The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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ちょっと長くなりました。


第5話 When is it your shutter chance

 エバンスさんの得手不得手が若干見えてきた。ダンスは得意らしいのだが、どうも歌は並のようである。

 

「だから、こう、自信を持って声を出すのよ。音程には問題がないから、後は気持ちの問題よ!」

 

 歌のレッスンを終えて合流した三人は、そのような話をしていた。

 

「自信……」

 

「そうね。歌に関して言えば、ハーミーの方が上だから。アドバイスは聞いておいて損は無いわ」

 

「ダフネさんがそう言うなんて、ちょっと意外だね」

 

「ちょっと、どういう事よそれ!」

 

 ……まあ、ダンスも出来て歌もべらぼうに上手い完璧超人ではなかったという訳か。逆に、一つ目の「歌に専念させる」プランだと少し苦しい展開になっていたかもな。

 

「さて、ハーミー先生の講座は後に回すとして、次はアー写を撮るぞ」

 

 アー写、アーティスト写真と言われるそれは、アイドルを始める三人にとって最初の得物になる。未だ実績がない彼女達を選ばせるには、写真の第一印象しかない。

 

「それで、学校の制服って訳ね」

 

「如何わしいわね、プロデューサーさん」

 

「俺の趣味じゃねーよ」

 

 たまたま今日が平日だっただけだっての。

 

「どういう人が、そのアー写ってものを見るんですか?」

 

 エバンスさんが右腕をすっと挙げて訊く。

 

「ん、主に番組だったりの制作会社の人とかが多い。トーク系の特番で雛壇を埋めるアイドルも、まずそれで決める場合があるしな」

 

 それが理由でバカ売れしたいい例が輿水幸子だ。他のアイドルもいる中で見事ないじられ芸を見せたことにより、バラエティー番組で引っ張りだこのアイドルとなった。……最近はリアクション芸人みたいな仕事が増えている気がするが、そこに関しては向こうのプロデューサーの手腕だろう。

 

「分かっていると思うが、アイドルとして初めての仕事になる。ただの写真撮影と侮るなよ」

 

 一昨日の三人組もアー写撮影には若干苦労した、という話を千川さんから聞いている。

 

「分かってるわよ! 気合い入れていくわ!」

 

「あらハーミー、力を入れすぎたらダメよ。自然体でいかないと」

 

「……しょ、証明写真みたいな感じじゃダメでしょうか」

 

「「それは絶対ダメ」」

 

 大丈夫だよな?

 

――――

 

 スタジオでは、既に撮影スタッフが準備をしていた。

 

「おはようございます。プロデューサーの城戸です。今日は、よろしくお願いします」

 

 俺がスタッフ一同にお辞儀をすると、三人も後に続くような形で会釈した。

 

「はい、よろしくお願いします」

 

 落ち着いた雰囲気の、長い黒髪の女性が応えた。

 

「今回撮影してくれる、チョウ・チャンさんだ。後々ちょくちょくジャケ写とかも撮ってもらうかもしれないから、きっちり挨拶しておけ」

 

 『ハリー・ポッター』シリーズにも同じような名前の登場人物がいたような気がするが、イマイチ思い出せないなあ。

 

 三人が挨拶をしている時に、一人の金髪の青年がぼそぼそとチョウさんに何かを伝える。

 

『……分かったわコリン。直ぐに準備しておいて』

 

『はい、用意しておきます』

 

 おっと、英語か。新しいアシスタントだろうか。少なくとも、俺は見たことがない人物だ。

 

「……ああ、彼? そう、新しいアシスタントのコリンよ。写真で食べていきたい、って私の所に転がり込んだの」

 

「へえ、凄いですね」

 

 俺の返答に、チョウさんは肩を竦めた。

 

「まだダメダメだけどね。――さて、メイクが終わったら始めていきましょう」

 

 パンパン、とチョウさんが手を叩きながら言うと、三人は顔を見合わせ、意を決したように頷いた。

 

――――

 

「わたしから行くわ。ハリエット、ちゃんと見てなさい」

 

