The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
城戸さんは、ああいうちょっと派手めの女の子が好みなのだろうか。思えば従妹はあの城ヶ崎姉妹だし、そういった方面の女子の扱いには手馴れているのかもしれない。でも、仕事とプライベートは分けていると思うし――。
「凛って、ああいう人が好みなの?」
加蓮が耳打ちして来た。
「……違う。頼りない近所のお兄さんが、女にだらしないなっていう感じ」
本当に、常務と対立してアイドルの為に奔走している人物の一人とは思えない。……プロデューサーの話では、結構頑張ってるらしいけど。
「頼りないのか? 最近、結構頑張ってるって話を良く聞くけど」
奈緒が、大槻さんにデレデレしている城戸さんを見ながら言う。
「仕事に一生懸命でイケメンのお兄さんなんて、優良物件よねー」
「加蓮、人を不動産みたいに言うなよ……」
加蓮の言う通り、今まで女っ気がないのが不思議なくらいだけど。
「……あれを見ておんなじ事が言える?」
二人は再び、大槻さんにデレデレしている城戸さんに目をこらす。すると、首を傾げながら私の方を向いた。
「普通じゃないか?」
「……うん。むしろ、城戸プロデューサーの方がたじたじになっているよね」
「……そう見えるの?」
私が探りを入れると、二人は各々頷いた。……ホントにそう見えるの? 私には、城戸さんが女の子にデレデレしているようにしか思えないんだけど。
「ま、まあまあ、あのプロデューサーの事はどうでも良くて!」
「ふうん? 奈緒も『ちょっと良いかもなー』って言っていたのに?」
「バッ、馬鹿! そういう意味じゃなくて、仕事を一緒にやる上でだよ!」
……ふーん。後で城戸さんを叩いておこう。
「とは言え、そうね。……凛。アタシ達、やっとデビューが出来そうなの」
加蓮はさっきまでの茶化すような表情をやめて、真剣な表情で私を見る。
「うん。知ってる」
トライアドプリムス――「三つの頂点」という意味らしい。前々からいるアイドル達を押しのけて、私達が頂点っていうのもおかしな話かもしれないけど。
「デュアルプリズムの延期を決めたのも常務かもしれないけど、トライアドプリムスの話を持ってきたのも常務だったんだ。都合がいい話かもしれないけど――でも、あたし達はそれに賭けてみたいんだ」
奈緒も普段とは違い、真剣な様子で私に言った。この二人にとってみれば、まさに常務が言っていた通り「またとないチャンス」である事は何となく分かっていた。私自身も、この二人と組むことに新たな可能性を感じている。
でも――。でも、ニュージェネレーションズの二人の顔が浮かんだ。当初は現実とのギャップに打ちのめされながらも、リーダーとして引っ張ってきてくれた未央の朗らかな笑顔。そして――アイドルの道を私に指し示してくれた卯月の、大輪の花のような笑顔。――城戸さんが「裏切ることにはならない」と言ってはくれたけど、心の奥底ではやっぱり、「裏切る事になってしまうんじゃないか」というような声が必死に私を押し止めていた。
「……武内プロデューサーは?」
加蓮が優しい声で訊いてくる。
「あの人は――あの人は、任せるって。自分で決めろ、だってさ」
「行き当たりばったりだよね」と付け加えながら苦笑いした。
「そっか。凛次第って訳なんだな」
奈緒がため息をつく。――二人には悪いけど、やっぱりシンデレラプロジェクトを、ニュージェネレーションズを裏切るわけには――。
「アタシは、三人でやりたい」
「ちょっ、ちょっと加蓮?」と奈緒が必死に止めようとする。しかしそれでも、加蓮は止まることなく続けた。
「アタシは三人でボーカルレッスンをして、何か凄い事が出来るって確信したの。殆ど直感なんだけど、それでも、その直感を信じてみたい」
はあ、と奈緒は分かりやすく肩を竦めると、私に向かって微笑む。
