The iDOLM@STER Cinderella Girls ~Two Irregulars~   作:せいけー

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やっとシンデレラプロジェクトと関係が持てそうです。


第8話 Why cat-girl is impatient(1)

 346プロダクションの敷地内には、カフェがある。「何を馬鹿な」と思うかもしれないが、これは数ある福利厚生の一つらしい。それを抜きにしても、テラス席付きの明るい雰囲気のカフェというのは社員に人気がある。勿論、「オシャレにコーヒーを飲める」だの、「ゆったりとくつろげる」だのといった、緩い理由ではなく。

 

「――では、詳細は追ってメールを送ります」

 

「ありがとうございます。そちらで必要なものがあれば、直ぐに準備しますので」

 

 特に機密性が必要でない軽めの打ち合わせならば、ここで行なっても良いからである。今の俺みたいに社員同士での打ち合わせではともかく、社外の人物との打ち合わせになるとこのカフェの存在意義が出てくる。明るい雰囲気にそこそこ美味いコーヒーが相まって、和やかな雰囲気で打ち合わせが出来るのだ。相手方にいい印象を持たせる事が出来ればこちらのものである。

 

 また、打ち合わせ以外にも活用法があり、それの最も多いものが雑誌のインタビュー記事を飾る写真である。小洒落たカフェにわざわざ出向かわなくても、絵になる写真を撮る事が出来るのはやはり大きいらしい。高垣楓のインタビュー記事も、このカフェで撮った写真が大多数を占める。次点で多いのは大衆居酒屋なのだが。

 

 ――さて、今回打ち合わせしていた相手は川島瑞樹――もとい、彼女の所属するユニットのプロデューサーである、剣崎さんだ。川島さんがMCを務めるラジオ番組の「わかるわアワー」に、E.G.G.Sの三人がゲストとして出演する事になった。彼女達は今まさに、デビューライブに向けての準備を進めている最中だが、プロデューサーである俺はその後に向けて絶賛営業中である。

 

 ライブを終えた後に仕事がありませんでした、という事態に陥ってしまうと、元々ないに等しい知名度が更に無くなり、ひっそりと解散なんて事になりかねない。イベントに出るという手も無くはないのだが、発信力でいうと心もとない側面もある。

 

 その点、今回決まったラジオ番組へのゲスト出演は大きい。「わかるわアワー」は人気のある全国ネットの番組なので、遠く離れた地方にもE.G.G.Sをアピール出来る絶好のチャンスである。今回はの剣崎さん経由で番組プロデューサーと交渉し、晴れて出演が決まった。

 

 ノートPCを使って、メールを確認する。新着のメールの中には、先程打ち合わせをしていた剣崎さんからのものも含まれていた。仕事が早い人だな。

 

「どれどれ……」

 

 文面には、打ち合わせ内容の確認の他に、「デビュー曲の音源が欲しい」といった旨が書かれていた。まさに願ったり叶ったりである。とは言え、オンボーカル版はまだ用意出来ない。オフボーカル版のデータを添付して、彼に送ることにした。

 

「よおし、きっと皆喜ぶだろうなあ」

 

 デビューライブ直後の大きな仕事の一つである。しっかりと発破をかけないと。

 

 ――今までPCの画面を見ていたからだろうか。カフェで起きつつある異変に気付くのが遅くなったのは。

 

 二人の少女が、カフェのテーブルや椅子をごそごそと動かしていた。掃除だろうかとも考えていたが、どうも様子がおかしい。掃除をするならば、テーブルを倒したりはしないはずである。

 

「ちょっ、ちょっとぉー! 困りますー!」

 

 それに掃除ならば普通、制止しようとする事もないはずだ。……てか、安部菜々じゃん。所属アイドルがどうして社内カフェで働いているんだ?

 

「一体何……が……」

 

 様子を見ようとしたところで、思考が追い付かなくなった。金髪をツーサイドアップにしている方の少女に、見覚えがあったからである。

 

「……あ! 進にーちゃん!?」

 

「誰にゃ!」

 

 ――もう一人の従妹が、猫耳をつけた少女と社内カフェで馬鹿をやっていた、なんて言っても誰も信じないだろう。

 

――――

 

 テーブルと椅子を慌てて戻し、店員(とバイト中という事だった安部菜々)にひとしきり謝った後、少女二人を座らせた。

 

「……それで? 一体何だっていうんだ」

 

 「うぐぅ……」と観念したような声を漏らしたのは、猫耳をつけた少女である。

 

「ストライキにゃ! みくは、莉嘉チャンと杏チャンと、ストライキするつもりだったにゃ!」

 

