The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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クローネの練習風景です。


第49話 He visits girls put on the crown

 予定よりも一〇分ほど早くレッスンルームに入る。既に何人かがおり、柔軟で身体をほぐしている最中だった。

 

「――え、城戸さん?」

 

 真っ先に反応したのは神谷さんだった。その言葉に反応したらしい鷺沢さんと唯が俺の方を見て、駆け寄って来た。

 

「どしたの? ゆいに会いたくなっちゃった?」

 

「お久しぶりです、城戸さん。この前はろくにお話も出来ず、すみません」

 

 にかりと笑う唯と、ぺこぺこと頭を下げる鷺沢さん。――こうして見ると、なかなかに対照的な二人だ。

 

「ああいや、俺の事は気にすんな。一人のプロデューサーとして、レッスンを見に来ただけだから」

 

 部屋には――元デュアルプリズムと速水さん、それに鷺沢さんと唯、橘さんに宮本さんか。後一〇分もないはずなのだが、全然揃ってないな。特に、シンデレラプロジェクトの二人とダフネの姿がないのが気がかりだ。

 

「なあ、ダフネの姿が見当たらないんだが」

 

 俺の質問に答えたのは速水さんだ。

 

「ああ、あの子ね。周子と一緒に、志希を探しに行ったはず」

 

「また一ノ瀬さんか……」

 

 何だろうか。何となく双葉ちゃんを思い出すな。しかしまあ、ダフネは結構早い段階で打ち解けているらしい。そうでもなきゃ、何処かに行ったメンバーを探す事もないだろうし。

 

「連れて来たわよ、カナデさん……あら? プロデューサーさん?」

 

 噂をすれば、だな。失踪癖のある問題児は、塩見さんに羽交い締めにされてげんなりとしていた。

 

「よっ、ダフネ。俺はただの見学客だ」

 

「あら、いいのかしら? あたしにばっかり構って」

 

「そんぐれーで拗ねるような子達じゃないっての。……なんつーか、お疲れ様?」

 

「ホント、レッスン前から疲れたー」

 

 塩見さんはそのまま一ノ瀬さんを部屋の中央まで引き摺ると、ぐったりと伏してしまった。当の一ノ瀬さんは悪びれもしてないような顔でにんまりと笑うと、俺をじっと見る。

 

「……。――何かな?」

 

 無言の圧力に堪えきれず、つい訊いてしまう。

 

「……やっぱりおっさん?」

 

「おっさん……」

 

 転生している以上、強く言い返せないのがつらい。

 

「ちょっ、この人はまだ二〇代だろ! なあ城戸さん! ……え、もしかして、アラサー?」

 

 神谷さん、そういう事を訊かないでくれ。何だか虚しくなる。

 

「一応、二〇代、だぞ、うん、二〇代、だよな、うん」

 

「自分の年齢だろ! 自信持てって!」

 

「俺、そんなにオッサンぽいかな……」

 

「ううん全然! ピチピチのお兄さんだよ!」

 

「はい、傍目には歳を重ねているようにはとても」

 

 唯と鷺沢さんが必死にフォローしてくれた。……何だかちょっと情けないな、しっかりしないと。

 

「……城戸さん」

 

 続けざまに後ろから声を掛けられる。渋谷さんとアナスタシアさんだった。

 

「よっ、二人とも。見学に来たぜ」

 

 浮かない顔の渋谷さんと、驚いた様子のアナスタシアさんに声をかける。アナスタシアさんはこくこくと頷き、微笑んだ。

 

「城戸プロデューサー、宜しくお願いします」

 

「俺はただ見学するだけだけど……まあいいか。宜しく」

 

 一方の渋谷さんは、複雑そうな顔で神谷さんと北条さんを見る。二人は渋谷さんに向かってにこりと微笑むと、一回だけ頷いた。

 

「どうして城戸さんが? 敵情視察?」

 

「違う違う。本当に見学しに来ただけだよ」

 

 そもそも、敵視してどうすんだって話なんだけど。

 

「ほら、俺の事はいいから。二人と話したらどうだ?」

 

 レッスンの開始までもうすぐだが、少しぐらいは会話出来るだろう。渋谷さんもデュアルプリズムの二人を見て、小さく頷いた。

 

「うん。……私、頑張るから」

 

「当たり前だろ? ――頑張れよ」

 

 俺はいっちょ、見学と洒落込むか。

 

――――

 

 クローネの吸収力は、まるでスポンジと言ったところか。目に見えて、上達が早いような気がする。新人組の振付のキレも、この前より良くなった。ただ、拭えない問題はそこそこにあるようで。

 

「はー、はー……。もう、一回、お願いします!」

 

