ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」 作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」
――
ダクネスがトイレから戻ると、ちょうどめぐみんがアクアとドラえもんに正座をさせているところだった。
なにがあったかは分からないが、きっとロクでもないことなのは確かなので、ダクネスは特に理由を聞こうとはしなかった。
「なるほど。これを飲ませて、私で遊んでいたわけですね」
「は、はい……」
「いや、ぼくは遊んでたわけじゃ……」
「言い訳は無用です」
めぐみんがフラスコのようなものをつまみ上げると、アクアとドラえもんの二人は怯えたように抱き合った。
ダクネスは見たことない道具に、首を捻った。
「めぐみん、その道具はなんだ?」
「ジキルハイドというらしいです。この中の薬を飲むと、性格があべこべになるようですよ」
めぐみんがフラスコから丸薬を取り出してダクネスに見せた。
「……あ、さっき飲まされたやつだな」
「ほう、ダクネスでも試したんですね」
「ひぃ」
めぐみんがジキルハイドを振ると、カラカラと音が鳴った。おもむろに丸薬をもう一つ取りだすと――
「私たちだけが恥ずかしい思いをするのは不公平です。次は二人も飲んでください」
「えぇ、なんでぼくまで!?」
「なに言ってるんですか、道具を貸したのはドラえもんでしょう? 共犯者なんだから当然です」
めぐみんが腰に手を当てて睨む。どうも、ドラえもんへのあたりがいつもより強い。トイレに行っている間に、よっぽどひどいことがあったのだろう。
有無を言わさずにドラえもんの口を開けると、めぐみんはジキルハイドを一粒放り込んだ。
「あむっ……!?ごくんっ……」
「さぁ、アクアもです」
「わ、わかった。自分で飲むから――んっく……!」
めぐみんが無理やり薬を飲み込ませると、アクアたちはまるで糸が切れたようにだらんと首を落とした。
「だ、大丈夫だろうか」
ダクネスがアクアの顔を窺う。
アクアは顔を上げると、トロンとした目でダクネスを見つめ、しなだれるように体を傾けて頬に手を当てた。
「はぁ……いじめられたいわ」
「……その気持ち、わかる」
力強くダクネスがうなずいた。
隣にいるめぐみんの「は?」という冷たい視線もものともせず、二人は力強く手を握り合っている。
そんなアクアの背後に、目を吊り上げたドラえもんが立った。
「……やい! この大ばかやろうののろまとんちき! 安物ルアーみたいな色合いしやがって! こっちきやがれ!」
ドラえもんは般若の形相で、アクアの髪を引っ張り上げた。
ダクネスが羨ましそうに見つめる。
「きゃっ!……いたい! ちょっとやめ――いや、やっぱりやめないで!」
「言われなくてもやめるもんか!」
「……え、なんですか。ドラえもん、どうしたんですか」
めぐみんがドン引きしたように口元を押さえている。どうやら、ドラえもんは道具の効果で鬼畜野郎になってしまったらしい。ドラえもんはアクアに罵詈雑言を散々に浴びせてい、アクアは恍惚とした表情を浮かべている。
となれば、ダクネスがやることは一つ。
「ど、ドラえもん、私にもぜひ同じことを!」
駆け出したダクネスは、すぐさまめぐみんに羽交い締めにされてしまった。
「やめてください、ダクネス。これ以上カオスな状況にさせてどうするんですか」
「は、離してくれ、めぐみん! こんな絶好の状況なのに、見てるだけなんてあんまりじゃないか!?」
「なにがあんまりですか。まったく、この変態クルセイダーは……」
「はぅ!」
ダクネスが恍惚とした表情で体をよじった。正直、このお預けな状態も悪くないと思っていたりしている。
アクアも周りは見えてないようで、次の責め苦を期待するような眼差しでドラえもんをじっと見つめていた。
「やいアクア、今何歳だ!?」
