悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
決闘都市ギデオン 四番街マーケット【闘牛士】サリー・ホワイトリッジ
壊屋姉妹と別れた後、私はクロムさんを探しに人と物の迷路へと迷い込んだ。
よく見れば通路の両端には露店のように売り物が並びたてられている。アレハンドロ商店では見なかったものも多い。
っと、今は物より人。クロムさんを探さないと。クロムさんならデンドロ歴も長いだろうし。基本〈墓標迷宮〉で探索に行ってるとはいえ、あっちには正直足を踏み入れたくない。
「なぁそこの姉ちゃん、ちょっと見てくかい?」
ふと、左側の道端で露店を出している男性に声をかけられた。紋章があるからマスターだろう。
「見てくれよこの装備品の数々!今なら安くしとくよ?」
露店にはフルプレートの鎧、分厚い大剣、槍に斧とまるで一種の武器屋みたいだ。
どれも上等な装備品だ。私が使わないにしても売れば相当な額になるだろう。
「今ならこの装備品セットで10万リルで全部あげちゃうよ!」
「じゅっ、10万!?」
流石にそれは高すぎない!?私の持ち金ほぼ消し飛ぶじゃん!!
たじろいだのを見て責め立てに来たのか、更に露店の主は【ジュエル】を取り出す。
「今ならこの亜竜クラスの【ジュエル】もあげちゃうよ。今なら損は無いと思うよ?」
「いや、私そんなに従キャパ(従属キャパシティの略)は……」
「ちょっと良いかしら?」
詰め寄られて困っている所、一人の女性が声をかけた。
歳は20代前半だろうか、水色の髪を腰まで伸ばし、茶色のロングコートとゴーグル、焦げ茶色のブーツを着けていた。右手に紋章があるからマスターであることに間違いない。
「これ、一つ手に取っていい?」
「おお!お姉さんも興味があるのかい?」
「その前にちょっと試したいことがあるけど良いかしら?」
「試したい事?」
「貴女がこの鎧を着てその大剣で防御して、そこに私のピッケルで砕くから」
そう言ってピッケルを取り出した。先端の部分は黒い姿に陽の光を反射している。
思わず女性の提案に私も店主も面食らっていたが、店主のほうは直後に逆上したように食いかかる。
「ふっ、ふざけんじゃねぇよ!!いきなりしゃしゃり出て店のモンぶっ壊すだぁ!?何言ってやがる!?」
「あなたも生産職の端くれでしょ?自分の作品くらい自信をもってこの提案に挑んでみなさいよ?」
「こんのアマ……!だったらテメェをぶった切って試してやらぁ!!」
逆上に任せて店主が商品の大剣を手に女性を切り伏せようと振りかざす。
だがそれより早く女性のピッケルが大剣を受け止め――ぶつかった瞬間大剣が折れてしまった。
「は、え?」
呆けている間も無く女性のピッケルが男の首目掛けて突き刺した。
短い悲鳴の後、店主のマスターは断末魔と共に光の塵となって消滅。その場所には金貨といくつかのアイテムが落ちていた。
「危なかったわね。あいつどうやら【
「ど、どうも……」
現実なら白昼堂々の殺人でこの女性は速攻で警察に確保されているだろう。
だけどここは<Infinite Dendrogram>、ゲームの中だ。非犯罪者のティアンに対する障害や殺人は国から指名手配を受け、殺されれば犯罪者専用のエリア“監獄”へと飛ばされる。
しかしマスター同士の犯罪はこっちではノータッチ。だから今の女性がやった行為も犯罪としてカウントされないのだ。にしてはかなり大胆な制裁方法だったけど。
「これ、使ってみて」
女性が手渡したのは小さなモノクルだった。
試しに着けてあのマスターが売っていた商品を見ると、《スティールソード》と名前が表示された。安物の剣だ。アレハンドロさんのお店でも1000リル程度の値段だったのを覚えている。【ジュエル】のほうも、モンスターや奴隷の収容する【ジュエル】自体は本物。だが中身は亜竜どころかモンスターが1匹もいなかった。
