The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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日常回です。


第42話 The Cinderella's clock is moving quietly

 ぼんやりとした多田さんが、俺に訊いてくる。

 

「ロックって、何なんだろうね……」

 

 知るかよ。そもそも君、プレゼン騒動の時に言ってたじゃないか。ロックだと思えばロックだって。

 

「なあ、何か知らないか皆」

 

 たまらず、プロジェクトルームにいた他の子に訊く。

 

「……何かあったんでしょうかね?」

 

 たまたま居合わせた島村さんが、苦笑いしながら俺に訊いてくる。

 

「最近、調子が良くないような気もしますね。いつも『解散だー』って言っているぐらいには元気があるのに」

 

 新田さんが首を傾げながら言う。隣に座っていたアナスタシアさんも「ダー」と頷いた。――いやいやいやいや、まだそんな事言ってたのかアスタリスクの二人。てっきり上手くやってるものだと思ってたんだがな。

 

「大丈夫なのかそれは……? ホントに解散しないよな?」

 

「し、しないですよ!」

 

 跳ね上がるように立ち上がって反応したのは、多田さんではなく島村さんだった。ふと我に返った島村さんは、顔を赤らめてすごすごと座り直す。――どうかしたのだろうか。まあ同じプロジェクトの仲間が解散の危機、なんて考えたくもないのは分かるが。

 

「そもそも多田さん、今更どうしてそんな事を考えているんだよ」

 

 武内さんから以前聞いた所によると、「アスタリスク」はお互いの個性を認め合うという方向性で折り合いがついたはずである。――まあ、解散するだのしないだのという言い合いがあったとしたら、そういうじゃれ合いであるとひとまず考えておいて。プレゼンの時に多田さんが言った「自分がロックだと思えばロック」という信念を貫いているのならば、今こうしてボンヤリしていないと思うんだけどな。ここはやはり、本人に訊いてみるしかない。

 

「城戸プロデューサーに言っても分からないと思うけどなー……。木村夏樹って知ってる?」

 

 多田さんの口から、突然346のバンド系アイドルの名前が飛び出してきた。

 

「……逆に訊くけど、どうして知らないって思ったんだ?」

 

 むしろ島村さんとアナスタシアさんの二人は知らないようで、新田さんから説明を受けている。

 

「知ってるならいいや。……やっぱりさ、ああいうのがロックって事なのかなー……」

 

 うーん、まあサバサバしていて女性ファンが多い、「カッコイイ」系のアイドルである事には違いないのだが。

 

「リーナは、お話しした事、あるんですか?」

 

 アナスタシアさんが訊くと、多田さんは「うん!」と目を輝かせながら答えた。

 

「すっごいカッコいい人でさ、なんて言えばいいんだろ、自分の音楽に自信を持っている人で! やっぱり、ああ言うのをロックって言うんだろうなー!」

 

 ……突然まくし立て始めたが、まあボンヤリされているよりかは何倍もマシだろう。

 

「悪い、話を聞いてやりたいんだが、俺は『舞踏会』の打ち合わせもあるからこれで。戸締りはしっかりしてね」

 

 ノートPCと資料をカバンの中に突っ込んで、部屋の中のアイドルに言う。

 

「はい。お仕事、頑張ってください」

 

 新田さんがこくりと頷き、見送ってくれた。うんうん、いいお嫁さんになれそうだな。暫くはアイドルとして頑張って欲しいけど。

 

「あ――っ、……頑張ってください。私も頑張ります」

 

 一方、島村さんからは歯切れの悪い返事が返ってきた。何かあったのかな――やべ、考えてる暇がねえな。早く行かないと。

 

――――

 

 舞踏会で必要になる機材についての打ち合わせが終わり、急いでプロジェクトルームに向かう。新たに資料を作成しないといけないので、トンボ帰りに近い形になってしまった。

 

「あ、貴方は」

 

 廊下でふと、声をかけられる。

 

「……ああ。鷺沢さん、だったよね」

 

 呼びかけてきたのは、つい先日ハーミーと世話になった古本屋のお手伝いである、鷺沢文香さんだ。

 

「あの時は驚きました。先生ではなく、プロデューサーさんだったんですね」

 

 まあ、最後の最後に名刺を渡してそのまま店を出たからな。

 

「ドッキリみたいな形になっちゃったね。でもまあ、こうして346プロの中で会えて良かったよ」

 

 ……あまり望ましい形ではなかったけど。

 

「はい。城戸プロデューサーさんには、お礼をしないといけないですね」

 

「お礼?」

 

「私を、こうして346プロへと連れて来た事にです」

 

 ――そっか。

 

