The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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今更ながらルパパト見始めたんですが、めっちゃ面白いですね。


第6話 What's the matter of her

 デビューライブ、とは言えども、その正体は「先輩アイドルユニットの前座」である。

 

 その実、E.G.G.Sはそこまで期待されているユニットである、とは言えない。765プロが進めている「三九人の新人アイドルを発掘しよう」と言うような、余りにも大型なプロジェクトなら予算が降りるかもしれないが、「新人アイドルのためにステージを用意しよう」とは中々ならないのだ。

 

 そこで、最初は先輩アイドルのライブの前座として出演する所から始めていく。ステージに立つ経験やメディアの露出を徐々に増やしていき、知名度が上がれば無事346プロダクションの定例ライブに出演する、という流れだ。

 

「正直、いきなり単独ステージっていうのも気が重いから、それぐらいが丁度いいわね」

 

 ハーミーの言う通り新人にいきなり単独ステージというのもハードルが高いし、それぐらいが丁度いいのだろう。それ故に、あの三人の参加はイレギュラーだし、提案をした美嘉も常軌を逸しているのだ。所属して一か月も経っていない新人を、バックダンサーとはいえ数千人規模のステージに立たせるのだから。本番で足が竦んでしまわないか心配である。

 

「先輩アイドル、ということはやっぱり、挨拶をしっかりしていないと芸能界から干されたりするんですか……?」

 

「大丈夫よエバンスさん。そこまで厳しい人は346にいないから」

 

「とは言っても、あまりに失礼だと駄目だからな。まあ、三人とも分かってはいると思うが」

 

 それに、あくまで「346にいない」だけであり、外部の人間はまた別問題である。「346の中だから」で気を抜いてしまうと、噂が社外に漏れてしまった時に大きなディスアドバンテージになってしまう。外聞を気にするならば、内輪の時にも気をつけなければいけない。

 

「それで、今日のボーカルレッスンの調子はどうだった? 特にエバンスさん」

 

 俺が話題を変えると、エバンスさんの顔が露骨に曇った。そこまで嫌味な質問をした記憶はないんだけど。

 

「まあ、前よりは良くなってはいるわ、うん」

 

「……そうね。上手くなってはいるわよ、プロデューサーさん」

 

 どことなく、二人の反応もよろしくない。

 

「……ちょっと、芳しくない感じか」

 

 困ったな。CDの収録を少し遅らせなきゃいけないのだろうか。振付についてはほとんど心配がないので、どうも不安が残るボーカルレッスンの方を優先してはいるのだが。デビューライブに間に合わない、なんて事態になってしまっては万事休すである。

 

「ごめんなさい、プロデューサー。ぼくがもう少し、歌が上手ければ」

 

 エバンスさんはしょんぼりとした表情で、俺に謝ってきた。

 

「何、気にするほどじゃないって。エバンスさんにはダンスがあるんだから」

 

 俺がそこまで言ったところで、内線が鳴る。子機をすぐに手に取った。

 

「はい、アイドル事業部、城戸です……。はい、はい……え?」

 

 ……新しい問題が出てきたみたいだ。

 

――――

 

 人に対して親切心で行なった行動が、回りまわって迷惑になる場合がある。家族の部屋を掃除してあげたら、「置き場所が決まっているものが何処かにいった」だの、洗濯機を回してあげたら「お気に入りの服が縮んでしまった」だの。――今回の話も、下手をするといわゆる「ありがた迷惑」というものになりそうだった。

 

「……最後に全体曲を、先輩アイドルと一緒に歌う!?」

 

 真っ先に食いついてきたのはハーミーだ。

 

「でも、どうして?」

 

「向こうの気遣いだ。『せっかく出るんだから、前座だけというのも寂しいだろう』とさ」

 

 本来ならば、顔見せをして「Union-jAck」を披露して終わり、という流れだった。しかし、シンデレラプロジェクトも控えている中、それだけではインパクトが弱いと向こうのプロデューサーが考えたのだろう。そこで、最後に全体曲を追加、E.G.G.Sもステージに再び上がって共演する流れとなったのだ。

 

「歌う全体曲はなにかしら? やっぱり『お願いシンデレラ』?」

 

「概ねそんな感じだ。二人はいけるだろうが……」

 

 エバンスさんの方を見る。彼女は、顔を真っ青にしてわなわなと震えていた。

 

「……踊るだけじゃ、ダメですか?」

 

「駄目だな」

 

 「お願いシンデレラ」は、どちらかというとボーカル寄りの曲である。激しいダンスでごまかす、といったような技は通用しない。そもそも、そんなことをしても観客には直ぐにばれる。

