The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~ 作:せいけー
ダフネは、意を決したように頷き、エバンスさんとハーミー、最後に俺を見た。
「――あたし、クローネに参加するわ」
水を張ったような静寂がプロジェクトルームを包んだ後、ハーミーがため息をついた。
「……察しはついていたわよ」
ありゃ、そうだったのか。俺とダフネは思わず、顔を見合わせる。互いに「情報を漏らしたのでは」と勘ぐってしまったようだが、ダフネの顔を見る限り、そうでもないらしい。
「……ハーミー、いつから気付いてたの?」
エバンスさんが訊いてくる。
「常務に呼ばれて、って所で。確信がなかったから口には出さなかったけど、やっぱりそういう事なのね」
でも、とハーミーが言葉を続ける。
「クローネに入れ込み過ぎて、E.G.G.Sとしての活動がおざなりになるっていうのは許さないんだから、ダフネ!」
重大な宣言を行なった割にはいつも通りな様子のハーミーに胸を撫で下ろしたダフネが、ハーミーに答える。
「もちろんよ。あたしにとっての一番は、E.G.G.Sなんだから」
――そうか。そうであってくれるなら、プロデュースしている俺も嬉しい。はふう、と気の抜けたような声がエバンスさんから漏れた。
「良かった〜〜……。E.G.G.S解散、なんて事にならなくて」
「……言われてみれば、本当にそうね。E.G.G.S最大の危機だったんじゃないかしら」
「……それは俺が許さないからな。E.G.G.Sはまだまだ伸びしろがあるユニットだ。中途半端に終わらせるなんて、絶対にさせない」
そこでだ、と言葉を続けながら、三人にそれぞれ資料を渡す。
「……これは?」
エバンスさんの質問に、俺は意気揚々と返す。
「新曲だ。『E.G.G.Sとしての』な」
今度は来たるべき時に――『舞踏会』に間に合うように調整した。むしろ、少し早かったぐらいだ。
「E.G.G.Sとしてのって事は、やっぱり!」
「――ああ。E.G.G.SはE.G.G.Sとして活動を続ける。ダフネにはクローネとしての活動もあるから、忙しくなるかもしれないが」
……まあ、顔を見れば一目瞭然か。
「プロデューサーさんもあたし達のプロデュースと『舞踏会』の準備で、二足の草鞋を履いているもの。あたしも頑張らなくちゃ、ね?」
ダフネの顔は、とってもいい笑顔をしていた。
「分かった。常務に報告しておくよ。俺もサポート出来るように尽力する。但し、言ったからには両方とも手を抜くなよ?」
「ええ、最初からそのつもりよ」
エバンスさんとハーミーの二人も、ダフネに続いて頷いた。
――――
深夜のプロジェクトルームで武内さんは、俺の話を微動だにせず聞いていた。
「そう、ですか。グリーングラスさんも」
「はい」と頷きながら、話を続ける。
「きっと彼女なりに、悩み抜いた末での決意だと思っています」
何せ、決めるまで俺と相談しなかったのだから。常務の言い付け通り、ダフネは自分で決めた。……だったら、後は俺がしっかり支えてやんないとな。
「渋谷さんは、どうですか?」
何気なく話題を振る。アナスタシアさんは参加の意志を伝えたと、武内さんが言っていた。彼は、思い出すかのように天井を見上げた。
「……渋谷さんが、デュアルプリズムの二人とボーカルレッスンをしているのを見ました」
あの二人と、か。
「どうでした?」
俺が訊くと、武内さんはこくりと小さく頷いた。
「……常務の言っていた通り、新たな可能性を感じました。ニュージェネレーションズではなし得ないような、違う輝きを」
武内さんからしてみてもそうなのか。常務を振り向かせる程だったから、武内さんも無視できる訳がないのは予想がつく。
「現在、渋谷さんとアナスタシアさん、それにグリーングラスさんも、新たな挑戦をしようとしています」
武内さんはそう言いながら顔を上げて、俺をじっと見る。
「シンデレラプロジェクトやE.G.G.Sも、挑戦すべき時なのかもしれません。彼女達が輝きを増すような、新たな挑戦を」
