ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」   作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」

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この勝利に祝杯を

 

 

――酒場

 

 

ワイワイガヤガヤ

 

「いやぁ、すごい戦いだったのよ! めぐみんは倒れちゃうし、ダクネスもドラえもんもボロボロで、まさに全滅寸前だったの。きっとこの場にいる誰もが、もう無理だと思ってしまう光景だったわ!」

 

「そ、それでどうなったんだ!?」

 

 酒場に集まった男たちが、興味津々にアクアを促した。

 

「そこに、私がさっそうと現れたのよ! そして! 魔王軍のベルディアが構えるまもなく、抜き打ち様に浄化魔法を三発お見舞いしてやったわ!」

 

「「「おぉ!」」」

 

「そうして浄化の光に包まれた彼は、断末魔の悲鳴とともに、塵一つ残さずに消えていったのよ!」

 

 アクアが誇らしげに胸を張る。

 

「おお、さすがアクアの姉貴!」

 

「すげぇのは宴会芸だけじゃなかったんだ!」

 

「そうよ! もっと褒めたたえなさい!」

 

 

ヤンヤヤンヤ

 

 

「あーあ、すっかり調子乗っちゃって」

 

 少し離れた席で、ドラえもんは呆れたようにアクアを見つめていた。

 

「まぁまぁ、良いじゃないですか。一番の功労者はアクアなんですから。今日くらい見逃してあげても」

 

「ほら、ウィズももっと食べてくれ。遠慮することはない」

 

「い、いいんですか? ほんとにこんなにいただいても」

 

 ダクネスが料理を皿によそうと、困惑するウィズの前にどんどんと置いていく。

 

「もちろんです。ウィズがこなければ、私たちはきっとやられてましたから。ウィズは命の恩人ですよ」

 

「そうそう。これは僕たちからのお礼だと思ってさ」

 

「ありがとうございます。こんなご馳走、何年ぶりでしょうか……」

 

 ウィズが遠慮がちにお皿から料理を取った。幸せそうに、ウィズがお肉を頬張る。

 

「あぁ、とってもおいしいです」

 

「そりゃよかった」

 

 もう一つの肉片を取ろうと手を伸ばしたとき、ウィズは突然誰かに肩をつかまれた。

 

「……やっと捕まえたわ、リッチー!」

 

「ひっ、アクアさん……!?」

 

 ウィズが後ろを振り向く。そこには、ずいぶんと出来上がったアクアが立っていた。

 ウィズは逃げ出そうと、パタパタと両手両足を動かすが、アクアの力が強いのか、まったく椅子から動けていない。

 

「やめなよ、アクア。ウィズさんは僕らの恩人だぞ」

 

「分かってるわよ。ちょっとお礼を言いに来ただけだから」

 

「あ、あの、アクアさん……触れられてるところがピリピリするんですけど……」

 

 ウィズがやんわりと離してほしいと伝えるが、アクアはまったく聞いていないのか、自分の話を続けていく。

 

「私はね、助けてくれたことには感謝してるのよ。だからね、今はリッチーであることを忘れてあげるわ。だから感謝しなさい」

 

 だいぶ酔いが回っているせいか、アクアの言葉は、感謝しているのか感謝させたいのかよく分らないものとなってしまっている。

 

「あの、アクアさん、できれば手を……」

 

「それでね、私もあなたにお礼がしたいのよ。だから、私にできることなら何でも言ってちょうだい。例えば、今すぐ浄化されたいです、とか。そりゃもう、問答無用で逝かせて――」

 

「はい、もう終わり」ポカッ

 

 ドラえもんが二人の間に割って入り、アクアをハンマーで叩いた。

 

「いったぁい! なにすんのよ、ドラえもん!」

 

「あ、がんじょうの効果切れてたのか。ごめんごめん」

 

 謝罪の言葉もむなしく、ドラえもんはアクアにヒゲを引っ張られた。

「いたいいたい!」と騒ぐドラえもんが、アクアから逃げ出そうとする。

 

 そんなドラえもんたちを尻目に、めぐみんはウィズに問いかけた。

 

「……そういえば、ウィズはどうして墓地にいたんですか?」

 

「それは、アクアに呼ばれたからではなかったのか?」

 

 ダクネスが不思議そうに聞き返す。

 

「なに言ってるんですか、ダクネス。馬に乗った討伐隊より、早く着いたのはおかしいでしょう?」

 

「そういえばそうだな……」

 

「実は、その……元々のゾンビメーカー騒ぎは私のことなんです」

 

「え?」

 

「おや、そうなの?」

 

 ドラえもんとアクアがピタリと動きを止めた。

 

「はい。あ、ただ、私は浄化をしていただけですよ? あの墓地には、まだたくさんの魂が残っていますから。夜にこっそり行って、天へ帰していたんです」

 

「へぇ、殊勝なことするのね」

 

「ただ、今日ギルドを覗いてみた際に、昼間にゾンビメーカーが現れたと聞いたんです。それで不思議に思って、覗きに行ってみたんです」

 

「で、来てみたら、魔王軍幹部がいたというわけですか」

 

「はい。最初は見てるだけにしようかと思ったんですが、ベルディアさんが死者を甦らせているのを見たら、いても立ってもいられなくて……」

 

「ベルディアさん?」

 

「あ、言ってませんでしたっけ? 私は魔王軍幹部なんですよ」

 

「は?」

 

「へ?」

 

