The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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アニメ二期のメインイベントが起きます。


第43話 Do the Cinderellas put on Krone

 俺と武内さんは、常務から呼び出しを受けた。プロデューサーだけではなく、武内さんは渋谷さんとアナスタシアさん、俺はダフネを連れて来るように言われて。

 

「何かしらね」

 

 道すがら、ダフネが訊いてくる。

 

「さあ。何だろうな」

 

 少なくとも、俺達のクビではない事は明らかだった。仮にそうだとしたら、担当アイドルの一部だけを連れて来る理由が分からない。そのような話題の場合、プロデューサーだけを呼び出すはずである。

 

「城戸さん。この前のような事はなしでお願いします」

 

 武内さんが静かに釘を刺してきた。……まあ、ひやひやさせてしまった事は申し訳ない。

 

「――分かりました。これからは大人しめに話を聞きますよ」

 

 勿論、時と場合によるのだが。

 

 常務は執務室で、以前交渉した時と同じように革の椅子に座ってじっとこちらを見ていた。

 

「来たか。余計な挨拶はなしだ、単刀直入に言おう――」

 

 常務の視線はゆっくりと、アナスタシアさん、渋谷さん、ダフネと移る。

 

「シンデレラプロジェクトから渋谷凛とアナスタシア、E.G.G.Sからダフネ・グリーングラスを、私が管轄する『プロジェクト・クローネ』で見る」

 

 ……は?

 

「ま、待ってください!」

 

 悲痛な叫びが、武内さんから放たれる。俺は未だに思考が追いつかない。――どうやらそれは、呼ばれたアイドル達も同じようだ。

 

「彼女達は、私達が担当しているアイドルです! それに、以前話をしたではないですか! おいそれと今のプロジェクトを解体させて別のプロジェクトに移籍させるのは、話が違います!」

 

 ほう、と常務が不敵な笑みを漏らす。

 

「ならば、解体はしなくていい。今のプロジェクトと『クローネ』、並行して行なえばいいのではないか?」

 

 ――くそ! 最初からそれが目的か!

 

「ですが、三人ともデビューして間もないアイドルです。一年も経っていないんですよ。いきなり、二足の草鞋を履かせてしまうのは負担になるのでは」

 

 慌てて俺も、武内さんの援護射撃を行なう。しかしそれでも、常務は眉一つ動かさない。

 

「それをサポートするのが君達プロデューサーの役目だろう?」

 

 くっ、正論をぶつけられてしまった。

 

「……っ、ですが」

 

 武内さんが反論しようとするが、常務はそれを意にも介さず話し続ける。

 

「私はこの三人に、新たな可能性を感じたまでだ。シンデレラプロジェクトやE.G.G.Sでは掴めない、新たな可能性を」

 

 「可能性」という言葉に、渋谷さんがびくりと肩を動かす。それを知ってか知らずか、常務は再び不敵な笑みを見せる。

 

「ですが、認められません!」

 

 武内さんがキッパリと言い放つと、常務はすっと真顔に戻って俺達――武内さんと俺を見る。

 

「確か君達は、アイドルの自主性を、個性を重んじると言っていたな?」

 

 ――まさか。

 

「ならば、アイドル達の意見も聞かずに、プロデューサーが全て決めるというのもおかしい話だと思うが?」

 

「――そ、それは、そう、ですが」

 

 唯一の突破口が、完全に裏目に出てしまった。

 

「――どうだ。やってみる気はないか」

 

「常務、余りにも急では」

 

「私は、三人に訊いている。君には訊いていない、武内君」

 

 常務の凍てつくような冷たい声を受け、遂に武内さんは黙りこくってしまった。

 

「……分かりません」

 

 真っ先に口を開いたのは、渋谷さんだった。俺も含めた皆の視線が、一斉に渋谷さんに注がれる。

 

「分からない、とは」

 

 常務が眉をひそめ、静かに渋谷さんに訊く。

 

「……何か、今の時点で決定している事はありませんか? 仮にクローネに参加するとして、どのような形で活動するのか、だったり」

 

 ダフネが常務に質問した。……確かに、常務が考えもなしに引き込むとは到底思えない。ある程度の方針が出来上がったからこそ、こうして呼び付けたのだ。

 

「ふむ。ならば言っておこう。グリーングラス君とアナスタシア君、両名はソロでの活動となる。対して、渋谷君には」

 

 常務はモニタの画面をこちらに向ける。渋谷さんの写真の両脇に、神谷さんと北条さん――デュアルプリズムの二人の写真が並んでいた。

 

