ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」   作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」

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この素晴らしい雪山へ登山を

――2週間後

 

 

「アクア、起きなって。もうお昼だよ」

 

 ドラえもんがユサユサとアクアをゆすった。だが、アクアに起き上がるそぶりはない。モゾモゾと毛布を頭までかぶると、アクアは再び寝息を立て始めた。

 

「んぅ……あと5分」

 

「なに言ってんだ、もう! そんなぐーたらしてたら、いつまで経っても天界に戻れないぞ!」

 

 ドラえもんは毛布に手をかけると、思いっきり毛布を引き剥がした。

 

「いやぁ、やめてぇ。けがされるぅ!」

 

「こら、人聞きの悪いこというなってば!」

 

 

『うるっせぇぞ! とっとと出ていきやがれ!』ドンッ!

 

 

「「はい、すみません!」」

 

 

――酒場

 

 

「もう、ドラえもんのせいで怒られちゃったじゃない」

 

「ぼくのせいにするなよ。キミがもっと早く起きてれば」

 

「ドラえもんのけち! 私は魔王軍幹部との戦いで消耗しちゃったの。今は休まなきゃいけないのよ」

 

「それはもうずっと前の話じゃないか。いい加減回復しただろ?」

 

「だーめ。あとひと月はこのままなんだから」

 

 アクアが脱力したように足を放りだし、頭をテーブルに乗せた。

 

「相変わらずのぐーたらっぷりですね、アクアは」

 

「ベルディアの賞金が届いたら、拍車がかかりそうだな」

 

 二人が呆れたようにアクアを見つめた。

 ベルディアの賞金は3億エリスという巨額なものであり、これが届けば当分の生活費に困ることはない。ただ、金額が金額なだけあって、アクセルと王都との為替取引額を超えてしまったらしい。

 そのため、王都まで直接取りに行くか、何回かに振込を分けるかの二つの選択肢を提示され、すったもんだの議論の末に、アクアたちは後者を選んだのだった。

 ただ、分割しても額が大きいためか、まだ第一回目の振込もされてはいない。

 

「私は決めたの。来月から本気出すって」

 

「来月は冬本番で、モンスターも冬眠してますよ」

 

「それじゃ仕方ないわね。春まで英気を養っておきましょう。ということで――」

 

「帰らせないぞ」

 

 すっくと立ちあがったアクアの裾を、ドラえもんがぐいと引っ張った。

 

「いやぁ、おうちに帰してぇ!」

 

「往生際が悪いぞ、アクア」

 

 ダクネスも加勢してアクアに抱き着いた。アクアのお腹をつかむと、ダクネスの手のひらに違和感があった。

 

「……あれ? アクア、もしかして太っ――」

 

「てないわ」

 

「いや、でもこのプニプニしたのは――」

 

「ダクネス、そういうのはデリカシーがないと思うの。人には一つや二つ、触れちゃいけないことがあるのよ」

 

 アクアがこんこんとダクネスに説教を始める。その背後に、めぐみんがそっと近づいた。プニプニとお腹を触って確かめると、めぐみんは慈愛に満ちた目でアクアを見た。

 

「……アクア、認めましょう。デブになったと」

 

「うわぁぁああああ! めぐみんがいっちゃいけないこと言った! 私女神なのに! オブラートに包まず言った! お願い、謝って! 謝ってよぉ!」

 

 いつもどおり、酒場中に女神の悲鳴が響き渡る。4人がかしましいのは毎度のことだとばかりに、もはや誰もこちらを見ようとしない。いや、視線を合わせて巻き込まれるのを避けようとしているのかもしれない。

 ドラえもんは大きくあくびをすると、ふとなにかを思いついたのか、ポケットに手を伸ばした。

 

「……しょうがない。あれを使うか」

 

 ゴソゴソとポケットを探ると、タイムテレビを取りだした。

 

「おや、ドラえもん。その四角い物体は?」

 

「これはタイムテレビといって、数ある未来の一つを映すことができるんだ」

 

 ドラえもんがそう説明すると、めぐみんが興奮したように目を輝かせた。

 

「な、なんですか、その悪魔的機械は!? すぐ見ましょう、今すぐ見ましょう!」

 

「まぁまぁ、ちょっと待って」

 