「あ、あの、年齢は秘密で……」
「ぐずぐずするな! さっさと答えやがれ、このぴんぼけピーマン!」
「は、はいぃっ! あの、百歳までは数えてて、それから先は……」
「百歳だって!? えぇ! 百年たってその性格なのかい!? 呆れた! 実に呆れた!」
「ご、ごめんなさぁい!」
「なにがごめんなさいだ! もう我慢ならない! キミにはおしおきが必要だ!」
「え、おしおき!?」
途端、アクアの目が輝きだした。居住まいを正して、ドキドキと期待に胸を膨らませる。隣でなにやらダクネスとめぐみんが格闘しているような気がするが、アクアはまったく振り向く素振りすらしない。
ドラえもんはポケットに手を入れると、鞭やらなにやら、ダクネスにとってうらやま――不穏な道具が取りだした。
それを見ためぐみんが、慌ててドラえもんをなだめる。
「ど、道具を使うのはやり過ぎですよ、ドラえもん」
「だめだめ! これは日ごろの憂さ晴らしもかねてるんだ!」
「でも、さすがのアクアだってドラえもんの道具では――」
「大丈夫だから。邪魔しないで、めぐみん」
「あ、はい」
アクアがぴしゃりと否定する。両手を組み、目を閉じてその時を待つ彼女の姿は、さながら敬虔なシスターのようだが、その内実が欲塗れなので、とても清らかなものには見えない。
「ぐぬぬ……アクアが羨ましい……! 妬ましい……!」
「……あの、ダクネス。私のマントを噛んで悔しがるのやめてもらえませんか……?」
めぐみんが若干引いた目をしながらマントを引っ張る。どうやら、ダクネスは無意識のうちにめぐみんのマントを噛んでいたらしい。
「ドラえもん……どうかこのだめな私におしおきを!」
「えぇぃ! なに幸せそうな顔してんだ! いくぞ、それ!」
ドラえもんが両手で道具を構えた。
「ころばし屋!」
「きゃっ!」
「愛のむち!」
「あひぃ!」
「まだまだ、カミナリだいこ!」
「ふぎゃっ!」
「とどめはゲラゲラミサイル!」
「あひ!あひゃひゃひゃっ!!!」
「どうだ、まいったか!?」
「はぁはぁっ……はぁん……すごくいい……」
「……これ、なにやってるんですか。プレイですか。部屋でやってもらっていいですか」
「……ずるい、ずるすぎる!! なぜあそこにいるのが私じゃないんだ……!!」
「まだまだ、これだけじゃ終わらないぞ!」
「はい! ぜひとも次なる責め苦を!」
「ぐぅぅ!! アクアが憎い……!! アクアが憎いぃ……!!」
ブチブチィッ
「あぁ!? ダクネス、私のマントを食いちぎらないでください!! あの二人とも、ダクネスが血を出して歯噛みしてるんで、今すぐやめてもらっていいですか!?」
――10分後
「……おや? ぼくはなにを?」
「あひぃぃぃ!! 体がめちゃくちゃ痛いんですけど!? 体中があちこちヒリヒリするんですけど!?」
「ありゃ、これはひどい。いったい誰がこんなことを」
「ドラえもんですよ、ドラえもん。それはもう活きいきと苛めてたのを覚えてないんですか?」
「えっ、ぼくが?」
「な、なぁ、ドラえもん。これ、もう一回飲んでくれないか?」
「イヤだってば。次はダクネスをいじめるかもしれないんだぞ?」
「はぁ……なにを言ってるんだ、ドラえもん。私はそれを期待しているに決まってるじゃないか!」
「ほんとにもう、どうしようもねぇやつだなぁ」
――
アクアが自分の体にヒールをかけると、傷は見る見る癒えていった。ただ、心の傷までは癒せなかったようで、両手を床につくと、そのまま泣き伏してしまった。
「うっ……ぐすっ……なんでぇ……? ひっく……なんで私が道具を使うと、ロクな目にあわないのぉ……!」
「ロクな使い方しないからだろ。だいたいキミはだね――」
ドラえもんがいつものように説教を始めると、めぐみんがおもむろに立ち上がった。
「説教始まるんでしたら、爆裂散歩に行ってきますね。ダクネス、付き合ってください」
「あぁ、分かった」
「いってらっしゃい、二人とも」
