ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」   作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」

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この素晴らしい雪山で遭難を

――麓

 

 

 雪の中からダクネスが立ち上がり、ぶるぶると体を振るって雪を払った。ダクネスに抱きかかえられためぐみんは、幸いにも傷は無さそうだった。

 

「大丈夫か、めぐみん」

 

「えぇ、庇ってくれてありがとうございます」

 

 ダクネスの腕の中から、めぐみんがあたりを見回した。

 

「それで、ここは……」

 

「どうやら、麓まで流されたみたいだ」

 

「麓、ですか。それで、二人は」

 

「辺りにはいないようだな。もしかしたら、まだ山の中にいるのかもしれない」

 

「じゃあ、急いで助けに行かないと!」

 

「待つんだ。山の上を見ろ。恐らく、上は吹雪になっているはずだ。今いけば、私たちも遭難しかねない」

 

「そんな……!」

 

「せめて、どこにいるかさえ分かればいいんだが……」

 

 ダクネスが困ったように眉をひそめた。その時、めぐみんがなにか閃いたように顔を上げた。

 

「そうだ! 糸なし糸電話があるじゃないですか。これで連絡を取れば、居場所が分かるはずです」

 

「それだ! 今すぐ電話してみよう!」

 

 めぐみんは糸なし糸電話を取りだすと、アクアに電話をかけた。

 

「アクアですか? めぐみんです」

 

『めぐみん! ねぇ、そっちは大丈夫?』

 

「ええ、ダクネスも無事ですよ。それで、アクアは今どこにいるんですか」

 

『分からないけど、ドラえもんと一緒にどこかの洞窟の中にいるわ』

 

「二人一緒なんですね。よかった……」

 

 めぐみんが心底ほっとしたように顔をほころばせた。

 

「じゃあ、吹雪がおさまったら下山できそうですか?」

 

『それがね……冬将軍が近くをうろついていて、当分出れそうにないの』

 

「ほんとですか! それじゃすぐ助けに――」

 

『ダメよ。冬将軍なんて誰も敵わないわ。ドラえもんもいるし、なんとか隙をついて出ていってみせるから、安心して』

 

「分かりました。一応、町へ救援を呼びに行きます。くれぐれも、無茶をしないでくださいね」

 

『ありがと。頼りにしてるからね、めぐみん』

 

「二人とも、無事でいてくださいね」

 

――プツン

 

「どうだった?」

 

「二人とも無事でした。ただ、冬将軍が近くにいるみたいです」

 

「なんだって!? それは大変だ」

 

「ええ、すぐに街へ戻って応援を呼びましょう。二人が見つかる前に、なんとか救い出さなければ」

 

 

――洞窟

 

 

「いいかい、アクア。このピンチはむしろチャンスだぞ。君がいかにデキる人間なのか、天界に見せつけてやろう」

 

「はぁ……」

 

「こら! ため息をついている暇はないぞ。火をおこすために薪を見つけたり、食糧を確保したり、あとは冬将軍がきたときの逃げ道を探したり、やることはいっぱいあるんだ!」

 

「……そういうドラえもんは、なんでヌクヌクとこたつに入ってんのよ!」

 

「えっ?」

 

 アクアがビシッと指をさした先には、コタツに半纏、あったかいお茶をすするドラえもんの姿があった。

 

「ずるい、私も入る!」

 

「ひゃぁ! ばか、冷たい空気が入っちゃうじゃないか!」

 

「あ、ドラえもんの足あったかーい♪」

 

「ぎゃぁ、えっち! 冷たい足でさわるなぁ!」

 

 ドラえもんが飛び上がらんばかりに悲鳴を上げた。しかし、アクアはそんなのお構いなしにペタペタとドラえもんの足に自分の足をくっつけた。

 

「いいじゃない、けちけちしないの。助け合いの精神って大切でしょ?」

 

「まったくもう。調子がいいんだから……。暖まったら出るんだよ」

 

 ドラえもんが諦めたのか、お茶をすすりながらたしなめた。

 

「分かってるわかってるって。あ、ドラえもん。私にもお茶ちょーだい」

 

「はいはい」

 

 

――草原

 

 

「ダクネス、下ろしてください。私を背負ったままでは、全力で走れないでしょう」

 

「ばか言うな。こんなところで下ろしたら、モンスターの餌食になるぞ」

 

「でも……」

 

「大丈夫、ドラえもんたちを信じろ。そんなすぐにやられる奴らじゃないさ」

 