「楽しんでるんだね」

 

 俺が訊くと、鷺沢さんはゆっくりと、それでも力強く頷いた。

 

「はい。お陰様で」

 

 だったら何よりだ。きっと、他のアイドルに助けられての事だろう。

 

「じゃあプロデューサーとしてのアドバイスを少ししよっかな。――焦っちゃダメだ。鷺沢さんのペースでいいから、確実に前に進むこと。ああ勿論、仲間を大切にね。同じ事務所なんだから、皆仲間だよ」

 

 俺の言葉を聞いて、鷺沢さんは控えめに「ふふっ」と笑う。何か俺、変な事言っただろうか。

 

「本当に、学校の先生みたいですね」

 

「……そうかなあ」

 

 まあ、E.G.G.Sの年齢層から考えちゃえば、そうなるのも無理はないか。

 

「今からレッスン?」

 

「はい、そうです」

 

「そっか。それじゃ、俺はこれで。頑張ってね」

 

「はい」

 

 そのまま彼女と別れ、エントランスに出る。――少し前に撤去された展示物は代えられ、新しい映像がモニタに映し出されている。そこには、何人かの実力派アイドルと見慣れない顔に加えて、鷺沢さんの映像もあった。

 

「『プロジェクト・クローネ』ねえ」

 

 重すぎて首が回らない王冠じゃなければいいんだが。

 

――――

 

 エントランスで、見知った人物がため息をついていた。凛は思わず、彼に声をかけた。

 

「どうかしたの?」

 

 城戸はこちらの方を向くと「いいや」と振り払うように首を振り、彼女に向かって微笑む。

 

「何でもないさ。ただ――ただ、常務も仰々しい名前を付けるもんだなって」

 

 彼は再び、モニタを眺める。プロジェクト・クローネ。確か、クローネは「王冠」という意味である事を美波から聞いた。

 

「城戸さんは、どう思う?」

 

 何となく放ってしまった質問は、かなり曖昧なものになってしまった。城戸は凛から視線を外して考え込むと、呆れるように肩を竦めた。

 

「正直、失敗はして欲しくないな」

 

 それは意外な回答だった。常務と対抗している彼の口から、そのような言葉が出るなど思ってもいなかった。

 

「それはどうして?」

 

「どうしても何も、プロジェクトと銘打ったからには金や人、モノ、あらゆるリソースが使われる事になる。一社員としては、それを無駄にして欲しくないし」

 

 城戸はまた、凛の方に向き直った。

 

「特に常務なら、失敗すれば容赦なく切り捨てるかもしれない。俺達が良くても、あのプロジェクトのアイドル達にとってみればたまったもんじゃないだろ」

 

 凛の脳裏に、デビューが延期して沈んでしまったデュアルプリズムの二人が浮かび上がる。――そうだ、アイドル達は何も悪くない。頭からその事が抜け落ちる所だった。

 

「何だかんだで色々考えてるんだね」

 

 城戸は目を見開くと、「たはは」とばつが悪そうに笑った。

 

「まあ、そりゃな。……俺は346のアイドルを全員救いたいと思ってる。常務お抱えのアイドルだからナシ、って言うのは話が違うだろ?」

 

 「それに」と城戸は言葉を続ける。

 

「ちょっとした知り合いもいるからな。知り合いの成功を願うのは、おかしくないだろ?」

 

 彼は悪戯っぽく笑う。ちらりと見えた八重歯は、彼の従妹である莉嘉や美嘉を思い出させた。

 

「そっか」

 

 無理やりにでも笑顔を返そうと思ったがそれも出来ず、凛は顔を俯かせてしまった。

 

「……どうかしたのか?」

 

 城戸が凛を案じて声をかける。

 

「――うん。実は、デュアルプリズムの二人と、少しだけボーカルレッスンをして」

 

「へえ、あの二人と。どうだった?」

 

 素直に答えるべきか迷ってしまった。

 

「その……何だろう、ニュージェネレーションズにはない、『違う可能性』みたいなものを感じた」

 

 我ながら、キザな言い回しだと思ってしまった。しかし、凛自身の実感として正しく表現するならば、その言い方が一番しっくり来たことも間違っていない。

 

「――違う可能性、か」

 

 城戸はどう受け止めたのだろうか。天井を見上げて逡巡する様からは、表情を読み取る事が出来なかった。

 

「ま、いいんじゃないの? からっきしダメってなっちゃうよりかは」

 

 へらへらと笑う城戸は、未だに暗い表情の凛を眺め、再び真顔で考え込む。しばしの沈黙の後に彼は口を開くが、先程のような笑顔ではなく、真剣な顔をしていた。

 

