The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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クローネ訪問回後編です。


第50話 The Cinderellas who put on Krone

 タブレット端末を操作し、画面を文香さんに見せた。

 

「はい、文香さん。この人です」

 

 しきりに更新が行なわれているネット百科事典の記事を一読した文香さんは、「ほへえ」と言葉にならないようなため息をついた。

 

「凄いお方なんですね。城戸さんの従妹さんは」

 

「……正直、あの人が親戚って事は信じられませんけど」

 

 今もこうして、女の子に囲まれてヘラヘラしてる。346プロダクションのプロデューサーだと言うのに、恥ずかしい人だ。

 

「何だか、信用できません。急にやって来て、急に休憩を挟んで。おまけに軽い人じゃないですか。信用しろっていう方が無理です」

 

 私がきっぱりと言い切ると、文香さんは未だに女の子とじゃれ合っているダメ男を眺めて、小さく笑った。

 

「――私はそう思いません。城戸さんは、気さくで話しやすい方ですが、軽い人だとは思えません」

 

「……気さく、ですか」

 

 文香さんの言う通り、美城常務よりかは話しやすい印象はある。……でもそれは、ただ単に雰囲気が怖くないってだけの話で、「信用出来るか出来ないか」と言った事には結び付かない。

 

「はい。今日こうして来たのも、新しく入った三人を心配しての事じゃないかと思っています。……ほら、渋谷さんを見てください。リラックスしていますよ」

 

 文香さんに促されて、今日から本格的にレッスンに入った、綺麗な長い黒髪の人を見る。部屋に入った時の沈んだ表情は消えていて、ダメ男の様子に顔色をコロコロと変えていた。

 

「あれは、リラックスしていると言えるんですか?」

 

 私には、情けない兄貴分をたしなめる妹分にしか見えない。なんと言うか――比較的、むすりとしている表情の方が多いような気がする。

 

「ふふっ、リラックスしていると思いますよ」

 

 文香さんが何を感じ取ったのかは分からない。ただ、私からして見れば、城戸進ノ介という人物は、結局女の子に囲まれて調子に乗っているようにしか見えなかった。

 

――――

 

 速水さんが物凄い剣幕で、一ノ瀬さんに詰め寄る。

 

「さあ、どう? どうなの志希!?」

 

 一ノ瀬さんは俺の臭いをすんすんと嗅いだ後、「う〜ん」と考えるように唸った。

 

「……特に、美嘉ちゃんだっていうカンジの匂いはしないかな〜。特に、特定の女の子ってカンジでもないと思うけど……やっぱりオッサン?」

 

 だからオッサン扱いはやめてくれよ。前世の享年も転生した後の今もピチピチの二〇代なんだから。

 

「……ホントだったんだ〜」

 

はああ、と脱力したような声を上げて、周りのアイドル達は脱力した。

 

「なあんだ。面白くない」

 

 北条さんがぽつりと零す。唯はそれに「でもでも」と言葉を続ける。

 

「つまり、お兄さんはフリーって事じゃん!」

 

「うんうん、それでこそ城戸さんだよ」

 

「渋谷さん渋谷さん、その言葉の意味について詳しく聞き正したいんだけど」

 

「女の気配がないのはあたしが保証するわ。いつも仕事の話ばかりだから」

 

「もう少し早く保証して欲しかったなダフネ!」

 

 そんな話をしている折、鋭く抗議するような視線を感じる。……橘さんか。彼女は俺と視線が合うと、軽蔑したように鼻を鳴らし、再びタブレット端末に視線を落とした。……なんつーか、やっぱり嫌われてんのかな、俺。

 

 苦笑すると、唯が訊いてきた。

 

「どしたの、お兄さん?」

 

「ああ、いや、気にしないでくれ」

 

 橘ありす。少し前に左さんが言っていた、「常務に先を越された子」だ。……あの子は俺や左さんよりかはむしろ、武内さんに信頼を寄せそうなタイプの子だな。ま、鷺沢さんもいるからフォローはしてくれるだろうし、俺が気にする事でもないだろう。

 

「ほら、休憩は充分だろ? そろそろレッスンに戻った方がいいと思うけどな」

 

 話を切り上げようとして言うと、一ノ瀬さんが「えー」と不満を露わにする。……まあ、あの二人に次いで体力がないらしいが、鷺沢さんと橘さんも体力は回復したみたいだし、一ノ瀬さんだけ回復してないなんて事ないだろう。

 

「……悪いが速水さんに塩見さん、頼めるか?」

 

「ええ、分かったわ」

 

「仕方ないかー」

 

 床の上に寝そべった一ノ瀬さんを半ば引き摺るように引っ張り、速水さんと塩見さんは俺から離れる。

 

