悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と壊屋姉妹。

決闘都市ギデオン 中央広場【闘牛士】サリー・ホワイトリッジ

 

 

さっきの【奇襲者】から逃げるようにログアウトした私達。それから現実で朝食を取って再びログインした。

メイプルのほうは食事量も増えたという。やっぱり〈エンブリオ〉の孵化で自信が付いたらしい。私にとっても喜ばしいことだ。

 

「これから私はクロムさんに鍛冶師にコレを見てもらおうと思ってるけど、メイプルは?」

 

「私は闘技場のほうを見てくるよ」

 

護衛にヒドラもいるし、問題は無いからね。

 

 

 

 

中央闘技場へ行くメイプルとヒドラを見送った後、広場を見渡せばまるで大道芸のような賑わいだった。

太鼓を叩き、フルートを吹く2頭身くらいのコボルトとケットシー、バイオリンを弾く褐色のケンタウロス。それら指揮して音楽を奏でている仮面の指揮者。その曲は急用で急ぐ者でも思わず立ち止まるほどの名曲だ。

そこだけじゃなく、左を見れば道化がジャグリングを、またある道化は松明に点いた炎を飲み込み、さながら竜のように火炎を吹く様を見せつけたりと、賑わいに興じていた。

これだけ見ればPKテロの王都封鎖が嘘みたいだ。

 

「……あれ?」

 

噴水のほうへ視線を移すと、妙な人影が。

身長は大体130センチくらいの小柄な体系。おそらく自分より年下だろう。

白と黒を基調とした衣装に同じく白と黒の、体形に合わない巨大なハンマーを背負っている。

ここまでくれば割と普通のパワーファイターに見えただろう。だが、問題は首から上。白と黒の熊の着ぐるみですっぽり頭部を隠していたのだ。しかも手には立て札を持ち、『うぇるかむ、きぐるみさん』とでかでかと書かれていた。

ティアンらしき子供たちも「なんだこいつー」とか、「へんなのー」とか言って集まっている。

 

「……なんじゃありゃ」

 

正直、あれに関わるには勇気がいる。

あの2人組の幼女は子供たちに囲まれているが、その様子は迎えるというより困っている様子だ。

 

『おやおや、どうしたクマー?』

 

そんな折、また来訪者が現れる。

今度のは一言で言うと……身長2メートル強の熊の着ぐるみだった。

一人の子供が着ぐるみを見つけると「あ、きぐるみさんだ!」と駆け寄り、他の子供達も2人組から着ぐるみへと集まっていく。

2人組も子供たちから解放されて安心したらしい。

 

それから10分後、お菓子を手にクマの着ぐるみにお礼を言いながら家路に帰る子供達を見送った。残ったのは私と着ぐるみ、そして首から上が着ぐるみ2人組。

 

『おや?お嬢さんは帰らないクマ?』

 

「ああいえ、私は――」

 

「着ぐるみさんですよね?」

 

ふと、2人組の黒いほうが着ぐるみに対して尋ねてきた。

 

『その通りクマ』

 

着ぐるみが答えると、2人組は「やっぱり!」と嬉しそうに被り物を脱いだ。

同じ腰までのロングヘア。あどけない顔持ち、まさに双子という言葉がぴったりだった。

強いて言うならの違いは目の形。黒いほうはタレ目気味で白いほうはややツリ目気味。

 

「良かった、師匠の友達だからと聞いて会いに来たんです!」

 

『師匠?誰クマ?』

 

「はい。“酒池肉林”のレイレイさんのです」

 

黒いほうの返答に着ぐるみも思わず素が出たように『えっ』と声に出してしまった。

暫くの沈黙の後、着ぐるみは『場所を変えるクマ』と私達を近くのカフェに案内した。

 

 

 

 

『なるほどなるほど。あのレイレイさんが弟子を持つとは思わなかったクマ―』

 

あの後、クマの案内で私達は広場からほど近いカフェのオープンテラスでドリンクを飲んでいた。私はアイスコーヒー、2人組と着ぐるみはオレンジジュース。

 

『改めて、俺はシュウ・スターリングだクマ。見ての通り、愛らしいクマだクマー』

 

「私はサリー・ホワイトリッジって言います」

 

「私はユイ・フィールです。こっちはお姉ちゃんの……」

 

「マイ・ルナーです。苗字のほうはある物語の主人公のをちょっとアレンジしました」

 

「お姉ちゃんってことは、リアルでも姉妹なの?」

 

「はい。というか、その件ではレイレイさんのおかげという感じで……」

 

聞いたところによると、ユイちゃんとマイちゃんはデンドロを始める前は相当仲が悪く、当初の動機は「お互いが居ない世界に行きたい」というものだった。

だけどいざ来てみたら両方ともドンピシャで鉢合わせてしまい、喧嘩になった所を偶然鉢合わせたレイレイさんがその喧嘩を止めて2人を弟子にするという形で面倒を見ることになった。

