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なしろが柱になって、数ヶ月が経った。
なしろは何も変わらず、全国を回りながら任務をこなしていると、ある日なしろの鎹鴉であるクロが、なしろに指令を言った。
「なしろ、耀哉から指令だ。今すぐ戻って来てほしいらしい。なんでも、なしろに護衛を頼みたいと」
「…わかった。朝には着く」
「了解だ。耀哉にはそう伝えておこう」
クロはすぐに上昇すると他の鴉とは段違いの速さで飛んでいった。
そしてなしろも、今自分がいる場所から、耀哉のもとまでは25里(100kmほど)離れているのだが、朝までにつかなければいけないので早速向かい始めた。
なしろの脚力は柱の中でもダントツに速い、そのため朝までに100km走ることなど容易いため、道中に鬼を1体2体…と滅しながら向かっていた。
「やあ、なしろ。遠いところからわざわざごめんね。よく来てくれたね、少し休憩していくかい?」
「…別にいい。それより、どこへ向かう」
「ある人物へ会いに行きたくてね。でもその人は今、事情があって投獄されていてね。私はその人物に会って話がしたいんだ。だからなしろには道中私と一緒に来てほしいんだ。そして良ければなしろとも話したいと思っていたからね」
「僕はない。……早く行くよ。僕は“鬼を斬る“ただそれだけなんだから」
「私が言ったことなのだけれど、いつか君の生きる目的が幸せなことになってくれることを願うよ」
「…行くよ」
なしろは耀哉の言葉を無視して、先に歩き出した。
(なしろ、私はね君に色々なものを、経験してほしいと思っているんだよ。君がこれまで経験して来たことは、地獄そのものだったんだろう。でもこの世には、君の知らない素晴らしいものが、希望が溢れている。私は君に幸せになってほしい。そして、君さえ良ければ私の初めての“友”になってほしいな。そのためにも…)
「ねえなしろ」
「…」
なしろは足を止め、ゆっくりと振り返り耀哉を見る。
「まだ出会ったばかりだけど、これからもよろしくね」
耀哉はニコッと微笑んだ。それに対してなしろは特に反応することもなく、再び歩みを始めた。
耀哉はそのなしろの小さく悲しそうな背中を、少し切なそうに見つめていた。
結局その後2人は、耀哉がなしろに話しかけて、それをなしろがスルーか一言二言話すだけだった。
そして2人は無事目的についた。2人の目の前には、牢屋に入れられている大柄な男がいた。
「初めまして、私は産屋敷耀哉、隣にいるのは私の護衛をしてくれているなしろだよ。君が悲鳴嶼行冥だね?」
「…はい。…あの、私に何かようですか」
「君に聞きたい事があってね。君の事は知っているよ。そして君の無実も」
「…!それは一体どういう!?」
「鬼が出たんだよね?それで君は勇敢に素手で立ち向かい、朝になるまでに鬼を殴り続けた。人間よりも強い鬼を素手で倒すなんて、とても常人には真似できない事だ。そして君はその鬼から子供を助けることができた」
「ですが私はその子供に裏切られ、こうして牢に入れられています。私は…………」
悲鳴嶼はグッと拳を握った。盲目な目からは憤怒の涙が流れていた。
その悲鳴嶼を見て、耀哉は悲しそうにしながらも、優しく微笑んだ。
「この世には、君が倒した人を喰らう鬼が、実は沢山いるんだ。そして私たちは、そんな鬼を滅する鬼殺隊と言う組織に所属している。
「鬼殺隊…」
「そう。今回私たちが来た理由は、君に鬼殺隊に入ってもらいたいんだ。
人を喰らう鬼を、そしてその鬼を今もなお生み出している鬼の始祖を討ち取り、この悲しみの連鎖を断ち切るために。私たちに力を貸してもらえないだろうか?」
耀哉は頭を下げてお願いした。耀哉が頭を下げたことを見えなくても感じた悲鳴嶼は、慌てて耀哉に頭を上げるよう言った。
そして悲鳴嶼は鬼殺隊に入ることを了承した。
「そう言ってもらえてよかったよ。もう君がここを出ることは知っているから、早速行こうか。なしろお願いしてもいいかな?」
耀哉は笑顔で悲鳴嶼の入隊を喜び、なしろに悲鳴嶼を牢から出すようにお願いした。なしろは牢の前に行くと自分の刀を抜いた。
「行冥、少し離れた方がいいよ」
「は、はい」
悲鳴嶼は耀哉の言葉に多少戸惑いつつも、言われた通り牢から離れた。
悲鳴嶼が離れるまで待っていたなしろは、悲鳴嶼が離れたところで刀を数回素早く振るった。すると頑丈な牢は綺麗に切断された。
「まさかこんなに小さな子が…」
「彼は9歳で鬼殺隊の“柱”という一番強い階級の1人でみんなからは無柱と呼ばれていてね。彼も過去に色々と苦しめられているんだ。鬼殺隊に入る子たちは、ほとんどが壮絶な経験をしている子たちが多い。君は今は子供が苦手だろうけど、いつかちゃんと克服できるよ。これからよろしくね行冥」
「…はい!これからよろしくお願いします。無柱様もこれからよろしくお願いします」
「…うん」
こうして未来の柱、悲鳴嶼行冥は鬼殺隊に入隊した。