「そうですね。二人を信じましょう」

 

 

――洞窟

 

 

「うひゃぁ、やられたぁ!」

 

「やったぁ! わたしの勝ちね!」

 

「むむむ、まさかアクアがテレビゲームに強いだなんて」

 

 負けた悔しさからか、思わずドラえもんがコントローラーを放り投げた。

 

「ふっふっふ。コツさえ掴めばなんてことないわ。さ、もう一度やりましょ! ボコボコにしてあげる」

 

「よぅし、なら次はレーシングゲームで勝負だ!」

 

ピロポロ……

 

「……あら? 今、電話の音がしなかった?」

 

「え? どれどれ……ありゃ、バッテリーがなくなってる」

 

「えぇ、ちゃんと充電してよ。これじゃ二人と連絡がつかないじゃない」

 

「わかったよ、後で充電しておくから」

 

 

――草原

 

 

ピロポロポン

 

「ダメです。二人とも出ません。もしかして……」

 

「まだ決まったわけじゃない。もしかしたら、冬将軍が近くにいて音を出せない状況なのかもしれない」

 

「でしたら、なおのことまずいです。きっと、冬将軍が洞窟の中に入ってきたんですよ」

 

「そうだな。街へ急ごう!」

 

 

――洞窟

 

 

「あぁ、だめだ……こたつから出られない」

 

 ドラえもんがコタツの上に頭を乗せてグタリとしている。対面にいるアクアにいたっては、もはやコタツから頭しか出ていない。

 

「なんで出る必要があるのよ……もうこのままでいいじゃない」

 

「……しょうがない。こうなったら、体の芯から温めよう」

 

 そう言って、ドラえもんがゴソゴソとポケットのなかに手を入れた。

 

「温泉ロープ!」

 

「え、温泉!? まさか……」

 

 アクアが途端に上体を起こした。

 

「そのまさかさ。こうやってロープを地面に設置すれば……ほら、ロープの内側から温泉が湧き上がるんだ!」

 

「きゃぁ、ドラえもんすてき!」

 

「さて、じゃあ入る順番だけど――」

 

「一番風呂は私よ!」

 

 言うや否や、いつの間にか服を脱ぎ捨てたアクアが温泉へと飛び込んだ。

 

「あぁ、ばか! 君が先に入ったらただのお湯になるじゃないか!」

 

「いいじゃないいいじゃない。お湯だってあったかいでしょ。……あー生き返るー」

 

「もう……。ほら、せめてバスタオルくらい巻きなよ」

 

「はいはい、あとでねぇ」

 

 もう温泉から出るのが億劫なのか、アクアは生返事ばかりで一歩も動こうとしない。ドラえもんは諦めたのか、アクア用のバスタオルを縁に置くと、自分用の手ぬぐいを頭にのせた。

 

「じゃ、ぼくも入ろっと」

 

 ドラえもんが温泉の中へと飛び込む。すると、ザバッとロープからお湯があふれ出した。

 

「「あーごくらくごくらく」」

 

 

――アクセル

 

 

「えぇ!? アクアさんとドラちゃんが遭難!?」

 

 思いがけず声が大きくなってしまったせいか、受付嬢のルナがすぐに両手を口元に当てた。

 

「そうなんだ。しかも、冬将軍が近くにいるらしいんだ」

 

「今すぐ、応援を出してください! お願いします!」

 

「分かりました。ただ、冬将軍となるとアクセルでは手が負えません。王都に頼むしかありませんが、動いてくれるかどうか……」

 

「そんな……」

 

 ルナの予想はもっともであった。貴族や一般市民ならまだしも、死が日常茶飯事の冒険者のために、わざわざ出動するかと言えば否である。

 

 三人が途方に暮れていると、カランカランと酒場の扉が開いた。

 

「……おや、なにかお困りですか?」

 

「あ、ミツルギさん! アクセルに戻ってきたんですね」

 

「えぇ。仲間が王都で修行している間、野暮用で戻ってきました」

 

「誰ですか、この人」

 

「魔剣の勇者ミツルギさんですよ。数々の高難易度クエストを達成するなど、凄腕の持ち主なんです!」

 

「い、いえ。それほどでも」

 

 ルナの説明に若干頬を赤らめたミツルギは、照れくさそうに頭をかきながら話を戻した。

 

「それで、何かあったんですか?」

 

「アクアたちが遭難したんです。すぐに助けに行かないと」

 

「アクア……? きみ、今アクアと言ったか!?」

 