「……杏ちゃん?」

 

 周りを見渡すが、それらしき人物は居なかった。

 

「いないな、そのもう一人が」

 

「……逃げた!? そんな馬鹿にゃ!?」

 

 ばんと勢い良く立ち上がると、猫耳少女は辺りを見渡す。

 

「そんな事より、進にーちゃんも346にいたんだ!」

 

 もう一人の従妹である城ヶ崎莉嘉は、目を爛々と輝かせながら訊いてきた。……ますます、姉の美嘉に似てきたような気がする。髪の色や目の色はまるっきり違うが。

 

「あれ、美嘉から聞いていなかったのか?」

 

「おねーちゃん、進にーちゃんの事を聞いたら何か嫌そうな顔で首を横に振ったもん」

 

 あいつめ。報連相は仕事の基本だぞ。

 

「……ちょっと待つにゃー!」

 

 猫耳少女が我慢出来ないと言った調子で話に切り込んできた。

 

「莉嘉チャン、この人とどういう関係にゃ!? お兄さんがいるなんて話、聞いてないよ!」

 

「え? 進にーちゃんは進にーちゃんだよ?」

 

 莉嘉は真意を掴みかねる説明をし始める。そもそも俺を何だと思っているんだ。従兄とは別カテゴリなのかよ。

 

「従兄だよ従兄。城戸進ノ介、ここでプロデューサーをやってる」

 

 猫耳少女は「なるほど、イトコ……」と呟くと、すっと再び椅子に座った。中々に忙しい奴だな。

 

「話を戻すぞ。ストライキってのはどういう事だ」

 

 俺が話題を戻すと、猫耳少女の顔が再び険しくなる。

 

「……Pチャンに何時デビュー出来るか訊いても、『企画検討中です』って言ってばかりで、デビュー出来るかどうか分からないにゃ」

 

 うーむ、耳が痛い。ハーミーとダフネに同じような事をさせてしまった俺には、他人事に思えない部分もある。

 

「アタシよりも先にデビューが決まった子がいたの。アタシだって早くデビューしたいのに!」

 

 周りのデビューも相まって、焦ってしまったという事だろうか。……いや待て、もしかしたら。

 

「……シンデレラプロジェクトか」

 

 ぼそりと俺が呟いた途端、莉嘉の目の色が変わった。

 

「え!? 進にーちゃん、知ってるの!?」

 

「知ってるも何も、デビューを控えているアイドルがいる大型のプロジェクトなんてそれしかないしな」

 

 そもそも、小耳には挟んでいた。何でも、この前会ったあの三人娘と、もう一組他の二人組が、同時にデビューするとかなんとか。

 

「城戸チャンはPチャンと知り合いなの? もしそうだったら、そっちからも何か言って欲しいにゃ!」

 

「とは言ってもなあ」

 

 武内さんには武内さんの考えがあるのだろう。トントン拍子でデビューが決まった三人娘もそうだが、二人組に関しては無難なキャラクターの子達だ。キャラクターが強めの猫娘、あの「城ヶ崎美嘉」の妹という出生がついて回る莉嘉を先に出してしまうと、後に続くアイドル達の影が薄くなってしまう危険性もある。おそらく、個性が強いアイドルは後々に回らざるを得なくなるだろう。

 

「……ダメ、なの?」

 

 猫耳少女は、目で見ても分かるほどにがっくりと肩を落とした。

 

「何で……? みく、頑張ってるのに……。一体、何が足りないって言うの?」

 

 猫耳少女は目尻に涙を溜め、声を震わせる。……この前のエバンスさんに続いてコレか。俺は新米アイドル専門のお悩み相談室じゃないんだぞ。

 

「アタシたち、このままデビュー出来ないの?」

 

 猫耳少女に釣られたのか、莉嘉の表情も曇り始める。二人組の方は兎も角、三人娘の方は確かにぽっと出の子達だ。この二人の方が先に所属していたとなると、確かに「デビューをかっさらわれた」と考えてもおかしくはないだろう。

 

「そもそも、『企画検討中』って事はデビューさせる前提で動いているって考えていいんじゃないか」

 

 ここまで焦らしておいてデビューさせない、なんて事を武内さんがやるはずもない。実際、電話や会議や交渉を繰り返している姿を見ているからこそ、目の前の少女達の心配が杞憂であると分かるのだ。

 

「そんなの、信じられないよ……。だって、Pチャンはいっつも『企画検討中です』としか言ってくれないもん……」

 

 猫耳少女は消え入りそうな声で言った。……うーん、武内さんはいっつも仏頂面だからな。表情が読めないから、誤解されちゃっているんだろう。

 

