悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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この時点で原作第2章です。ここから楓の木と集う聖剣の面々が登場。


第2章:極振り防御とギデオンの一日
極振り防御とイヌミミ聖騎士(パラディン)


決闘都市ギデオン 中央広場【盾士(シールダー)】メイプル・アーキマン

 

 

朝方、セーブポイントを設定したギデオンの広場で私は再びログインしてきた。

 

「おう、マスター。気分はどうだ?」

 

左手の紋章から飛び出し、1日ぶりに顔を合わせたのは孵化したばかりの私の〈エンブリオ〉、ヒドラ。

今の時間――デンドロ内部で――は午前6時。太陽が昇ったばかりだ。現実の時間でいうと午前3時。

昨日気付いたけど、デンドロの3倍時間は便利である反面ややこしく、時差ボケが起きてしまいそうだ。

 

「でも、今日は割とまともに寝られたほうかな?」

 

「みたいだな。顔色は見てきた中で一番良い」

 

実を言うと、今朝も夢にうなされて起きてしまったが、その時までは十分な睡眠がとれたと自負している。

そういえば、ルークやレイさんが、ヒト型の〈エンブリオ〉は〈マスター〉の記憶を覗けるって言っていたっけ。

鏡もまともに見れなかったし、そんなに酷かったのだろうか?

 

さて、問題はここから。

サリーのほうは未だリアルで熟睡しているだろうから、それまで観光がてらギデオンを回ろうと思っていたが、肝心の店はまだ軒並み閉店のまま。

人気(ひとけ)の無い街を回るのも物悲しい。

 

「んで、レベ上げは?」

 

「あ、そっか」

 

ヒドラに言われてステータスを見てみる。

最初の戦闘でレベル3、昨日の戦闘で一気にレベル12まで上がっている。

スキルも《瞬間装備》や《盾技能LV1》、《シールドアタック》なんてのを得ている。

 

 

《盾技能LV1》

 

盾士の代表的なスキル。

盾で攻撃を受けた時、ダメージを10軽減する。

パッシブスキル。

 

 

 

 

《シールドアタック》

盾を構えた状態で攻撃する。

低確率でノックバックさせる。

アクティブスキル。

武器スキル。

 

 

続けて、自分のステータスを確認。

 

 

【メイプル・アーキマン】

 

盾士

LV12(合計12)

 

HP520

MP33

SP76

 

STR45

END88

AGI43

DEX41

LUC35

 

 

意外と伸び幅はENDを軸にバランスよく育っている。

装備も一式で発動する【ライオット】シリーズで、《HP増加LV1》と《ダメージ軽減LV1》で、外のモンスターとも1対1なら互角に戦える。

武器もヒドラがいるから問題ない。

 

「あ」

 

早速平原へ行こうとした時、2人分の人影を見つけた。

白と黒、丁度今の私とヒドラと同じ色合いの恰好のコンビが。

 

「レイさーん!」

 

私が白い人影の名を呼ぶと、2人のほうも気付いて振り返ってくれた。

 

「おはようございます」

 

「応、おはよう」

 

「随分早起きだな」

 

「目ェ冴えちまったからこっちに来たんだよ文句あっか?」

 

こらこら、そこは〈エンブリオ〉同士で喧嘩しない。

なんでこうヒドラはネメシスに食って掛かるんだろうか。ツンデレ対応?

 

「所でレイさんも平原で自主トレを?」

 

「そんなところかな。これのテストも兼ねて」

 

そう言ってレイさんは自分の両手の籠手を見せてくれた。赤と紫の鬼の顔を思わせる、左右それぞれで色の違う手甲を。

 

 

 

 

ネクス平原

 

 

 

レイさんが言うには、今装備している籠手は【瘴炎手甲ガルドランダ】という装備品らしい。

私達と千獣山賊団の戦いの70メテル先で〈UBM〉と呼ばれるモンスターを撃破し、そのMVPを手に入れたそうだ。

それを聞いた私は感嘆の域を漏らす。2つの意味で。

前者はその怪物をたった1人で倒したレイさんへの尊敬。後者はUBMと当たっていなかったことへの安堵。

流石にヒドラの能力が強くても、そんなに強いモンスターとの戦闘をあの場面で戦るのは勘弁したい。絶対に死ぬ。あの山賊も〈UBM〉と正面から戦り合うつもりは無かった為に私達に狙いを移したのかもしれない。

