The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
クローネはプロジェクトで一纏めになって基礎レッスンを行なっているらしい。塩見周子や宮本フレデリカといった前々からアイドルとして活動している子達や、鷺沢さんやデュアルプリズムの二人のような経験の浅い子達も。一緒になってレッスンを行なっているのはおそらく、パフォーマンスの水準を合わせていく為だろう。――現役組は兎も角、新人組も同じメニューをこなすのは流石に無理があると思うのだが。
「まさか、城戸さんがついて来るなんて思っていなかったよ」
渋谷さんが意外そうな顔で言ってきた。
「まあ、色々と考えたけどな。向こうに知り合いもいるし、顔ぐらいは出してもいいかなと思ってな」
ちなみに、常務には話を通している。「方針での確執や『舞踏会』とは関係なしに、クローネのレベルを知りたい」と申し出たところ、あっさりと許可を貰った。おそらく、武内派の俺を通じてクローネの方針を知らしめる為だろう。
「武内プロデューサーがいないのは心細いけど、プロデューサーさんがいるだけマシかしらね」
「おいおいダフネ、まるで俺が頼りないって言ってるみたいだな」
突然イジメられるなんて事は絶対にないだろう。何せ向こうには、デュアルプリズムと鷺沢さんがいるんだから。
クローネは、ダンスレッスンの最中だった。……うーん、やっぱりレベルがまちまちだな。現役組は問題なくこなしているが、新人組、特に鷺沢さんや隣の女の子は息も絶え絶えになっている。
「……あ、凛!」
北条さんがこちらに気付き、レッスンの最中であるにも関わらずこちらに駆け寄ってきた。後に続いて、神谷さん達もこちらの方に向かってくる。
「来てくれたんだ」
「……ううん、まだ悩んでる。常務に、レッスンには顔を出せって言われたから」
渋谷さんは煮え切らない返事を返しながらも、二人に向かって微笑む。
「話を受けたのが昨日なの、カレンさん」
ダフネも渋谷さんに続けて言った。気まずい三人の雰囲気とは裏腹に、北条さんと神谷さんは「仕方がない」とでも言いたそうな顔で苦笑した。
「でも、来て貰えたら心強いと思う。――でしょ? 城戸プロデューサー」
北条さんに話を振られた俺は、少しだけ頷く。
「まあ、そうかもな。ダンスレッスンを少しだけ見た感じだと、実力が二極化している。――そういうのだと悪目立ちしちゃうからな」
早い話、「上手い奴らに下手な奴らが混じってる」ような状態だ。少なくとも、新人組のレベルを今回の三人ぐらいにまで伸ばしたいのだろう。
「……っと、一応自己紹介しておこうか。城戸進ノ介、E.G.G.Sのプロデューサーをしている。よろしく」
警戒するような会釈を皆がする中、デュアルプリズムと鷺沢さんはにこにこと朗らかな笑顔を向けていた。
「敵情視察?」
「えっ!? そうなのか城戸さん!?」
「馬鹿言わないでくれよ北条さん神谷さん、俺にそんなつもりはないって」
「敵情視察」という言葉が出た途端、鷺沢さんの隣の女の子がますます俺を睨み付けてこしょこしょと何かを鷺沢さんに耳打ちした。彼女は慌てて、何かを女の子に耳打ちしている。……敵対するつもりはないんだけどな。
「ダフネ・グリーングラスよ。ダフネでいいわ。さっきリンさんが言ったみたいに、あたし達は今回レッスンに顔を出しただけなの。もしかしたら参加するかもしれないから、その時はよろしくね」
「アナスタシア、です」
ダフネとアナスタシアさんも挨拶を終えた。次は渋谷さんの番――と言ったところで、北条さんが口を開く。
「そして、この子が渋谷凛。私と奈緒でユニットを組む子よ」
神谷さんが慌てた様子で付け加える。
「あくまで、予定だからな! 加蓮、気が早いって!」
――うーん、やはり外堀を完全に埋められてんな。今更「嫌だ」とは言えない空気が漂っている。
「その……うん、よろしく」
渋谷さんも観念した様子だった。まあ、仕方がないか。
「……? プロデューサーさん、ちょっと数が合わないわね」
「え? そんな事――」
ひい、ふう、みい……確かに足りねえな二人。「ああー……」と塩見さんが苦笑する。
「志希ちゃんと奏ちゃんかな。ほら、あの子何処か行っちゃうし」
……あの子? クローネの一同は「ああ……」と諦めたようなため息をついているが、正直意味が分からない。その時、レッスンルームのドアが開く。
「うぅー、いないとダメ?」
「当たり前よ。レッスンもそうだけど、今日は大事な顔合わせも……ほら、来ているじゃない」
藍色のショートヘアの艶やかな女性が、栗色の髪の少女をたしなめる。不思議な雰囲気を纏っている栗毛の少女はそのままふらふらと俺に近付くと――「すんすん」と突如鼻をひくつかせた。
「んなっ!? え? 俺、そんなクサいか?」
ちょっ、やめてくれよやめろ! 渋谷さん達の視線がすんげえ痛い!