「それだけ、キッチリと企画を練っているんじゃないか。少なくとも、見切り発車に近かった俺よりかは有能だと思うぜ」

 

「えっ、進にーちゃんもアイドルをプロデュースしてるの?」

 

「そりゃまあ、プロデューサーだしな」

 

 ユニット一つだけでもてんてこ舞いなのだから、複数を同時に管理しなければならない武内さんは何倍も大変なはずである。――赤羽根先輩は「規格外」とでも言えばいいだろうが。

 

「へー! どんなの? どんなの?」

 

 俯く猫耳少女を尻目に、莉嘉は興味津々と言った調子で訊いてくる。

 

「何だったら、一緒に聞くか? 猫耳少女」

 

 猫耳少女はばっと顔を上げると、眉間に皺を寄せながら返事をする。

 

「前川みくにゃ!」

 

「おっと、じゃあ前川さんも聞いてくれ。――ん、どうも」

 

 猫耳少女もとい前川さんが頷いたのを確認すると、すっかり冷めきったコーヒーを一口だけ口に含む。

 

「デビューライブをそろそろ向かえる、『E.G.G.S』っていう三人のユニットを担当している。……ああ前川さん知ってるんだね、その顔するって事は。そ、ずっとデビュー出来なかった子達だよ」

 

「……どうしてデビュー出来なかったの?」

 

 莉嘉が目を丸くしながら訊く。

 

「結論から言うと、俺が待ったをかけていた。二人だけじゃ――ああ、最初は二人だったよ――二人だけじゃ、足りないと思ったからだよ」

 

 前川さんは、むうと顔をしかめる。

 

「そんな事ないにゃ。二人でも、充分のはずだったけど」

 

「実力的にはな。でもな、収まりが良すぎたんだよ。……アイドルってのは、ドラマを見せなきゃいけないと俺は思ってる」

 

「……それは、女優って事かにゃ?」

 

「違う違う。なんつーかな、アイドルに言うことでも無いのかもしれないが、一人の女の子が成長してアイドルになる過程も含めて、アイドルなんだよ」

 

 これは、あくまで受け売りの話である。赤羽根先輩が酒を飲みながら、したり顔で言っていた話でしかない。

 

「ファンの皆は、完璧なパフォーマンスを求めているものにゃ」

 

「大多数かもしれないが、それは一部の話だ。成長していく姿を楽しみにするファンもいるんだよ」

 

 その分、二人は「完璧過ぎた」。完全に二人で完結してしまっていて、伸び代が見えてこなかった。

 

「進にーちゃん、言ってる事が分からないよ」

 

 まあ、少し小難しい話だったかもしれんな。

 

「武内さんも、きっと同じ考えだ。そうじゃなけりゃ、『シンデレラプロジェクト』なんて名前のプロジェクトを作ったりしないはずだからな」

 

 みずぼらしい少女がお姫様になったように。普通の女の子がアイドルとして成長する事を願っているに違いない。……ともなれば、その手伝いをする武内さんは、さしずめ「シンデレラに魔法をかける魔法使い」とでも言えばいいだろうか。

 

「でも、何か考えがPチャンあるんだとしても、みくは早くデビューしたいにゃ! このままデビュー出来ないなんて嫌にゃ!」

 

「莉嘉も! 早くおねーちゃんみたいにステージで歌いたいよ!」

 

 うげ、話が振り出しに戻ってしまった。さて、どう言ったものか――。

 

「――絶対に、デビューさせます。心配しないでください」

 

 突如投げ掛けられたのは、響き渡るようなバリトンボイスだった。

 

「ぴ、Pチャン!?」

 

「あ、杏ちゃんだ」

 

 振り向くと、そこにいたのは武内さんだった。傍に控えているのは、ラフな格好をした、まるで小学生のような女の子である。しかし、すげえTシャツ着てんな。「働いたら負け」とか、今日日オタクでも着ねえぞそんなの。

 

「……城戸さん」

 

「自分の事は気にせず、言ってやってください」

 

 ここから先は、武内さんの仕事だろう。……まあ、乗りかかった船である、行く末を見守ってみよう。




■カフェ
せっかく社内にあるんだから、軽い打ち合わせぐらいには使わせたかった。


■剣崎プロデューサー
青色っぽいユニットなので、青っぽい人にプロデューサーをさせたかった。


■わかるわアワー
十秒で考えました。


■莉嘉
美嘉が主人公の従妹なので、こちらも従妹になる。


■ストライキ未遂
このくだりが必要だったので、城ケ崎姉妹とは従兄妹である必要があったんですね(メガトン構文)
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