 名乗りを上げたのは、やる気充分のハーミーだ。颯爽と白い背景布の元に行くと、カメラに向かって腕を組む。自信ありげな微笑を顔にたたえていた。パシャリ、とシャッターを切った後のチョウさんは、ハーミーとは対照的に微妙な顔だ。

 

「ちょっと違うかな」

 

「おいハーミー、『ラーメン屋の店主みたい』だってさ」

 

「誰も言ってないじゃないそんな事!」

 

 そうだけどさ。紺色のセーラー服を黒いTシャツにして頭にタオル巻けば、それっぽくなるし。

 

「グレンジャーさん、もっと雰囲気を柔らかく出来ない?」

 

 チョウさんの言葉にハーミーはうんうんうなり、その後にカメラに向かって首を傾げるような、いわゆる「あざとい」ポーズをする。お前普段そんなポーズしないだろ。

 

「……ごめん、やっぱり前の方向性でいいかな」

 

「え、ダメかしら?」

 

「少なくとも、ハーミーらしくはなかったわよ?」

 

 ダフネの言う通り、わざとらしいあざとさだとハーミーの持ち味が殺されてしまう気がする。自信満々で少し小生意気なくらいがハーミーらしいのだ。

 

「ラーメン屋の店主ってプロデューサーに言われたんだけど」

 

「悪かったって。普段と同じような感じでやってくれ」

 

 むう、と不機嫌そうに頬を膨らませて腰に手を当てたハーミーに、突如フラッシュが浴びせられた。

 

「城戸さん、これはどう?」

 

 チョウさんに訊かれ、撮影データを映し出すモニタを覗き込む。普通ならば威圧感があるポーズなのだが、小動物感があるハーミーがする事により、威圧感は抜け落ちていた。

 

「あら、いいんじゃない?」

 

 俺の後ろからモニタを覗き込んでいたダフネも、ご満悦のようである。チョウさんは新人アシスタントに何かを英語でぼそぼそと言っている。……『常に』とか『気を抜かずに』とか言っているし、アドバイスか何かをしているのだろう。

 

「……え? 終わったの?」

 

「みたい、だね」

 

 エバンスさんに言われ、ハーミーは納得しかねる様子で戻ってきた。モニタに映っている画像を見て、ハーミーは眉をしかめる。

 

「ホントにこれでいいの? 笑ってないけど」

 

「私はいいと思っているわ。城戸さんは?」

 

「ハーミーらしいから、俺もこれでいいと思いますよ」

 

 アー写において必須であるのが「その人らしさ」である。「人は見た目が九割」と言われるような世の中、逆に言うと一枚でその九割を相手に伝える必要があるのだ。作ったような表情の写真だと、「らしさ」が伝えられずにそのまま埋もれてしまう事も有り得る。

 

 今回のハーミーの写真はその点で言うならば、「自信満々で少し小生意気な感じ」が伝わるのでいいアー写と言えるのだ。

 

「納得いかないんだけど」

 

「『いい』って言われてるんだから胸を張りな。――次は誰にするんだ?」

 

 俺が訊くと、ダフネが悠々と背景布に向かう。

 

「次はあたしでいいかしら?」

 

 ハーミーの撮影を見て要領を掴んだらしい。ハーミーと同じく、紺色のセーラー服――学校が同じだから当然だが――を着ているダフネは、上体を少し下ろし、口元に右手の人差し指を添える。目線はカメラを向いているので、自然と上目遣いになっている形だ。

 

「いいわね、もう少し笑えるかしら?」

 

 チョウさんの指示に応じ、妖しい微笑をたたえるダフネ。撮影の筋がとても良いみたいだ。一三歳にしては成熟している体つきなので、撮影前にダフネ自身が言っていた「如何わしい」の意味が何となく分かった。これじゃそういう店のやつじゃないか。――いや、余計な事を考えるな俺。今は仕事に集中していかないと。

 

 モニタに並んだ画像データのどれをとっても、文句無しの出来栄えだ。ポーズも数種類ほどあるが、最初のポーズから選ぼうか。別のやつは何だか如何わしいし。

 

「これとかどうです?」

 

 チョウさんが指さしてきたのは、最初のポーズで微笑を見せ、ウィンクしている写真だ。

 

「うん、良いですね」

 