「え、二人とも行っちゃうの!? ちょっと待ってよぉ!」
アクアは引き止めようとしたが、二人はさっさと屋敷を出て行ってしまった。
「どうしたの。二人になんか用事でもあった?」
「え、ドラえもんも知らないの!?」
アクアが絶望したかのように両手を顔に当てた。
「今日……うーん……あ、コロッケの特売日――」
「ちがうわよ! わたしの誕生日、生誕祭の日なのよ!?」
「ありゃま。おめでと」
「ありがと! ……じゃなくて! もっと盛大に祝ってよ!! どうして誰も街を上げて祝ってくれないの!?」
「えぇ、キミもいい歳じゃないか。まだ誕生日会とかしたいの?」
「誕生日会なんてレベルじゃなくて、国を挙げて祝ってほしいの!!」
「そんな無茶苦茶な……」
「じゃあ、せめて誕生日プレゼントがほしい!」
「プレゼント? ……しょうがない。じゃ、このどら焼きを――」
「いらないわよ! ねぇちょっと雑すぎない!? そんなありあわせで満足すると思ったわけ!?」
「そんなこと言われたって……。ぼくはキミが欲しいものなんて分からないし」
「信者がほしい! 信者信者!」
「そんなモノみたいに言うなよ……ん? 待てよ?」
なにか思いついたのか、ドラえもんが腕を組んで考え込みだした。
「え、なんかあるの?」
「……信仰されるわけじゃないけど、人気者になれる道具ならある」
「ほんと!? 出してだして!」
アクアが興奮したようにドラえもんに抱き着き、その肩を揺さぶった。
「ちょちょっと、ゆらすなって」
「早くはやく!」
アクアに急かされ、ドラえもんが慌ててポケットに手を突っ込んだ。
「えぇと、確かここに……あった! めだちライト!」
ドラえもんが取りだした道具は、懐中電灯のような道具だった。
不思議そうに、アクアがきょとんと首を傾げる。
「この道具の光を浴びると、まるで大スターのように人気者になれるんだ」
「へぇ、いいじゃない。ほら、はやく使ってよ!」
「……ほんとにいいの? 人気者になったって、苦労するだけだよ」
「いいの! 私はエリスより敬われたいし目立ちたいの!」
「そこまで言うなら、はい」
ドラえもんがめだちライトをアクアへと向けた。ピカリと光り、アクアの体が不思議な輝きに包まれていく。
「……なんともないわよ?」
「なに、外に出たら分かるさ」
「……ほんとかしら?」
アクアが疑わしそうに自身の体を見つめた。特に何かを放つわけでも、何かが漲るようでもない。いつもと変わらない体だった。
「試しに街を散歩してきなよ。すぐに人が寄ってくるから」
「うーん。あんまり信じられないけど、とりあえず行ってくるわね」
「いってらっしゃい。さてと、ぼくも出かけるか」
――街中
半信半疑で街に出たアクアだったが、すぐに道具の効力を確信するようになった。
「おい、アクア様だ!」
「ほんとだ! 今日も神々しいわ!」
「どこに行かれるのかしら」
いつもと街の人の反応が違った。アクアが通れば誰もが振り向き、目を輝かせている。アクアの後ろには人々が続いていき、やがてパレードのような大行列へと変貌していった。
「ふふん。いいわね、こういうのも」
満足そうにアクアが頷いた。
アクアは中心部を一周して人を集めると、ギルドのある酒場へと入っていた。当然、ここでも大きな歓声が店内に響き渡った。
「おぉ、アクア様だ!」
「実に神々しい!」
「ありがたや!ありがたや!」
「そうでしょうそうでしょう。麗しくも慈悲深い水の女神の顕現よ! さぁ、もっと褒めたたえなさい!」
アクアが手を振り上げ、言葉を発すると歓声が響き渡った。聴衆はアクアの一挙手一投足を見逃さまいと目を凝らし、アクアが微笑めば歓喜の声が湧いた。
「なによなによ、素晴らしいじゃない! もう、予想以上の効き目ね!」
アクアがうなずく間も、酒場には続々と人が詰めかけてきた。
「すいません、アクア様はいらっしゃいますか!」
「あの、アクア様に会わせてください!アクア様のファンなんです!」
