The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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遅くなりました。ポプマス楽しい……。


第47話 The Cinderellas walk their way

 プロジェクトルームは若干人数が減ったとは言え、大所帯のままであることには変わりなかった。

 

「さて、秋ライブは少し今までとは毛色が違う。そうだな、簡単に言えば、『舞踏会』に向けての中間試験だと思えばいい」

 

 えー、と莉嘉が落胆するような声を出した。

 

「テストはやだなー……。進にーちゃん、どうにかならないの?」

 

 中間試験、って言葉だけでそんな風に思われてもなあ……。エバンスさんも、そこでガタガタ震えるのは止してくれ。

 

「……常務は『舞踏会』についての承認を行ないましたが、撤回もまた有り得ます」

 

 武内さんが俺の代わりに説明し始める。

 

「他の役員の方達は常務の方針に疑問は持ってこそいるものの……、私達のやり方にも首を縦に振り切っていないのが現状です」

 

 簡単に言えば、「新しいイベントをしてまで反対することか?」となっている、という訳である。今西部長が粘り強く交渉をしてくれているお陰で、俺達に対しては強い反対が起きていない状態であるのだが。

 

「プレッシャーをかけるような言い方になってしまうが、『舞踏会』が十全に行なわれるかどうかは秋のライブに関わってくる。あー、そうだな……。ファンだけじゃなく、お偉いさんも見ていると思ってくれていい」

 

「偉い人……。みく達、偉い人に見られているにゃ!?」

 

 前川さんが声を若干上ずらせながら、戦々恐々とした面持ちで訊いてくる。

 

「厳密には、収入だけみてるようなモンだけど……まあ、そうだな」

 

「どの道、やる事は変わんないわ! 精一杯レッスンして、最高のライブにすればいいんだから!」

 

 ハーミーが息巻く。その言葉に賛成するように、島村さんは力強く頷いた。

 

「はい! 島村卯月、頑張ります!」

 

 部屋の中にいるアイドル達は、島村さんに続いて頷いた。

 

「もちろん、きらり達も頑張るにぃ!」

 

「杏は明日から頑張るよ」

 

「で、出来れば……今日から頑張った方がいいような気もするけど……」

 

「杏ちゃんはいつも通りだね」

 

 やいのやいの、と騒々しくなる。……やる気は充分と言ったところか。

 

「そこで、だ。シンデレラプロジェクトとE.G.G.Sは、なるべく合同でレッスンをしようかと思っているんだ」

 

「……合同、ですか?」

 

 エバンスさんの言葉に「はい」と返しながら、武内さんが説明をする。

 

「現在、私と城戸さんの方で、シンデレラプロジェクトとE.G.G.Sの共同楽曲を企画しています。現在はまだ企画段階ですが、『舞踏会』に間に合うタイミングで本格的なレッスンに入れるよう、調整は行なっています」

 

 アイドル達の顔が徐々に輝いていく。――これは、武内さんの方から出て来たアイディアだ。何かと親交の深い新人アイドル同士が、プロジェクトの垣根を超えて手を組み、新たな曲を披露する。元々大人数だったシンデレラプロジェクトにE.G.G.Sが加わるので、かなりの人数で合わせる事になってしまうのだが、まさにこれは常務に対する「共同戦線」の表れのようなものである。乗らない理由がなかった。

 

「いつ曲が出来ても良いように、シンデレラプロジェクトのレッスンにE.G.G.Sもお邪魔する感じになる。……まあそうでなくとも、他のアイドルから見た指摘とかアドバイスとかも取り入れることが出来る、いい機会だと思っている」

 

 特に人数が少ないE.G.G.Sに関して言えば、かなりいい刺激になる。自主レッスンで一緒になる事が時々あるとはいえ、最初からレッスンを本格的に合同でやるのは初めてだ。意識も違ってくるだろう。

 

 逆に武内さん――シンデレラプロジェクトに関しては、ダンスのエバンスさん、ボーカルのハーミー、見せ方のダフネとより特化したアイドルからのアドバイスが期待できる。彼女達から吸収出来ることは多いはずだ。

 

 本格的な共同戦線は秋ライブが終わってからになってしまうが、その前から結束を強める事に損は無いし、互いのアドバイスは合同楽曲の前からも生きてくる。そこで、E.G.G.Sもシンデレラプロジェクトのレッスンに加わる事にしたのだ。

 