 カタカタとタイムテレビをいじりながら、ドラえもんが映像を切り替えていく。

 

「この前、アクアの10年後が気になって確認してみたんだ」

 

「え、私の10年後?」

 

「そう。今、未来の映像を見せてあげる」

 

 

――ザザー……

 

『あーん、いつになったら帰れるのよぉ。もう十年も経っちゃったじゃない!』

 

『君がいつまでも怠けてばかりだからじゃないか! 少しは真面目に働かないと』

 

『そんなこと言ったってぇ……。ベルディアの賞金も尽きちゃったし、どうすればいいのぉ!?』

 

『こうなったらもう、クエストに行くしかないだろ』

 

『どうやって倒せばいいのよ……ダクネスはお嫁に行っちゃったし、めぐみんは婚活で忙しいし……』

 

『今さらなに言ってるんだ。さぁ、カエルを倒しに行くよ!』

 

『いやぁ、もうぬるぬるはいやなの! うえぇぇぇん!』

 

――ザザー……ピッ

 

 

 ドラえもんが電源を切ると、ビシッとアクアを指した。

 

「どうだい、アクア! キミがグータラし続ければ、10年後もこの生活のままなんだぞ!」

 

「う、たしかに、これはイヤね……」

 

 アクアが眉間にしわを寄せながらため息をついた。

 

「え……10年後も未婚なんですか……? 10年後も独り……? は、ははっ、笑うしかないですね……」

 

「……なぁ、ドラえもん。約一名、流れ弾に当たってるんだが」

 

 ダクネスが、アクアより落ち込んでいるめぐみんをなだめながら言った。

 

「わ、わかったわよ! クエストに行けばいいんでしょ、いけば」

 

「そうだ、その意気だ! ファイト、アクア!」

 

「……いいんです、私は爆裂の道に生きるんですから……こんな世界、爆裂魔法で滅ぼしてしまえば、結婚だなんて……」

 

「なぁドラえもん、たった今、魔王が誕生したんだが、ほっといていいのか……?」

 

 

――クエストボード前

 

 

「うーん、どれも高難易度ばっかで、ろくなクエストがないわね」

 

「少しは手伝うから、難しくてもやってみようよ」

 

「え、ほんと?」

 

「ほんとほんと。じゃ、このデストロイヤーの討伐でも――」

 

「却下! 前もそれ取ってたけど、なんでそればっか選ぶのよ」

 

 ドラえもんが手を伸ばしたクエストの紙を、すぐさまアクアがひったくった。

 

「僕の身長だと、背伸びしてもこれしか届かないんだよ」

 

 ドラえもんがつま先立ちになって、グッと手を伸ばす。どうやら、クエストボードの下半分にしか手が届かないらしい。

 

「よし、この依頼は一番上に貼っておきましょう」

 

 ペタペタとアクアが依頼を貼りなおした。

 

「あぁ……取れるのがなくなっちゃった」

 

 ドラえもんがさみしそうにクエストの紙を見上げる。しかし無情にも、アクアが次々に紙をボードの上へと貼りなおしていった。

 ちょうど貼り終えたとき、一つのクエストがアクアの目に止まった。

 

「あら、これなんかいいんじゃない? 雪精の討伐だって」

 

「ん、なにそれ? 雪精?」

 

「雪の精霊よ。ふわふわ飛んでてかわいいのよ」

 

「へぇ、よく分かんないけど、それにしよう」

 

 アクアはボードから紙を取ると、それを掲げながら席へと戻った。

 

「二人ともー。次のクエストが決まったわよ」

 

「何にしたんですか?」

 

「雪精の討伐よ」

 

「雪精ですか……大丈夫ですかね?」

 

「大丈夫よ。いざとなればドラえもんが何とかしてくれるし」

 

「僕は手伝うだけだぞ。失敗したって知らないからね?」

 

「分かってるわかってる。私にかかればちょちょいのちょいよ」

 

「もう、すぐ調子に乗るんだから」

 

「今まで、ちょちょいのちょいで終わったことがあっただろうか……?」

 

「知らないんですか、ダクネス。あれはフリってやつですよ、フリ」

 

 

――雪原

 

 

