悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
決闘都市ギデオン 決闘都市中央大闘技場【盾士】メイプル・アーキマン
時間は少し遡り、私がサリーと別れて闘技場へ向かった時の事。
「闘技場、っていう割には中は結構しっかり整備されてるんだね」
内部の通路は、外見の歴史を感じさせるものとはうってかわってスポーツ施設を思わせた。
ここで自販機とはあったら飲んでいただろうに、生憎この世界にそんなものは無い。ただ、それでもマスターなのかティアンなのかそれぞれ判別するのも億劫になりそうな人の多さだ。満員電車ほどではないが。
それに、天井から所々吊るされている垂れ幕には細身の男性と、顔面にお札を貼った怪物――キョンシーの写真が写っている。
「あの、何かあるんですか?」
「明日この中央大闘技場で〈超級激突〉が開かれるんだ。この都市の決闘ランキング1位のフィガロと黄河帝国の迅羽の対決!俺もガキの頃からこの闘技場での戦いを観てるんだけど、超級同士の対決はこの決闘都市始まって以来の大イベントだ!!」
ティアンの男性に尋ねると、彼は興奮しきったように語りだす。
近頃の熱気はこの〈超級激突〉が原因らしく、これ以上ない位今お祭り騒ぎなんだとティアンの男性は続けてくれた。
「なあ、あの闘技場って誰でも参加できるのか?」
「あぁ?確かにマスターも参加できるけど……お前さんレベルは?」
「いや、俺はこの子の〈エンブリオ〉だから。因みにレベル15」
「じゃあ無理だな。ここに限らず闘技場の結界はレベル51以上じゃなきゃすり抜けちまうんだよ」
最低でも下級職一つカンストしなければならないってことかー。
「まぁでも中央大闘技場は主に興行用だからな。他の12のコロシアムに行ってくればいい。あそこを見てみな」
ティアンの男性が指したのは、受付の横の壁の掲示板のようなもの。
一つ違うのはそこにある数字とランプの点灯。私が見てるうちに赤いランプ点灯していた8番が黄色、青に変わり、同時に2番が青いランプが点灯する。
「あれは休業しているコロシアムの空席状況を知らせてるんだ。赤が満席、青なら余裕、黄色は空席ありって感じだ」
となると、今は8番と2番が空席に余裕があるということか。
その人に礼を言うと、私はここから近い2番闘技場へ歩みを進めるのだった。
†
2番闘技場内。
そこへの道中はどこもかしこも、さながら夏祭りの出店の街道を歩くような雰囲気だった。
やはり〈超級激突〉は相当大きなイベントなんだろうと思いつつ、闘技場の中へと足を踏み入れる。
「わぁ……」
思わず声を漏らす。
まるで室内テニスコートのように、幾つもの結界が張られ、その中で様々なマスターが戦闘を繰り広げている。
正直、闘技場というからにはケガや死亡のリスクも考えていたけど、受付の人から結界の説明を受けていたからこそ安心したんだと思った。
この闘技場の結界内では、確かにレベル51未満のマスターは通り抜けてしまう為に観客の安全を保障できないという理由から参加資格は無い。
けれど、この結界の中で受けたダメージや損傷、破損や消費した武具やアイテムはデメリットスキル、デスペナルティも含めて戦闘終了後には無かった事になる。
つまり、休場の闘技場ではスパーリングの為に“安全な死闘”ができると言うわけだ。
ホッとしたのもつかの間、私もヒドラも、ここ2番闘技場に来て思わぬ落とし穴に気が付いた。
「対戦相手、決めてなかった……」
「完っ全に失念してた……」
これに気付いてショックを受けた後、私達は順番待ちのマスターに声をかけた。
けど誰も「もう対戦相手は決まっている」とか、「レベルが話にならない」とか言う理由で断られ続け、結局参加待ちの〈マスター〉全員に声をかけてみたが結果は全滅に終わってしまった。
サリーを待つにも、いつになったらここに来るかわからないし、それ以前に休業の期間が終わってしまう。
「もし、少しよろしいか?」
悩んでる所へ誰かが声をかけてきた。
その方へ振り向くと一人の女性だ。この人が私に声をかけてきたんだろう。
その女性は艶のある黒髪を腰まで伸ばし、服装はこれでもかといわんばかりの和服。いや、正確には和服8に対して鎧2の割合の衣装だ。腰に刀を下げていて、私が振り向いた時には左手の甲を見せていた。
そこに刻まれた紋章は炎に包まれる釣鐘と、怒りの形相を露わにした蛇の正面画。
「決闘相手に困っているようだが、私でよければ相手になってあげようか?」
「良いんですか?でも私、レベル低くて……」
「それは承知の上だ。こちらも、アポストルの〈マスター〉というのには興味があってな」
「要は俺らとの戦闘で、〈アポストル〉がどういうものか知りたい、って事か?」
「私は別に良いですよ。ここで待ちぼうけを食らうよりは良いかなって」
女性マスターもヒドラの憶測に「その通りだ」と肯定する。
私としても、サリーを待つよりかはそちらのほうが十分なので、女性の案を受けることにした。
「あ、私は【盾士】のメイプル・アーキマンです。こっちは〈エンブリオ〉のヒドラ」
「私はカスミ・ミカヅチ。【
おーが・ざむらい?こっちじゃ聞かない職業なんだけど、そんなのアルターにあった?というか、人間にしか見えませんよ?