 

「急ピッチで振付の確認をしてくれ。あと、エバンスさんのボーカルレッスンもできる限りサポートしてほしい」

 

 養成所にいたハーミーとダフネに関しては、この曲の心配はないだろう。エバンスさんも、振付に関しては問題がないと考えていい。つまり、目下の問題はエバンスさんの歌だ。

 

「分かったわ。任せてプロデューサー!」

 

「エバンスさん、何か分からない事があったら、あたし達に訊いてね」

 

「はい、二人ともお願いします!」

 

 ……ゴールデンウィークは返上だな。

 

――――

 

 今日は346プロの定例ライブ当日……なのだが、E.G.G.S一同はボーカルレッスンである。今西部長からも「担当アイドルに付き合ってあげたらどうだ」と言われ、俺も様子を見る事にした。……ボーカルレッスンを見学するのは初めてだ。今までは打ち合わせや会議が重なり、顔を出すことすら出来なかった。とは言え、顔を合わせたら様子を尋ねるぐらいはしていたのだが。

 

「おはようございます。よろしくお願いしますね」

 

 入ってきたのは、緑色っぽいTシャツにダークグレーのトレーニングパンツを履いた、柔和そうな女性トレーナーだ。この人は三女だっただろうか。四姉妹全員、そっくりな顔に似通った格好をしているせいで、あまり見分けがつかない。

 

 よろしくお願いします、と三人の挨拶が聞こえたところでレッスンが始まる。さて、エバンスさんの実力はどんなものなのやら。

 

「……エバンスさん、もう少し声を大きく、お腹から声を出す感覚で」

 

「は、はい!」

 

 ……二人と比較すると、声が小さいらしい。聞いている感じ、音程が大きくズレている訳でもないようだ。問題点は声量だけなのか。だったら、まだどうにかなるだろう――。

 

「じゃあ、次は全体曲です」

 

 トレーナーがそう言った途端、エバンスさんの表情がぴきりと固まる。

 

「……ん? ダフネ、エバンスさん一体どうしたんだ」

 

 俺が訊くと、ダフネは肩を落としながら言った。

 

「エバンスさん、まだ歌詞を覚えていないみたいなの」

 

「……えっ」

 

 マジですか。

 

 346プロのみならず、世間的に見ても「お願いシンデレラ」は有名な曲である。定例ライブにおいて、セットリストの一番上に位置し、それに故にメディアでの露出も非常に多い。「Union-jAck」がE.G.G.Sの看板と言えるならば、「お願いシンデレラ」は正に346プロダクションの看板曲なのだ。実際、カラオケで歌われる346プロの楽曲の中ではダントツの一位だし、テレビ番組で所属アイドルが紹介される時もオンボーカルでBGMに使われる事が多い――仮に、ライブで一度も歌った事がなかったとしても。

 

 それだけ聞く機会が多く、下手をすると「346プロは知らないが、その曲は知っている」とまで言わせるぐらいにはしきりに流れている。その歌詞を、この子は覚えていないと言うのか。

 

「ごめんなさい! 聞き覚えはあるんですけど、歌詞まではしっかり出て来なくて」

 

 エバンスさんは、俺に向かって頭を下げる。いわゆる、うろ覚えというやつか。

 

「えっと、歌詞の確認とかはちゃんとして来たんだよな?」

 

 エバンスさんが答えるよりも先に、ハーミーが口を挟んできた。

 

「サボっている訳じゃないわ。休憩中は何回も確認しているし、カラオケで練習もしたし」

 

 ハーミーの証言に、ダフネもこくこくと頷く。――別に疑っていた訳ではないのだが。ただ一人、エバンスさん本人だけが申し訳なさそうに顔を下げ、じっとしていた。

 

「問題点が分かっただけいいって。……しかしどうしようかな」

 

 歌詞の覚えが悪いという問題は、レッスンを重ねたからどうにかなるという話ではない。まだ今は二曲だからいいものの、ユニットの曲が増えたり、全体曲をもっと習得していくといった段階になると無視ができない問題に発展していく。

 

 出来れば、早いうちから対処をしておきたい問題だ。

 

「……ごめんなさい。ぼくが、ぼくがもっと、要領良く覚えることが、出来たら……」

 

 エバンスさんの目は、涙が零れ落ちそうなくらいに潤んでいた。

 

「……プロデューサー、ハリエットを泣かせたわね?」

 

「ち、ちがっ、違うってば! ああもう、エバンスさんも泣かないで!」

 

 ハーミーがじっと俺を睨む。ダフネはだんまりを決め込んでいるし、これじゃ俺が泣かせたみたいじゃないか!

