悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御とガチャ装置。

決闘都市ギデオン 中央広場【盾士】メイプル・アーキマン

 

 

北門でレイさんと別れた私達。戻ってきてみれば朝方だというのに凄い人だかりが待っていた。

昨日は戦闘の疲れやら何やらで気が付いていなかったが、人々の空気に熱気が孕んでいる。アルテアでは感じられなかった空気だ。

それはきっと視線の先、決闘都市中央大闘技場から伝わってくるのだろう。

古代ローマのコロセウムを2回りも大きな大闘技場のほかにも、この街には12棟もの闘技場が等間隔で配置されていて、日々決闘や競技が行われている。

往来する人々の中にはファンタジーで亜人と呼ばれる人々も大勢見かけた。地理的にレジェンダリアとも近いから、そこからの観光者も多いのだろうか。

 

「それで、どうする?」

 

「ラングレイさんのお店に行こう」

 

この前は気絶しちゃったから一言言えなかった事もあるし。

衛兵のティアンからお店の場所を聞いてみると、場所は9番街。貴族街付近でやっているらしい。

 

 

 

 

11番街 フォンベル宝石商店 分店

 

 

9番街だけでなく、12、3、6番街は宿泊施設や飲食店のお店が立ち並ぶ。その通りを一つ抜けると、さっきまでの街並みとはけた違いに豪華な建物が並ぶ。目的地の隣、10番街は貴族の居住区で、闘技場周辺以外は専用の許可証が無ければ足を踏み入ることは許されない。

だけど私達の目的地はその外。10番街と12番街の間にある綺麗なお店だ。

 

「ごめんくださーい」

 

呼びかけると、店員らしい女性がこちらに応じた。

 

「ラングレイさんはいますか?」

 

「申し訳ありません。ラングレイ氏は本店のほうで承っているものでして……」

 

「本店?」

 

「本店は貴族御用達であって、こちらに顔を出すことは……」

 

聞いた話ではこっちは【ジュエル】を専門に扱うのであって、ラングレイさんが経営する宝石商の本店は貴族街のど真ん中だとか。

通りでこの綺麗な雰囲気にそぐわない冒険者が陳列されている宝石を見ている訳だ。現に【大死霊(リッチ)】なんて職業に就いてる人も普通に入店して【清浄のクリスタル】の値札を見て買うかどうか迷ってるし。

この宝石店の【ジュエル】は、凡庸な下級魔法からアレハンドロ商店には無い強大な魔法を封じ込めているものもある。万が一暴発でも起こしたらここら一角が吹っ飛ぶと女性が笑顔で答えていたが、全然笑えません。

 

「あれ、メイプルも来てたんだ」

 

アレハンドロ商店に行こうとしたら、聞き慣れた声が。

 

「カナデ、こっちに来てたんだ」

 

「やっほー。あ、これお願いします」

 

カナデは手にしていた【ジュエル】をカウンターに渡す。

 

「それ攻撃系の【ジュエル】だよね?魔法職には【ジュエル】の必要は無いんじゃない?」

 

「そんなんでも無いよ。スタージャンは電気を通した鉄類じゃなきゃ電磁石にならない。強力な電磁石にするにはこうして電撃系の【ジュエル】が必要になってくるんだ」

 

便利そうに見えて結構不便なんだね。

 

「魔法じゃダメなの?」

 

「上級職は2つ、下級職は6つまで就けるんだ。僕は【鋼鉄術師(メタルマンサー)】と【魔術師(メイジ)】、【彫金師】に就いてるんだ」

 

「彫金師?」

 

「鉄鉱石を媒体に生成した鉄を使って、こんなのを作ったんだ」

 

そう言ってあるものを取り出した。長さは20センチ近い細身の棒で、ストローのように管状になっていて、途中コイルを巻いている。片方の先端にはグリップらしい細身の棒が付けられていた。

まるで猟銃。だけど、不要な部分をすべて取っ払ったようなフォルムだ。

 

「何に使うの?」

 

「何に使うんだろうね?」

 

結局カナデはにやけ面をしたまま教えてくれなかった。

そのあとカナデと別れ、今度は四番街へ。

中央広場に来た時点で、サリーがログインしてきた。

 

「メイプル、もうこっちに来てたの?」

 

「うん。これからアレハンドロさんのお店に」

 

「んじゃあ、私もそろそろ装備品を整えとくか」

 