「……そう思う事は、何も裏切った事になんねえよ。たまたま一緒にレッスンした二人とイイ感じになった、それだけだろ」

 

「……私、そんなつもりじゃ」

 

「うぇ? ……そっか、俺の考え過ぎか」

 

 「いやあ、悪い悪い」と照れ臭そうに笑いながら頭を掻く城戸の姿は、既に何時もの調子に戻っている。

 

「ま、何かあったら言ってくれよ。俺はシンデレラプロジェクトの皆も応援してるからさ」

 

「あれ? E.G.G.Sや他のアイドルはいいんだ?」

 

「意地悪言わないでくれよ。E.G.G.Sは無論、他のアイドルも応援してるっての」

 

 軽口を叩いた凛に肩を竦めた城戸は、彼女に向かって微笑む。

 

「346のプロデューサーとしてだけじゃなく、城戸進ノ介個人としてもな」

 

「――うん。ありがと」

 

 幾ばくか、心が軽くなったような気がした。

 

――――

 

 プロジェクトルームでは、エバンスさん達が今日行なったロケについて色々とあらましを語っていた。

 

「それで、かな子さんが倒れちゃって」

 

「ちょっと、大丈夫だったのそれ!?」

 

 エバンスさんの話に、ハーミーが横槍を入れる。とときら学園用のVTRを撮影していたのは、エバンスさんとダフネ、緒方さんと三村さん、カワイイヤキュウの三人だったはずだ。

 

「一旦休憩したから大丈夫よ。かな子さん、おやつだけじゃなくてご飯も抜いていたみたいで」

 

 おいおい、急に過激なダイエットをしたらそりゃ体が持たないだろ。

 

「アイドルなんだから、ご飯はしっかり食べないといけないのに。おやつは……まあ、控えた方がいいかもしれないわね」

 

 ……あの子にそれが出来るんなら苦労もないんだが。

 

「しかし、上機嫌だなエバンスさん」

 

 ロケは武内さんに任せっきりにしてしまったので、エバンスさんがやけにご機嫌な理由もよく分からない。

 

「ああ、はい。やっとお話出来たので!」

 

「お話? 誰と?」

 

 ダフネが「うふふ」と面白がるように笑う。

 

「輿水さんと」

 

「ああ」

 

 そう言えば、やけに入れ込んでいたな。

 

「はい! とっても可愛かったです! ぼくが『ファンです!』って言ったら、『フフーン、ボクはカワイイから当然です! ……え、ドッキリじゃないんですか?』ってビックリしていて!」

 

 どうしてアイドルなのに芸人魂が炸裂してんだよ。

 

「面白かったわよ? わざわざ、『えっ、ドッキリじゃないんですか? 逆にドッキリしましたよ!』って言ってたもの」

 

「純粋なファンでドッキリするアイドルって何なんだよ……」

 

「他にも、『一人称が丸かぶりじゃないですかー!』ってぼくに絡んだりしてきて! すっごく幸せでした!」

 

「……ねえプロデューサー、ツッコむべきかしら」

 

「……幸せそうだし、いいんじゃないか」

 

 少なくとも、俺には満面の笑みで話をしているエバンスさんに水を差す勇気がない。

 

「そういえば、多田さんは?」

 

「あらあら。あの人にも手を出すつもり?」

 

 ダフネが悪戯っぽく笑いながら訊いてくる。

 

「ちげえよ。ボンヤリしてたから、心配になっただけだっての」

 

 てか、「にも」って何だよ「にも」って。俺がいつアイドル達に色目を使ったってんだ。

 

「……? 何だか、『行きたい場所がある』って言って、そのまま部屋を出ていきましたけど」

 

 エバンスさんが質問に答えてくれた。

 

「そうか」

 

 彼女の疑問に、彼女なりに何か糸口を掴んだのだろう。ならば、俺は出る幕がないかな。机の上でノートPCを開き、資料の確認を始める。

 

「ちょっと、何なのよ! 一人だけ分かったような顔して!」

 

「いや、別にいいだろハーミー。……あっ、こら、勝手に資料を読もうとするな!」

 

 その日の夜は、まるで常務が来る前のように平穏だった。




■だりなつのくだり
省略した本編です。なつきちは折を見て出したい……。


■しぶりんの違う可能性のお話
この時点では他人事です。


■VTR撮影
省略した本編その2。幸子とエバンスさんの絡みはまたのちの機会に。


一気に省略して無理やり一つにまとめた日常回でした。次回からはメインのストーリーですね。E.G.G.Sと城戸Pがどうストーリーに絡むのか、作者も分かってないです。
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