悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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ここからレイ達と合流。


極振り防御と私のスタート。

「メイプルッ!」

 

ぐらりと倒れこむメイプルの身体を、正面のヒドラが受け止めた。

サリーが駆け寄ると、【気絶】の状態異常が簡易ステータスに表示された。

 

「ったく、戦闘直後にこれか。世話が焼けるな、っと」

 

ひょいと気絶したメイプルを担ぎ上げるヒドラ。

 

「……ねぇ、気になってたんだけど、毒が効かない相手をどうして倒せたの?」

 

「お前に教える必要がどこにある?マスターが尋ねたんなら教えるが、他人に教える道理は無い」

 

「なっ、どういうことよそれ!私はメイプルの――」

 

「幼馴染兼親友だからって、俺が教える理由にはならないだろ?」

 

サリー相手にも冷たく当たるヒドラに若干イラっと来るサリー。思わず「こいつ、ご主人様第一主義かよ」と思っていた所で竜車のほうも準備が整った。

 

 

その後は〈マスター〉は歩きでギデオンを目指す一行。

10分後、ギデオンまでもう少しという所で今度は馬車に出くわした。

 

「敵か?」

 

「……あれは。おぉーい、アレハンドロかぁ~?」

 

ラングレイが呼びかけたのは、ラテン系の彼と同年代の商人風の男だった。

相手もこちらの気付いたのか、手を振って呼び返す。

 

「あなたもここに来ていたのか!」

 

「おう、山賊共のせいで飛んだ足止めを食ってしまったがな」

 

旧友らしいアレハンドロとの会話の中、ラングレイは横目で草原を見る。

炎に焦げた芝生、返り血を浴びた地面、戦闘から生き残ったらしい傷を残すティアンの傭兵たちが片付けている最中の布。

明らかにここで戦闘を繰り広げたらしいのは彼には――彼と同行した〈マスター〉とヒドラも――察することができた。が、あえてそれは尋ねなかった。

 

「で、そちらの方はマスターとお見受けするが……荷車の人は誰なんだ?まさかラングレイ氏、【奴隷商(スレイブディーラー)】でも始めるのか?」

 

「なっ……、馬鹿を抜かせ!人を売り買いして暴利を得ようとするほど落ちぶれとらんし、そんな下衆な趣味も持っとらんわ!こいつらは山賊!これからギデオンの詰め所に放り込む生き残りどもだ!!」

 

アレハンドロの質問に逆上紛いの勢いで答える。

ペインに宥められたところでやっと頭が冷えたのか、ラングレイは改めてアレハンドロに提案する。

 

「まぁいい、どのみち目的地は一緒だ。こいつらも歩き詰めだろうし、ワシの荷車は残党でいっぱいだからな。小娘だけでも荷車に放り込んでおけ」

 

その提案にアレハンドロは快く承諾してくれた。

フレデリカの召喚獣が今は小型犬サイズにまで縮んだものの、余計な気を起こした山賊を見張っているために逃げる心配はない。

横転した馬車を起こす作業はクロムが率先してやってくれた。

 

「ではまずは自己紹介ですね」

 

そう名乗り上げたのは、ファンタジーの中にも関わらず黒スーツにサングラスの女性だった。

 

記者(ジャーナリスト)】マリー・アドラー。

女衒(ピンプ)】ルーク・ホームズ。その〈エンブリオ〉TYPE:ガードナーのバビこと【堕落天魔 バビロン】。

聖騎士(パラディン)】レイ・スターリング。その〈エンブリオ〉TYPE:メイデンWithアームズの【復讐乙女 ネメシス】。

 

こちら側も自己紹介を済ませると、黒い少女、ネメシスがヒドラをまじまじと見てくる。

 

「それにしても、男版のメイデン、アポストルとは珍しいのう」

 

「生まれて1時間足らずの俺が言うのもなんだが、女版アポストルもそうは見かけないな」

 

「……」

 

「……」

 

「おい、何張り合ってますみたいな空気を出してるんだ?」

 

竜車に揺られて2人のエンブリオが僅か張りに張り合う空気を作る。幸い隣のレイが止めてくれたおかげで両方とも大人しく身を引いてくれた。

それから日が傾いた夕刻。一行は決闘都市ギデオンに到着した。

 

