ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」 作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」
――明くる日。酒場
「さぁ、今日もジャイアントトードを倒しに行くわよ」
めぐみんと酒場で合流すると、さっそくアクアがクエストの紙を二人に見せた。
「もうちがうクエストにしようよ。何度も食われてるじゃないか」
「私は別にかまわないですよ。ヌルヌルになるくらい」
「ぼくはごめんだぞ。あの粘液の臭いが苦手なんだ」
二人の言葉を制するようにアクアが指を振った。
「ふっふっふ、甘いわね。私もね、昨日考えたのよ」
「おや、なにかいい案があるんですか」
めぐみんが尋ねると、アクアが「ふふん」と胸を張った。
「まず、ドラえもんを囮にするでしょ――」
「だめ! ぼくは手を貸さないぞ」
ドラえもんが手でバッテンを作る。すると、アクアが涙目でドラえもんの肩をゆすりだした。
「ひどい! まだ食われてないのはドラえもんだけじゃない!」
「いつから順番で食われるようになったんだ! 僕はアクアのお世話するだけで、手助けはしないぞ」
ドラえもんがプイと横を向いた。
「でもでも、私もめぐみんも後衛なのよ。これじゃあ上手いこと戦えないじゃない。お願いよ、もうヌルヌルはイヤなのぉ」
アクアはドラえもんの両肩をつかむと、ぐわんぐわんと揺すりだした。
「わわわ、揺らすなって」
「おーねーがーい!」
「わ、わかった、わかったから!」
ドラえもんが折れると、アクアはパッと手を離して笑顔になった。
「やったぁ! ありがと、ドラえもん」
「はぁ……仕方ない。あれを使おう」
ドラえもんが困り顔をしながらポケットの中に手を入れた。
「おや、結局ドラえもんは戦ってくれるんですか」
「いいや、ぼくは戦わない。そのかわり、めぐみんを前衛にしようかと」
「え、私はイヤですよ。爆裂魔法以外には、絶対にスキルポイントを振りませんからね」
「大丈夫だいじょうぶ。ぼくにまかせて」
めぐみんが腕でバッテンを作り、頑なに拒否をするも、ドラえもんは意に介さず、ポケットの中から刀のような道具を取りだした。
「はい、名刀電光丸!」
「……なにこれ、剣のおもちゃ?」
アクアは電光丸を受け取ると、しげしげと見つめた。
「それを持って戦うと、誰でも剣豪みたいに強くなれるんだ」
「えー、ほんとにぃ?」
「なんだか、うさんくさいですね」
うたがわしそうにめぐみんが眉をひそめる。
「試してみようか。おぅい、そこの剣士さん。ちょっと腕試ししない?」
ドラえもんが隣のテーブルにいた男に話しかけた。
「あ? このダスト様になんか用か?」
「そこの女の子に剣で勝てたら、百万エリスあげる」
「え、え、ちょっとドラえもん。なに言ってるんですか!」
「まぁまぁ。ぼくの道具を信じてよ」
「おうおう、俺はもう乗ったからな。今さら嘘でしたは通用しねぇぞ」
「どうぞどうぞ」
――広場
めぐみんは広場まで連れてこられると、しぶしぶ電光丸を構えた。
「こ、これで良いんですか」
「そうそう。あとはその道具が勝手に戦ってくれるから」
めぐみんがんばってー
嬢ちゃんやっちまえ
気付くと、周りにはたくさんのギャラリーが集まっていた。
「行くぜ、おりゃぁ!」
ダストが軽やかに間合いを詰めた。剣を振り上げる。
「きゃっ」
めぐみんは思わず目をつむった。途端、電光丸はまるで神業のようにダストの剣を弾き、相手の胴を払った。
「ぐふっやるじゃねぇか……」
「……あれ?」
