ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」 作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」
『……ドラえもん、起きてください。ドラえもん』
「ふにゃ……この声は、めぐみん?」
ドラえもんがパチリと目を覚ました。声のする方を向くと、アクアたちに渡した糸なし糸電話が落ちていた。
『しっ、声が大きいです。ベルディアがアクアの方を向いている今がチャンスなんです』
「……なにか作戦があるの?」
『私が思うに、ベルディアの弱点はあの頭です。あの頭さえ奪えれば、勝機はあります』
「でも、いったいどうすれば……」
『私があいつの気を引きつけます。だからドラえもんは、あの頭を何としてでも奪い取ってください』
「分かった……やってみる」
『ダクネスも、聞こえましたね』
『あぁ、聞こえた。私も、足にしがみつくくらいならやろう』
――
「ターンアンデッド!……はぁはぁ、ちょっと、雑魚を倒すだけで、もうむり……」
走り続けながら戦っているせいか、アクアは肩で息をしていた。
倒したそばからアンデッドが湧きあがり、アクアへと襲いかかってきた。浄化魔法を唱えようとすれば、その隙をベルディアが突いてくる。だから、走りながら唱えるしかない。
しかし、ベルディアの攻撃を避け、浄化魔法を放ち続けるのは限界に近かった。
「ふん、もう終わりか?」
ベルディアがさらにアンデッドモンスターを呼び出した。
「ま、まだ出てくるの……!?」
悲鳴にも似た声をアクアが上げた。終わりの見えない戦いに、ついにアクアの足が止まってしまった。
「そこまでです!」
「なんだ……?」
ベルディアが振り向く。
茂みの奥で、めぐみんが震える足で立ち、杖を構えていた。
「残念ですが……あなたの負けです……! 私がとっておきの爆裂魔法をお見舞いしましょう!」
「なにを血迷ったことを。貴様の魔力など、とうに尽きているだろう?」
「甘く見てもらっては困りますね……。あなたのいた城に、日に何発も撃ったのはこの私ですよ! 紅魔族の魔力はすぐに回復するんです!」
「なに……?」
ベルディアの表情が変わった。
「闇より深き、暗き漆黒よ、すべてを穿ち放て――」
「チィッ!」
ベルディアがめぐみんのもとへ走り出した。
「行かせない!」
ダクネスがベルディアの足を抱きついた。ベルディアの足が止まる。
「離せ、この! クルセイダーめ!」
ベルディアが剣を叩きつけ、ダクネスを振り払おうとする。ダクネスは手の力を緩めない。鎧が、次々に砕けて散っていく。
「いけ! ドラえもん!」
「えいっ!」
ダクネスの声とともに、ドラえもんがベルディアに飛びついた。
ベルディアの抱えていた頭を奪い取る。
「な、俺の頭を!」
「今です、アクア! 浄化魔法を!」
「わかったわ!」
アクアがアンデッドを振り払いながら、杖を構えた。
「返せ、この珍獣!」
ベルディアが逃げようとするドラえもんの頭を掴んだ。
「うわぁ、捕まった!」
ドラえもんの体が宙に浮いた。そのまま、地面に組み敷かれる。
「ふぎゃっ!」
「頭を返せ、この珍獣!」
ベルディアが剣を振り上げ、ドラえもんの頭に何度も叩きつける。
「……離すもんか! 絶対に離すもんか!」
ドラえもんがベルディアの頭を抱きかかえ、体を丸めて奪われまいとした。
「くそったれ!」
怒りに任せたベルディアが、渾身の力で剣を振り下ろした。
グシャリ、と鈍い音が響いた。ドラえもんの頭から、煙が吹き出る。
「は……な……」
「な……ドラえもん!」
「お願い……これで終わって! セイクリッド・ターンアンデッド!」
再び、ベルディアの足もとに魔法陣が現れ、浄化の光に包まれた。
「ぐっ……あぁ!」
ベルディアが片膝をつく。
「ふぅ……ふぅ……おのれ、おのれよくも!」