「アクア様に踏まれるため、アルカンレティアからやってきました!」
「はいはい、静粛に静粛に。それでねそれでね。聞いてほしいんだけど、実は今日、私の生誕祭なのよ!」
「な、なんと!?今日がアクア様のご生誕された日だったとは!」
「知らなかった! 今日がアクア様のご生誕の日だったなんて!」
「「「うおぉおお! アクア様万歳ぃ!!!」」」
「ま、知らなかったことは目をつむってあげるわ。そ・の・代・わ・り! 今から盛大に祝ってもらいま――」
「それでアクア様! 今年でおいくつになられたんですか!!」
「……へっ?」
「そうだ! アクア様、いま何歳なのかお答えください!」
「アタシより先輩ってことは、千年は確実ですよね!?」
「え、えと、その……い、いいじゃない、私の歳のことなんか――」
アクアがしどろもどろになりながらはぐらかした。ただ、聴衆はその答えに納得がいかないようで――
「よくないですよ! アクア様のことなら、どんなことでも知りたくてたまらないんです! 教えてください!」
「えぇっと……そんなこと言われたって……」
アクアはしどろもどろになりながら、後ずさっていく。対照的に、群衆はアクアを囲いだし、じりじりと迫った。
「アクア様! いま、交際はされてるんですか!!」
「アクア様! 今まで付き合った人数は!?」
「アクア様! 実は処女だという噂の真偽は!?」
「な、なによ。そんなどうでもいいこと、聞かなくていいでしょ!」
「どうでもよくありませんよ! 教えてください、アクア様!!」
「教えてもらうまで帰りませんよ、アクア様!!」
「教えてください、先輩!」
「「さぁ、アクア様!!」」
「ちょ、ちょっと押さないで! もう、なんなのよ!」
ついに耐え兼ねたのか、アクアは群衆に背を向けると、酒場から出ていった。
「待ってください!どうして逃げるんですか!」
「追え、アクア様を取り押さえろ!」
「守衛、城門を閉じるんだ! この街から逃がすな」
「ひぃぃ!」
アクアの背後を、男女問わず大勢の人間が追いかけてきた。
路地裏や角から次々に人が現れる。
「おい、こっちだ!」
「囲め囲め!」
「いやぁ!! あんたたち、ほんとに私のファンなわけ!?」
「ファンです! なのでアクア様をはく製にして家に飾ろうかと――」
「ふざけんな、アクア様はホルマリン漬けのほうが輝くだろうが!」
「ひぃぃ!? あんたたち発想がおかしすぎるでしょ!!」
アクアはもう後ろを見ることなく走った。
ほうほうのていで屋敷まで逃げ切ると、急いで中に入って鍵をかける。
「はぁ、はぁ……あれ、ドラえもんは……?」
息を切らせたアクアが中を見渡した。もしかしたら、ちょむすけと遊びに行ったのかもしれない。
「なによ、何かあったら戻っておいでって言ったくせに」
「おや、おかえり。早かったね」
「ひゃぁっ!?」
背後から聞こえた声に、アクアは思わずのけ反りながら振り返った。
いつのまにか、背後にピンク色の扉があり、そこからドラえもんが顔を覗かせていた。
「な、なによその扉」
「これはどこでもドアって言ってね、登録した地図の範囲内なら文字通り、どこにでもいけるんだ。ようやくこの世界の地理データを収集できたんで、使ってみたんだよ」
試しにとばかりに、ドラえもんが「北極」と言いながらどこでもドアの扉を開いた。すると、扉の向こう側から刺すような冷たい風が吹き込んできた。
「ひゃぁ! 寒い! そうだ、ぼくは寒がりだったんだ!」
「……なにしてんのよ」
慌ててドラえもんがどこでもドアを閉めた。
「いやぁ、ごめんごめん。ところで、どうだった? 人気者になった気分は」
「そ、そうだ! な、なによあれ! ひとの……いや、女神のプライベートをズケズケと聞いてくるわ、人をはく製にしようとするわで、怖すぎるんですけど!?」
「えっ、はく製? そんなまさか――」
――ドンドン!ドンドン!