 草原地帯をしばらく歩くと、唐突に雪がつもっている地帯があらわれた。まるで境界線のように草原と雪原が分かれており、その境目は、肉眼で確認できる季節の変わり目のようであった。

 

「……あれ、雪精がいないわね」

 

「冬というにはまだ早いからな。恐らく、山の上の方にいるんじゃないか?」

 

 ダクネスがそう言いながら、山の頂を指した。

 目の前に亭々と並ぶ大木のむこうには、裾野を大きく広げた山々があった。稜線はどこまでも続き、地平線のかなたへとつながっているように見えた。

 

「じゃあ、雪山を登ろうか」

 

「え、これを登るんですか!? すいません、わたし用事を思い出しましたので――」

 

「待ちなさいよ、めぐみん」

 

 くるりと踵を返しためぐみんの手をアクアが掴んだ。

 

「イヤです離してください! 私、体力を使うのは苦手なんです」

 

「ならちょうどいい。めぐみんだって近頃は運動不足だっただろう。さぁ!」

 

 ダクネスがぐいとめぐみんの腕を引っ張った。

 

「いいです心配無用です! 私は痩せてるから運動しなくていいんです!」

 

「……もう、しょうがないなぁ」

 

 ドラえもんがポケットに手を入れ、人数分のタケコプターを取りだした。

 

「はい、タケコプター。これで山なんかひとっ飛びさ」

 

「さぁ、二人とも、雪山へいきましょう! クエストが私たちを呼んでますよ!」

 

「なんてわかりやすい手のひら返し」

 

「……ねぇ、ドラえもん。なんで最初から出してくれなかったの」

 

「キミのためを思って使わなかったんだよ。少しは歩かないとその余分な――」

 

「わぁぁあああ! 分かった! 分かったから! それ以上言わないで!」

 

 

――山の中腹

 

 

「よぉし、いっぱい捕まえるわよ!」

 

「「おー!!」」

 

「……あれ、ドラえもんは?」

 

「あそこで布団かぶって丸まってますよ」

 

 めぐみんが指さした先では、ドラえもんが湯たんぽにどてら、その上から布団という重装備でうずくまっていた。

 

「うぅ寒いさむい……!」

 

「なにしてんのよ。脱ぎなさいって、そんなの! 手伝ってくれるんでしょ」

 

 朝の時とは打って変わって、アクアがドラえもんの布団を掴んではぎ取った。

 

「ひゃあ、さむい!! 返せってば!」

 

「なによこれくらい。ドラえもんはロボットでしょ」

 

「僕は精巧に作られたロボットなんだ! 人間のように寒くなれるのがウリなんだぞ!」

 

「なんて無駄な機能なんだ……」

 

「製作者の頭おかしいんじゃないですかね」

 

「はいはい。返してほしかったらドラえもんも手伝いなさい」

 

「分かったよ、しょうがないなぁ」

 

 ドラえもんがゴソゴソとポケットの中を探る。

 

「カムカムキャット! 雪精さんいらっしゃ〜い」

 

 ドラえもんがスイッチを押すと、あたりを縦横無尽に飛び交っていた雪精が、ドラえもんめがけて飛んできた。ドラえもんのもとにピトッとくっついていく。

 

「うひゃぁ! 冷た〜い! こっち来るなぁ!」

 

「ちょっとドラえもん、動かないでよ! 捕まえられないでしょ」

 

「は、はやくぅ!」

 

「闇より深き、暗き漆黒よ――」

 

「ぎゃあ、人ごろし! ぼくまで巻き込むつもりかぁ!」

 

 めぐみんが詠唱を始めだし、ドラえもんが慌てて逃げ出していく。

 

 

――ズシンッ!

 

 

「……なんだい、今の音は?」

 

「……来たわね」

 

「……来たな」

 

「へ? なにが来たのさ?」

 

「あれを見なさい、ドラえもん」

 

 突如として吹き始めた吹雪の向こう側、山の頂の方をアクアが指さした。

 

「……な、なんだあの巨人は!?」

 

「あれは、冬将軍よ!」

 

「冬将軍!?……ってなに?」

 

「雪精の王よ。あれが出たら、土下座しないと殺されちゃうわ」

 

「えぇっなんだって!?」

 

「ほら、ドラえもんも頭を下げて」

 

 アクアに促され、ドラえもんが頭を下げる。

 

――ズシンッ! ズシンッズシンッ!

