ドラえもん「えぇっ! この素晴らしい世界に祝福をだって!?」 作:腎臓「詫び石だ、受けとれ」
――数時間後、アクセル
日が暮れたころ、当然のようにカエルの粘液まみれになった一行は、やっとこさで街まで戻ってきた。
「く、なんでカエルは私のところへ来ないんだ……」
「ま、慣れればカエルの中も悪くないですね」
「なんでこうなるんだか……とほほ」
ドラえもんが「よっこいしょ」とめぐみんを背負い直す。背中がヌメヌメしており、すべりやすくなっていた。
一行が街の城門をくぐると、街が一変していることに気づいた。地面は水浸しになり、建物の多くが倒壊していた。
「な、なんだこれは! 洪水でも起きたのか!?」
「これは、まさか……」
「……ドラえもん、下ろしてください。たった今、用事を思い出しました」
なにかを察したのか、急にドラえもんの背中を下りようとするめぐみん。
だが、ドラえもんはがっしりとめぐみんを掴んだ。
「めぐみん……ぼくたち、仲間じゃないか」
「イヤですダメです! 私は今からパーティを抜けるんです!」
「一人だけ逃げるなんてずるいぞ! それに、まだアクアだって決まったわけじゃないじゃないか」
「決まってます! 紅魔族の勘がそう言ってるんです!」
背中の上で激しい闘いを繰り広げていると、遠くからドラえもんを呼ぶ声が聞こえてきた。
「ドラえもーん、助けてぇ!」
「アクア! これはいったい全体どうしたんだ?」
「うぅ……実はね、困ってる人を探してたら、町中でリッチーを見つけたのよ」
「なに、リッチーを!?」
ダクネスが口に手を当てて驚く。ドラえもんはピンときてないようだった。
「……リッチーってなあに?」
「リッチーは、アンデッドの王様だ。とても強く、懸賞金もかけられている」
「それでね。リッチーをぶっ倒してやろうとしたら、その子が逃げ出しちゃって。どこ行ったか分かんなくなっちゃったから、とりあえず広範囲に攻撃してみようと……」
「それでこの大惨事か」
「それで、リッチーは倒せたんですか」
「んー……よく分かんない。全部流れちゃったし」
「呆れた。そんなことしたら、どうなるかなんて分かりきってるじゃないか」
「だってリッチーよ! 人類の脅威、神の天敵なのよ。それを倒せるのなら、街が半壊するくらいどうってことないと思うの」
「どうってことあると思うんだが」
ちくしょう、あの青髪はどこいった!
おちつけ、まだこの辺にいるはずだ
「ひぃ、お願いドラえもん。助けてよぉ」
「まったくもう。キミはすぐトラブルを起こすんだから……」
ドラえもんがめぐみんを抱えつつ、片手をポケットに入れて道具を取りだした。
「はい、復元光線」
「なにそれ?」
「タイムふろしきのレーザー版だよ。それを撃てば、どんなものでも元どおりに直せるんだ。それで壊れたものを直してきな」
「ありがとうドラえもん!」
そう言うと、アクアがドラえもんを抱きしめた。
「……ちょっと、臭いんですけど。ドラえもん」
「それはぼくじゃなくて、背中のめぐみんが――」
「あ、いま女の子を臭いもの扱いしましたね!」
「ぐぇ、絞めるなってば!」
「ずるいぞ、絞めるなら私に!」
あ、いたぞ!
こっちだ!
「ひぃ、ドラえもん! はやく貸して」
「はいはい」
ドラえもんが差し出すと、ひったくるようにアクアが受け取った。
「じゃ、さっそく直してくるわね」
アクアはドラえもんに礼を言うと、すぐさま街の方へと戻っていった。
「直すだけじゃなくて、ちゃんと謝るんだぞー……行っちゃった。分かってるのかなぁ」
「……なぁ、ドラえもん。さっかから疑問だったんだが、そのポケットはどんな仕組みになってるんだ? なんでもそのポケットから出てくるみたいだが」
「あぁ、このポケットはね、中が四次元空間になってるんだ」
「四次元?」
「今、僕たちがいるこの空間は、縦と横と奥行きの三次元でできている。このポケットの中は、それにもう一つ方向を加えた空間が広がってるんだ。四次元方向の厚みが0だったら、何でも入れることができるんだ」
「うーん……分からん」
「まぁつまり、ゴミはポケットにってことですね」
「いや、それはおかしい」
――翌日、酒場
「聞いてきいて、ドラえもん。昨日、壊れたものを直してたらね、街のみんなから神様だって崇められちゃったわ。これが結果オーライってやつね!」
「何というマッチポンプ」
「それはいいことなのか……?」
めぐみんとダクネスが呆れたように口に手を当ててた。
アクアは神と崇められたのが嬉しかったのか、笑顔のままだ。
「アクア、結局謝らなかったの?」
「いやぁ、最初は謝ろうとしたんだけどね。その前に感謝されて、タイミング逃しちゃって。まぁ崇められてるし、別に良いかなって。てへ」
「はぁ、僕はもう知らないからね」
ドラえもんが腕を組んで、やれやれと首を振った。
しばらくして、酒場の扉が開き、屈強な男たちが入ってきた。
「すいません、アクアさんはいますか?」
「来た! さっそく入信ね!」
アクアがうきうきとした表情で呼びかけに応え、男たちに手を振って招いた。男たちはアクアのところまで来ると、ふところに手を入れ、警察手帳を取りだした。
すると、アクアの顔も手帳の色に合わせて、お先真っ暗な絶望の表情に変わった。
「昨日、あなたが大洪水を起こしたのを見たという人がいるんですが、ちょっと署の方まで来ていただけませんか」
「な、なにかの間違いじゃないかしら……?」
「8時40分、被疑者確保」
男たちがアクアの手を取り、彼女の腕にガチャリと手錠をはめた。
「よし、連れてけ」
「いやぁ、ドラえもん助けてぇ!」
屈強な男たちが、アクアの両脇を固めて外まで連れて行こうとする。
「アクア、あとで助けに行くからね。だから、それまで頭冷やしておいで」
「なんでよぉ! いま助けてよぉ!」
悲痛な叫びむなしく、アクアは警官たちに連行されていった。
「やれやれ、やっぱりこうなったか」
ドラえもんたちはハンカチを振りながら、ドナドナと酒場から連れ去られるアクアを、切なそうな眼差しに見えなくもない目で見送ったのだった。