 年齢不相応な、大人の色気。ダフネらしさが出ている気がする。

 

「……プロデューサーは、そういう女性が好みなんですか?」

 

 エバンスさん、どうして睨んでいるんですか。

 

「変態」

 

「どうしてそうなるんだハーミー」

 

 俺は仕事を全うしているだけだ。罵られる覚えはない。

 

「はいはい、最後はエバンスさんね」

 

 チョウさんが助け舟を出してくれたお陰で、俺への追及は一先ず中断された。流石、デキるオトナは違う。

 

 エバンスさんは背景布を背にして立つ。「気をつけ」の姿勢で、微動だにしない。これじゃ証明写真じゃないか。

 

「ハリエット、もっと動いて!」

 

 ハーミーのアドバイスを聞き、慌ててくるりと一回転したりジャンプしたりするエバンスさん。しかし、その表情は固い。

 

「うーん……」

 

 シャッターを切るものの、チョウさんもしっくり来ないようで首を傾げる。すると、突然新人アシスタントの方を向き、英語で指示を飛ばす。

 

『コリン、準備していたもの出しておいて』

 

 新人アシスタントは『はい』と威勢よく返事をすると、何処かへと去っていった。

 

「『準備していたもの』って何かしら」

 

「何かしらね」

 

 ハーミーが俺に尋ねる。そうか、ハーミーもダフネもバイリンガルだったな。

 

「知らんな。ただ、あの新人くんも『用意しておく』とだけ言ってたし」

 

 予想がつかない訳ではない。シンデレラプロジェクトの時はボール遊びで緊張を解きほぐしたらしいから、エバンスさんにも同じようにボールが渡されるのだろう。

 

 気付くと、ハーミーとダフネは、意外そうな表情で俺を見ていた。

 

「……プロデューサー、英語出来るの?」

 

「ここに来て意外な特技発見、って所かしら」

 

「あのなあ、どうして二人に俺が付けられたと思ってたんだ?」

 

 「英語圏出身の子達だから、君なら何とかなるでしょ」という空気で、まだ入社間もない俺が担当する事になったのだ。――実際には二人とも、更には後に加入したエバンスさん全員日本語が達者だったので、ほとんど意味を成していないが。そもそも、346プロにやって来る外国人はほぼ全員、日本語が達者だし。

 

「っと、新人くんが戻ってきたみたいだ」

 

 彼の手に収まっているのは、蛍光色の小さいボールだ。予想通りである。彼は、チョウさんにボールを手渡す。

 

「エバンスさん、少し息抜きしましょう?」

 

 チョウさんはそう言うと、エバンスさんに向かってボールを投げる。不意に投げられたボールをエバンスさんは……おお、しっかりキャッチしたか。

 

「息抜きですか?」

 

 チョウさんは頷くと、俺に向かって目を合わせ、ウィンクする。……分かりましたよ、チョウさん。

 

「ほら二人とも。少しエバンスさんの相手をしてやれ」

 

「えっ、でも」

 

「いいじゃない、ハーミー。行きましょ?」

 

 少し渋ったハーミーの腕を引っ張り、ダフネはエバンスさんの元に行った。

 

「……タイヘン、ですネ」

 

 三人の様子を見ていると、新人アシスタントが急に話しかけてきた。片言の日本語である。

 

『ええ、そうですね。中々骨が折れますよ』

 

 新人くんは、驚いたような顔をしてにっこりと微笑む。

 

『英語出来るんですね! いやあ良かった、日本語は難しくて! ……あ、コリン・クリービーって言います! よろしくお願いします、プロデューサーさん!』

 

 俺が英語で応えるや否や、青年は饒舌になる。本来の性格は気さくらしい。

 

『勉強中なんですよね?』

 

『はい、もう死ぬ気でやってますよ。日本人は凄いですね。あんなに文字の種類があるなんて、予想していませんでしたよ』

 

 何気なく三人の方を見る。バレーボールのようなトスが続いていた。この三人も、死ぬ気で日本語を習得したのだろうか。

 

『……チョウさんに弟子入りしたと聞きましたけど、やっぱり写真関係の仕事に?』

 

『ええ。モデル関係やアイドル関係の撮影をやって行きたくて』

 