そういえばサリーはこっちに来るまで私の色違いの初心者装備だった。

ここは闘技場なんだし、【闘牛士】に合う装備もあるかもしれない。

 

 

 

 

4番街 アレハンドロ商会

 

 

無数のバザーが立ち並び、物と人の迷路を抜けてアレハンドロ商店へとやって来た私達。

大きな店舗の中に入ってみると、中には相当な客と定員、そして多種多様の商品が並んでいた。

まず【ジュエル】のコーナーを見てみた所、アレハンドロ商会とラングレイ宝石店との違いが分かった。

アレハンドロさんのお店は多種多様。【ジュエル】以外にも武具や食料品、美術品などもある。

逆にラングレイさんのお店はニーズを限定している代わりに、こっちには無い【ジュエル】を多く扱っている。【大死霊(リッチ)】のお客さんまで見かけたくらいだ。

 

「あ、レイさん達も来てたんだ」

 

再びのエンカウント。今度はルークとバビの2人も一緒だ。

 

「あれ?その耳――」

 

「ミミガドウカシタカ?」

 

「なんでもありましぇん!?」

 

レイさん、ケモミミに何が――いや、これ以上は聞かないほうが良い。カタコトで喋ってた分怖さが強調されている。

 

「ん?そのコートはどうしたんだ?」

 

今度はヒドラがルークに尋ねた。私が気が付いた時には装備してなかったものだ。

金属質の輝きがクールで細部の装飾も凝っている。袖の長さが違うのもお洒落だ。先に買い物を済ませたのかな?

 

「はい。僕もリズはとても気に入ってます」

 

リズ?

ああ、ブランドものの名前か。

 

 

 

 

そしてサリーが装備品選びを終えた直後、私も下位ポーションの買い足しを終えた。

サリーが選んだのは【スティード】シリーズ。防御力を上げてくれるだけでなく、AGIにも恩恵を与えてくれる青を基調としたコート型の装備品だ。

スキルも《反撃強化LV1》持ち。回避をメインにしたサリーにはもってこいだ。

 

 

《反撃強化LV1》

 

反撃系スキルのダメージを上昇させる。

また、回避からの攻撃のダメージを上昇させる。

パッシブスキル。

 

 

レイさんのほうも【ブレイズメタルスケイルコート】というコート型の装備品を購入。瘴炎手甲に合わせたようだ。

サリーの装備品は4万、レイさんのコートは8万。サリーのほうがレイさんの半分以下だなんて買い物上手。

清算の為にカウンターに向かうと、その横であるものを見つけた。

 

「あれは……」

 

それはリアルではよく見る代物だった。

レバーが付いたプラスチック製のケースの中で、中には丸井カプセルが幾つも収まっている。

貨幣を投じてレバーを捻れば中のカプセルが出てくる機械。所謂ガチャと呼ばれるものだ。

 

「……よし」

 

あ、サリーの目の色が変わった。

 

 

 

 

決闘都市ギデオン アレハンドロ商会【闘牛士(マタドール)】サリー・ホワイトリッジ

 

 

ガチャ。それは現代でも続く夢と欲望の装置。

現実に存在するガチャは100円玉を入れてレバーを捻れば色んなおもちゃが手に入る。

だけどどれが欲しいかは入れた本人でも解らない。

 

現実での装置なら微笑ましい話だが、ゲームの中なら話は別。

携帯端末やPCブラウザで遊ぶソーシャルゲームでは手っ取り早く強くなるために課金する必要がある。

1回300円前後でガチャを引き、アイテムをゲットできる。そしてレア度に比例して性能も高まる。

ユーザー、Eスポーツ選手は戦いに勝つために、のんびりプレイしたいプレイヤーは押しキャラを愛でる為にガチャを引く。

ただしそれらはすべてデータ。当たりを引かれても運営は全く懐へのダメージは無いし、ユーザーは逆にハズレを引くたびに欲望を増幅させ、さらに金をつぎ込む。

 

結果として、基本無料で月10万をもつぎ込む者という話がゴロゴロ転がっていた。中には100万つぎ込んだ猛者も存在する。

これは、かつて本当にあった話。

本当にあった、恐ろしい話……。

 

 

 

 

で、VRゲームでのRMT(リアルマネートレード)は全体的に禁止されてるから現実の財布にダメージは無いんだし、1回くらい良いよね?

