The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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ほぼほぼアニメ通りです。


第48話 She decide her way

 屋上の庭園では、未央が立っていた。いつもと変わらないような笑顔で。

 

「おっ、しまむーにしぶりん、来たね!」

 

「……私達も、未央に話が――」

 

 そこまで言った所で、未央は何かを私と卯月に渡す。

 

「ちょっと練習に付き合ってよ。これ、台本」

 

 ――メッセージアプリでは、「話があるから来て」とだけあった。これが、私達を呼んでまでしたかった事なのだろうか。

 

「未央、はぐらかさないでよ!」

 

 思わず口調が強くなってしまった。しかし、それでも、未央の表情は変わらない。

 

「はぐらかしてないよ」

 

 今までに見たことがないような顔だった。自信を持っているわけでも、面白がっているわけでもないような、落ち着いた表情。

 

「アンタみたいに勝手な人なんてもう知らないわ!」

 

「え……っ」

 

 卯月が言葉に詰まっていると、未央は台本を見せつけるように掲げ、にこりと笑った。

 

「ほら、セリフセリフ。台本四五ページ目。しまむーからどうぞ!」

 

 卯月は台本をせっせと開くと中身を流し見て、「はい!」と頷いた。――やるんだ。

 

「坊っちゃま、落ち着いて」

 

 慣れない様子で卯月がセリフを読むと、未央は私を見る。――どうやら、次の役は私がやるみたいだ。

 

「僕はもう生きられないんだ。ベッドから動けなくなって……僕は、春がくる前に……」

 

「ああ、可哀想な坊っちゃま」

 

「バカね! アンタはちっとも弱ってなんてないじゃない! アンタの病気の半分は、アンタ自身よ!」

 

 ずきり、と心に棘が刺さったような感覚がした。しかしそれでも、未央は続ける。

 

「自分に呪いをかけているんだわ!」

 

「まあメアリーさん、なんて事を」

 

 卯月のセリフが終わり、また私のセリフだ。

 

「僕は君と違って、身体も弱くて……本当に外に出られるの?」

 

 「身体も弱くて」という一節で、脳裏に加蓮がよぎる。

 

「アタシだってここに来た時は身体も弱くて、それに外だって大嫌いだったわ。でも――マーサやディコンが教えてくれたの」

 

 噴水の辺りをうろうろとしながら台本を読んでいた未央は、こちらに近付くと台本から視線を外した。爛々と輝く瞳が、こちらを見ていた。

 

「外は宝物でいっぱいだって!」

 

 未央はそのまま、夕暮れの空を見上げる。私と卯月も、釣られて空を見上げた。

 

「そうよ! 空は高くて、ハリエニシダやヒースやバラが芽吹いているの! 外の空気を、いっぱいに吸って!」

 

 今、目の前で台本を読んでいるのは一体誰なのだろうか。「未央だ」と言われてしまえばそれまでなのだが、それでも、私には別の人物のように思えた。

 

「僕も、いっぱい吸えるかな」

 

 口調は自然に、未央に訊くようなものになっていた。

 

「そう、私には冒険だった」

 

 未央もこの役――メアリーと同じように、冒険で何かを見つけたのだろうか。私達では見つけられなかった、外の宝物を。

 

「僕は、君の見ているものを見たかった」

 

 もしかしたら、違うところから違うものを見るのかもしれない。それでも、――例えそうだとしても。

 

「コマドリが呼んでいるあの花園……!」

 

 ページをめくる。卯月のセリフの後に歌が挿入されるらしいが、その後のセリフは私だった。

 

「なんて美しいんだろう……僕はもっと早くにここに来るべきだったのに」

 

「うん、ごめん。待たせて……」

 

 未央のセリフを受けて、卯月は台本に目を通す。「あ、あれ?」と呟いた後、首を傾げた。

 

「どこ……?」

 

「えっ?」

 

 私も急いで台本を確認する。――確かに、未央の役が謝罪するような事は書いていない。台本の中のメアリーは未だに、私がやっている役を叱責していた。

 

「大丈夫! これからだもの! 明日も明後日もここに来ましょう!」

 

 未央はそう言うと、私達に向かってにかりと笑った。

 

「そうさ、春の次は夏、その次の秋も、冬も……ずっとずっと……」

 

 卯月の声は、徐々に小さくなっていった。

 

――――

 

 ほう、こりゃ驚いたな。演劇に関してはど素人だと聞いていたが、目の前の本田さんは、大女優とはいかないまでも、光るものがあった。

 