 

「ごめっ、ごめんなさい、そんなつもりじゃ」

 

「いいから落ち着いてエバンスさん! えっと、えーと……あった、ティッシュ! トレーナーさん、すみません、すみませーん! 一旦休憩で! 十分ほど休憩でお願いしまーす!」

 

 わたわたとポケットティッシュを取り出してエバンスさんに渡しながら、トレーナーさんに声をかける。

 

「プロデューサーさん、大慌てね」

 

「昔っから慣れないんだよ。女の子が泣いているのは」

 

 十五年ほど前は、従妹の喧嘩を収めるのは俺の役目だった。両方とも話を聞いていたらぴーぴー泣くものだから、こちらとしてはたまったものじゃない。俺が泣かせたみたいな空気になっちゃうし。

 

「ちょっと、一体どういう事? プロデューサーがアイドルを泣かせるなんて」

 

 そうそう、こんな感じに――。

 

「……へ?」

 

 少なくとも、E.G.G.Sのメンバーやトレーナーの声ではないことは確かだった。ゆっくりと振り向くと、そこには三人の女性の姿があった。

 

「ムムム、サイキック事案ですか?」

 

 ポニーテールの少女が、スプーン越しに俺を睨みつける。

 

「何かあったのかしら〜」

 

 間延びするような喋り方をしているのは、胸がデカい女性だ。……滅茶苦茶デカい。えっ、めっちゃでけえな。

 

「逮捕ね。女の子を泣かして、胸をジロジロ見るなんて、逮捕よ!」

 

 ずんずん俺の元に向かってくるのは、背が小さめで童顔の女性である。……この人も胸は大きめだが、先の爆乳のせいで普通のサイズに錯覚してまう。――じゃなくて。

 

「待ってくれ、これには事情が」

 

「ふふ、犯人は皆そう言うのよ」

 

 童顔の女性はにっこりと微笑みながら俺の右腕を掴む。

 

「現行犯逮捕ー!」

 

 視界が逆転したかと思うと、背中に衝撃が走った。

 

――――

 

 未だに背中が痛い。

 

「なるほど、そんな事があったのね」

 

 俺を投げ飛ばした女性――片桐早苗はエバンスさんの話を聞きながら、うむうむと頷いた。

 

「大変ですね〜。その気持ち、私も分かります〜」

 

 爆乳アイドルとして有名な及川雫も、エバンスさんに同情するように頷く。

 

「あの、俺への謝罪は」

 

「黙ってなさいよ前科一犯!」

 

「ハーミーさん当たりキツくない!? 俺悪くないよ!?」

 

「胸を見ていたのはホントでしょ? プロデューサーさん」

 

 ダフネですら俺に冷たい。しょうがないじゃん、胸デカいなら見ちゃうだろ。

 

「それで、泣きそうになってたのね」

 

「はいぃ……」

 

 エバンスさんはさめざめと泣きながら片桐さんに答えた。俺が投げ飛ばされた時に心配してくれたの、君一人だけだよ。

 

「堀さんはどうやって覚えてるとか、そういうコツあったりする? 出来ればエバンスさんに教えてあげて欲しいんだけど」

 

 俺の言葉に、ポニーテールの少女――堀裕子は「むむむ」と声を漏らしながら考え込む。

 

「もちろん、サイキック暗記です!」

 

 話にならねえ。

 

「……待ってプロデューサー。どうして、『セクシーギルティ』が来たのか分からないわ」

 

 片桐早苗、及川雫、堀裕子。この三人は「セクシーギルティ」というユニットで、そこそこに人気が出つつある。どちらかと言えばバラエティー番組の需要が高い気もするが、ある意味独特な世界観を持つ楽曲も人気を支える要因である。

 

「さあ、分からんな。デビューライブの時に世話になるが」

 

「えっ!? 聞いてないわよ!」

 

 ……あれ? 言ってなかった?

 

「初耳よ、プロデューサーさん」

 

 ……言ってなかったか。




■先輩アイドルユニットの前座
いきなり単独ステージなのもどうかと思い、このような形に。
実際のアイドルがどうとかはよく分かっていません。


■「お願いシンデレラ」の扱い
いわゆる「このコンテンツにはこれ」といった扱いの曲。
例えば競泳ならば「ウルトラソウッ!」とか、ひと昔前のラグビーならスクー〇ウォーズみたいな。


■セクシーギルティ
城戸プロデューサーを背負い投げできそうな人材を選んだらこうなった。
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