 

「オイコラ全部言い訳か」

 

「だって引きたいもん」

 

ゲームでもお財布の2割はゲーム購入に使ってたし。こういうの好き。

さて、そのガチャだけど形こそ現実のそれと同じだけど、いくつか違う点がある。

まず、入れる金額。

小さな行列を作っていた冒険者達は100リル硬貨を入れる者や、1万リル金貨10枚入れる者もいた。説明書きによればガチャの景品にはSからFの7段階。

Cなら同等、Fで1/100の価値、Sなら100倍以上のアイテムが出るらしい。

投入金額は最低100リル、最大10万リル。リスクに比例してリターンも大きくなるのか。

でもこういうのって、商品管理が大変そうな気もする。

 

「いえ、このマジックアイテムの管理は私どもですが、この景品や投入された金銭には関与していません」

 

「というと?」

 

「あれは元々〈墓標迷宮〉から出土した宝具なんです」

 

曰く、あのガチャは金銭を投入すると100倍から1/100の価値の範囲でアイテムを排出するというもの。

他にもいくつか出土した記録があり、中には苦労の末に分解に成功した者もいたが、中身はすべて空っぽだったらしい。

金銭を供物にしてどこかから景品を召喚しているらしく、一度投入した金銭は取り出せない。つまり商売として成立しない。だからここで買い物をしたお客限定で引ける取り決めをしているようだ。

その取り決めは大当たりの成果を引き出した。ガチャ目当てで他の商品も買っていく好ましい流れができている。営業マンもアレハンドロさんのような手腕をこっちで習って現実で活かせることはできないだろうか。

 

「で、どうやって手に入れたんですか?」

 

「前の持ち主が破産したので、その後で購入されたそうです」

 

「……Oh」

 

つまり前の持ち主はガチャの回しすぎが原因で破産してしまったらしい。

アレハンドロさんの客寄せ計画は、その持ち主の二の足を踏まないようにとの動機もあるようだ。

こういうの熱くなると際限無くなるし。

説明してくれた店員さんにお礼を言って、私を前にレイさんが行列の最後に並ぶ。

 

「で、幾らつぎ込む?」

 

「「10万」」

 

ヒドラの質問に答えた瞬間、レイさんはネメシスからのボディーブローを、私はヒドラからの肘鉄を喰らった。

 

「テメェらは破産したボケナスの話をもう忘れたのか?」

 

「ほら、1回10万は高いけど高額アイテム当たればラッキーじゃん」

 

「それ、ダメ人間定番の言い訳だよ?とにかく10万はダメ。もし本気でつぎ込もうならヒドラに命じてでも止める」

 

メイプルさん、目が据わっていらっしゃる。本気で5桁以内に抑えなきゃ潰される。

 

「じ、じゃあ5万!これでどう?」

 

「……許可します」

 

メイプルからの承諾を貰って、やがて私の番が巡ってきた。

5万リル、もとい1万リル金貨5枚を1枚ずつ投下。レバーを回してカプセルが排出。

これを開けると中のアイテムが解放されるらしい。

カプセルの表面には「B」と書かれている。

10倍、つまり50万リル相当の価値がある。

私は列から離れ、カプセルを開封した。

 

 

 

 

 

【【氷結のレイピア】を手に入れた】

 

 

 

 

 

カプセルから蒼い鞘に納められた細身の剣が現れた。

試しに抜いてみると、刀身は氷のように透き通っていて、僅かながら冷気を帯びている。軽く振るってみると意外と感触も悪くない。

同時に使ってみてわかったが、これはレイピアというより、それと同等の長さと質量の警棒を持っている感じに近い。

 

 

 

【氷結のレイピア】

 

氷結結晶の欠片を集めて作った細剣。

強度は下位鉱石に劣るが、折れても海属性の魔法で再生可能。

 

 

装備補正

 

攻撃力+75

海属性耐性+10%

 

装備スキル

《凍結LV1》

《刀身再生LV1》

 

 

 

《凍結LV1》

確率で攻撃した箇所を【凍結】させる。

LV1での確率は5%

 

《刀身再生LV1》

刀身が折れても海属性魔法を鞘の中に入れ、剣納めていれば再生可能。下位の海属性【ジュエル】を接続しても代用可能。

完全再生には<Infinite Dendrogram>内で32時間の時間を要する。

 

 

装備制限

 

装備可能職業:【闘牛士(マタドール)】系列、【闘士(グラディエーター)】系列、【剣士(ソードマン)】または【剣聖(ソードマスター)】、【貴剣士(ノーブル・ソードマン)】系列、【騎士(ナイト)】系列。