『アクア様ぁ!なんで逃げるんですか!?教えてくださいよ!』
『子どもたちに文字を教えてあげると嘘ついて、入信書に名前を書かせたってのはホントですか!?』
『ドラえもんのツケで飲んだ金額が10万エリスを超えたってホントですか!?』
「あちゃぁ、ありもしない噂まで立っちゃって」
「……そ、そうね!」
「……えっ?」
「そ、そんなことより、はやくなんとかしてよ!」
パリィンッ
「いたぞ!アクア様は居間だ!」
パリィンッ
パリィンッ
「アクア様ぁ! 俺を踏んでくれぇ!」
「どきなさい! 先に踏まれるのは最高責任者であるこの私です!」
「ひぃぃ! 中に入ってきた!? ちょっと、効き目が強すぎじゃない!?」
「こ、ここまでの効き目じゃないぞ。たぶん、あの人たちってアクシズ教徒なんじゃ――」
「ひどい! 私の信者に罪をなすりつけて! 良いからなんとかしてよ! おねがいっ!」
「わかったって。それ、タイムふろしき!」
ドラえもんがタイムふろしきをアクアにかけた。アクアの体は時を遡ると、めだちライトを使用する前へと戻った。
すると、窓を割って入ってきたアクシズ教徒――ではなく暴徒たちも目が覚めたようで。
「……おや? なぜこんなところに? たしか、日課のエリス教徒へのセクハラに向かっていたはずですが」
「……あら、私何してたのかしら? エリス教会に落書きしに行かなきゃいけないのに」
洗脳が解けたのか、暴徒たちはアクアのことを見向きもしなくなった。彼らはくるりと踵を返すと、一様に割れた窓からぞろぞろと退出していった。
「た、助かったぁ……」
アクアがペタリと腰をおろし、額の汗をぬぐった。
「……予定とは違ったけど、わかったでしょ? 人気者の大変さが」
「そうね……。こんなに大変だとは思わなかったわ……。もっと楽して敬われて、養われるはずだったのに」
「誰だって楽には生きてないさ」
そう言って、ドラえもんはぽんぽんとアクアの肩を叩いた。
「さて、じゃあアクア、ちょっとぼくに付いてきて」
ドラえもんはアクアの手を掴むと、ドアノブに手をかけた。
「え、ちょっと待って。どこへ行くの?」
「雲の上」
――
アクアが連れられてきたのは、文字通り、雲の上だった。
「え、ほんとに雲の上!? ねぇ、これ大丈夫!? 落ちない!?」
「大丈夫だいじょうぶ。雲かためガスを使えば、ガラスみたいに液体でも固体と同じように振舞うんだ。ほら、試しに触ってごらんよ」
ドラえもんに促されたアクアは、恐る恐る足もとの雲に手を伸ばした。手触りはクッションのようで、とても水分でできたものとは思えなかった。ただ、押してみると、グミのようなぷるんとした触感で、水分でできているであろうことが窺える。
「やぁ、二人とも。やっときたか」
「遅かったですね、ドラえもん。料理が冷めてしまいますよ」
「……え?」
「ごめんごめん。ちょっと思わぬアクシデントがあって」
ドラえもんと二人が、こそこそと話し合っている。
アクアは、眼前の光景にただ驚いていた。雲のテーブルに、雲の宮殿、カラフルな飾りつけにたくさんの料理が用意されており、まるで誰かの誕生日会を始めるみたいであった。
「えっと、これはつまり……」
「ドラえもんから聞きましたよ。今日が誕生日なんですね」
「この雲の神殿を作ったのは私だ。どうだろうか、少しは女神さまらしく見えるんじゃないか」
「キミの望むような盛大なお祝いはできないけど、めぐみんとダクネスと3人で準備したんだ」
「ほら、アクア。主役なんですから真ん中に座ってください」
「うん!」
めぐみんが椅子を引き、アクアをテーブル中央の席に座らせると、ほかの3人もそれぞれの席に着いた。
「それじゃ、せーの」
「「「お誕生日おめでとう!」」」
――おわり
おまけ
誕生日会を準備していた時のこと。
「……参ったな。会場作りに時間がかかって、肝心の料理ができてないぞ」
「それなら、ぼくのグルメテーブルかけを使おうか」
「なに言ってるんですか、ドラえもん。せっかくの誕生日なら、手料理をふるまいましょうよ。そんな即席で作った心のこもってない料理なんて、冷めきった夫婦じゃあるまいし、出されたって嬉しくないでしょう?」
「えぇ、なんでそこまで言われなきゃいけないんだ……」
「だがめぐみん、アクアがヘマして戻ってくるまで、もう時間がないぞ?」
「大丈夫です。私に考えがあります」
「考え? なんだい、それは」
「ドラえもんのタイムベルトを使うんですよ。あれを使って、誕生日会が終わるであろう夜の9時に行って、未来の私をここに呼ぶんです。そしたら次は10時の私を、そのまた次は11時の私を……そうやって8人くらい呼んでくれば、あっというまに終わるはずです」
「なるほど、さっすがめぐみん、頭いい!」
「ふっふーん!」
「……んぅ? それは、未来のめぐみんが大変なのでは……?」