 特に、橘さん。アイドルとしての経験がないのもそうだが、一番年下という事もあり、体力面でついて行くのもやっとというような雰囲気だ。一方のダフネはある程度セーブしているようであり、息は上がっているものの、橘さんよりかは疲労困憊しているようには見えなかった。

 

「んー? しゅーこちゃんはちょっと休憩しようかなーって思ってるんだけど」

 

 塩見さんが橘さんに向かって言う。それに反応したのは宮本さんだ。

 

「じゃーフレちゃんもきゅーけー」

 

 ……思っていた以上に自由だな、ここも。とは言え、アイドルとしての活動が長い二人が休憩する事で、橘さんも休憩に――。

 

「秋ライブまで時間がないんですよ! 二人が休憩に入るなら、私は私で動きを確認しますから!」

 

 ……いや、素直に休めよ。横の鷺沢さんも辛そうだし。

 

「橘、さん……。その……少し、休んでは……」

 

 ほら、鷺沢さんも音を上げちゃってるよ。

 

「いいえ! ここが踏ん張り時です!」

 

 鷺沢さんの忠告を無視して、橘さんは振付の確認を行なう。疲れが溜まっているらしく、フラフラとおぼつかない足取りだ。

 

「橘さん、焦るのは分かっているが、休憩を挟め。変な癖がついても知らんぞ」

 

 流石に見ていられなくなり、橘さんに声を掛ける。彼女はキッと俺を睨みつけると、再びヘロヘロの身体で振付の確認に入った。――聞く耳持たずか。うーん、仕方がない。

 

「宮本さん、橘さんを止めてくれ」

 

 俺が指示すると、宮本さんはキョトンとしたような表情を浮かべた後、にやりと笑って橘さんに飛びかかる。

 

「ほれほれー! 頑張るありすちゃんはここかー?」

 

「下の名前で呼ばないでください! 抱きつかないでください! 邪魔しないでください!」

 

 ぎゃいぎゃい騒ぎ始めた二人に便乗してか、一ノ瀬さんも二人に飛びかかった。

 

「ん〜、二人ともいい匂い〜。ちょっと嗅がせて〜?」

 

「いいよー?」

 

「良くないです! 重いです、離してください!」

 

 ……少し予想外の事態になったが、まあこれで橘さんは休憩せざるを得なくなっただろう。抗議の視線を送る橘さんを無視して、ため息をついた。

 

――――

 

 俺の元にやって来たのは、速水さんだった。タオルで汗を拭うと、「ふう」と一息つき、俺に向かってにこりと微笑んだ。

 

「ごめんなさい。あの子、やると言ったら聞かない子で」

 

 ちらりと速水さんが橘さんの方を向く。橘さんはタブレット端末から目を離して俺を一瞥すると、再びタブレット端末を必死にいじり始めた。……何だか、相当嫌われたみたいだ。

 

「速水さんが気にする必要はないって。俺も見ていられなくなっただけだから」

 

 実際、鷺沢さんと共に体力の限界になっていたのだ。ここでぶっ倒れてしまっては、後々のレッスンに支障が出る。一ノ瀬さんも普段と変わらない様子ではあるが、相当に消耗しているみたいだし。……三人の体力が割とネックになっている気がする。

 

「ふふっ。ダフネちゃんの言う通り、ちゃんと見ているのね」

 

「はは、どうだろうな」

 

 あの二人は露骨にひどそうだったし、素人目にも分かりやすいと思うけどな。しかし、ダフネがそんな事を。感激しちゃうな。

 

「ダフネちゃん、結構城戸プロデューサーを褒めてたよね」

 

 塩見さんが話に加わってきた。「うんうん」と頷きながら、速水さんは続ける。

 

「あの子、結構あなたの事を信頼しているみたい。……裏切らないでね?」

 

 速水さんの試すような口ぶりに、笑って返した。

 

「当たり前だっての。俺はあいつのプロデューサーだからな」

 

 なんとはなしにダフネを見る。アナスタシアさんと話していた彼女は俺と視線を合わせると、小さく微笑んで手を振った。いつもと変わりない様子の彼女に、俺も小さく手を振って返した。

 

「……何だかさ」

 

 速水さんが声を潜め出した。ひそひそと宮本さんに耳打ちをするが、内容までは聞き取れない。宮本さんは速水さんの話を聞いて目を輝かせると、俺の方を向いた。

 

「付き合ってるの!? ダフネちゃんと城戸プロデューサー!?」

 

「わー! 直接訊くのはダメでしょ!?」

 

 ――何の話だよ。どうしてそんな話になるんだよ。つーか、犯罪だろそれ。

 

「えー? お兄さん、カノジョいるの!?」

 

 ほらー、他の子も来ちゃったし。

 

「ないからな。俺はいない歴イコール年齢だからな」

 

 ……自分で言ってて悲しくなってきた。前世からモテた試しがないからな俺。転生すればモテるなんて、ラノベやアニメだけの話だからな。モテない奴が転生した所でモテない。

 

「へー、ふーん、そう……」

 

「にやにやするの止めてくれないかな渋谷さん!?」

 

 全然面白くない話なんだけどな俺からしてみたら!