上記のメインジョブレベル10以上。

【強化進化可能】

 

 

 

 

なかなか。鍛冶師に頼めばこれより強くなれるのも気に入った。しかも、これと予備の武器を買っておけば武器に対する費用もグンと減るわけだ。

攻撃力は低めだが、一撃重視より手数重視の私なら問題ない。

 

レイさんは何を引いて――。

 

 

 

「おぉう……」

 

……どうやら〈墓標迷宮〉の探索許可証を当てたらしい。

だけどあの落胆を通り越しての絶望のリアクション……多分手持ちとダブったんだ。現にルークに渡してるし。

 

「ワンモア」

 

「少しは懲りぬか!?」

 

気を取り直してまだやる気だよこの人。私はこれで十分満足してるけど。

 

「いや、2連続で許可証は無いはずだ!今のは当たりを引き寄せる為の乱数調整!」

 

「危険な思考になっとるぞ!?」

 

「レイさんそれ破滅フラグ!」

 

レイさん、本気でヤバいんじゃないんですか?

相棒を押し切ってのセカンドチャンス。その結果は……。

 

「え?」

 

X、と書かれていた。そう、SからFのどれでもない文字が書かれていた。

あれ?最高Sで最低Fだよね?どういうこと?

 

「これは……私共も見たことがありません」

 

……マジで?

なんかすごい物が出てきそうな予感がするんだけど……。

 

「結局30万リルも使っちゃったんだね」

 

メイプルも薬瓶と幾つかの小道具を抱えてこっちに来た。

どうやらメイプルもガチャをやりたかったようで、4万リル投入で結果は「C」ランク。その結果が今抱えている物だ。

 

 

 

【楽々ポーション作成&ブレンドキット】

 

素人でも簡単にポーションが作れちゃう道具一式セット(説明書付き)。

市販品のポーションにアレンジを加えて、味変も追加バフもお手の物!

薬剤師(ファーマシスト)】や【錬金術師(アルケミスト)】ならより高性能なポーションも作れちゃいます!

……ポーションに毒を盛ることもできますよ?

※本製品は生産やアレンジは【ヒーリングポーションLv5】まで対応できます。

 

 

「今必要無いんだよなぁ」

 

ホントに金策に使おうと思うんだったら売ればいい。けどメイプルの懐事情は初心者にしては潤ってるほうだ。

……やっぱりもう一度ガチャを挑戦しようか。

 

「おい」

 

ヤバいヒドラが睨みを利かせてる。

やっぱネクストチャレンジはメイプルがいないときに……ん?

 

「あ、レイさん。なんだか当たりみたいです」

 

……OK、ここで状況を整理しよう。

カプセルの色は虹色。

周囲の反応は一様に驚愕。

表面の文字「S」。そう、最高ランクの、「S」。

――ええええぇぇぇ!?なんで!?なんでそこで冷静なの!?つーかいきなりで大当たり引き当てやがったよこのイケメン野郎!?

 

「い、幾らつぎ込んだの!?」

 

「10万です」

 

「何回?」

 

「一回です」

 

……ファーストトライで1000万リル相当を引き当てやがった!?

半ばパニックに陥った私を他所に、ルークはカプセルをその場で開封してみる。

 

 

 

 

【【断詠手套ヴァルドブール】を手に入れました】

 

 

 

 

「これ……〈UBM〉のMVP特典みたいです!」

 

「凄ーい!」

 

本当にすごい。まさか〈UBM〉のMVP特典なんてものまで入って……ん?

MVP特典……?

 

「レイさん、ちょっと向こうへ」

 

「え?どうしたんだ?」

 

ルークも“それ”に気付いたらしく、レイさんを連れて外へ。

私もメイプルを連れて別の場所へ。

横目でガチャの行列の盛況さが増しているが、今の私にはそんなことどうでもよかった。

 

 

 

 

「で、どうしたの?」

 

四番街のカフェ。そこの一番ドアから離れた場所で注文も取らずメイプルと向き合っていた。

周囲に聞き耳を立ててる人がいないのを確認した私は、メイプルに打ち明ける。

 

「ルークが当てたあの装備品、多分“ティアンが手に入れたUBM装備”だと思うの」

 

「ティアンでもやろうと思えばできるんだね」

 