既にこの世にいない〈UBM〉に黙とうしつつモンスターを探してうろついていると、【ゴブリンウォーリアー】を見つけた。幸い見える範囲に仲間はいない。

 

「じゃあ、私とヒドラが先に出て、合図を出したらお願いします」

 

「応」

 

武器化したヒドラを装備した私が前に出る。今更だけど、大盾ばかりに目をやっていたから気付かなかったけど、短刀のほうも綺麗だ。紫や黒で染めた束に対して、鍔元から先は曇り一つない輝きを放つ銀色。

短刀を眺め終えた私は足元の小石を【ゴブリンウォーリアー】目掛け投げる。頭に当たった振り返った【ゴブリンウォーリアー】も、私達に気付いて武器を振り回しながら突撃を仕掛けてきた。

 

「疾ッ!」

 

武器の攻撃を受け止め、露出している胸目掛け短刀で斬り裂く。

真一文字に緑の肌に切り傷を残したが、浅く、致命傷じゃないのが目に見える。

再び攻撃。防御。反撃。右腕、右胸、右頬――。

連続で短刀の攻撃が決まるが、当然の如く浅い当たりだ。

 

『メイプルッ!』

 

「《シールドアタック》!」

 

【ゴブリンウォーリアー】が武器を両手で振り上げたのを見計らって、ヒドラの合図とともに盾の攻撃。

盾での殴打、というより武器のサイズ上の問題で盾を前方に構えたままの体当たりという形になったが、無防備な腹部と顔面に直撃して隙が生じる。

 

「今だ!」

 

後ろからのレイさんの合図で武器状態のヒドラが人型に戻り、私を背負って【ゴブリンウォーリアー】から離れていく。

同時にレイさんが前に出て、“手のひら”を【ゴブリンウォーリアー】に向ける。

 

「《煉獄火炎》!」

 

レイさんがスキルを宣言し――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

レイさんの上半身が猛烈な勢いで放たれた紅い炎に包まれた。

 

「「ええええええええぇぇぇぇぇ!?!?」」

 

いやいや待て待て待ってくださいぃ!?

どうしてスキル宣言した人がいきなり自分のスキルでやられちゃってんの!?

あ、そういや“手の甲”が鬼の顔っぽかったからひょっとして手の甲向けないと自爆しちゃうって事!?

って、ああああぁぁッ!さっきの【ゴブリンウォーリアー】が火だるまのレイさんに追い討ちかけてる!

バックバック!ヒドラ、カムバック!ステイ!ステーイ!ステーーーーイ!!

 

「落ち着けって!言ってることが滅茶苦茶になってるぞ!?」

 

急いで【ゴブリンウォーリアー】との戦闘に復帰し、レイさんが回復アイテムとスキルを使いまくってる間に私も必死に攻撃して何とか勝利した。

聞いた話によるとレイさんはあのPKテロ騒動の時に1度北でやられたらしい。けど、2度目の死がこんなバカげた形で迎えるのは後世の笑い者にされる。

……痛いのも死ぬのも嫌だけど。

 

「死ぬかと思った!」

 

 

 

 

 

気を取り直して《地獄瘴気》のテスト。

次の相手は【歩き葡萄(ウォーキングバイン)】。千獣山賊団がこのモンスターの実と頭目が調合した毒薬を使って、動けない傭兵や御者を平原のモンスターの餌にしていたのは記憶に新しい。

 

「植物なんだし、焼いたほうが手っ取り早いんじゃないのか?」

 

「大丈夫だ。問題ない」

 

「問題しかないんですけど」

 

立てるようにはなったがまだ【火傷】の状態異常は抜けていない。

が、今度はちゃんと手の甲を向けて《地獄瘴気》を噴出した。

レイさんの狙い通り【歩き葡萄】を包み――直後吹き込んだ向かい風でこっちに襲い掛かってきた。

 

「ぎゃあああ!?」

 

「うわあああ!?」

 

「……んぶっ」

 

私達は慌てて逃げだし――って、ヒドラが棒立ちしたまま瘴気を直撃したー!?

 

「ちょ、大丈夫!?」

 

「平気平気。俺病毒系は効かねーから」

 

瘴気が風に流されたところで様子を見てみると、状態異常に苦しむ【歩き葡萄】に対してヒドラはぴんぴんしたままこっちに向かってきている。どうやら本当に病毒系は効かないらしい。

その時、状態異常で苦しむ【歩き葡萄】が、自分の実を投げつけてきた。不意打ち気味の攻撃(?)にレイさんは思わず実を飲み込み――直後に血を吐いた。

 

「レイさん!?」

 

「これ、俺がアイツにかけた状態異常……!?」

 

あの葡萄、モンスターを引き寄せるだけじゃなくて、自分が受けた状態異常も与える能力もあったの?

