ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」 作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」
――翌日、アクセル酒場
「そうよ。よくよく考えてみれば、アークプリーストである私は前衛に出なくていいのよ」
「それじゃどうするのさ?」
「前衛職とパーティを組むのよ。戦いはその人にまかせておけば、私は後ろにいるだけでお金が入ってくるじゃない。ね? 頭いいでしょ」
「もう、すぐ調子に乗るんだから」
「さぁ、そうと決まればさっそくパーティメンバーを集めましょ」
――1時間後
「誰も来ないね」
「なんでかしら。こんなに可愛くて有能なプリーストなのに」
「自分で言ってたら世話ないよ。もう募集じゃなくて、どっかのパーティに入ったら?」
「いやよ。それじゃリーダーになれないじゃない。私はリーダーになって、取り分を多くするの」
「あきれた。どんだけがめついんだか。そんな心持ちだと、いつまで経っても天界に戻れないぞ」
「良いの。これは私の性分なんだから。絶対に性格は変えないもん」
「はぁ、先が思いやられる」
ドラえもんはため息をつくと、どこからともなく飲み物を取りだし、ストローを刺してひと口飲んだ。
「あれ? ドラえもん、なに飲んでるの?」
「ん、これ? オレンジジュースだよ」
「え、いつのまに買ったのよ?」
「買ったんじゃないさ。この道具で出したんだ」
そう言って、ドラえもんがポケットから蛇口の先のような道具を取りだした。
「これはなんでも蛇口と言って、壁に付けるといろんな飲み物が出てくるんだ」
「うそ、ほんとに!? 見せてみせて」
「いいよ。たとえば、この蛇口をひねると……ほら、コーラがでてきた。はい、どうぞ」
「ありがと!」
ドラえもんから受け取るや、アクアがグビグビと音を立て、あっという間に飲み干した。
「ぷはぁっ! はい、おかわり!」
「えぇ……あんまり飲むと虫歯になるよ?」
「いいのいいの。私ならすぐに治せるから」
「分かったよ、はい」
「ありがと!」
「じゃ、ぼくもおかわりしよっと」
2人で仲良く飲んでいると、ひとりの少女がドラえもんたちに近づいてきた。その少女は、おとぎ話にでてくる魔女が持っていそうな杖や帽子を身に着けていた。
「ん? 誰かしら」
「……すいません、私にも、なにか飲み物をくれませんか」
少女は杖にしがみつくように立っており、今にも倒れこみそうだった。
「大丈夫? とりあえず、はいどうぞ」
ドラえもんが蛇口をひねり、少女にコップを渡した。
「ありがとうございま……な、なんですか、この黒く毒々しい飲み物は!?」
「コーラだよ。なんだ、いらないなら――」
「の、飲みます飲みます」
ドラえもんが手を引こうとすると、少女はひったくるようにコップを受け取った。
「……も、もう贅沢は言えないんですよ、私。がんばれ、私!……んく!」
ゴクゴク
「……ぶふっ!」
「きゃぁ!」
「うわぁ、きたない! なにするんだ!」
「ゴホッゴホッ……それはこっちのセリフですよ! なんですか、このシュワシュワするやつは。新手の毒ですか!」
「毒なもんか。だからそれはコーラだってば!」
「"こーら"だなんて聞いたことありませんよ。私が紅魔族だからって、世間知らずだと思ったら大間違いです!」
「え、紅魔族?」
「しょうがないなぁ。じゃあ、はい。オレンジジュースなら飲めるでしょ」
「……ありがとうございます。……あ、こっちはおいしいですね」
人心地がついたのか、ようやくめぐみんは笑顔になった。
「ねぇねぇ、あなた紅魔族なら、魔法もかなり使えたりするんじゃない?」
アクアが尋ねると、まるで待ってましたとばかりにめぐみんの目が光った。
「ふっふっふ。よくぞ聞いてくれました!」
まるで水を得た魚のように、めぐみんが目を輝かせながらバサッとマントを翻した。
「我名はめぐみん! 紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂道を歩むもの!」
めぐみんの渾身の自己紹介が決まると、アクアは呆然とすることしかできなかった。
「あ、うん……」
「ほら見たことか。一人でパーティ募集しても、こんな冷やかししか来ないってば」
「ちがわい!」