 

 

決闘都市ギデオン 冒険者ギルド

 

 

山賊の生き残りギデオンの詰め所に放り込み、アレハンドロとラングレイと別れた一行。

 

 

【クエスト【ギデオンまでの物資配達と護衛――ラングレイ・フォンベル】を達成しました】

 

 

メッセージが表示され、達成感を味わった一行。ただし唯一、サリーだけは物寂しさも含んだ表情だった。

その後、レイが討伐した【ガルドランダ】討伐報告と配達クエストの為に冒険者ギルドへと向かい、ギルドに到着したところでメイプルが目を覚ました。

 

「ぅん……?」

 

「やっと起きたか?」

 

「あれ、私……?」

 

寝ぼけた頭でいつの間にか見知らぬ街に到着していたことに気付いていなかったが、意識がはっきりしてくると我に返ってヒドラに詰めかかる。

 

「そうだ!あの山賊は!?」

 

「もう終わったぞ」

 

「は?終わったって……?」

 

「もう討伐して生き残りも牢屋に放り込んで、後念のための報告」

 

メイプルが混乱する中、カナデがこれまでの経緯を説明する。その中でレイ達とも出会ったことも。

改めて自己紹介を済ませると、ギルドの中へ入っていった。

 

「で?そろそろトリックを説明してくれないかしら?」

 

クエストの清算をレイとペインに任せ、サリーがヒドラに尋ねてきた。

ルークやマリーも千獣山賊団との戦いを聞いたので、メイプルも冷静に思い返していたら、疑問が膨れ上がってきた。

疑問は当然【護毒のアミュレット】の存在にもかかわらず、パルキスが毒殺されたことだ。

 

「護毒のアミュレットは文字通り【毒】や【猛毒】の状態異常を一切受け付けなくなるアクセサリーです。割と高価なものなんですが、そもそも耐性効果を無視するなんてボクでも聞いたことがありません」

 

「ねぇ、どういうこと?」

 

「そうだな。理由はステータス画面を見れば分かる」

 

ヒドラに言われ、早速メイプルが『詳細ステータス画面』を見ると、『〈エンブリオ〉』という項目が増えているのに気付いた。

早速開いてみると、ヒドラの姿とパラメーターが並んだウィンドウが表示される。

 

 

 

 

ヒドラ

TYPE:アポストルWithアームズ

到達形態:Ⅰ

 

 

 

 

HP99

MP66

SP82

 

 

 

装備攻撃力:14

装備防御力:60

 

 

ステータス補正

HP補正:‐

MP補正:‐

SP補正:‐

STR補正:‐

END補正:‐

DEX補正:‐

AGI補正:‐

LUC補正:‐

 

 

 

※【‐】はステータス補正0%

 

 

「……弱っ」

 

「初期値のネメシスより酷いな……つか、補正が皆無じゃねぇか」

 

思わずメイプルとレイが口にしてしまったが、当人は気にする様子もない。

 

「ならスキルはどうだ?」

 

今度はネメシスに促され、『保有スキル』のほうを目にする。

 

 

 

『保有スキル』

 

《死毒海域》Lv1:

武器状態の〈エンブリオ〉を装備した〈マスタ―〉、または人型状態の〈エンブリオ〉を中心に特定の範囲内の病毒系状態異常耐性を時間経過で減少させる。

視覚補正でサークルが浮かび上がり、範囲内の病毒系状態異常を伴う固有スキルの攻撃での相手ダメージは現状態異常耐性に反比例する。

アクティブスキル。

 

 

 

※Lv1での範囲は使用者を中心に直径20メテルで、耐性減少は秒間1%ずつ減っていき、最大30%。

※【猛毒】の場合、発生から減少HPが増大していき、最大で秒間500までの勢いで減っていく。

※スキル発動中、MPを秒間1ポイント消費し、SPが0の場合発動できない。発動中にSPが0になった場合、このスキルは強制解除される。

※視覚補正はこの〈エンブリオ〉の〈マスター〉のみに発動する。

※サークルは一つしか存在できず、発動中のどちらかが解除しない限りもう片方は発動できない。

 

 

 

 

第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾(メナスティル・ヴェノム)》:

敵対者の攻撃を受け止めた時、毒液を浴びせて100%の確率で【猛毒】の状態異常を付与する。

既に対象が【毒】、【猛毒】の状態異常を受けている場合は発動しない。

アクティブスキル。

 

 

《毒竜眼》

 

病毒系状態異常を無効化する。また、混入された毒薬を見抜くことができる。

この効果はマスターには通用しない。

 

 

「……今度は凄いものですね。生物相手ならほぼ無敵じゃないですか」

 

ルークが若干引きながら感想を漏らす。

大盾になって防御し、耐性を削ったうえで攻撃してきた相手を確実に相手を毒にしてHPを削り殺す。

固有スキル以外の攻撃や武器に付与している状態異常は対象外というのが唯一の救いか。そうでなかったら管理AIに目を付けられるのは目に見えている。

 

「にしても凄い奇跡だな。【衰弱】と【脱力】の極悪コンボにもめげずに反撃の固有スキルと《死毒海域》のコンボで倒せたって事か」

 

「【高位薬剤師】って名乗ってたから、独自に調合したその薬を使ってたのね。で、根こそぎ奪った後で《歩き葡萄》の実を倒れた御者や護衛に浴びせて野良モンスターの餌にする、か……」

 

フレデリカが彼らの手段を推理する。ルークも「それには僕も賛成です」と同意してくれた。

見た目に反して知能犯だったらしい。あの瓶もサリーが竜車の護衛に回って手こずった所で使っていた。

もし、【歩き葡萄】の実と同時に瓶に入っていた状態異常の薬品を使われていたらまず間違いなく無数のモンスターと山賊団に苦戦は強いられていただろう。

今回の千獣山賊団壊滅のきっかけは、自分が【毒】や【猛毒】に陥らないという頭目の慢心、それと自分が想定していた以上の【猛毒】の浸食に、解毒剤を投与する時間が無くなってしまった事だった。

 

「こっちは終わったぞ」

 

「あれ?クロムさんとカナデ、どうして入ってきたんですか?」

 

そんな時、クロムとカナデが“再び”ギルド内に入ってきた。

受付ではペインがまだ説明している所だ。外に出る用事があるわけでもないのに。

 

「実はあいつが落としたアイテムボックスの中身を確認しようとして、俺が職員と一緒にギデオンの外に行ってたんだ」

 

「なんでわざわざギデオンから出たんですか?」

 

「実はな、昔組んでたパーティで同じように盗賊退治のギルドクエストを受けたことがあってな。その時頭目が命乞いをしてアイテムボックスを出してきたんだ」

 

「それで?」

 

「一応そいつは俺が衛兵に引き渡したんだが、直後にパーティの誰かが奴のアイテムボックスを開けたららしくて……壊した途端中に仕込んであった爆弾か何かが爆発して俺以外全員デスペナった」

 

経験を語るクロムは「俺と衛兵は軽いケガだけで済んだんだがな……」と目がどことなく虚ろに見えてくる。

今回はその前に殺されてしまったが、職員が中身を拝見するときにもしかしたらと思い、その職員同行でギデオンの外に来た。もちろん、風向きはギデオンから離れる北風の時に。

念入りにカナデの魔法で厳重にロックをした後でアイテムボックスを破壊し――案の定クロムの予感は当たった。途端にアイテムと共に毒ガスが噴き出し、風に流れたそれを吸ったゴブリンが苦しそうにもがいて最後には動かなくなってしまったという。

 

「お前ら、もしこういうことに出くわしたら躊躇わずその頭目をぶっ飛ばせ」

 

クロムのその言葉は経験者ゆえの重みを感じるのだった。

 

 

 

 

その後、千獣山賊団の討伐を証明したことにより賞金が配られた。

頭目は60万、山賊の討伐兼生け捕りの5人の計40人は一人につき1万で、合計100万リル。

 

「で、どうしてこうなっちゃうの……?」

 

メイプルが深い溜息を吐く。それは、目の前の賞金の分配についてだ。

10万リルはカナデのポーションの補給という名目が立ったが、そのあとが問題だった。

 

「だから、6人の均等配分で良いんじゃないのか?」

 

「いやおかしいだろ?こっちはモンスターの相手で参加できなかったんだぞ」

 

「そーだそーだー。モンスターでガッツリ稼いだぞー」

 