ふと、女性が商品だった贋作の鎧を手にした。
そして――。
「……?」
「…………あぁもう、何なのよこの酷すぎる駄作はぁ!!!」
瞬間、女性が怒りを当たり散らした。
「どっかの【
デスペナを受けたマスターか、これを作った【鍛冶師】に怒りをぶちまけつつ、商品だった武具にダメ出しを続けている。
なんとなく、エンブリオが孵化する直前のメイプルとやけに姿がダブった。
やがて一通り怒りを発散させて気が済んだのか、肩で息をしている。
「あ……ごめんなさい。つい酷い生産品だったから抑えが効かなくて」
「い、いえ。お気遣いなく……それよりひょっとして、あなたも?」
「ええ。よかったらうちのクランに来る?こんな駄作より良いものを作れる保証はあるわ」
†
女性に案内されたのは一つの石造りの建物だった。
まるで昔の工房を思わせる風貌で、中に入ると熱気が私を迎え入れた。
ここは武器や防具が並んでいるが、奥に部屋が続いている。そこから鉄を赤い光や鉄を叩く音が聞こえてくるからして、ここは武器の商売や受付をして、奥は武具の生成や強化。熱気も多分あそこから流れ出たのだろう。
「改めまして。私はイズ・フローレンス。《
「さっきはありがとうございました。私はサリー・ホワイトリッジです。あの、支部って?」
「本部はここじゃないのよ。ここではオーダーメイドや武具強化での流通を行っているの。ティアンやマスター関係なしにお客が多いのよ」
つまり、あの武具は買い手の決まった武器や防具ばかりということか。さっき渡されたモノクル越しに見ても、相当気合の入った本物の逸品だというのが分かる。
「実はクロムさんに会おうと思ってたんですけど、逆に丁度良かったかも」
「クロム?あぁ、うちのお得意さんの一人よ。あの死神みたいなデザインの鎧あるじゃない?あれ実は私の作品なのよ。後着けで向こうが呪いを付着したって感じ」
マジか。
あんな禍々しい見た目の鎧をこんな美人さんが作ったとは思えない。
「でも、今日はこっちに顔を出してないわ。来る人は武器の強化とかがメインだし」とぼやいていた時、別のクランメンバーが声をかけてきた。
「クロムだったらさっきイヌミミ生やしたマスターと一緒にクルエラのほうに向かっていったわ」
「クルエラ?狩りでもしてんのかしら?」
「さぁ?なんか見たことのないイケメン君と白い女の子のマスターと5人で、なんか切羽詰まった様子で向かっていったわよ」
イヌ耳を生やしたマスター……レイさんと一緒ということか。レベ上げか何かにしては切羽詰まっていたというのが引っ掛かる。
でもクロムさんを探す手間が省けたというのも事実。とりあえずこのレイピアの強化素材の情報を聞いてみよう。
「あの、これの強化素材って解りますか?」
私はカウンターに【氷結のレイピア】を置く。
イズさんはレイピアを引き抜いて刀身を眺めたり、2、3度軽く振ってみる。暫くして剣を鞘に納めてカウンターに置く。
「一応2つ先の進化レベルまでならこっちでも素材のストックがあるし、〈ストークス海岸線〉の氷洞から採取できるわ。素材込みとそうでないとじゃ料金が倍近く違うけど」
「本当ですか?じゃあレベ上げついでにそこへ行くってのもありですね。そう駆け足気味に強くなる必要も無いし」
「何か理由でもあるの?」
「実はいつか、リベンジしたい相手がいるんです。私あるPKクランにやられちゃったんですけど、それでもまだそいつに挑む気で……」
「えっ?」
思わず声に出てしまった、といった感じでイズさんが声を上げた。
わたしが「どうかしました?」と尋ねるとイズさんは「何でもない」と笑ってごまかす。
そして頬杖をつくとため息交じりに続ける。
「話を戻しましょう。この武器は5段階の進化ができるの。最終進化したものは最大でレベル200相当な代物になるわ」
……最低でも今の職業含めた下級職2つと上級職1つカンストしなきゃいけないってこと?