 ミツルギがめぐみんの肩を掴んだ。

 

「え、なんですか、知ってるんですか? アクアのこと」

 

「知ってるなんてもんじゃない! 青い髪の女神さまのことだろう」

 

「そうです。自称女神のアクアです」

 

「あぁ、アクア様がこんなところにおられるとは……。分かった。僭越ながら、この僕が救援にいこう」

 

「ほ、ほんとうか!」

 

「ありがとうございます!」

 

 めぐみんとダクネスが頭を下げた。ミツルギは「任せて」と言うと、二人と共に酒場を後にした。

 

 

――洞窟

 

 

「ようし、温泉を拡張できたぞ。アクア、洞窟の向こうまで競争だ!」

 

「受けて立つわ。水の女神に泳ぎで勝負したこと、後悔させて上げるんだから!」

 

 アクアが胸を張って挑戦を受けると、ミニドラがピストルを構えた。

 

「ドララ! ドーラ……ドラ!」

 

パァン

 

「えいっ!」

 

 アクアが勢いよく温泉の中に飛び込む。

 対してドラえもんは、ポケットの中から輪っかの形をした道具を取り出した。

 

「変身ロープ! これで足を魚に変えてと」

 

 輪っかをくぐると、ドラえもんの足が魚の尾ひれに変わり、人魚のような姿となった。

 

「おっさきにぃ~」

 

「あ、ずるい! 道具を使うなんて! もう、こうなったら――!」

 

「おや? 水の中に渦が……うわぁ、飲みこまれたぁ!」

 

「水の女神を舐めちゃダメよ。これで一位はもらったわ!」

 

 

――アクセル

 

 

「やっぱり出ないです」

 

 ダクネスに背負われためぐみんが、がっかりしたように糸なし糸電話をしまった。

 

「そうか。二人とも、無事でいてくれれば良いんだが」

 

「ところで、不思議な魔道具を持っているね。まるで携帯電話のようだ」

 

 走りながら、ミツルギが尋ねた。

 

「これは糸なし糸電話と言って、ドラえもんというロボットが持ってた道具ですよ」

 

「えっ!? ドラえもん!?」

 

 ミツルギが素っ頓狂な声を上げた。

 

「なんですか、知ってるんですか? ドラえもんのこと」

 

「知ってるも何も、僕の国じゃ国民的アニメのキャラクターだよ。まさか、こんな異世界にいるなんて……」

 

 

――洞窟

 

 

「空間入れ替え機で地面を入れ替えてと」

 

 ドラえもんが機械を操作すると、地面の一部が変化した。

 

「そこに寝転がってごらん」

 

「ん、あったかーい! なにこれ、すごい気持ちいいんですけど」

 

「岩盤浴ってやつだよ。ダイエットにも良いんだって」

 

「へぇ、いいじゃない。わたしここ気に入ったわ。このまま住んじゃおうかしら」

 

 アクアが目をつむって足をパタパタと動かす。どうやら、ドラえもんの予想以上にご満悦らしい。

 ドラえもんも地面に座り込むと、ポケットからお菓子の袋を取りだした。

 

「……そういえば、なにか忘れてるような?」

 

「あ、ドラえもん、私にもお菓子ちょうだい」

 

「はいよ」

 

「んー、届かない」

 

 アクアの伸ばした手がプルプルと震えている。

 

「これくらい起き上がりなよ」

 

「えー、ドラえもん食べさせてよ。ね?」

 

「わがままだなぁ、もう。はいよ」

 

「んー」

 

パク

 

「おいひぃ」

 

「……こりゃしばらく痩せなさそうだ」

 

 

――麓

 

 

「あ、もう吹雪がやんでますよ。行きましょう!」

 

 めぐみんがダクネスの背から下り、雪山に足を踏み入れた。ふらふらのめぐみんの足取りはかなり覚束ず、一歩一歩と歩くのがやっとのようだった。

 

「肩を貸そう、めぐみん」

 

 ダクネスがめぐみんの脇に肩を入れた。

 

「すいません、ありがとうございます」

 

 ミツルギが二人の先頭で剣を構え、周囲を警戒しながら歩いていく。

 

「よし、ここはモンスターがいないようだ。さぁ、二人とも頑張ろう。もう一息だ」

 

 

――洞窟

 

 

「ねぇ見てみて、ドラえもん。吹雪がやんだわ。体もあったまったし、雪合戦しましょ!」

 

「よぉし、負けないぞ!」

 