……あれ?

モンスターを引き寄せる果汁の匂い、それが周囲の地面や私達にもついている。そして地平線から獣系モンスターと【ゴブリン】の群れ……。

 

『自主練で集団リンチはハード過ぎね?』

 

2対10以上。初日の自主練は私の想像以上にハードな結果となりました。

 

 

 

 

うん、死ぬかと思った。

切った張ったのモンスターの集団との戦闘は《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾(メナスティル・ヴェノム)》とネメシスの《逆転は翻る旗の如く(リバース・アズ・フラッグ)》で強化されたレイさんのおかげで【歩き葡萄】を含めたモンスターの集団は残らず全滅した。

こっちも分かったことが二つ。

《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》は《死毒海域》抜きの単体で発動できること。その時は普通に耐性も含んだ計算式になるが、難しすぎて頭がパンクしそうだから割愛しておこう。そもそもMP量でただでさえ30秒程度しか発動できないのに、一々オンオフしていくよりも、《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》だけで十分コスト効率が良い。

もう一つは《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》で放つ毒液は扇状に放たれるので、敵対者の近くにいたモンスターすら巻き込むこと。相手が多数でもこれなら多少は戦えそうだ。乱戦では流石に使えないけど。

因みに今のモンスターリンチの乱戦で一気にレベルが3上がった。

 

「そ、そっちはどうですか……?」

 

「一応大丈夫……」

 

レイさんのほうはといえば、《逆転(リバース)》の効果が切れて今も地面に突っ伏したまま。このままじゃ這いずって街に戻らなきゃらない。

私が運ぶにも、レイさんの体格と私のAGIじゃ日が暮れそうだし、助けを呼ぶにも手間だし……。

 

「ん?」

 

何か良いアイデアは無いかとふと振り返ると、レイさんとネメシスのほかにも、平原にいる人影が増えていた。

けどそれは【ゴブリン】のような人型モンスターの類じゃない。

 

『……』

 

ペンギンの着ぐるみが、レイさんを見下ろしていた。

一応ここ、ファンタジーメインなんですよね?着ぐるみなんてファンタジーならぬファンシーなんですけど。

 

「あんた、何者だ?」

 

『フフフフフ……』

 

着ぐるみがさっきの沈黙を粉砕するようにその場でくるくると回転し、ビシッと全身Vの字ポーズを決める。

 

『私の名はフラ……あっ。…ミンゴ!!天才【研究者(リサーチャー)】ドクタァァァァ、フラミンゴッ!!』

 

……どう見てもペンギンだよね?

 

『細かいことはいいじゃあないか!それより君!状態異常で困っているようだねぇ!これを飲みたまえ!』

 

フラミンゴと名乗った着ぐるみは腹部のポケットから薬瓶を取り出した。ポーションらしい。

なんだ、着ぐるみでも中身は良い人――。

 

「ちょっと待て。調べさせてもらうぞ」

 

そんな時、横から首を突っ込んだヒドラがフラミンゴからポーションを奪い取る。

 

『ちょっと何すんの?人が親切で渡したアイテムを横から掻っ攫うなんて、酷くないかねぇ?』

 

「……いや、大丈夫だ。毒の類は無い」

 

『……え?今見ただけで分かったの?』

 

「ああ。俺は毒の混入を見抜けるんだよ」

 

そういえば、ヒドラのスキルは病毒系状態異常を無効化するだけじゃなくて、毒が混入されてないかどうか見抜けるんだっけ。

レイさんも改めて受け取って――一応ネメシスの《逆転》を発動したまま――ポーションを飲む。

 

『飲んだね?』

 

直後、レイさんが頭を抱えて苦しみだした。

 

「何ッ!?」

 

「レイさん?!嘘、毒は無いんじゃなかったの!?」

 

その間にもレイさんの頭痛が強くなっていくのか、両手で頭を抑え込んでいる。ネメシスが《逆転》を使っても、バフ効果が出ている様子は無い。

どうすればいいのかわからずパニックに陥っている間にもフラミンゴは続けた。

 

『さっきから君を見ながら考えていたんだよねぇ。君にはどんな薬が似合うだろうと。そう、そして結論は出た!これしかないと!!』

 

「……あ、あれ?」

 

ペンギンが自己満足気味に叫んだ直後、レイさんがスックと立ち上がった。まるでさっきの頭痛が嘘、のよう、に……?