「問題はレベルじゃなくて素材よ。4段階目への素材は厳冬山脈のふもとや山頂付近で採れる【永久樹氷の枝】や【氷獄樹氷の幹】がどうしても必要になる」
なんかすごくレア度が高そうなアイテムが出てきたんですけど。
「とはいえ、神造ダンジョンの深層にいてもおかしくないような強力なモンスターや、三大竜王の地竜の生息地でもあるの。ただでさえ普通に歩くのが困難な環境だというのに、そこに適応した強大なモンスターがごまんといる超危険地帯よ。現にあの山脈を踏破した人は10人も満たないわ」
……うん、無理。今行っても砂漠すら超えられない。というか、耐寒以前に砂漠越え用の装備も必須になっちゃうじゃん。
せめてもの情けか、第3段階まで進化できるって言うんだから、とりあえず厳冬山脈の話は今は頭から取っ払おう。
「〈ストークス海岸線〉は【ランドウィング】の足で半日あれば十分よ。ティアンの【
「ありがとうございます。あ、フレンド登録しときますか?」
「良いわよそこまでしなくても。――それ以前にそんな資格無いし」
「え?」
「あ、ううん、何でもないわ!」
最後の一言が気がかりだったが、私は〈ストークス海岸線〉の氷穴に向かう為に、工房を後にした。
†
決闘都市ギデオン四番街 クラン〈DDC:アルター支部〉【高位鍛冶師】イズ・フローレンス
うちのクランに現れた一人のルーキー。
彼女が口走ったPKテロ。その言葉に思わず反応してしまった。
その発端はドライフじゃない。私達の本部、カルディナにある。
カルディナは砂漠の国でもあり、同時に金さえあればすべてを得ると豪語するほど、金銭の力が強く、金や自身の欲望の為に国民や所属マスターが人を殺すことがザラにあることから、【共食いの国】なんて呼ばれている。
かつては最弱の国なんて呼ばれていたけど、今じゃ〈超級〉が九人なうえにハイエンドプレイヤーが多く集う最強の国へと成り上がった。
そしてその国の最強クラン《セフィロト》から《DDC》に指示が下った。
【PKクランを雇い、王都アルテアを封鎖せよ】
資金は常にカルディナから送られてくる。それを元手に3つのPKクランと1つの個人PKに依頼を送った。
そして私のグループの担当は南。〈サウダ山道〉。勿論証拠が残らないよう入念なチェックをしたり、【変声】のスキルで
彼らは早速承諾し、日夜山道に来たマスターを次々とPKしていった。
サリーのあのセリフ、きっと彼女らも〈サウダ山道〉に行き、〈
そのことを思い返すと、胸に針が刺さったような感覚を受けた。
「イズさん?」
クランのメンバーに呼ばれて我に返る。
いけないいけない、仕事があるんだから集中しないと。
でも……。
もしあの子たちへの贖罪の機会があるとしたら……。
《
カルディナのドラグノマドに本部を置く産業クラン。現在、7か国すべてに支部を置いている。メイン活動は物資生産とそれに伴う流通の発展。また、素材調達の為に冒険者ギルドに依頼を出したり、クランの中にも戦闘要員がいる。
ただ、イズの回想にもあったように《セフィロト》の傘下でもあり彼らからの伝達も役割を担っていて、売り上げも国の税金等の他に本部への賃金として送られている。
クランランキングは全て圏外。だが同時に情報量も多く、支社のクランメンバー同士で情報共有している。
主な活動は以下の通り。
アルター:メインは武具の生産。それと錬金術。【鍛冶師】が大半を占め、マスターティアン問わず冒険者や衛兵の愛用者が多い。2044年のバレンタインデーイベントの事を尋ねるは禁句。
ドライフ:《叡智の三角》と共同。【
グランバロア:造船や漁具の生産をメインとしている。【花火師】の技術を利用した水中爆弾の開発も段取っていたが、某“人間爆弾”の力を思い知らされ、断念。彼の〈エンブリオ〉を利用した水用爆弾の計画も上がったが、発案者が彼に文字通り爆殺された模様。
レジェンダリア:魔法道具生産。腕は立つ職人はいるものの、支部の中では最も人員が少ない。大半は所属している〈超級〉が原因によるトラウマでログインが減ったり引退した人が多いため。
天地:農作物の生産特化。戦闘要員は結界系スキルをカンストしており、数人がかりなら野盗30人前後でも破られない。【
黄河帝国:食品生産特化。【
カルディナ:本部。宝石品などのアクセサリー売買。また、超級クランの指示の伝達も担っている為、飛行モンスターをテイムしている【従魔師】が伝令役となっている。
……こうして見ると黄河とレジェンダリアの支部が一番被害受けてね?