「未央さん……」

 

 ハーミーが言葉にならないような感慨の声を上げる。

 

「確か、そんなに前じゃなかったよね? みおちゃんがソロ宣言したの」

 

 多田さんが驚いたような声を上げる。何かを決心したようなハーミーを追いかけた先には、シンデレラプロジェクトの皆とエバンスさんがいたのだ。

 

「すごい……。女優さんみたい……」

 

 神崎さんが素の言葉で感激する。神崎さんの言う通り、今ニュージェネレーションズの二人と相対している本田さんはアイドルと言うよりもむしろ、女優のようだった。いや、女優というか――役のメアリーか。

 

「……未央チャンも、一生懸命頑張ってるんだ」

 

 前川さんが呟く。

 

「そうですね。ぼく達も、頑張っていかないと」

 

 エバンスさんが前川さんの言葉に頷く。

 

「ああ。秋ライブが一緒に出来なかったとしても、『舞踏会』がある」

 

 島村さんのセリフのように、その次の秋も、冬も、ずっとずっと。時は進んでいくし、次がある。今回はたまたま、ちょっとした寄り道になるだけだ。

 

『恐れずに踏み出せば、花園は私たちを待っていてくれるわ!』

 

 本田さんが屋上に響き渡るように言う。

 

『花園は生きる輝き』

 

 渋谷さんが噛み締めるようにセリフを続ける。

 

『花園は……魔法の、場所』

 

 一方の島村さんは、確かめるような口調で渋谷さんに続いた。

 

『花園は、魔法の場所』

 

 堪えきれない、と言った様子で莉嘉が物陰から飛び出し、三人に駆け寄る。

 

「すごーい!」

 

 ニュージェネレーションズの三人は、突如現れた来訪者の登場に驚きを隠せないでいるようだ。――諸星さんを初めとした、他の面々も立ち上がって三人の元へと歩み寄る。まあ、このまま隠れているだけってのもアレだな。エバンスさんとハーミーが立ち上がった後に、俺もゆっくりと立ち上がる。

 

「とーっても綺麗だったよぉ!」

 

 諸星さんがにこやかに話している所で近付いていくと、渋谷さんは若干顔をしかめる。

 

「げっ、城戸さんもいたんだ……」

 

 げっ、とはなんだげっ、とは。

 

「ま、流れでな。――本田さん、いい演技だったぜ」

 

「キラキラしてたー!」

 

 みりあちゃんがこくこくと頷く。彼女の言う通り、言葉にするなら本田さんは「キラキラとしていた」。

 

「みく達もうかうかしてられないにゃ! キラキラするよ!」

 

「へへっ、そうだね!」

 

 アスタリスクの二人は、互いに決心を固めたように顔を見合わせて頷く。

 

「――しぶりんの気持ち、知りたいって思ったの。ちゃんと返事したかったから」

 

 本田さんが渋谷さんに向かって、優しい笑みを向ける。

 

「どうなの? ちゃんとわかったのかしら未央さん?」

 

 ハーミーが試すように訊くと、本田さんは「うん!」と力強く頷いた。

 

「ちょっとずつ分かってきた!」

 

「……未央」

 

 渋谷さんは「仕方ないなあ」とでも言いそうな顔をしながら微笑んだ。

 

「プロデューサー、良かったですね」

 

 エバンスさんが俺に向かってぽつりと言う。

 

「そうだな」

 

 バラバラなんかじゃない。一見違う道を歩いているようでも、彼女達は繋がっているんだから。

 

――――

 

 翌日、武内さんは俺に面と向かって言った。

 

「渋谷さんから回答がありました。――クローネに、トライアドプリムスに参加すると」

 

「そうなんですね」

 

 アナスタシアさん、ダフネに続いて遂に、か。常務にとってみれば、真打がやっと動くことになる。

 

「そこで、お願いがあるのですが」

 

 断る理由はないな。武内さんが言い切るよりも先に、俺は返事をした。

 

「任せてください。秋ライブまでの彼女達のサポート、行ないます」

 

 武内さんは驚いたように目を見開くと、静かに微笑んだ。予想は当たっていたようだ。

 

「お願い、出来ますか?」

 

「はい。『舞踏会』の準備は、しばらくの間武内さんと千川さんに一存する形になりますが」

 

「そこは他のプロデューサーの方々の助力もありますので、問題はありません」

 