「実は、あたしも。一緒に歌ってて、こう、心がぐわーってなったんだ」
「ちょっと奈緒、『ぐわー』って何よ『ぐわー』って」
「うぐぐ……別にいいだろ!」
二人があのレッスンで感じた予感は、私と同じだ。新たな可能性――ニュージェネレーションズでは掴めないような何か。
「私……」
「……今すぐ結論を出さなくてもいいの。でも、凛と組みたいって気持ちは、本物だから」
いつの間にか下げていた頭を上げると、加蓮と奈緒はにっこりと微笑んだ。
「あたし達、待ってるから」
奈緒の声は、期待で弾んでいた。
――――
唯が、棒の付いたキャンディを差し出してくる。
「はい、お兄さん。飴ちゃんあげる」
「飴ちゃんって、また……」
大阪のおばちゃんかよ、という失礼なツッコミを飲み込んで、手渡されたキャンディで口を塞ぐ。じんわりと、パイナップルの風味が口内に広がる。
「お兄さんって、どうしてプロデューサーになったの?」
「ん? プロデューサーになった理由?」
話すと長くなるんだけどな。まあ、掻い摘んでしまえばいいか。
「……約束、かな」
……掻い摘みすぎた。やっべ、キザな事言っちまった。恥ずかしさで顔が赤くなる。
「……約束?」
「――ゴメン、今のなし。成り行き……そう、成り行きだ、うん!」
小っ恥ずかしい事言うのはこの口か!? クソ、飴で塞いでやる! あーもう、パインの飴オイシイナー。
「じゃあ、ゆいと同じだね!」
にかりと唯が笑う。天真爛漫な笑顔のお陰で、いくらか落ち着きを取り戻す事が出来た。
「……同じって事は、約束って所が?」
うん、と彼女は微笑みながら頷く。
「ゆいも、怖い女の人に『モデルとしてだけではなく、アイドルとして、トップを狙ってみないか?』って言われて。約束したんだ。トップアイドルにしてもらう代わりに、レッスンを頑張るって!」
「怖い女の人」とは、おそらく常務の事だろう。……既存のアイドルから余り協力を得られなかった分、スカウトに力を入れたのだろう。しかし、まさか本人が直接出向くとはな。……いや、あの人の事だ、「基準を満たす者は自分で見つける」と言って聞かなかったのかもしれない。……ん? じゃあどうして一ノ瀬さんみたいな自由な子がいるんだ? 謎はますます深まるばかりである。
「……お兄さん、難しい顔してるよ?」
……っと、考え事はまた後々にしておこう。
「ああ。悪い悪い。そんな事もあるなって思ってただけだから」
実際に小難しい事を考えていたとは言えないので、適当に笑って誤魔化す。……何だかご機嫌だが、どうしたのだろうか。
「ふへへ〜、やっぱりお兄さんは笑っている方がいいよ! ほら、スマイルスマイル〜」
「……お、おう、努力するよ」
最近は笑えないような事態が続いちゃってるから、表情筋が凝り固まっていたのかもな。唯の言う通り、大人の余裕を見せないと。
「じゃあ、女の子が凄く好きとかそういうのじゃないんだ」
「まあ、そうだなあ。特にそう言うのはなかったな」
皆娘か孫みたいなものだし。「英雄色を好む」とは言うが、俺は英雄でも何でもない、転生してしまった一般人だし。
「アハハ、真面目〜」
「真面目じゃないと、プロデューサーなんて出来ないっての」
……刺さる視線が一つから三つに増えた気がするが、気にしないでおこう。
――――
アナスタシアの両脇を固めるように、文香とありすは座っていた。文香は彼女に何かを話そうとするが、きっかけが掴めない。アナスタシアはぼんやりと、談笑しているダフネと奏、周子を眺めるのみだった。
「……挑戦、怖くない、ですか?」
まるで雪の妖精を思わせるような風貌から飛び出してきたのは、そのような弱音だった。
「挑戦、ですか?」
文香が恐る恐る訊くと、アナスタシアはこくりと頷いた。
「ダー。フミカは……怖くなかったですか?」
文香はこてんと首を傾げると、思い出したように静かに笑う。
「……怖い、と言いますか、私の場合、アイドルに興味がなかったものですから」