始めの頃は文句を垂れつつ修業や手伝いをしていたが、ある時不満が爆発。店中であるにも拘らず殺し合い紛いの喧嘩に発展していった。それに関しては直前にレイレイさんがログインしたおかげで事態は大ごとにならずに済んだのだが。

ユイちゃんは我慢できずに出ていったが、直後に〈UBM〉が現れたのを知り、マイちゃんとレイレイさんが駆け付けた。

その時レイレイさんは、「そのUBMを2人で倒しなさい」というとんでもない事を言い出したのだ。結果、最初は喧嘩し合いながらもUBMと互角に戦い、最後は連携を決めて見事に勝利を収めた。その時にはすっかり仲直りし、同時に自分達が幼少の時に親の離婚で別れた姉妹であることも判明したのだった。

 

「それで、2人とも何時ギデオンに来たの?」

 

「デンドロで3日前くらいに」

 

「ギデオンに行く前にキオーラに寄って行ったんです。せっかくだから王国をぐるっと巡って行こうかと思って」

 

「それって、リアルで何日前?」

 

「えっと……大体15、6日くらい前には王都を出ましたね。確かひな祭りの次の日でした」

 

つまり、PKテロの前に王都を脱出した為に被害に遭わなかったらしい。幸運なんだかどうだか。

 

『ふむ……【猿門白衣ウキョウ】と【猿門黒衣サキョウ】か。随分名前が似通ってる特典クマね』

 

「向こうも2体で1体の〈UBM〉を名乗ってたらしくて」

 

『俺も一つ目の下級職の時に、フィガ公と2体の〈UBM〉をそれぞれ1対1で戦ったし、これまで見かけた〈UBM〉でも2人が戦ったのと同じパターンの〈UBM〉見なかったクマ。もし2人にやられてなかったら〈イレギュラー〉相当になってたかもしれないクマね』

 

……今、ナチュラルに鑑定してたことにはツッコミは入れないの?

 

「で、職業は?」

 

「【壊屋(クラッシャー)】でレベルは35です」

 

確か【壊屋(クラッシャー)】って、STR極振りの攻城戦専用の職業よね?戦闘面じゃあんまり活躍できるイメージは無いと思うけど?

 

「私達、現実じゃ身体が小さくて力も無いんで……」

 

「この身長も現実とほぼ同じなんで……」

 

単に深く考えてなかったんだ。

それより、私は喉の奥にとどめていた質問を投げてみる。

 

「あのさ、2人はなんであんな格好を?」

 

「それは師匠から着ぐるみさんが常時着ぐるみを着ていると聞いたものですから、私達もそれを装備していれば気付いてくれると思ったんです」

 

「けど、この有様じゃ手ごろな着ぐるみが無かったから……」

 

だんだんと口ごもる姉妹に納得した。

2人の身長では身体に合った着ぐるみが無くて、仕方なく頭だけでも買っておいたということか。

いや、着ぐるみなのに頭だけ買えたってどういうこと?売れ残りからもぎ取ったとでもいうのか?

 

「というか、なんであなたも着ぐるみなんですか?」

 

『これには聞くも涙語るも涙の話があるんだクマ……』

 

ぐずり、と着ぐるみの口から涙が垂れる。傍目からなら幼女2人に舌なめずりをするクマ、あるいはロリコンの変態不審者にしか見えない。

が、ユイちゃんとマイちゃんは次に来る理由に食い気味にテーブルから身を乗り出している。

 

『……キャラクタークリエイトがあるだろ?』

 

「はぁ」

 

『殆どのマスターが自分をベースにキャラメイクし、俺もそうしようとしたんだが……』

 

「まぁ私もメイプルもそうしました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『うっかりそのまま決定しちまった』

 

 

 

「うわぁ……」

 

『クマー』

 

要するにこの着ぐるみの中はシュウさんの現実の要旨そのままって事か。

オンラインで完全素顔アバターとかアウト中のアウトでしょ。

流石に姉妹も呆れ……。

 

『その気持ち、すっごくわかります!!』

 

『私達も身長現実のままうっかり決定しちゃったもんだから!!』

 

うっかりさんがここにもいた。

感極まってテーブルを叩いたが、奇跡的にもテーブルは無事だった。

泣き叫ぶ姉妹を落ち着いたところで、シュウさんが席を立つ。

 

『俺は用事があるからこの辺で。レイレイさんに会ったら宜しく言っといて欲しいクマ~』

 

「「ありがとうございました~」」

 

シュウさんは私達の分の代金まで払って一足先に去って行った。

私も四番街へ行く用事があったので、姉妹とフレンド登録してそのまま人と物の迷路へと足を踏み入れた。

 

 




ユイマイ姉妹のエピソードは後日番外編にて掲載する予定です。
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