「ドラえもん、思い出したわ。紅魔族はね、ちょっと頭がおかしなことで有名な種族なのよ。だからこれも真面目にやってるだけなのよ、たぶん」
「おう、誰の頭がおかしいのか聞かせてもらおうか――」
グゥー……
「……すいません。ここ3日食べてないんでご飯をいただけませんか」
「なんだか締まらないなぁ」
ドラえもんが呆れたように肩をすくめた。
「おねがいします、なんでもしますから」
めぐみんが懇願する。
すると、アクアは不敵な笑みを浮かべて小銭袋を取り出した。
「ふっふっふ。めぐみん、残念だったわね……!」
「な、その小ささ、まさか……!?」
「そうよ! 私たちもお金がなくてすっからかんなのよ!」
「な、なんですって!?」
「ちょっと、周りのひとが見てるから。そういうのやめようよ」
ドラえもんがあたりを見回しながら小声でたしなめた。そんな注意を気にすることなく、アクアが猫なで声でドラえもんにお願いしはじめた。
「……ねぇ、ドラえもん。なにか食べ物だしてくれない?」
「なに言ってんだ。こういうのは自分の力で稼いでだね――」
ドラえもんがこんこんと説教しようとすると、アクアはその口を手で塞いだ。
「むぐっ」
「そんなこと言わないで、ね? ほら、この子なんかお腹空きすぎて、今にも倒れそうなのよ」
「あぁ……お父さまお母さま、今そちらに旅立ちます……」チラッ
「さっきまであんなに元気だったのに……。もう、分かったってば。出せばいいんだろ」
「やったわ」
「やりましたね」
「はい、グルメテーブルかけ!」
「おお!……なんですか、それ?」
めぐみんが不思議そうに見つめる。
「まぁ見てて。まず、これをテーブルにかける」
「うんうん、それで?」
「食べたいものを言うと、このテーブル掛けから出てくるんだ」
「えーほんとに?」
「試してみようか。なにか食べたいものはある?」
「カエル」
「トカゲ」
「なに言ってんだ。そんなのあるわけないだろ」
呆れたようにドラえもんがたしなめる。
「ドラえもんこそなに言ってんのよ。カエルはこの世界の国民食よ」
「そうですよ。ここのメニューにだって載ってるじゃないですか」
めぐみんが置いてある酒場のメニュー表をバシバシと指し示す。どうやら、本当にカエルの料理があるらしい。
「そりゃ知らなかった。ただ、これはぼくの世界の料理しか出せないんだ」
「「えー」」
「うーん、どうしようか。二人が食べられそうなのは……とりあえず、ステーキとパンを出してみよう」
ドラえもんが料理の名前を唱えると、テーブルかけがポコポコと動き出し、目の前にステーキとパンが人数分現れた。
「きゃぁ、すごい美味しそう!」
「食べていいですか!?」
「どうぞ、召しあがれ」
「「いただきまぁす!」」
「さて、ぼくもどら焼きを出そうかな」
――1時間後
三人はひととおり食べ終わると、テーブルかけからコーヒーを取りだして一服していた。
「へぇ、めぐみんはアークウィザードなのね」
「そうです。それで、さっきから気になってたのですが、この青い狸?は使い魔ですか」
「だれがタヌキだ! ぼくはネコ型ロボットだぞ!」
「まぁ、だいたいそんなものね」
「なに言ってるんだ。ぼくはきみのお世話役だってば!」
「実は、私も使い魔がいるんですよ。ドラえもんより小さいですが」
「え、どこにいるの?」
「帽子の中に、ほら」
めぐみんが帽子を上げると、可愛らしい黒猫が顔を見せた。
「にゃー」
「あ、これはご丁寧に。はじめまして、僕ドラえもん」
「あら? ドラえもん、ネコの言葉が分かるの?」
「もっちろん。なんたって、ぼくはネコ型ロボットだからね」
ふふん、と自慢げにドラえもんが胸を張る。ネコらしさを見せることができて満足気だった。
「にゃー」
「ふんふん、なるほど。君の名前はちょむすけと言うのか。ひっでぇ名前だなぁ」
「おう、名付け親に喧嘩を売るってなら買いましょう!」
めぐみんが杖を構えると、バシバシとドラえもんを叩きだした。
「わぁ、ごめんって! 暴力はんたぁい!」
「ちょっと、こんなとこで杖を振り回さないでよ」
――閑話休題
「それで、私はまだどこのパーティにも入っていないので、できれば入れて欲しいのですが」
「どうする、アクア?」
「もちろんパーティに入れましょう。なんてったって、アークウィザードよ。入れないなんて選択肢はないわ」
「……よし!」
「大丈夫かなぁ」