 だったら、大丈夫か。引き継ぎ用の資料もちょくちょく作っているし、スムーズに任せられるはずだ。

 

「特にE.G.G.Sに関して言えば、『舞踏会』に向けた新曲と、合同曲の事もあります。ただでさえ忙しくなる城戸さんに、全てを押し付ける事は出来ませんので」

 

 まあ、そうだな。だからといって、反常務派筆頭の武内さんがヒョコヒョコとクローネのレッスンを見に行っても、常務にいい顔はされないだろうし。ここは実際にレッスンを見学した実績のある俺が、クローネの様子を、三人の様子を見る方が何かと良いだろう。

 

「有り得ないとは思っていますが、万が一、もし、何らかの良くない圧力を受けている場合―― 」

 

 武内さんが声を潜める。

 

「はい――」

 

 自然と、俺も声を潜める形となってしまう。「良くない圧力」とは、穏やかじゃない言葉が出てきたな。

 

「その場合、助け舟を出していただけませんか? それが渋谷さん達のみならず、クローネの他のメンバーだったとしても」

 

 基礎レッスンをしていた、クローネのメンバーが脳裏に浮かぶ。――今は彼女達も、アウェーの状態だ。常務の肝いりという事で掛けられるプレッシャーは、並大抵のものではないだろう。

 

「――ええ。そのつもりです。元から自分達の目標は、そこなんですから」

 

 アイドル事業部全体を救う。――それは、仮に常務が選んだアイドルだったとしても、例外にならない。

 

「……お願いします」

 

「はい、任されました」

 

 ――秋ライブまで日がない。しっかりと様子を見てやらないと。

 

――――

 

 常務はいつもとあまり変わらない様子だったが、何処かご機嫌な空気が漂っていた。おそらく、渋谷さんのクローネ参加が決まったからだろう。

 

「まさか、引き留めるわけではあるまいな?」

 

 とは言え、俺の訪問に若干警戒しているようだった。……まあ、武内さんと一緒に、方針に難色を示し続けたからな。仕方がないのだろう。

 

「いえ、彼女達が自ら選んだ道です。邪魔する資格も、引き留める権利もありません」

 

「ほう、ならばどうした?」

 

 一呼吸置き、常務をじっと見る。

 

「クローネのレッスンに時折顔を出したいと思いまして」

 

「と言うのは?」

 

 無下に突っ撥ねるという事もなく、彼女は続きを言うように促す。

 

「グリーングラスについてですが、やはり彼女は私の担当アイドルです。そうなれば、彼女の成長が気掛かりになります」

 

「成長しないとでも?」

 

「全くの逆です。彼女の成長に合わせ、E.G.G.Sのレッスン内容も調整しないといけないと考えています。より高いレベルに」

 

 ふむ、と納得したように常務は鼻を鳴らす。

 

「つまり、君が担当するユニットの躍進のため、レッスンをみたいと言うことだな?」

 

「はい。おっしゃる通りです」

 

 さて、どうだろうか。これでも納得しないのであれば、まだまだ根拠は言える。「以前見学した」だの、「クローネ所属の数人とは顔見知り」だの、武内さんの名前を出さずに言える事はまだ沢山――。

 

「いいだろう。本業を疎かにせず、私の理想を邪魔しない範囲ならば、君がレッスンを見る事は咎めない」

 

 意外とあっさり決まってしまい、ずっこけそうになってしまった。……え? そんな簡単に決めていいのか?

 

「彼女達も、誰かの目がある方がレッスンに身が入るだろう。重ねて言うが、邪魔はしないでくれるな?」

 

「――はい、勿論です」

 

 なんと言っても、クローネは常務のみならず「所属しているアイドル達にとっても」起死回生のプロジェクトだ。元デュアルプリズムの二人にとってみれば、正に言葉通り。

 

「……ふむ。午後四時から、丁度基礎レッスンがある。以前と同じ部屋だ。早速顔を出してみてはどうだ?」

 

「はい、承知しました」

 

 常務に一礼して、そのまま部屋を出る。……すんなり決まりすぎて逆に怖いな。何か裏があるのだろうか。




■台本のくだり
ほぼほぼアニメ本編通りです。大きな違いは、E.G.G.Sと城戸Pがお邪魔しているぐらいですかね。


■城戸Pと常務の会話
「常務の方針に反対する立場」としてではなく、「一人のプロデューサー」としての交渉になっています。


次は秋フェス……の前の箸休め回です。
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