 ドラえもんが答えると、アクアが勢いよく洞窟を飛びだした。

 左右に分かれて、雪玉を作り出す。先に出来上がったのはアクアのようだった。

 

「くらいなさい。えい! えい!」

 

 ポイポイと次々に雪玉をドラえもんへ投げていく。

 

「ぎゃぁ! つめたぁい! 中に何か入ってる!?」

 

 雪玉が当たった瞬間、ドラえもんは思わず飛び上がってしまった。雪玉の中から水がしたたり落ちていた。

 

「あ! 水が入ってる!」

 

「ふふん、水の女神お手製の雪玉よ。さぁ、震えあがりなさい!」

 

「くそぉ、こうなったらミニドラを呼ぼう!」

 

「「ドララァ♪」」

 

「みんなでアクアに集中砲火だ!」

 

「「ドララ!!」」

 

ポイポイ

 

「きゃあ! ちょっと、数が多すぎるんですけど!」

 

「「ドラ!ドラ!」」

 

「もう、卑怯よ。いたいけな女の子に数の暴力だなんて。こうなったら、大玉を作ってやるんだから!」

 

 

――雪山

 

 

「雪崩の向きからして、恐らくここら辺だな」

 

「アクアー、ドラえもーん! いたら返事してくださーい」

 

「ここにはいないみたいだね。もう少し、奥を探してみようか」

 

「そうですね……あ、待ってください! あそこ!」

 

 めぐみんがミツルギを制した。視界の向こうには、見覚えのある巨体が見えた。

 

「あれは……冬将軍!」

 

「その下にいるのはアクアじゃないですか!?」

 

「ほんとだ。すぐに助けに行こう!」

 

 

 

 

「アクア!」

 

「あら、めぐみんにダクネスじゃない。それと、そっちの人は……?」

 

 アクアが二人の隣に並ぶミツルギを指さした。

 ミツルギはアクアを庇うように背中に隠すと、冬将軍に向かって剣を構えた。

 

「無事でよかったです、女神様! さぁ、ここは僕に任せてください!」

 

「へ?」

 

 アクアが口をポカンと開けた。だが、眼前の冬将軍に集中しているミツルギにアクアの表情は見えていない。

 

「冬将軍よ、これが選ばれし勇者の剣だ! くらえ――」

 

「わぁぁあああ!! 待って!! 私の渾身の作品を壊さないで!!」

 

「「「……はい?」」」

 

 三人が呆気にとられたようにアクアを見た。アクアは冬将軍のもとに駆け寄ると、それを守るようにしがみついた。

 

 すると、冬将軍の背後からドラえもんが出てきた。

 

「どうしたんだい、アクア?」

 

「みんなが私の作品を壊そうとするのよ!」

 

「みんな? ……おや、二人とも来てたんだ。じゃ、一緒に雪像づくりやろうよ。専用の手袋ならまだあるから」

 

 ドラえもんがポケットから白い手袋を取りだしながら、ダクネスたちのもとへと駆け寄った。

 

「……おや、そちらはどちら様で?」

 

「……なぁ、ドラえもん。二人は遭難してたんじゃなかったのか?」

 

「あっ」

 

 

――アクセル

 

 

「もう、すごい心配したんですからね!」

 

「はい、申し訳ありませんでした」

 

「今後はちゃんと遭難するように気を付けます」

 

「な、なぁめぐみん。それくらいでいいだろう。二人とも反省しているようだし」

 

「いいえ、あと2ページはやります!」

 

「「ひぇぇ、お助けぇ……」」

 

 ドラえもんとアクアは悲鳴を上げながら抱き合った。だが、めぐみんからの慈悲はなさそうだ。

 まだまだ続きそうなめぐみんの肩を、魔剣の勇者が叩いてなだめた。

 

「まぁまぁ。とりあえずは、二人の無事をお祝いしようじゃないか」

 

「……むぅ、分かりました」

 

「ありがと! どこのどなたか知らないけど助かったわ」

 

「えっ……?」

 

「ん?」

 

「あの、僕は、あなたからこの魔剣をいただいてこちらの世界に来たミツルギなんですが……」

 

「あら、そうだったっけ? わるいけど転生させた人なんて山といるから覚えてないわ。どんまいどんまい」

 

「キミが言うなよ」

 

 ガクリとミツルギがうなだれた。どうやら、かなりショックだったらしい。

 めぐみんがツンツンと突っつくが、反応はない。

 