「新たな挑戦、ですか」
ダフネ達三人がクローネに参加するような、違う可能性を見つける試み――。
「実は先程、本田さんが私に相談してきました。渋谷さんが新しい何かに挑戦するならば、自分も挑戦しなきゃいけないのでは、と」
武内さんの話しぶりから、渋谷さんがニュージェネレーションズの仲間に打ち明けたらしい事が察せた。そうでもなければ、そんな話になる事もないだろう。
「それは――」
「はい。それは自分で決めることだと、……突き放すような言い方になってしまいましたが、そう答えました」
「本田さんの様子は?」
「いい、笑顔でした。違う可能性があるなら、それを見つける手助けをして欲しいと。――アイドルとして、ニュージェネレーションズのリーダーとして、成長したいと、そう言っていました」
「そう、なんですね」
密かに胸を撫で下ろす。言い方はかなり悪いのだが、本田さんには前科がある。これで再び辞める辞めないの騒動にならなくて良かった。
「新田さんもアナスタシアさんのクローネ参加を受けて、ソロでの活動を視野に入れています。私は、彼女達の挑戦を支えたいと思っています」
「……はい。それは、自分も同じです」
もし、渋谷さんがトライアドプリムスで見つけたような、「違う可能性」を皆が見つけたならば――『舞踏会』に持って行けるような、武器の一つになるだろう。あの三人に関して言えば、常務に先手を越されてしまった。だが、他のアイドル達の分は俺達が見つけ出さないと。
「見つけましょう。彼女達の可能性を」
俺が伝えると、武内さんは「はい」と力強く頷いた。
「その為に、私達は為すべきことを行なっていきましょう」
「ええ」
時計の針は、静かに動いていた。
――――
『舞踏会』についての打ち合わせを終えて、プロジェクトルームへ戻る途中。廊下の壁に寄りかかっている美嘉が視界の隅に入ってきた。
「……よっ」
俺は声をかけるが、美嘉は微動だにしない。その目は、真っ直ぐにクローネのポスターを向いていた。
「……進兄は聞いてる? 未央が、オーディションを受けるつもりだって事」
「オーディション? 初耳だな」
殆ど今日に近い昨日、武内さんが言っていた事と何か関係があるのだろう。しかし、昨日の今日だ。ヤケに話が早いな。
「何のオーディションだ? ドラマ?」
「ちょっと近いかも。舞台だって」
「へえ、舞台」
前回とは違い、彼女なりに成長しようとしている訳か。うんうん、お兄さんは嬉しいぞ。
「……なんか嬉しそうだね、進兄」
俺の方を向き直った美嘉は、ぎろりと睨みつけてきた。
「まあ、本田さんが新しい事にチャレンジしたいみたいな話は聞いてたからな。多かれ少なかれ、あの子にとってはプラスになると思うぜ」
中でも、本田さんはシンデレラプロジェクトのムードメーカーみたいな所がある。シンデレラプロジェクトの全体的な動きの中心には、彼女が関わっている事も多いのだ。もしそれが、シンデレラプロジェクトの歩き出す切っ掛けになるとすれば――本田さんのみならず、プロジェクト全体にとってもプラスになるはずだ。
「……進兄はさ、不安にならない?」
「――何が?」
不安って意味なら、正直いつクビになるか分からない怖さがあるけど。おそらく、そんな事じゃないのだろう。
「何が、って……。このまま、皆がバラバラになっちゃう事」
クローネのポスターは、ダフネや渋谷さん達の分――正式に決定していない分は「coming soon...」とぼかされている。しかし、美嘉はそのポスターの中に、渋谷さん達が入っている所を想像してしまったのかもしれない。
「バラバラにはならない。ニュージェネレーションズはニュージェネレーションズのままだし、E.G.G.SはE.G.G.Sのままだ」
「でも……! このまま別の活動をしてしまったら……」
「――美嘉。あまりあの子達を舐めるな」
気付けば、声のトーンが少し低くなってしまっていた。