「……んー? 変なの」
「人の匂いをいきなり嗅いで、『変なの』はないだろ『変なの』は……」
思わず、スーツの臭いを嗅ぐ。……特に変な臭いはしないよな、うん。
「……すみません、この子、ちょっと独特な子で」
藍色のショートヘアの子――速水奏が、申し訳なさそうに頭を下げる。
「ああ、いや、まあ、……びっくりしましたけど」
「したけど、何? 城戸さん」
渋谷さん、どうしてそこで突っかかるかなあ。
「何か、いい匂いがしたとかじゃないかしら。プロデューサーさんだから」
「ダフネ、そうなのですか?」
「昨日の夜何食べたのかしら、プロデューサーさん?」
「いや、それは関係ないと思うが……」
ブロック状の栄養補給食で臭いが残るとは思えないし。「うーん」と考え込んだ栗毛の少女――一ノ瀬志希は、まるでピッタリな表現を見つけたかのように手を打ち鳴らす。
「オジサン臭! 見た目は若いのに、ほのかにオジサンっぽいなー」
「謝りなさい! 志希、謝りなさい!」
速水さんは一ノ瀬さんの頭を無理やり下げると、自らも頭を下げた。
「本当にすみません、自由奔放な子で……」
「あ、ああ、いや、その……大丈夫だから」
――転生したら、加齢臭も出るのだろうか。
――――
一通り挨拶を終え、ようやく全員揃ったクローネは再びダンスレッスンを行なう。……やはり、レベルが二極化している印象がある。基礎レッスンではあるのだが、体力が覚束無い新人組はついて行くのもやっとのような雰囲気だ。……女の子――橘ありすや鷺沢さんにばかり目が向いてしまっていたが、一ノ瀬さんも酷いなこりゃ。
「常務に選ばれた子達なのに、意外と個性派揃いね」
ダフネがぽつりと呟く。渋谷さんも「うん」と頷いた。
「てっきり、常務みたいにクールな人ばかりだと思っていたけど……そうでもないのかな」
彼女達の視線の先では、大槻唯と宮本フレデリカの金髪コンビがご機嫌な様子で振り付けを行なっていた。この二人はクローネの中でもダンスの筋が良いようだ。ボーカルはどうか知らんが。
「……どうも、常務はビジュアル面だけで決めたような節があるっぽいな」
そうでもなければ、突然人の臭いを嗅ぐ変人がいる訳もなさそうだし。E.G.G.Sからダフネだけが選ばれた理由も、実はそれが決め手なのかもしれない。
「……どう、アナスタシアさん? 仲良くやっていけそうか?」
俯いてだんまりを押し通しているアナスタシアさんに声をかける。彼女は顔を上げると、複雑そうな表情を向けた。
「……城戸プロデューサー。私、悩んでいます。参加すべきかそうでないか」
思えば、アナスタシアさんの隣にはいつも新田さんがいた。何か判断をする時に助け舟を出していたのは、あの人なのだろう。日本語が出来るとはいえ、少々心もとない彼女にとってみれば新田さんはまさに、「東京の母」といった存在であると言っても違いない。……あれ、でもこの子出身が北海道だったよね? だったら、日本語がもっと上手い気が……いや、考えるのはよそう。それよりも。
「――クローネの皆! 少しだけ付き合ってくれないか」
俺がそう呼びかけると、レッスンをしていた一同はこちらに歩み寄ってくる。
「折角こうして顔合わせしたんだし、軽く会話でもしてみたら良いんじゃないか。積もる話もあるだろうし」
