ、城戸チャン、今いい?」

 

 久々に見る彼女の神妙な顔つきに俺は「お、おう」と答えながら、彼女の向かい側のソファーに座る。

 

「……」

 

前川さんは押し黙っており、掛け時計の針が進む音が部屋に響く。

 

「その、ありがとう」

 

「……ん?」

 

 一体なんの事だろうか。感謝される様な事は……ぶっちゃけてしまえば数えるくらいにはあるが、それも他のプロデューサーがいての事だし、こう面と向かって前川さんに言われるような事は思い当たらない。

 

「その、プロジェクト解体を後伸ばしにしてくれた事にゃ」

 

「ああ、それか」

 

 危ない綱渡りだった。しかし、解体がチラついた状態でバラエティなんかやらせても、上手いこといかない事は目に見えていたからな。現時点ではそちらの方の収益も無視できないからこそ、常務はその条件を呑んでくれたようなものだし。

 

「『シンデレラの舞踏会』をするに当たって、アイドルの個性を伸ばしたいからな。『餅は餅屋』って訳でもないけど、やっぱり担当していたプロデューサーが一番担当アイドルの事をよく分かっていると思うし――」

 

「そうなんだけど」

 

 前川さんは俺の発言を止め、真っ直ぐに目を見た。

 

「そうかもしれないけど、――それで救われたアイドルもいるから」

 

「……救われたアイドル?」

 

 うん、と前川さんは頷くと話し出した。ウサミン星出身のとあるアイドルが――正直そのプロフィールでバレバレなのだが――救われた事。意地でも自分のキャラを貫き通そうとしていたその姿に感銘を受けた事。

 

「成程ね、安部さんにそんな事が」

 

 確かに考えるべくもなく、「ウサミン星出身の永遠の一七歳アイドル」なんてもの、常務が気に入るはずもないだろうしな。コッテコテのバラエティ向きのキャラ付けである。

 

「みくも……。みくも、そんな風にネコ耳を外さなきゃいけなかったかもしれないって思ったら」

 

 確かに、頭に動物の耳を模した被り物をしているという点でいえば、共通しているな。……勿論、高い実力を持っているという点でも共通しているけど。

 

「でも、プロジェクトの解体はもう少し見送りになるって話になった。……Pチャンに訊いたら、城戸チャンの頑張りがあったって」

 

 あの人、交渉の直後に珍しく説教してきたけどな。まあ確かに、なんの打ち合わせもなしに勝負に出た俺が悪いんだけど。

 

「だから、菜々チャンを救ったのも、みく達のキャラクターを捨てずに済んだのも、全部城戸チャンのお陰にゃ」

 

「……そっか。それなら良かった」

 

 おそらくそうならなかったとしても、安部さんは自分のキャラを捨てまいと奮闘していたかもしれない。それこそが、「彼女が彼女である所以」であるのだから。何だか、こう表現するしかないようにも思える。

 

「前川さん、安部さんってなかなかロックだよな」

 

 前川さんはさっと睨み付けるような表情に切り替わると、不機嫌そうな声を上げた。

 

「どこがにゃ」

 

 ……え、結構ロックじゃない?

 

――――

 

 昨日のテレビ出演に関するインタビューを最後に、今日の主だった仕事は終わりである。

 

「仕事が増えてきたわね」

 

 ハーマイオニーが感慨深そうに言う。ダフネはくすくすと笑いながら首肯した。

 

「ええ。急に仕事が増えるんだもの、驚いちゃう」

 

 夏フェスを皮切りに、E.G.G.Sも忙しくなった。CMの撮影もしたし、雑誌の取材も着実に増えている。テレビ出演も「とときら学園」を始めとして順次決まりつつあるとの事だった。最近なかなか城戸と話が出来ないのは、ハリエットにとっては寂しい気持ちもあるのだが。とは言え、彼はこの会社のアイドルを全員救うために奮闘しているのだ。……自らの実力も伸ばさないといけない。

 

「二人はどうするの? ぼくは、ちょっと自主レッスンをしようかなって思ってるんだけど」

 

 ハリエットの提案に、ハーマイオニーとダフネは頷く。

 

「ええ、あたしもするわ」

 

「わたしも。振り付けで、どうしても確認したい事があるの」

 

「うん、手伝うよ、ハーミー」

 

「お願いするわ。ボーカルレッスンなら、わたしも力になれると思う」

 

 とは言え、レッスンルームは軒並み他のアイドルが使っている状況だ。最近見慣れないプロジェクト名も増えた事もあり、彼女にとっては少しだけ気が引けた。

 

「その前に、少しだけ休憩しない?」

 

 ダフネがそう言いながら、中庭の方を向く。ストーカー騒動で訪れはしたものの、結局はそれっきりだった。……あくまで次に行なうのは自主レッスンなので、羽休めをしたとしても誰かに咎められる事はないだろう。