「こっちももう何人斬ったか覚えてないからな……」

 

「クロムはクロムでアイテムボックスの中身をとる権利はあるんじゃないの?」

 

「そのセリフ、そっくりそのままメイプルに返してやろうか?」

 

クロムもフレデリカも、ペインもカナデも等配分の提案に不満を持っていた。

ここは自分の取り分を増やすところだろうが、全員活躍度合い故に取り合いどころか自分の報酬が多すぎるという訳の分からない論争が続いている。

隣でも現に、【ガルドランダ】の討伐報酬で3人がもめていた。こっちとほぼ同じ理由で。

こちらでも埒が明かない論争(?)が続いていたが、ヒドラが挙手する。

 

「……だったら、まずメイプルが23万でペインが17万。お前らが一番討伐したんだから、これくらい貰う権利があるが、ペインは同じ額にしたら断わろうとしたんだろ?」

 

「はぁ……」

 

「俺も構わん。メイプルと同じ額なら文句を言っていたがな」

 

「次に討伐したカナデとサリーが15万」

 

「オッケー」

 

「なるほどなるほど」

 

「で、クロムとフレデリカが10万。モンスターのドロップ品も売却に回せば、合わせて15万くらいになるだろう」

 

「いいぜ」

 

「こっちもドロップ品で設けたからね」

 

綺麗に纏め上げて打ち上げも完了。

これでメイプルとサリーの最初で最後のクエストは成功に終わったのだった。

そこでメイプルとサリーはお互いを含めた5人とフレンド登録し、解散。2人はギデオンのセーブポイントを設定したところでログアウトしようとする。

 

「これでさっぱりデンドロから足を洗えるね」

 

「……ねぇ、サリー。こんなこと私が言うのもなんだけどさ……」

 

すっぱり引退しようとしたサリーの後ろで、メイプルが呼び止める。

振り返ったサリーが続きを促すが、どうもメイプルは声に出そうか口ごもってなかなか言葉が出ない。

 

「――続ければいいんじゃないのか?」

 

彼女の思いを代弁したのはヒドラだった。

自分の言いたいことを勝手に言い出したヒドラにメイプルは言葉を失ったが、それはサリーも同じことだ。

 

「ちょっ、本気!?あれだけぶちまけといてまだ続けるって……!?」

 

「……うん。実は気絶している時に夢を見たんだ」

 

ヒドラの代弁により詰め寄ったサリーに、メイプルも観念したように吐露した。

内容は気絶中に見た夢。毎夜自分と友達を殺したあの鎧の夢だったが、内容が少し違っていた。

大盾となったヒドラを手に自分が鎧の攻撃を受け止め、《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》で反撃。猛毒を受けて苦しむ鎧はそのまま足を滑らせて奈落の底へと転落していったというものだ。

 

「それで、目が覚めた後で……もしかしたら勝てるんじゃないかって」

 

サリーは考える。

確かにあの鎧――バルバロイはメイプルの能力をまだ知らない、〈エンブリオ〉も孵化していない〈マスター〉だと認識している。

そこに対策必須レベルの【毒】系統のアクセサリーを付けても耐性不可の【猛毒】を喰らってしまえば精神的に面食らってしまうだろう。

今のところ目立ったスキルは無いが、成長次第では現実味を持っている。

 

「うん、メイプルがやりたいなら私も付き合うよ」

 

「……ありがとう」

 

自分のわがままに付き合ってくれた親友にただ一言、礼を言ってログアウトした。

 

 

 

 

地球 楓の自室。 本条楓。

 

 

目を覚ますと、見慣れた天井が視界に映る。

長いようで短かった<Infinite Dendrogram(あの世界)>でのクエストで、私は可能性を、目標を見つけた。

一つは、サリーを、ティアンを、そしてフレンドのみんなを守れる可能性。

もう一つは、あの鎧のプレイヤーキラーへの雪辱戦。

 

目標を見つけたことで、自然と気分が落ち着いていた。久しぶりに自分に訪れた僅かな平穏に、安堵の溜息を吐く。

 

「…まずは強くならなきゃ、か……」

 

ふと呟いたのを最後に、<Infinite Dendrogram(あの世界)>での疲労が今になって出てきたのか、再び眠りについた。

 

 




次はエピローグで終わりです。
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