「ハリエットちゃん、ハーミーちゃん! アドバイス、期待しているにゃ!」

 

 前川さんが前のめりになりながら、E.G.G.Sの二人に詰め寄るように言う。エバンスさんは苦笑いしながら、ハーミーはふんぞり返りながら各々答える。

 

「ちゃんとしたアドバイスが出来るか不安だけど……。頑張ってみるね」

 

「もちろん、わたしも全力を尽くすわ!」

 

「ダフネには先に話を通してある。そっちの分のスケジュールは俺の方が確保しているから、日程の調整を始めようか」

 

 ……やはり、シンデレラプロジェクトもE.G.G.Sも互いに忙しくなったため、なかなか全員が揃ってレッスンが出来る日がない。片手で数えられるくらいだ。とは言え、E.G.G.Sの方は人数が少ない分若干フットワークが軽いため、シンデレラプロジェクトのメンバーのレッスンにちょくちょく顔を出せそうではある。――勿論、エバンスさんとハーミーに限った話になるが。ダフネも揃って、となると苦しい感じになる。

 

「ごめん、遅れた」

 

 粛々とスケジュールが埋まっていく中、部屋に入ってきたのは渋谷さんだった。

 

「凛ちゃん!」

 

 島村さんが跳ね上がるように立ち上がると、渋谷さんの方へ嬉しそうに駆け寄っていった。

 

「卯月……」

 

「今、皆で秋ライブに向けたスケジュールの調整をしていたんです!」

 

 いつの間にかスケジュール調整を牛耳っていた前川さんが、腕を組んで島村さんの言葉に頷く。

 

「今回はなんと、E.G.G.Sと一緒にレッスンをする事になったにゃ! 他のアイドルが見ている分、レッスンの手は抜けないにゃ!」

 

「頑張ろうにぃ!」

 

 明るく出迎えてくれたメンバーの声に渋谷さんは一瞬微笑むが、再び表情が暗く沈んだ。渋谷さんに釣られて静かに沈んだ空気を変えようとするかの如く、多田さんが新田さんに訊いた。

 

「……ラブライカも、この日、もちろん参加できるよね?」

 

 新田さんが小さく頷いて答える。

 

「あ、うん。私はソロ曲のレッスンがあるけど、遅れて参加出来そう」

 

 新田さんの口から出て来た「ソロ曲」と言う言葉に反応してか、再び部屋の中が静かになった。――各々の表情は困惑であったり、無表情であったり、引きつった笑顔であったりと様々だった。少し前にあった、本田さんのソロ活動宣言が脳裏に巡ったのだろう。ほとんど誰にも相談していなかったらしく、ハーミーに「どうして教えてくれなかったのよ!」と文句を言われたくらいだったからな。

 

「渋谷さん達は――ニュージェネレーションズは、秋ライブに出られるんですか?」

 

 エバンスさんの質問にも、渋谷さんは押し黙ったままだった。視線が一斉に武内さんの方を向く。

 

「ニュージェネレーションズに関しては――調整中です」

 

 シンデレラプロジェクトのアイドル達――特に島村さんが、がっかりしたように視線を下げる。

 

「……ごめん、みんな」

 

「り、凛ちゃんのせいじゃ――」

 

「そうよ! 渋谷さんは何も悪くなんかないんだから!」

 

 島村さんとハーミーが慌てて取り繕うも、渋谷さんは顔を俯かせたままだった。

 

――――

 

 スケジュールの調整を何とか終えて、『舞踏会』の打ち合わせを終わらせた後。部屋の前のドアでは、武内さんがドアノブに手をかけたままの状態で動きを止めていた。ドア前のベンチには、美嘉の姿もある。

 

「――皆さんには、申し訳ない事を」

 

 項垂れるような声で言う武内さんを、美嘉は笑い飛ばす。

 

「未央は自分で乗り越えるって言ってたんでしょ? ……だったら、あの子達も、だよ。今は、見守るしかないって」

 

 「それに」と美嘉は続ける。

 

「……進兄が言ってた。例えバラバラになっても、心は繋がってるって」

 

 武内さんが美嘉の方を向く。

 

「だから、大丈夫だって。あの子達は進兄のお墨付きだから」

 

 ……言ってくれるな、美嘉のヤツも。この空気を壊すのは忍びないな。俺はゆっくりと階段を上がり、二人の近くから離れる事にした。

 

――――

 

 それは偶然だった。

 

「……あ」

 

「やっほ、はみはみ」

 