 

「そうだね。少しだけ休憩しよう」

 

 噴水が中央に位置するような、凝った造りの中庭に躍り出る。――先客に気付かなかったのは、噴水の陰になっていたからだろうか。

 

「……あれ、莉嘉じゃない?」

 

 ハーマイオニーが先客に気付き、声を出す。金髪のツーサイドアップが目立つその少女は、城戸の従妹である莉嘉だった。元気ハツラツといった何時もの様子はなりを潜め、落ち込んでいるようだ。

 

「莉嘉ちゃん! どうしたの?」

 

 痛々しいその表情を、ハリエットは無視出来なかった。二人も同じだったらしく、神妙な面持ちで彼女の元に歩み寄った。

 

「あ……みんな」

 

 莉嘉は三人に気付くと、今にも泣きそうに顔を歪めた。

 

「ちょっ、ちょっと! どうしたのよ!」

 

「ハーミー、何かしたのかしら?」

 

「そんな訳ないじゃない!」

 

「莉嘉ちゃん! 落ち着いて! 悩みがあるなら聞くから!」

 

 ぐずぐずと泣く莉嘉をハリエットは宥める。嗚咽混じりでありながらも、莉嘉は徐々に落ち着いたようだ。

 

「それで、どうしたのかしら。あなたが泣くって事は、ただ事じゃないと思うのだけど」

 

 ハーマイオニーが訊くと、莉嘉は「うん」と力なく頷いた。

 

「おねーちゃんと……喧嘩しちゃって……」

 

「……え?」

 

 余りにも素っ頓狂な声が、ハリエットとハーマイオニーの口から漏れ出た。

 

「どうしよう、嫌われちゃった……!」

 

 そこまで言うと、彼女は再びポロポロと涙を零し始める。

 

「ああっ、ちょっと、落ち着いて莉嘉ちゃん!」

 

「泣かないの! ダフネも手伝いなさいよ!」

 

 パニックになっている二人を尻目に、ダフネは何かを考え込む。

 

「リカ、取り敢えず話を聞かせてもらえるかしら?」

 

 それはまるで、赤ん坊をあやす母親のような優しい声だった。

 

――――

 

 泣き止んだ莉嘉の両脇にハリエットとハーマイオニーが座り、ダフネは彼女の前で腰を下ろして視線を合わせる。

 

「それで、何があったの? 喧嘩したって話だけど」

 

 視線を落とした莉嘉は、「うん」と小さく返事をする。

 

「その、昨日、『スモックでセクシーに見せる方法』をおねーちゃんに訊いたら、『そんなの自分で考えなさい』って言われて。『どうしたらいいか分からない』って言ったら、『アタシもどうしたらいいか分からない』っておねえちゃんが怒って」

 

「スモック?」

 

 ハリエットが訊くと、ハーマイオニーが「ああ!」と思い当たったように声を出す。

 

「昨日の収録の事ね! とときら学園!」

 

「確かに、リカはあんまり乗り気じゃなかったものね」

 

 ダフネの言葉に、莉嘉は「うん」と答えた。きらりのフォローもありハリエットには「緊張している」だけに見えたのだが、どうやらそういう訳でもなかったらしい。

 

「おねーちゃん……美嘉さんに訊いたのはどうして?」

 

 ハーマイオニーが訊く。

 

「進にーちゃんが、スタジオでの見せ方はおねえちゃんに聞いた方がいいって」

 

「プロデューサーが……」

 

 確かに、見せ方のノウハウで言うのならば、モデルとしての経験がある美嘉に聞くのは理にかなっている。莉嘉が目指している方向性は、正に自身の姉と同じなのだから。

 

「そこで、言い合いになっちゃったんだね」

 

 ハリエットの言葉に、莉嘉は頷いた。

 

「意外ね。城ヶ崎姉妹は凄い仲良しだから、喧嘩しないものだと思ってたのに」

 

 ハーマイオニーがそう呟くと、ダフネが「いいえ」と釘を刺した。

 

「そうでもないわよ? 喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない? むしろ、あたしはアストリアと仲良くできているのか、すごく不安になっちゃう時があるもの」

 

「そうなの? 結構仲良く見えたけど」

 

「そんなことないわエバンスさん。……知らず知らずのうちに距離を作っちゃってるから」

 

 ダフネはそう言うと、遠くを見るような目で莉嘉を見つめた。

 

「だからね、リカ。ちょっと羨ましいわ。そんな風に気兼ねなく言い合いが出来るお姉さんがいるのは」

 

「……そう、なのかな」

 

 未だに自信のなさそうな莉嘉の声が、噴水の音に掻き消えた。




■みくと菜々のくだり
今回端折ってしまう形になってしまいました。
また別の機会に安部奈々メイン回を作りたいと考えています。
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