「アイドルに、興味がなかった?」
ありすは「確かに」と納得するように頷く。
「鷺沢さん、そんな感じがしますよね。……どうしてアイドルになったんですか?」
ありすの質問に、文香は柔らかい笑みを返す。
「実は、夏に城戸さんに名刺を渡されて。――自分で言ったことを思い出したんです。『自分の世界が広がっていくのが好き』って言ったことを」
文香の、前髪に隠された瞳が輝いているような気がした。
「決心するのに時間は掛かりましたが……。それでも、新たなページを開こうと、そう思ったのです」
アナスタシアの脳裏に、美波の言葉が蘇る。いつ言われたのだろうか。正確な時期までは思い出せないが、確かに彼女は言っていた。
――私ね、このプロジェクトに参加するまで自分がアイドルになるなんて考えたことなかったの。本当に想定外で、私にとっては一つの冒険だった。
――冒険して、一歩踏み出してみて、よかったって思えたから。
「楽しい、ですか?」
アナスタシアの口から、純粋な疑問が浮かび上がってくる。文香は、こくりと小さく頷き、落ち着いた笑みを見せた。
「はい。慣れない事ばかりで戸惑っていますが――。読んだことのない本のページをめくるみたいに、ドキドキしていて。……だから、今回のプロジェクトも、新たなページを開くことが出来るんだと、そう信じています」
そこまで言った文香は、ありすの方を向く。
「橘さんは、どうですか? アイドルになった理由」
ありすは「私、ですか」と小さく呟くと、手元のタブレット端末に視線を落とす。
「……私は、違うプロデューサーにスカウトされたんですけど、つい跳ね除けてしまって。どうしようと思ってた矢先に、このプロジェクトの誘いを受けた訳です」
「だって酷いんですよ」とありすの語気が強まる。
「そのプロデューサー、帽子をカッコつけながら被って、『どうだ? アイドルになって、いっちょオレとてっぺんをみないか?』って言ってきたんですから! 怪しい人にしか思えないじゃないですか!」
スカウトして来たプロデューサーの悪口をまくし立てているありすに、文香は苦笑いした。
「ふふっ、橘さんは相変わらずですね。アナスタシアさん、既にアイドルである貴女に言うのはおこがましいかもしれませんが、一緒に新たなページをめくってみませんか?」
「おこがましい……?」
「失礼かもしれないけど、という意味です」
首を傾げたアナスタシアに、ありすが説明する。……年齢が同じくらいだからだろうか、文香と美波が重なって見えた。
「……新しい、ページ」
心の奥底で、アイドルにスカウトされた時のような高揚感が再び蘇っているのに、アナスタシアは気付いた。
――――
「明日の五時」
突然、加蓮が口を開いた。
「アタシ達、自主レッスンしてるから。凛も来て」
「――え?」
加蓮は詰め寄ってきた。
「もう一度、凛と一緒に歌ってみたい。……前みたいに『お願いシンデレラ』じゃなくて、次はトライアドプリムスの曲で」
加蓮の勢いに若干怖気付いた私は、奈緒の方を見る。私が見ていることに気付いた奈緒は、加蓮に賛成するように頷いた。
「あたしも、やってみたい。きっと、二人よりも三人の方がいいかもしれないからさ」
二人は真っ直ぐに私を見た。
「……直ぐには答えが出せない」
やっとの事で出た返答は、普段の私らしくない、弱々しいものだった。――それでも、二人は優しく微笑んだ。
「……まあ、凛には凛の事情がある事はあたし達も知ってるからさ」
「来てくれたら、嬉しいな。……それだけ」
加蓮が城戸さんの方を見る。……どうやら、休憩時間は終わったらしい。
■凛と二人のやり取り
夕方のやつをここに入れました。城戸Pが話す時間を作ってくれたので。
■唯について
多分最初は美嘉と同じギャルモデルだったんだろうなーと思いまして。
■ありすの加入理由
話に出てきたプロデューサーですが、帽子のあの人です。
ほとんど原作通りの流れになってますね。