渋谷さんとデュアルプリズムの二人に目配せをする。ただレッスンを見学しているだけっていうのも味気ない。こうして話をするのもまた、相互理解に繋がるだろう。
「……城戸さん、でも私達がクローネに参加したら」
渋谷さんの言葉に、肩を竦めて応じる。
「それを決めるのは君達自身だ。――どちらにしても、俺と武内さんはサポートするよ」
三人はそれでも、不安そうな表情を崩さなかった。
「それで、どーすんの? 好きに喋っていいカンジ?」
大槻さんが訊いてくる。……金髪でギャルだと、何処と無く莉嘉と被るなあ。
「皆に任せるよ。俺は口出ししないから」
「えー」と彼女は口を尖らせる。
「ゆいはお兄さんと話がしたいなー」
「それはどういう……ってぇ! どうして叩くんだよ渋谷さん!」
「さあ? じゃあ私は二人のところに行くから」
渋谷さんはつんとした態度を取ると、にやにやしているデュアルプリズムの二人の元に向かっていった。
「――ふふっ。じゃああたしは、速水さんとお話ししてみるわね」
ダフネも話し相手を見つける中、アナスタシアさんは未だに視線を下げていた。
「――鷺沢さん、申し訳ないけどこの子の話を聞いてくれるかな?」
このまま孤立させてしまうのはちょっと不味いかもしれない。取り敢えず、話を聞くのが上手そうな鷺沢さんに尋ねてみる。
「はい。……橘さんも、それでいいですか?」
橘さんもこくりと頷いた。髪型が似ていることも相まって、まるで親子みたいだ。
「じゃ、こっちこっち!」
「ちょっ、引っ張るなって大槻さん!」
ああもう、渋谷さんの視線が痛いから!
――――
大槻さんは「はい」と言いながら、メッセージアプリのQRコードを突き出してきた。
「……え、俺と?」
「うん! いーじゃん、友達登録、しよ?」
「――ああ、まあ……」
特に断る理由がないし、クローネ側から情報を収集出来るのは有難い。すぐに登録を済ませる。
「なんかシンデレラプロジェクトのプロデューサーって、コワい人ってウワサを聞いてて。お兄さんみたいな人で良かった!」
「いや、俺はシンデレラプロジェクトのプロデューサーじゃないからな……?」
武内さん、後で少しだけ慰めてあげようかな。
「へ? そーなの?」
「ああ、まあ……。武内さん――シンデレラプロジェクトのプロデューサーは、見た目こそ怖いかもしれないが、いい人だからな。俺も頼りにしているし。大槻さんが思うような、本当に怖い人じゃないよ」
たはは、と大槻さんに向かって愛想笑いを向ける。
「ね、ゆいの事、『ゆい』って呼んでみて?」
「ん? どうしたんだ藪から棒に」
脈絡のない要望に、少しばかり身構えてしまう。
「いーじゃん、ね?」
とは言え、大槻さんの表情からは悪意を感じられない。……常務がどう思っているのかは兎も角として、この子はプロジェクト関係なく親交を深めたいだけなのかもしれない。
「――分かったよ、唯」
俺が大槻さん――唯にそう言うと、途端に彼女ははち切れんばかりの笑みを湛える。
「ヨロシク、お兄さん!」
……渋谷さんの視線が痛いが、必死に堪える事にした。
■常務の承認済
仕事熱心な若者にはある程度融通が利くのかなという想像もあったりします。
■加齢臭
多分出てない。
次回もクローネに重心を置いた回になります。