「まぁミツルギさん。アクアはこう言ってるけど、助けに来てくれたことにぼくも感謝してるから。ほら、元気だして」

 

「……ありがとう、ドラえもん。……そうだ! 聞きたかったんだが、君はほんとうにドラえもんなのかい!?」

 

「そう。ぼくドラえもん。二十二世紀から来た――」

 

「ネコ型ロボットだろう? まさか、ほんとうにいるとは……」

 

「そのとおり! ぼくはネコ型ロボットなんだ!  あぁ、こっちの世界で初めてネコって言われた!」

 

「う、うそだろ、ドラえもんをネコと見破っただと……?」

 

「あの人、目がおかしいんじゃないですか」

 

「魔剣の副作用かしら……」

 

「うわぁん! 仲間がひどいこと言うんだぁ!」

 

「よしよし、泣かないでくれ、ドラえもん。僕も話を進めたいんだ」

 

 ドラえもんがミツルギに泣きつくと、困ったような顔を浮かべながらドラえもんの頭を撫でた。

 

「ぐすぐす……」

 

「はいはい、私たちが悪かったから。ほら、ハンカチ」

 

「ぐす……ちーんっ!」

 

「きゃぁぁ! ちょっと、鼻かまないでよ!」

 

「ごめんごめん」

 

 ドラえもんが謝ると、瞬間ドライヤーで乾かして、アクアに返した。アクアが汚そうに摘みながらポケットにしまう。

 

「それで、ミツルギさん。ぼくのことを知ってるようだったけど?」

 

「あぁ。僕の国では、君が主人公のアニメが放送されているんだ」

 

「えぇっ!? ぼくのアニメが!?」

 

「そうだよ。そして君は、国民から愛されている大人気のキャラクターだ」

 

「いやぁ、照れるなぁ」

 

「え、これそんなに人気なんですか?」

 

「む、これとはなんだ! ぼくは後継機が作られるくらいには、未来じゃ大人気商品なんだぞ」

 

 ドラえもんがプンスカと顔を真っ赤にして暴れだした。

 ミツルギがドラえもんをなだめておさえる。そしてめぐみんに説明するように、ドラえもんの頭に手を置いた。

 

「例えばほら、この姿かたち、可愛らしいじゃないか」

 

「うーん……そうですかね?」

 

「だめよ、魔剣の勇者さん。この子はほら、センスがあれだから」

 

「そうなんだ、ミツルギ殿。彼女の種族はセンスがあれなんだ」

 

「おう、二人とも。今すぐ表に出てもらおうか」

 

 

――閑話休題

 

 

「それで、ドラえもんのことを知っていた理由は分かったとして、アクアとはどんな関係なんだ?」

 

 ダクネスがミツルギに尋ねた。アクアはすでにミツルギへの興味が失せたのか、メニュー表と睨めっこしながら唸っている。

 

「こうなったら正直に話そう。実は、ぼくは異世界からきたんだ」

 

「唐突に何言ってるんですか。頭でも打ったんですか」

 

 めぐみんがさも当然といった風に冷めた目線でミツルギを見た。慌てて、ミツルギが手を振って弁明する。

 

「う、うそではないんだ。生まれ変わったというか蘇ったというか……ね? アクア様――」

 

 ミツルギが救いを求めるようにアクアに目を向けた。

 

「え? ごめん、まったく聞いてなかったわ。とりあえず私はあんたに興味ないわよ?」

 

「あ、はい……」

 

 ミツルギが再びガックリと肩を落とした。肩どころか頭までもがガックリと下がっている。

 

「かわいそうに……」

 

「もう、なに言ってんだアクア。今のは転生の話であって、告白とかじゃないってば」

 

「あら、そうだったの? でも、しっかり落ち込んでるけど?」

 

 アクアがきょとんとした目で、微動だにしないミツルギを指さした。めぐみんがツンツンとミツルギを突っつく。

 

「これは再起不能ですね」

 

「言い方というものがあるだろう、アクア。助けに来てくれた恩人なのだから、もっと考えて言ってあげないと」

 

「わ、わかったわよ。もう一回フればいいんでしょ」

 

「鬼か、キミは」

 

「いいんだ、もう……ちょっと素振りしてくるから、探さないでくれ……」

 

 ふらふらと立ち上がったミツルギは、覚束ない足取りで酒場の出口へと歩いていった。

 彼の煤けた背中に、4人は感謝の言葉と励ましの言葉をかけたが、その声が彼に届いていたかは定かではない。

 

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