「あ、えっと、幹部と言っても結界を維持するだけでして――」

 

「セイクリッド――」

 

「アクアさん、やめてくださぁい!」

 

「アクア、落ち着いて。どうどう」

 

「そうですよ。今日は見逃してあげましょうよ」

 

「……しょうがないわね」

 

「そういえば、ベルディアのことで一つ気になったことがあるんだが」

 

「なんでしょうか?」

 

「ベルディアが持っていた剣は、とても魔道具とは思えないものだった。まるで、ドラえもんの道具のような感じがした」

 

「そうだ、ぼくもそれ気になってたんだ。あの剣、見た目は違っていたけど、間違いなく名刀電光丸だ」

 

「たしか、前にドラえもんが貸してくれた道具でしたよね」

 

「そう。それと、ぼくとアクアのことを知っているみたいだったんだ」

 

「なぜだか、すごい怨まれてたのよね。まったく記憶にないのに」

 

「アクアはともかく、ドラえもんがそこまで怨まれるなんて思えないな」

 

「ちょっとダクネス、それどうゆうことよ」

 

「うーん……すいません。ベルディアさんとはそこまで親しくありませんでしたから、詳しいことは……」

 

「そっか」

 

「ただ、あの剣のことなら、推測がつきます。おそらく、あれはノイズで作られたものです」

 

「ノイズですか」

 

「なるほど……」

 

 ダクネスが納得したようにうなずいた。

 ドラえもんが不思議そうに首を傾げる。

 

「ねぇ、ノイズって?」

 

「かつてあった技術大国ですよ。まだ魔法が発展していなかった頃、科学技術でこの大陸を支配していたんです。ただ、ある日突然滅亡したので、その技術のほとんどは失われてしまいましたが」

 

「へぇ。昔、科学が発達してたのか。名刀電光丸が作れるくらいまでに……」

 

 ドラえもんが腕を組んで思わず唸った。

 自分の世界とはまったく異なるこの世界で、偶然にも同じ道具が作られたとは考えにくい。もしかしたら、はるか前に未来人がこの世界へきて、科学技術を発展させたのかもしれない。

 しかし、どうやってここに来たのか。その未来人も同じように、女神に連れてこられたのか。

 

「ま、要は考えたって仕方がないってことでしょ? それよりほら、せっかくのお祝いなんだから、盛り上がっていきましょうよ!」

 

 アクアがジョッキをかかげ、みんなの顔を覗き込んでいく。

 

「……ま、いっか。むずかしいこと考えるより、今日はいっぱいはしゃごう」

 

「まったく、ドラえもんは能天気なんですから」

 

「いいじゃないか。それでこそ、二人らしいというか」

 

 

――数時間後

 

 

「むにゃむにゃ、もう飲めないわ……」

 

「うぷっ……もう食べられません」

 

「まったくもう。ほら、2人とも起きて。帰るよ」

 

 ドラえもんが呆れたように二人の肩を叩く。アクアは半分寝てしまっており、めぐみんも立ち上がることすら困難なようだった。

 

「ドラえもん……おんぶしてください」

 

「えぇ、今日はむりだぞ。アクアもおんぶしなきゃいけないんだから」

 

「それじゃあ、私がめぐみんを送ろう」

 

 ダクネスが請け負うと、めぐみんを抱き起こして背中に乗せた。

 

「じゃあダクネス、お願いね」

 

「あぁ。ほら、帰るぞ、めぐみん」

 

「だ、ダクネス、あまり揺らさないでください。今ここまで来てるんです」

 

「……なぁ。私の背中で吐くなよ。ぜったいだぞ?」

 

「……念のため、先に謝っておきましょうか……」

 

「やめろ、やめてくれ、ほんとに頼むから!」

 

「じゃあ2人とも、おやすみ。夜道に気を付けて」

 

「あぁ、おやすみ、ドラえもん」

 

「また明日です……うぷっ……」

 

 二人がドラえもんに向かって手を振る。ダクネスはくるりと向きを変えると、めぐみんを背負いながら宿のほうへと去っていった。

 残るは、アクアとドラえもんだけとなった。

 

「ぐーぐー……」

 

「もう、世話の焼ける女神なんだから……よっこいしょと」

 

 

――馬小屋

 

 

「ほらアクア、着いたよ」

 

「……ふぁい」

 

 ドラえもんが干し草の敷かれた床にアクアを下ろした。ポケットから毛布を取りだすと、アクアの体にかける。

 

「ふわぁ、今日は疲れたなぁ。僕ももう寝よっと」

 

 ドラえもんはアクアの隣で横になると、反対方向を向いて目を瞑った。

 

 

――

 

 

「……ドラえもん」

 

 しばらくして、ドラえもんはアクアの声で目を開けた。格子から差し込む月明かりが、馬小屋の中を照らしている。

 

「ん?……呼んだかい?」

 

「うん。……ねぇ、こっち向いてよ」

 

「どうしたのさ……」

 

 ゴロンと、ドラえもんがアクアのほうを向いた。

 すると、アクアが「はい」と右手を差し出してきた。

 

「……なんだいその手は?」

 

「握手よ、握手。こっちの世界にきてから、まだしてなかったでしょ?」

 

「そうだっけ?」

 

「そうよ」

 

 ドラえもんは思案しながら右手を差し伸べた。

 

――ギュッ

 

「ふふ、これからもよろしくね、ドラえもん」

 

「うん。こちらこそよろしく、アクア」

 

 

 

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