 

「れ、れれれれれ、レイさん?頭、大丈夫ですか?」

 

「頭?いや、さっきまでの痛みが嘘のように引いて……毒とかの状態異常も治ってるぞ?」

 

「ち、違います!頭触ってください!頭!」

 

「え?」

 

ネメシスもヒドラも今のレイさんの姿に絶句。

当のレイさんも私に言われて頭を触り――。

 

 

もふっ。

 

 

「……?」

 

その感触で異変に気付き、

 

 

『やっぱり似合うじゃないか!“その耳”!』

 

ペンギンがいつの間にか持った姿見でレイさんを写し……。

 

「…………な、なんだこりゃああああああああああああ!?!?!?」

 

頭に見事な金色のイヌ耳を生やしていたことに気付いたのでした。

 

 

 

 

『実は……私の開発した【ケモミミ薬】の被験者(モルモット)を探していたんだけど、良い感じに君らがいてねぇ!!お陰で【ケモミミ薬】大成功!!完璧なイヌ耳だよ君ィ!!』

 

実験が成功してハイになっているフラミンゴが動機をつらつら述べる。

頭痛の時間は見積もって3、4秒といった所だろうけど、これで痛みが長引かないなら、時間的にも私も我慢できるかもしれない。

 

「あの、さっきのお薬って――」

 

まだありますか?とペンギンに尋ねた所、当のペンギンは大剣モードのネメシスに突きつけられていた。

 

『すんません。ジャパニーズ土下座で謝るんでどうか大剣を下げてくれませんか?あぁ!裂ける、裂ける!着ぐるみも、私の喉も!』

 

「よく聞け。俺には一生身につけないと決めたモノが3つある」

 

『ち、因みにそれは?』

 

「眼鏡、女装、そして動物の耳型ヘアバンド、だ」

 

「あ、それですっごく気が立ってると」

 

女装は……分かる。友達か誰かの悪ふざけに巻き込まれたんだと思う。

ケモミミヘアバンドも……さっきの理由と同様だろう、多分女装とセットでやらされたのかも。

眼鏡は……眼鏡?眼鏡に関する苦い過去って何?全然思い当たる節が無いんだけど?

 

『眼鏡良いよ眼鏡。こっちじゃ色々スキル付くし』

 

「――黙れ」

 

『「「殺気!?」」』

 

『すみましぇん!?』

 

眼鏡に殺気向けられるものなの!?

 

「良いからとっとと治せ」

 

『頭から直接生えてるから外せないんだよ。でも今からこっちの時間で10時間位には自然になくなるよ。あ、因みにログアウトした時間はカウントされないから。そうじゃないと面白くないし』

 

「面白くないだとこのマッドペンギン?」

 

さっきまでの親しい感じが嘘のように消え失せたレイさんが凄く怖く見えるんですけど。

 

「あ、あのぉ~……さっきのお薬ってまだあります?」

 

レイさんに切られる覚悟でペンギンにさっきまでの疑問を投げかけた。

怖い。後ろで殺気をたぎらせるレイさんの視線が。

怖い。こっちまで切りかかられるかもしれない未来が。

怖い。こんな朝方にこんな殺気を孕んだ空間を生んだレイさんが。

 

「おい、何あの時の決意を捩った言い回ししてるんだ」

 

……ごめん。

 

『ああ、あれね。実はバリエーションが1つだけだとつまらないから、ネコミミやウサミミも用意したんだよ。お嬢ちゃんもそれ飲んでレイ君と一緒にスクショでも……』

 

私がペンギンからそれを貰う前に、レイさんが無言で切りかかった。相手を失った大剣はそのまま私の首筋ギリギリ触れないところまで降りぬき、直前で止まった。

ペンギンはといえばそれを避け、そのまま脱兎のごとく街のほうへ逃げていった。ペンギンだけど。

 

『フハハハハ!さらばだー!』

 

「何だったのだ、あ奴は?」

 

「スクショとか言ってたから多分〈マスター〉だと思うけど……」

 

レイさんが何か引っかかったように口ごもる。

それはさておき、ネコミミになるチャンスを逃した私は渋々レイさんと共にギデオンへ戻るのでした。

 

 

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