「それじゃ、唯も行ってこい」

 

「うん! またお話しようね、お兄さん!」

 

 唯はスキップするような足取りでレッスンに向かっていった。

 

「……それじゃ、三人も。次はボーカルレッスンだったな。しっかりやって来い」

 

「ええ、そうするわ、プロデューサーさん」

 

「ダー。頑張ります」

 

 ダフネとアナスタシアさんはそれぞれ離れていったが、渋谷さんはむすりとした顔で俺を睨み付けていた。

 

「……渋谷さん?」

 

 睨み付けられている理由がよく分からず、探るように訊いてしまう。

 

「ほら、凛! レッスンだから!」

 

 神谷さんが声をかけてやっと、渋谷さんは渋々とレッスンに向かっていった。……依然として、俺を睨み付けたまま。

 

「何なんだよ一体……」

 

 北条さんはにやにやしながら、俺と渋谷さんを交互に見ていた。

 

――――

 

 陽光が入りにくい事もあり、プロジェクトルームは薄暗かった。それでもカビやホコリの臭いがしないのは、前から使っていた城戸がこまめに掃除をしているからだろうか。

 

「……それでは、島村さん」

 

 武内は目の前に座っている島村に向かい、シンデレラプロジェクトの他のメンバーにしたものと同じ質問を投げかける。

 

「今後、挑戦してみたい仕事はありますか?」

 

 武内の目の前の島村は、目を泳がせながらも返事をした。

 

「今後やりたいお仕事ですか? ステージもCDもラジオ出演もしましたし……」

 

 指を折りながら今までの仕事を振り返った島村は「えっと……」と言葉に詰まる。

 

「……テレビも! ……出ましたから、このまま三人で頑張りたいです!」

 

 三人、と言うのは補足するまでもなく、ニュージェネレーションズの事だろう。……しかし、ニュージェネレーションズの他の二人は、既に他の仕事で手一杯になりつつある。本田は舞台の稽古、渋谷はプロジェクト・クローネで。

 

「島村さん個人としては、どうでしょうか」

 

 だから武内は、こう言う他なかった。ニュージェネレーションズとして以外の仕事を、「ニュージェネレーションズの島村卯月」ではなく、「アイドルとしての島村卯月」として、どのような仕事をしたいのか。

 

「え? わ、私……」

 

 島村は再び、言葉に詰まってしまった。武内は、手元の資料を島村に手渡す。

 

「あくまで提案なのですが、小日向美穂さんとユニットを組んでみるのはどうでしょうか?」

 

 この話は、小日向側のプロデューサーから提案されたものだった。『舞踏会』までという条件付きではあるが、同じく辛酸を舐めている小日向とユニットを実験的に組んでみたいといったものだ。白羽の矢は、島村に当たった。

 

「タイミング的にこの企画は、秋のライブ合わせとはいかないのですが……」

 

 今から秋ライブに向けて合わせるには、時間がどうしても足りない。――これは他のメンバーに関しても同じことだった。しかし、秋ライブに間に合わないとしても、『舞踏会』には何とか間に合う。島村に提案されている企画もまた、その一つだった。

 

 島村は資料を眺めながら、複雑そうな表情を浮かべていた。……きっぱりと拒否をする姿勢を見せないという事はつまり、「脈あり」の企画なのだろう。

 

「わ、私……」

 

「島村さんも、色々学べる事があるかと。なにか新しい事に挑戦して、ニュージェネレーションズを」

 

 武内がそこまで言った時、島村は跳ね上がるように立ち上がった。

 

「やってみます!」

 

 その勢いは、彼が想定しているものではなかった。多田や前川に関して言えば木村や安部の名前が出た途端に食いついたし、諸星や双葉はお互いに冷静なままだったが、それは武内の想定からは離れていなかった。――島村に関していえば、話を一通り終えても、渋谷のように逡巡してしまうものだと思っていたのだ。

 

「プロデューサー、是非、やらせてください!」

 

「……分かりました。向こうに伝えますので、明後日のレッスンから小日向さんとレッスンを行なってください」

 

 とは言え、これでシンデレラプロジェクトの他のメンバーも新しい事を始められるようになった。武内はまず、その事に安堵のため息をついたのであった。

 

――――

 

 ボーカルは鷺沢さんと橘さんのポテンシャルが高い。常務もその事を分かっていたのだろう、二人の曲は激しい振付がなさそうな曲だし。……意外とあの人もやるな。

 

「ダフネ、うかうかしてられねーな?」

 

 俺が茶化すように声を掛けると、彼女は「そうね」と笑いながら返した。

 

「でも、これからよ? しっかり見てて頂戴ね?」

 

「ああ、期待しとくぜ」

 