 成程、アイドル関係の仕事をしていくならば、日本が何かと都合がいい。国全体が激戦区みたいなものだし、需要も多い。その分、ライバルも多いのだが。

 

『そうは言うけど、私も本当は自然写真家志望よ。日本の滝に魅せられて来日したし』

 

 チョウさんはトス合戦をしている三人をじっと見ながら、こちらに口を挟んできた。

 

『え? そうなんですか』

 

『バイトが本職になった感じね』

 

 へえ、そういうパターンか。

 

「うわっ、プロデューサー危ない!」

 

 ハーミーの警告が飛ぶと同時に、右の横っ腹に衝撃が走る。

 

「うっ、ぷ……!?」

 

 めっちゃくちゃ痛え! 一体なんなんだよ! 待って、立てねえんだけど!

 

「ごめんなさいごめんなさい! スパイクの狙いが狂って!」

 

 エバンスさんがしきりにぺこぺこ頭を下げる。やべえぞこの眼鏡っ子。バレーで人を殺せるんじゃねえの?

 

「ハーミー、避けちゃダメよ?」

 

「無理よ! すっごい怖かったもん!」

 

「うわああ大丈夫ですかプロデューサー! 返事をして下さい、プロデューサー!」

 

「だ、大丈、夫……生きてる……」

 

『めり込んでましたよ!?』

 

『落ち着きなさい、コリン、えっと、湿布! 湿布は!?』

 

『大丈夫ですチョウさん……っつう……痛みが引いてきたんで……』

 

 機材一式に飛んでこなかったのが不幸中の幸いか。俺のあざなら湿布一枚で済むが、カメラを壊したらどれだけ弁償しなきゃいけないのやら。

 

「緊張は……とれた? エバンスさん……いたた」

 

「取れました! 取れましたからじっとして!」

 

「ハリエット、泣いちゃダメよ! プロデューサーの犠牲を無駄にしないで!」

 

「勝手に殺すなハーミー……」

 

 よろよろと何とか立ち上がり、コリンが用意してくれたパイプ椅子に座る。ふう、落ち着いてきた。

 

「あんな事があった直後で悪いけど……どう? エバンスさん、いけそう?」

 

 チョウさんが声を掛けると、エバンスさんはズレていた眼鏡を両手で直し、決意したように言う。

 

「……プロデューサーの遺志を無駄にはしない。チョウさん、やります。やらせて下さい」

 

「だから勝手に殺さないで」

 

 生きてますよー、ボロボロだけど生きてますよー。

 

「……エバンスさん、もう一回眼鏡の位置を直してくれるかしら?」

 

 チョウさんが人差し指を一本、ピンと立てながらエバンスさんに言う。

 

「……へ? こうですか?」

 

 チョウさん――正確にはカメラの方を向きながら、エバンスさんは眼鏡の位置を再び直す。その瞬間、チョウさんはシャッターを切った。パシャパシャパシャ、と何回も音が鳴っている。

 

「これでどうです?」

 

 モニタには、眼鏡に手をかけたエバンスさんの画像データが並んでいた。確かに、眼鏡の弦を両手の指で抑えている様は、写真集の一ページに載っているようなポーズだ。彼女は今日、ブレザーではなく白いカーディガンを着ているので、袖が若干余っているのも絵になる。

 

「いいじゃない! ね、プロデューサー!」

 

「ああ、いいと思う」

 

 興奮しきりのハーミーに賛同する。

 

「普段からそうやって眼鏡を?」

 

 ダフネがエバンスさんに訊くと、彼女はこくりと頷く。

 

「はい。……直した方がいいですか?」

 

「まさか。直す必要はないよ」

 

 俺の脇腹という犠牲はあったが、無事に終わったみたいだ。チョウさんは、俺の方を向いて訊く。

 

「……労災とか降りるの?」

 

 降りなさそうだけどなあ。




■チョウ・チャン
ハリポタキャラの輸入シリーズ。それっぽいという理由でカメラマンにした。


■コリン・クリービー
ハリポタ原作ではこちらがカメラ小僧キャラ。素で忘れかけていたのは内緒。


原作キャラとの絡みはもう少し後になりそうです。
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