 

「お兄さんならモテると思うんだけどなー。どうしていないの?」

 

 唯が無邪気に訊いてくる。……そう言えば、考えた事なかったなそういうの。確かに、どうしてだろうか。「あ、あれじゃないかしら」と、ダフネが気付いたように手を打ち合わせる。……お前も聞いていたんかい。

 

「ほら、城ヶ崎美嘉と親戚だから」

 

「あー、なるほど」

 

 美嘉はアイドルとして活動する前から、読モとしてもかなり人気があった。高校生の頃も、男子女子問わずしょっちゅう美嘉の事ばかり訊かれてたっけな。だとすると、「城戸進ノ介」ではなくて「城ヶ崎美嘉の従兄」としてだけ見られてたって事か。……それはそれで虚しい。完全に付属品扱いじゃねえか。

 

「じょ、じょ、城ヶ崎、美嘉……!?」

 

 速水さんが目を見開き、口をぱくぱくさせる。同じように驚いた唯と顔を見合わせ、俺をまじまじと見る塩見さんの背中をばしばし叩く。

 

「従兄!? ……えっ!? 嘘!?」

 

 何だか久しぶりなリアクションだな。

 

「マジだよ。……えっちょっと待て、他の皆が驚く分にはいいんだが、どうして二人も驚いてんだ」

 

 あんぐりと口を開けて分かりやすく絶句している北条さんと神谷さんに訊く。君達、美嘉と部署同じだったよね確か? 少なくともちらっと耳にしたぐらいはあると思ってたんだけど。

 

「初耳なんだけど……ホントなの、凛?」

 

「美嘉さんも何も言ってなかったんだけど……!」

 

 二人はしたり顔で頷く渋谷さんに詰め寄る。……まあ、面識があるって知らなかったら、特に言う必要もない情報かもしれないけどさあ。

 

「ホントみたいだよ。結構前、二人でデートしてたみたいだから」

 

「……あ、あれはデートじゃないって! たまたま呼び出されただけだっての!」

 

 くそ、凸レーションのイベントの事を今更持ち出してくるなよ! 思い出すのに時間がかかったじゃねえか!

 

「じゃあデートじゃん」

 

 渋谷さん、何か不機嫌なんですかね? レッスンの最中は割と楽しそうじゃありませんでしたか!?

 

「モテモテじゃん!」

 

 唯が「嘘を言うな」とでも言いたげに睨み付ける。

 

「奏ちゃん奏ちゃん、どう思います? しゅーこちゃんはモテてるに一票」

 

「……キッチリやる事はやってそうね」

 

「おっ、一〇〇票入った!」

 

「ないないない! マジでないって!」

 

「……うーん、ゼロ票」

 

「一票の格差!」

 

 何をやるってんだ!? あの後現地解散一人飯の男に向かって、何が「やる事やってる」だよ! アレか!? 孤独のグルメごっこか!?

 

「あの、すみません」

 

 鷺沢さんが恐る恐る手を上げる。一旦場が静まり返ったかと思うと、皆が彼女の方を向く。

 

「どうかしたの? 鷺沢さん」

 

 速水さんが声をかけると、鷺沢さんはこてんと首を傾げ、不思議に思っているような口調で訊いてきた。

 

「その……城ヶ崎、美嘉、という方は、かなり有名なのでしょうか。私、聞いた事がなくて」

 

 ――えええ? マジでか?!

 

「えっ、知らないの!?」

 

 一斉にレッスンルームがどよめく。その反応にむしろ動揺した鷺沢さんはびくりと肩を震わせ、申し訳なさそうに付け足した。

 

「ごめんなさい、私、こういう世界には疎くて……」

 

 ……マジすか。疎くても知ってるもんだとばかり思ってたんだけどな。




■おっさん扱い
城戸Pは二回目の二〇代だから……(震え声)


■クールタチバナ
「多分嫌いなんだろうなー」と思い、このような展開になりました。


■従兄と知った時のリアクション
城戸Pからは城ヶ崎感がなかったという事で一つお願いします。


■孤独のグルメごっこ
ナスとナスで被ったりする。


次回に続きます。
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