 ソロ曲でステージに立つともなれば、誤魔化しやフォローが効かない。しっかりとパフォーマンスしてもらいたいものだ。

 

「城戸プロデューサーは、これからもクローネのレッスンを見るのですか?」

 

 アナスタシアさんが訊いてくる。

 

「ああ、時間が許す限りは顔を出そうと思う。……つっても、数えるぐらいかもしれんがな」

 

 正直な所、全体レッスンは秋ライブまでだと後一回か二回ぐらいしか見学出来ないかもな。まあ、少し時間を置いた方が上達した所も分かりやすいかもしれないし、大きな問題にはならない。

 

「ホント!? お兄さんとまた会える?」

 

 唯がやけに食い付いてくるな。

 

「もしかしたらな。唯もちゃんとレッスン頑張れよ? 日々の努力が出てくるから」

 

「うん! 頑張る!」

 

 天真爛漫な笑顔を見せる唯に、俺も微笑む。欲を言えば、俺がいるどうこう関係なしに頑張って欲しいけど。それでも、モチベーションの一端を担えるならいいか。

 

「……ふーん」

 

 何故か渋谷さんの視線が痛い。

 

「渋谷さんも、ちゃんと頑張ってくれよ? トライアドプリムスは、合わせるにはギリギリな所があるから」

 

 曲の方は問題ないとしても、振付の合わせはまだ万全じゃないはずだ。ボーカルの方もやりつつ、振付の確認も急がなければ秋ライブには間に合わないだろう。

 

「北条さん、神谷さん。武内さんに代わって言うけど、渋谷さんをよろしく頼む」

 

 北条さんと神谷さんは顔を見合わせると、落胆したようにため息をついて頷いた。

 

「……分かった。任せてね、進ノ介さん」

 

「おう、武内さんにも伝えておくよ」

 

 何だか北条さんの返事に違和感があったが、それがどのようなものなのかはよく分からなかった。

 

「それじゃ、俺は別の仕事に――ってえ!?」

 

 扉に向かう最中で、背中に鈍い痛みが走る。……この手の痛みは、彼女以外にないだろう。

 

「……渋谷さん? どうかしました? 俺に何か落ち度が――ったい! 痛い、痛いって!」

 

 渋谷さんは無表情で、俺の背中を淡々と叩き続ける。

 

「ちょっ――止め、誰か止めて! 北条さん!? 神谷さん!?」

 

 情けない声になってしまったが、にやにやと笑いながらこちらを見ている二人に向かって助けを求める。

 

「いやー……。気付かない城戸さんが悪いと言うかなんと言うか」

 

「奈緒にしては、珍しく意見があったね」

 

「二人とも!? 助けて――痛い痛い痛い! 渋谷さんも早く止めてくれ! あっ、待て、グーパンはなし! グーパンはなしだって……やめ、やめろぉ!」

 

 結局、渋谷さんは五分以上も俺の背中を叩いていた。

 

――――

 

 未だに痛みが残る背中をさすりながら、武内さんの話を聞く。

 

「そうなんですね、皆が『舞踏会』に向けて」

 

 武内さんは背中をさすり続けている俺を訝しむような目で眺めながらも、「ええ」と答えた。

 

「はい。そちらの方も、特に問題がないようで安心しました」

 

「はい。むしろ他の皆を引っ張ってくれている印象でした。トライアドプリムスについてはギリギリになると思いますが、間に合わない事もないかと」

 

 北条さんや神谷さんの二人もからっきしダメと言う訳では無いので、人前で見せられるぐらいにはなるだろう。

 

「しかし、急ですよね常務も。秋ライブに初ステージとは」

 

 俺がそう切り出すと、武内さんは渋い顔になった。

 

「はい。――余計なプレッシャーがかからなければいいのですが」

 

 E.G.G.Sやラブライカ、ニュージェネレーションズみたいにもう少し小さいところでデビューライブを行なうとかすればいいものを。――だが、常務には常務で、彼女なりの考えがあるのだろう。

 

「申し訳ありませんが、本番の時にも彼女達を気遣ってくれませんか?」

 

 武内さんがそう訊いてきた。……E.G.G.Sも気にはなるのだが、確かにクローネも気にはなる。

 

「分かりました。自分も気がかりでしたから」

 

 薄暗い二人きりのプロジェクトルームで、武内さんは小さくこくりと頷いた。




■クールタチバナ
レッスンを急に止められたので、城戸Pの評価はあまり良くないです。


■しぶりんラッシュの原因
加蓮の呼び方にヒントがあったりなかったり。


■城戸Pと武内Pの会話
不穏な空気を醸し出してますが、多分そんな事はないと思います。


次回は箸休め回になります。箸休め回が多過ぎる……。
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