「先日所属したデュアルプリズム――神谷君と北条君の二人とユニットを組んでもらう」

 

「……二人と?」

 

 渋谷さんから、動揺したような声が漏れた。

 

「どうした? 不満か?」

 

「い、いえ……その」

 

 返答に窮した渋谷さんを、武内さんは不安げな仏頂面で眺める。――常務がいつ、このようなユニットを思いついたのかは分からない。もしかしたら、三人で行なっていたボーカルレッスンを見ていたのだろうか。渋谷さんと――もしかしたらデュアルプリズムの二人も含めて――同じように、「違う可能性」を見出したのだろうか。

 

「その……二人は、デュアルプリズムの二人は、どんな反応でしたか?」

 

 絞り出すような渋谷さんの質問に、常務ははきはきと答える。

 

「二人とも喜んでいた。『最高の形でデビュー出来る』とな」

 

 デュアルプリズムの二人には、常務の誘いに断る理由がない。デビューの延期の原因が常務の方針だったとしても、かねてから組みたいと思っていた人物と組んでデビュー出来るのだ。あからさまなマッチポンプには違いないのだが、その提案は魅力的に見えるだろう。

 

 なんせ、プロジェクト・クローネには「常務のお墨付き」という大義名分がある。売上があからさまに悪くなければ、再び憂き目に合わなくて済むのだ。それだけでも、デュアルプリズムの二人にとってみればまたとないチャンスである。

 

 ――完全にしてやられた。論点を封じ込まれたのみならず、外堀まで埋められている。

 

「君も感じたはずだ。ニュージェネレーションズでは得られない、新たな可能性を」

 

「ですが、二つのプロジェクトを兼任させるのは」

 

「今は渋谷君と話している、武内プロデューサー」

 

 若干勢いのある言葉に押され、武内さんは再び口をつぐんでしまった。その目は、顔を俯かせた渋谷さんと常務の間を行ったり来たりしている。

 

「少し……少し、考えさせて下さい」

 

 渋谷さんはまるで譲歩したかのような回答を返した。

 

「……ふむ。そうか。他の二人は」

 

 常務の目がダフネとアナスタシアさんの方を向く。

 

「あたしも、少しだけ考える時間が欲しい、です」

 

「……ダー。お願い出来ますか?」

 

 ……二人も、曖昧な回答を寄越すのみだった。

 

「いいだろう。今週末までに結論を出してくれ。だが、その間はクローネのレッスンにも顔を出す事。……君達も、それでいいな?」

 

 常務の凍てつくような視線が、俺と武内さんの方を向く。

 

「私は……」

 

 武内さんが最後まで抵抗の意志を見せる。――いや、もう打つ手がない。彼の反論に覆い被さるかのように、俺は常務に返答した。

 

「承知しました。今週末までに結論が出るよう、三人に促します。――勿論、彼女達の意志を考慮して」

 

 ……武内さんの絶望したような顔を、なるべく見ないように努力して。

 

――――

 

 目の前の今西部長が、「ふうむ」と大きくため息をつく。

 

「結局、三人に委ねた形になったんだね」

 

 隣に座っている武内さんは「はい」と力なく返事をすると、再び下を向いてしまった。

 

「あの場では――それ以上に言いようがありませんでした」

 

 俺がそのように零すと、話を聞いていた千川さんが口を開き、何も言わずに閉じた。

 

「――複雑だね。彼女達は、君達が見つけたシンデレラなのに」

 

「全くです。こう、掠め取られたような気分ですよ」

 

 武内さんは顔を上げ、憔悴しきったような表情を俺に向ける。

 

「申し訳ございません。先程は、私の方が取り乱してしまいました」

 

「いえ、取り乱してしまうのは仕方ない事です。自分も、思考が追いつかないうちに後手に回ってしまいましたから」

 

 部長は顎に手を当てて何かを考え込むと、再び俺達に向かって口を開く。

 

「それで? 仮に彼女達が話に乗った場合、どうするつもりだい?」

 

 部長の目は、俺の方を向いている。……どうやら、俺から先に聞くらしい。

 

「それが彼女達の決断ならば、止める道理はないと思っています。彼女達にとっても、悪くはない話ですから」

 

「武内くんはどうだい?」

 

「……私も、そのように考えています。仮に参加する場合、こちらとしてもフォローは欠かさないつもりです」

 

 「そうか」と部長は相槌を打つと、ソファの背もたれに体を預ける。

 