「美嘉は、どういう風にその話を聞いたんだ? 面と向かってか?」
「ううん。昨日の夜……未央からメッセージが来て」
……つまり、顔色や声の調子は知らないってことか。道理で、あらぬ心配をしていると思った。
「進兄、アタシは舐めてる訳じゃないって。ただ、心配で――」
「ああ、心配しているのは分かっている。でも、バラバラにはならねえよ」
ダフネは言った。「自分にとっての一番は、E.G.G.Sだ」と。本田さんは笑顔で言っていた。「ニュージェネレーションズのリーダーとして、成長したい」と。その気持ちがある限り、彼女達は決してバラバラにはならない。なぜなら――。
「ここは、バラバラになってなんかいないんだよ」
左手の親指で、トントンと自分の心臓の辺りを軽く叩く。
「――心?」
確かめるように出て来た美嘉の言葉に、俺は頷く。
「ああ。心だ。皆、心で繋がってる。だから、バラバラにはならない」
だから、美嘉は舐めてしまっている。彼女達の決意を。彼女達の意志を。彼女達の――結束を。
「……そっか」
美嘉はふっと顔を下げると、すぐに頭を上げる。何処か吹っ切れたような、いい笑顔だった。
「成長してんだね。あの子達も」
「ああ。俺が保証するぜ」
にいっと俺も微笑み返す。E.G.G.Sは勿論の事、何だかんだで、シンデレラプロジェクトに関しても色々と世話を焼いた身だ。歩み始めた時と比べてしまえば、彼女達は着実に成長している。
「にしても……進兄も暑苦しくなったね」
美嘉が茶化すようににやにやと笑う。
「うっせ。自分でもクサいなと思ってたんだぞ」
あーもう、何が「心だ」だよ。少年漫画かっつーの。こちとら累計年齢五〇超えだぞ。はぁー、恥ずかしい恥ずかしい。
「ま、そんなこんなで。美嘉。――俺達も、サポートは行なうつもりだ。だが、至らない所もあるかもしれない。そんな時……起きない方が良いのは分かっているが……手助けして貰えるか? 出来る限りでいいから」
美嘉はにやけるような笑いをやめて再び爽やかな笑顔に戻ると、力強く頷いた。
「もちろん。言われなくても、そうするつもりだったし」
「だったら助かる。それじゃあ、頼んだぜ」
「うん」
――ホント、柄にもなく熱くなっちまったな。
――――
ストリングスの音色に合わせ、煉瓦造りの廃墟が映し出される。セピア色のフィルター越しにそびえ立つ廃墟は夕日を浴びたかのようで、廃墟は朽ち果てた城のようにも思えた。セピア調の落ち着いた画面の中、一際映えて見える深紅の林檎が持ち上げられる。
持ち上げられた真っ赤な林檎から飛び出してきたのは、まるで宵闇を連想させるような真っ青な羽の蝶だ。蝶はそのまま羽ばたいて行き、セピア色の画面から色彩を取り戻していく。――まるで、古ぼけた写真が再生していくかのように。
廃墟となり、崩れかかった建物も徐々にその姿を取り戻していく。青い蝶が、魔法で直していくかのようだった。蝶は役目を終えたかのように、穏やかに高度を下げていく。――その蝶の一匹を指に乗せたのは、速水奏。横にはクローネのメンバーが立っており、セピアから抜け出した星空を見上げていた――。
「……君は」
エントランスのモニタで流れているそのPVを見ていた今西は、ほとんど誰にも聞こえないような声で呟いた。
「君は346を、この会社をそのように思っているのかい?」
ほとんど聞こえないような小声である事に加え、周りに誰もいないので答える声はない。……それでも、彼は口に出して訊かずにはいられなかった。
物静かなエントランスでは、彼の質問に答えることもないモニタから、映像の音のみが響き渡っていた。
■ダフネのクローネ参加
彼女自身が決めました。
■美嘉の言動
アニメとは違い、「未央が決意した時の場面にいなかった」事になっています。未央の細かい心情の移り変わりを見ていないため、あのような感じになっています。
■今西の呟き
多分あのPVを見たら、そう思っちゃうんじゃないかなあという風に思って。
更新が若干遅れて申し訳ありません。今更のP4Gが楽しい……!