「うそ、まだ立つの……!?」
後じさりするアクアに、ベルディアが詰め寄っていく。
ダクネスが再び足に食らいついた。
「いかせな――」
「邪魔だ!」
ベルディアの蹴りが鋭く入った。ダクネスの体が吹き飛び、地面に叩きつけられる。
「ぐはっ……」
「私も、もう限界です……」
めぐみんがガクリと膝をつき、倒れた。
「はぁ、はぁ……残るは貴様だけだ! アークプリースト!」
「うそ……いや……」
アクアが悲鳴にも似た声を上げた。彼女の震える足が、じりじりと後ろへと下がっていく。
だが、後ろにはアンデッドの大群が構えていた。
逃げる場所は、どこにもない。
ベルディアが剣を構えて、突進した。間合いに入ったアクアに剣を振り下ろす――
「――カースド・ライトニング!!」
「なっ……!!」
突如として現れた横殴りの雷に、ベルディアの体は吹き飛んだ。
アクアが振り返る。背後のアンデッドも次々と炎に呑み込まれ、その姿を消していった。
「大丈夫ですか!? みなさん!」
「あ、あんたは、リッチー!?」
背後から現れたのは、紫色のローブに身を包んだウィズだった。
かつて、アクアが浄化しようとした相手である。
「言いたいことはあると思いますが、今はベルディアさんを倒すことが先です。アクアさん、今一度、ターンアンデッドを」
「わかったわ!」
「おのれ、させぬ!」
ベルディアがアクアに向かって剣を振り上げる。
「あなたの相手は私です! カースド・クリスタルプリズン!」
巨大な魔法陣が現れ、ベルディアの身体を巨大な氷が覆いだした。みるみるうちに胴体までが凍り付く。
「ぐっ……小癪な!」
ベルディアが剣を頭上に掲げた。
剣はまるで意思を持った生き物のように、凄まじい速さで動きだし、ベルディアを覆う氷を次々と破砕していく。
「く、あの剣には敵いませんか……」
「大丈夫、時間稼ぎはもう十分よ!」
アクアが杖を構え、詠唱する。
「――セイクリッド・ターンアンデッド!!」
三度目の浄化魔法。アクアが渾身の力を込めて発動させた魔法は、今までの魔法陣とは大きさが違った。墓地全体を包む魔法陣から、浄化の光が波のように湧きあがると、うねりを上げてベルディアの体に注ぎ込まれた。
「ぐぎゃぁ……!!……あ、ぁぁ……」
ベルディアの体が内側から光だし、ポロポロと砕けていく。やがて、跡形もなく浄化されていった。
「終わった……のか?」
「ドラえもん!」
アクアは杖を放り投げると、すぐにドラえもんのもとに駆け寄った。
「ドラえもん、しっかりして! 起きてよ、ねぇ!」
抱き上げ、何度もドラえもんに声をかける。しかし、返事はない。
「落ち着け、アクア……。ドラえもんは、もう……」
「いやよ! リザレクション! リザレクション! どうして……お願い……起きてよ。また私とお話ししてよ……」
アクアの手当を、ウィズは痛々しそうに見つめた。
「ドラえもんさんはロボットです……。アクアさんの蘇生魔法でも恐らく……」
「そんな……」
アクアがドラえもんを抱きしめたとき、めぐみんが杖に掴まりながらやってきた。
「……私に任せてください」
「めぐみん……?」
「ドラえもんがロボットなら、これで直るはずです」
めぐみんが持っていたのは、時計の模様が描かれた風呂敷だった。
「あ、タイムふろしき!」
「ポケットから拝借しました。これで、ドラえもんが壊れる前に戻せば……」
パサリと、ドラえもんの体にタイムふろしきがかけられる。
「ドラえもん……?」
タイムふろしきの中のドラえもんは動かない。
「だめなのか……?」
そのとき、ドラえもんの口元が動いた。
「……むにゃむにゃ。どら焼きがいっぱい……」
「ドラえもん!」
ダキッ
「……ありゃ……ぼくのどら焼きは?」
「どら焼きなら、あとで死ぬほど食べさせてあげますよ」
おーい、大丈夫かぁ!
「おぉ、討伐隊の人たちだ」