 未央さんがエントランスにいた。いつもと変わらないような様子で。

 

「……その、舞台に出るって言ってたけど」

 

 わたしがそう切り出すと、「待ってました」と言わんばかりに未央さんが笑った。

 

「そう! そうなんだよ! いやー、中々奥深いよね、演技って」

 

 楽しそうに話すその姿からは、デビューライブ直後のような、やけっぱちになったような雰囲気が見当たらない。

 

「未央さん、その――」

 

「あっ、そうだ! しまむーとしぶりんは? 元気してる?」

 

 言えるわけないわ。何だかぎこちない感じって言ったところで、未央さんを困らせるだけだもの。わたしが無言を貫き通していると、未央さんは苦笑した。

 

「……そっか。まあ、そうだろうね」

 

 未央さんはスマホを取り出すと、素早く何かを打ち込んだ。――メッセージを送ったみたいね。

 

「じゃ、ちょっと用事が出来たから行くね! また後で!」

 

「え、ええ――」

 

 意気揚々と階段を駆け上がっていく未央さんに向かって、わたしは大声で言った。

 

「今度からは、わたしにも相談しなさい!」

 

 ふと足を止めた未央さんは、くるりとこちらの方を向く。特に神妙な顔つきをしているとかじゃなくて――困ったような笑顔だった。

 

「ごめんごめん! 次からは気を付けるよ!」

 

 未央さんはそこから、更に続けて言った。

 

「しまむーとしぶりんにも言ったんだけどさ。――はみはみも、何かやりたい事があったらチャレンジしてみなよ!」

 

 言いたい事を言い切ったような顔で、未央さんはそのままスキップするように去っていった。

 

「どしたハーミー? 今から帰るのか?」

 

 プロデューサーが今更やって来て、呑気に声を掛けてきて、少しむっとしてしまったわ。

 

「……どうして未央さんがソロ活動するって事、言ってくれなかったの?」

 

 この前にもぶつけたわたしの疑問に、プロデューサーは「そうだなあ」と頭を掻く。

 

「俺も言おうと思ったんだが、止められたんだよ。本田さんに」

 

「未央さんに?」

 

 ああ、と返事をすると、プロデューサーはため息をついた。

 

「せめて、ハーミーくらいには言っておこうかと思ってた矢先にな。本田さんが自分で言う、って言い出して。――まあ、まだ選考待ちだったからかもしれないけど。正式に決まったわけじゃないのにソロ宣言もダサいとか考えたんだろうな」

 

「そんなの――」

 

 ぽつりと、言葉が漏れた。

 

「そんなの、身勝手過ぎるわよ。せめて、相談くらいして欲しかった」

 

 頬をすっと、生暖かい雫が通った。普通に呼吸をしようとしたけど、しゃっくりみたいに息が詰まり、引いたような声が口から出てくる。

 

「……大丈夫だ、あの子はシンデレラプロジェクトを、ニュージェネレーションズを見限っていない」

 

 プロデューサーはグレーと濃い緑の細かいチェックが入ったハンカチをわたしに渡す。

 

「ハーミーは何も悪くない。あの子にとってみたら、信頼出来る友人だと思うぜ」

 

 「だってこう言ってたし」とプロデューサーは続ける。

 

「『絶対にはみはみに言わないで、考えすぎちゃうから』ってな」

 

 ――確かに考え込んでしまったかもしれない。「常務が何か言ってきた」って思っちゃうかもしれない。もしかしたら――必死に引き留めようとしていたかもしれない。未央さんが、本当にやりたいと言っていたとしても。

 

「……ほんっ、とーに、馬鹿なんだから!」

 

 視界がかすみ、渡されたハンカチを顔に押し当てる。それでも、綺麗に畳まれたハンカチの隙間から、泣き声が漏れ出てしまった。

 

「……あのさ、鼻噛むのはやめてもらえねーかな?」

 

 わたしも出したくて出してる訳じゃないわよ!




■共同楽曲
あの曲をどうすべきか凄い悩んでました。タイトル的にもE.G.G.Sに歌わせたいけど、シンデレラプロジェクトの曲ですし……。


■ちゃんみおのソロ宣言
しれっと流してしまいました。


■ハーミーが泣いた理由
自分に近しい者がどんどん別の道に行ってしまうという事で、色々思う所もあったのでしょう。


本編の流れを重視し過ぎてグダリ始めてますね……。反省です。

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