めぐみんが恐るおそる目を開けると、ダストが大の字になって倒れていた。
「すごいじゃない、めぐみん! まるで伝説の勇者みたいだったわ」
「あれ、私が……」
「ね、すごいでしょ?」
「おお……す、すごいです!」
まるでおとぎ話に出てくるような強さに、めぐみんの目が輝く。
「おし、次は俺だ!」
「いいでしょう、かかってきなさい」
いつのまにか、めぐみんが剣豪気取りで上段に構えている。
「くらえっ!」
大男が大剣を振り上げ、めぐみんに襲いかかる。めぐみんは振り下ろされた剣を弾き飛ばすと、隙の生じた胴体に横なぎに一閃した。
「ぐはっ……」
「ふっ、またつまらぬものを斬ってしまった」
めぐみんが満足そうに剣をしまう。おそらく人生で一度は言ってみたかったであろう台詞を吐けたことで、頬が緩んでいた。
「じゃ、めぐみん。そろそろクエストにいこうか」
ドラえもんがめぐみんの袖をくいと引っ張る。だが、今のめぐみんには、ドラえもんの言葉は届かなかった。
「……ふっふっふ。我が名は伝説の剣豪、めぐみん! 一人二人は面倒です、まとめてかかってきなさい!」
「あ、ちょっと。あんまり調子に乗ると――」
「「「おっしゃぁ! やってやらぁ!」」」
並みいる冒険者たちが一斉にめぐみんへ斬りかかった。
襲いかかる冒険者の前で、めぐみんは最高に格好つけようと、あえて納刀をした。それは紅魔族のセンス故なのか、某漫画を愛読していたのか、斬りかかられる寸前に目にも止まらぬ速さで抜刀すると、あっという間に全員を斬り伏せてしまった。
「めぐみん。そろそろ終わりにしようよ」
「さぁ、次にちゅんちゅん丸のサビになりたいのは誰ですか!」
「電光丸だってば……。勝手に変な名前つけるなよ」
ドラえもんが困り顔でめぐみんを止めようとするが、めぐみんの興奮はまだ冷めやらぬらしい。
「すっかり図に乗っちゃったわね……」
アクアがやれやれと両手を上げた。
――30分後
めぐみんが飽きるまで待つこと30分、アクアとドラえもんはすっかり飽きてしまったのか、地面に座って頬杖をついていた。アクアに至っては、地面になにやら恐ろしいまで精緻な絵を描き、子供たちから拍手喝采を浴びていた。
「おい、あのめぐみんって子、百人斬りしやがったぞ!」
「まじかよ。頭だけじゃなく、剣の腕もおかしかったのか!」
「おう、いま頭がおかしいと言ったやつ出てきなさい」
まだまだめぐみんが調子に乗りそうだったので、ドラえもんは立ち上がり、めぐみんのところまで駆けよった。
「め、めぐみん、あんまり調子に乗っちゃダメだからね。実はその道具は――」
「ドラえもん。私、決めました! これからは剣の道で生きていきます。このままカエルにリベンジです!」
「えぇっ!?」
めぐみんは言うや否や、剣を天高く掲げて城の外へと駆けだしていってしまった。
「……まったくもう。めぐみんもすぐ調子に乗るんだから。アクア、すぐに追いかけよう」
「ねぇ、使いすぎるとなにか問題があるの?」
「名刀電光丸は電池式なんだ。あれだけ使ってれば、そろそろ電池が切れてもおかしくないはず」
「えっ、それやばいんじゃない……?」
――草原
カエル「モゴモゴ」
めぐみん「」
「あちゃあ、遅かったか」
――――
―――
――
「私が間違ってました! やはり、私には爆裂魔法しかないのです! これからはわき目も振らずに爆裂道に生きます!」
「えー、前衛はどうすんのよ」
「そこの青ダヌキにでもしてもらったらいいじゃないですか。ふんっ」
めぐみんはふてくされたようにそっぽを向いた。
「あーあ、拗ねちゃった」
「自業自得なのに」
ドラえもんとアクアは、やれやれと目線を合わせたのだった。