「じゃ、いってきますね」
――1人目
「な、なにするんですか! 離してください!」
「なに言ってんですか、未来の私。もう知ってるでしょう。アクアの誕生日の準備をするんですよ!」
「いやです、もう誕生日会はうんざりなんです! 私を帰してください」
「帰しませんよ! さぁ、ハンバーグ作りを手伝ってください!」
「一人目からこれで、大丈夫かなぁ」
「……誕生日会でなにがあったんだ?」
――2人目
「ほら、こっちに来てください」
「……はぁ、やればいいんでしょう、やれば。ったく、私はなんでこんなことを思いついてしまったのでしょう……! 今すぐ過去の自分を殴ってやりたい気分です!」
「おう、殴れるものなら殴ってみなさい。すべて自分に跳ね返ってくるだけですよ」
「二人とも落ち着いて。自分同士で喧嘩するなよ」
「なぁ、これ大丈夫なのか?」
「心配ないです。私はなんだかんだ言ってやる人間ですから」
――3人目
「……くぅ……くぅ」
「ほら、起きてください、私! ハンバーグをこねるんです!」
「ふぁ……ちょっと寝かせてください……ぐぅ」
「ダーメーでーす!! ほら、卵を割ってください」
「あぅ……ハンバーグ……つく……る……」
グシャッ
「げ、卵を握りつぶした……」
「ま、まともな料理ができるんだろうか……」
――4人目
「いやぁ! 無理です無理です! いい加減寝かせてください! もうハンバーグを見るだけで吐き気がするんです!」
「なに言ってるんですか、私! アクアのためですよ!」
「待ってください、私もう4回もこねてるんですよ!? もう仲間への義理は果たしました! 帰してください――この、そりゃっ!」
「いた!いたた! あ、逃げました! ダクネス、捕まえてください!」
「あ、あぁ……」
ガシッ
「ひぃ! お願いしますダクネス! ほんと見逃してください! もう疲労がピークなんです! ハンバーグなんて見たくないんです!」
「そ、その……」
「ダメです! ダクネス、ぜったい離さないでください」
――5人目
「離せ! 離せったらこの! 私はお布団の中へ帰るんです!!」
「往生際が悪いですよ、未来の私! さぁ、こっちに来てハンバーグをこねるんです!」
「……あの、めぐみん。そろそろ別の料理を」
「もう無理です、耐えられません! いいですか、過去の私! これ以上私にアレをこねさせるなら、今すぐテレポートを覚えて逃げますよ! それでもいいんですか!?」
「……なに、めぐみんがテレポートを?」
「それはそれでいいような」
「ふ、未来の私のことは、今の私が一番わかってます。あんなのはただのハッタリです。さぁ、ハンバーグをこねる作業に戻るんです!」
「……くっ!」
「ふっ、逃走など対策済みですよ! さぁ二人とも、縛り上げてやりましょう!」
「あ、あぁ……」
「いやぁ、やめてください! 脅しじゃないですからね!? ほんとに覚えますからね!?――やめ、離せぇ!!」
――6人目
「やっと見つけました! まさか、本当にテレポート覚えたんじゃないでしょうね!? さぁ、ハンバーグをこねる時間です!」
「あ……あ……ハンバーグ……うま……」
「お、おい、生地のまま食いだしたぞ!? もうダメなんじゃないか!?」
「まだ大丈夫です。あと二人くらいなら、まだ人間やめてないはずです」
「基準が恐ろしいことになってる……」
「……あぅ……うま……うま」
――7人目
「闇より深き……暗き漆黒よ……すべてを穿て……!!!」
「うわっ、ついに唱えだした!?」
「安心してください、想定内です。こんなこともあろうかと猿ぐつわを持ってきました」
「え、えぇ……」
「エクス――むぅ!!??もごもご!!??」
「い、いいのか、めぐみん……? あれ、未来の自分だぞ?」
「ふふ、大丈夫ですよ。私があんな風になると思ってるんですか?」
「……なるんだよなぁ、数時間後に」
――8人目
「エクスプ――」
「た、助けてください、ドラえもん! 私が行く前に詠唱終えていました!!」
「め、めぐみん、その子は今すぐ未来に返してきなって!」
「は、はい!」
――帰還後
「はぁ……はぁ……」
「ど、どうだった、めぐみん……?」
「……数時間後、この街が灰となることが決まりました……」
「え、えぇ……ど、どうしよう」
「それもう、誕生日会どころじゃないだろう……?」
「……まぁ、未来のことは気にしても仕方ありません。ここはポジティブに、誕生日会のことだけ考えましょう」
「……よし、そうしよう。未来のことは考えても仕方がない」
「えぇ、仕方がありません」
「いいのか、二人とも!? それは現実から目を逸らしてるだけじゃないのか!?」
ほんとにおわり
大変申し訳ないのですが、話のストックがなくなってしまいました。またしばらくお待ちいただけたらと思います。
……ほんと、毎日更新してる人とか凄いですね……