 

「な、なぁ……なんか、どんどんこっちに近づいてきてないか……。というか、走ってきてるような……」

 

「……ドラえもん、もしかして、道具のスイッチ入れたままじゃ……?」

 

「あ! わすれてた!」

 

 ドラえもんが慌ててカムカムキャットのスイッチを切った。だが、すでに遅かった。冬将軍は、一行の眼前にまで迫りくる。

 

「く、こうなったら私が!」

 

「――エクスプロージョン!!」

 

 めぐみんの声と同時に、轟音と爆風が巻き起こった。

 

「きゃぁ! ……ちょっと、めぐみん!」

 

「すみません、一度唱えだしたら止まらなくて……つい」

 

 チロッとめぐみんが舌を出した。

 あたり一面の雪は吹き飛ばされ、冬将軍は大きな音を立てながら倒れた。

 

「倒したのかしら……?」

 

 クレーターと化した窪みの中で、冬将軍は立ち上がり刀を上空へと掲げた。途端、地面が激しく揺れだした。どこからか濁流のような鈍い音が響きだす。

 ダクネスがハッとなにかに気付いた。

 

「……この音は、雪崩だ!」

 

 上を向くと、山頂から津波のような雪崩が押し寄せてきていた。

 

「うわぁ! みんな逃げて!」

 

「すいません、誰かおぶってくれませんか……」

 

「ほら、めぐみん。行くぞ」

 

 ダクネスがめぐみんを背負うと、3人は一斉に走り出した。だが、雪崩のスピードには敵わない。みるみると雪崩は近づいてきた。

 

「きゃあ! ドラえもん、助けてぇ!」

 

「ドラえもん、はやくタケコプターを!」

 

「おっかしいなぁ……たしかここに入れたのに……」

 

 ポケットの中を必死に探すが、相変わらず出てくるのはガラクタばかり。

 

「早くしてよぉ! 飲みこまれちゃうじゃない!」

 

「あ、これは使えるぞ! はい、安全カバー!」

 

 ドラえもんが透明な袋を取りだした。

 

「これはただの袋じゃないんだ。特殊な繊維でできていて、原爆が落ちてきても――」

 

「説明はいいから! はやくしてよぉ!」

 

「じゃあアクア、このなかに入って! さぁ二人も――」

 

 ドラえもんあアクアに安全カバーをかぶせた。そしてダクネスたちのほうを向く。だが、雪崩はすでにすぐそこまで迫っていた。

 四人は絶叫とともに、雪の濁流に飲みこまれた。

 

 

――

 

 

「あいてて……はっ! みんなは!?」

 

「ぷはぁ、ここよぉ」

 

 アクアが雪の中から出てきた。どうやら、安全カバーの中にいたおかげで助かったらしい。

 

「よかった。あとは二人だ」

 

「めぐみーん! ダクネスー!」

 

 ドラえもんが二人の名前を呼びながら周囲を探す。だが、一向に返事はない。

 

「ダメだ。返事がない。しかも吹雪いてきたぞ――」

 

「しっ、ドラえもん。……向こうに冬将軍が見えるわ」

 

 アクアが指すほうを見ると、たしかに冬将軍が立っていた。ただ、こちらには気づいている素振りはない。

 

「……ほんとだ。きっと、僕らを追ってきたんだ」

 

「冬将軍は危害を加えないというけれど、念のためどこかに隠れましょ」

 

「分かった。それなら……」

 

 ドラえもんがポケットに手を入れると、石ころ帽子を取りだした。

 

「はい、これをかぶって。精霊にどこまで効くか分からないけど」

 

「ありがと。それじゃ、とりあえずあの洞窟まで逃げましょう」

 

 

――洞窟

 

 

 洞窟に入ると、ドラえもんは透明マントを取り出した。ビッグライトを当て、洞窟の入口全体を覆うようにする。

 

「……これでよし、と。とりあえず、冬将軍がいなくなるまではここで過ごそうか」

 

「二人は大丈夫かしら……」

 

「どうだろう……げ、吹雪が強くなってきた。やっぱり、ぼく探してくる!」

 

ピロポロポン

 

「……あら? この音は、いとなし糸電話?」

 

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