「ならば、見守ってやろうじゃないか。灰被りが女帝から貰った冠を被るのか、跳ね除けるのか」

 

 ――今西部長、常務のポエムが移っちゃってますよ。

 

――――

 

 メールで届いた資料をモニタ越しに眺め、武内はため息をついた。深夜のプロジェクトルームには人の気配がなく、掛け時計の針の音が静かに響くのみだ。彼の元に届いた資料は、シンデレラプロジェクトのものでも、「舞踏会」のものでもない。「プロジェクト・クローネ」――常務の計画の一端についての資料だった。

 

 資料には、今日付で更新された箇所がある。無論、呼び出しで出てきた三人の処遇についてである。アナスタシアとグリーングラスの箇所には、「ソロで活動(検討段階)」と記されている。普段とは違う、おそらく常務が呼び込んだであろう作曲家と作詞家の名前が記載されていた。その筋では有名な、権威ある人物が行なうようである。一方、渋谷の箇所には「神谷奈緒・北条加蓮両名とユニット(仮名:トライアドプリムス)」と記されていた。

 

 ――どうやら、彼女に関して言えばほぼほぼ決定事項のようである。先の二人に付け加えられていた、検討段階の文言が見当たらない。

 

「新たな、可能性……」

 

 武内は常務が言っていた言葉を反芻する。――その新たな可能性を見出すのは、自分だと思っていた。傍にいる自分ならば、彼女達の新たな可能性を――まだ見ぬ才能を、秘められた能力を引き出せると考えていた。いや、「高を括っていた」。今西部長の前で城戸が言っていたように、掠め取られたような喪失感が武内の胸中に渦巻いていた。

 

 突如、社用携帯が鳴り響く。相手は、城戸のようである。

 

『武内さん。大丈夫ですか』

 

 電話越しに聞こえる城戸の声は、何時もと何一つ変わらないように聞こえた。

 

「……はい。問題ありません。ご心配をお掛けして、申し訳ありません」

 

 『いえ』と城戸は返す。

 

『まだ会社にいるんですよね? 明日も仕事があるんですから、程々にしないと』

 

「……はい、すみません」

 

『いえいえ、謝らないでくださいよ』

 

 電話の向こうで、城戸は大きくため息をついた。

 

『実は、渋谷さんから話は聞いていたんです。デュアルプリズム――いや、まあ、あの二人とレッスンをして、悪くないと思ったと』

 

 武内にとっては、初耳だった。

 

「――そう、だったんですね」

 

 その話が聞けなかったのは、武内自身のミスでも、城戸のミスでもない。たまたま、時間が合わなかっただけである。

 

『もしかしたら、常務もたまたまその場に居合わせたのではないかと考えられます。――あの人も、違う可能性を見出した』

 

「……それが、トライアドプリムスに検討段階がない理由、という事ですか?」

 

『……確証は持てませんが』

 

 再びモニタに映し出した資料を読む。……常務が何を見て、何を聞き、何を考えたのかは分からない。ただ、トライアドプリムスについて書き出された箇所からは、既に「決まっているもの」とでもいうような空気が伝わってきていた。

 

「……城戸さんは、どう考えていますか」

 

 やや投げやり気味な武内の質問に、彼は『うーむ』と電話越しに悩む。

 

『……正直、期待はしているんですよ』

 

「期待……ですか?」

 

 城戸が放った言葉に、武内は若干耳を疑った。

 

『はい。上手くは言えないんですけど――仮にクローネに参加したとしても、彼女達ならば今までの活動を、シンデレラプロジェクトやE.G.G.Sを大切にしてくれると思いますし』

 

 電話越しに、城戸がにやりと八重歯を覗かせたような気がした。

 

『――常務が見つけた可能性を、俺も見てみたいですから』

 

「……常務が見つけた可能性、ですか」

 

 それが誇りあるものなのか、埃を被ってしまうものなのか、武内には見当が付かなかった。




■ダフネの追加
E.G.G.Sの三人の中だと一番適任かと思い、追加する事にしました。


■あからさまなマッチポンプ
二人には「しぶりんと組める」というメリットもありますが、部署的にはこのような理由もあっただろうなと思いながら付け足しました。


■強い常務
彼女が絡むシーンでは、極力シリアスになるよう努めて参ります。


■検討段階がない
ユニット名からして「何か本気なんだな」みたいな雰囲気を感じ取ったので。


ここからはシリアスな流れになると思います(希望的観測)。
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