メイプルが感心するが、肝心は点はそこじゃない。

昨日ログアウトした後で色々調べているうちに、〈UBM〉に関する情報も得ていた。MVP特典は本来持ち主にしか使えず譲渡もできないのも織り込み済みだ。

例えば私がレイさんの特典欲しさに彼をPK()したとしても、私には使えず奪えず、装備すらできない。

だがこれは相手がプレイヤー、もとい〈マスター〉であった場合だ。

 

例外は“その持ち主がティアンである”こと。

そのティアンが死亡した場合、MVP特典はどこかに回収され、再び神造ダンジョンの深部のレアドロップや、さっきのガチャの景品になりうるということ。

そこまで聞いてメイプルもやっと理解が及んだらしい。

 

「まさか、特典欲しさにティアンを殺す人も出てくるって事?」

 

「ええ。ルークもそれに気付いて、そそくさ出ていったんだと思う」

 

もしメイプルがあれを手に入れたらあの場で読んでしまい、ティアン殺しに走る人の確率がグンと増えただろう。

ある種、あの場で最も運が良かったのはルークかもしれない。

 

「それにお目当ての特典を持ったティアンを殺しても、それが自分のものになるって保障は無いからな」

 

「確かに……ん?」

 

後ろからの言葉に相槌を入れたが、直後振り返る。

……誰もいない。

気のせいかと思い座りなおした瞬間、メイプルとヒドラの間に割り込んで外套で口元を覆った男の人が座っていた。

 

「うわぁ!?」

 

いつの間に!?まさか、さっきの話を――。

 

「動くな」

 

「!?」

 

後ろから別の男の人の声が聞こえ、左肩をがっしり掴まれた。

目線を後ろに動かすと、筋肉質のいかにも戦士風の大男が私の肩をがっちりつかんでいた。

まずい、この人達話を聞いていた。ここから逃げようにもメイプルもヒドラも外套の男が何をするか明白で身動きが取れない。ログアウトしようにも私もメイプルも肩を掴まれていてログアウトすらできない。

このままじゃ確実に殺される。避けようのない未来に血の気が失せた次の瞬間……外套の男が両手を上げた。

 

「え?」

 

「まぁ落ち着きな。自分から敵の目の前に出る【襲撃者(レイダー)】が居るか?」

 

「そういうこった。本気にしてるんだったらとっくに出てってウワサを広めるか、お前らを始末してるだろ」

 

外套の男に同意するように戦士風の大男も私の肩から手を放す。避けようのない死から回避できて私もメイプルも安心する。

この点のリスクはこの人が言った通り、目当ての武具が自分のものになる可能性が極力低いということ。

可能性がゼロじゃないとはいえ、ハイリスクローリターンだ。指名手配になるリスクの割りに得られるものが少なすぎる。

私もレイピアから手を放し、彼の話を聞いてみる。

 

「うちのオーナーと一緒に来た奴に手ぇ出すほど、俺らも落ちぶれちゃいねぇよ」

 

「オーナー?」

 

「ペインだよ。……その様子だとフレデリカやペインから聞いてないな」

 

外套の男の人は頭を掻いて溜息を吐き、そして自己紹介をする。

 

「俺はドレッド・ジェフリー。クラン【集う聖剣】所属の【奇襲者(スニーク・レイダー)】だ」

 

「俺はドラグ・シャーロットだ。【狂戦鬼(ベルセルク・オーガ)】で、同じく【集う聖剣】所属な」

 

……どうやら敵じゃないみたい。この人の言った通り、本気で私達を殺すつもりならとっくに2人分の死体が転がっている。そうしなかったのも、自分に敵意が無いのを証明したかったんじゃないだろうか。

一応の警戒は解かないまま――メイプルは完全に警戒心を取っ払ったけど――、私達も自己紹介をした。

 

 

 

【アナウンス 空腹】

 

 

 

丁度その時、視界の端にウィンドウが開いた。

メイプルのほうにもウィンドウが開いたのがリアクションで分かる。

 

「アナウンスか。とりあえず現実で野暮用済ませておきな」

 

そう言ってドレッドさんは住所を書いたメモを渡す。

 

「それはうちのクランの拠点だ。一応渡しておくから、何か聞きたいことがあったらここへ来な」

 

罠の可能性もある。だけどペインさんとフレデリカさんの名前を知ってる以上100%悪人、とも言い切れない。

一応メモを受け取り、私達は現実へログアウトした。

 

 




ポーションキットは後々のフラグです。

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