「無理もない。【
《天地》。
確か、遥か東の島国だとチュートリアルで聞いたことを思い出す。
天地からここまでどれだけの距離があるのだろうか。いや、たとえ天地からアルターに来たというくらいだからかなり強いのかもしれない。
それこそ、今の私の手の届かないところに。
「ん?」
「どうかしました?」
「いや、頭のそれはどうした?」
「頭?」
まさか、あのフラミンゴと名乗った着ぐるみ【研究者】が盛ったケモミミ薬が、レイさんが蓋を開けた時に風に流れてこっちにも影響してケモミミが?
的外れな期待を自分の胸の内で膨らませながら頭に手を伸ばすと、チクリ、と何かが指に刺さった。明らかにケモミミの類じゃない。
「?」
『Hype』
「すみません」
横から声をかけられた。
見るとカスミさんとは違う女性が立っていた。
外見は二十代前半くらいで、恰好はアルターに合わせたファンタジー風。だけど雰囲気が秘書っぽい。
左手に紋章があるから、この人も〈マスター〉か。
「うちのベヘモットがご迷惑を」
「あ、ひょっとしてこの子ですか?」
ベヘモット。確かベヒモスという怪物の別称みたいなものか。
私の頭から飛び降りて女性の胸に飛び込んでくる。その生物はハリネズミとヤマアラシの中間に位置するような、かわいらしい小動物だった。
「あの、先程のお詫びと言っては何ですが、あなたたちのスパーリングのレンタル料を私が払います」
「いいのか?」
「はい。見失った私の責任もありますので」
「ありがとうございます」
でも、こんなかわいい子だったら毎日でも頭に乗っけたいけど。小さなほっぺを小突きながら名残惜しく闘技場へと入っていった。
†
「勝負本数は5本で構わないな?」
「それくらいあれば十分です」
結界を展開しカスミさんが刀を構える。
なるほど、服も合わさって似合っている。私も武器化したヒドラを構えて、カウントが0になるのを待つ。
「一つ、よろしいですか?」
ふと、後ろでベヘモットのマスターが声をかけてきた。
「なんですか?」
私は振り返らず言葉だけを投げる。
「貴女はこの世界を……<Infinite Dendrogram>を好き好んでますか?」
カウントが5になる中、マスターがわけのわからない事を尋ねてきた。
何故今更?思わずベヘモットのマスターのほうを振り向こうとしたけど、それでも私は答えを口にする。
「……好き、といった所でしょうか」
口から出したのは、その場凌ぎの嘘。
詳しい事情はあとで話すとして、今はカウントが3を切った決闘に集中をしなければ。
改めてカウントが0を示し、決闘が開始され――。
直後に私は自分の身体がずり落ちる感覚に襲われ、地面にあおむけに倒れる。
理解が追い付かないまま目を下に――さっきまで立っていた場所――向けると、上半分を失った盾を構えて直立したまま、腰から上が切断された自分の下半身が写っていた――。
†
「あの、どういうことですか?」
よもや秒殺――いや、瞬殺とも呼べる決着に私の頭は混乱していた。
切断された身体も元通り、傷一つ付いていない。ヒドラも元通り。本当に安心したよ、だって本当に殺されたかと思ったくらいだし。
「お前、あの時嘘を言ったな?それが原因だ」
え?嘘を言ったから、負けた?
「カスミさん、もう一度説明してくれます?」
「ああ。それよりも、だ」
説明に応じたカスミさんは目線を観客席のベヘモットのマスターに向ける。
「今の質問はあえてやったことか?」
「ええ。だとしたら不味いことをしてしまったのかもしれませんね」
ベヘモットのマスターの答えにカスミさんも「やっぱりな」と息を吐いた。
そこで思考が置いてけぼりの私に、目線を戻して説明してくれた。
「結論から言うと、私の〈エンブリオ〉には『嘘を吐いた相手のENDを減算し、その者への与ダメージを10倍にする』というパッシブスキルを持っている」
「10倍?」
「厄介なことに、例え善意故の嘘や薄っぺらな冗談でもキヨヒメの〈真偽判定〉では嘘と捉える。元が元だけに、嘘に対してコイツは容赦も妥協もしないからな」
確か清姫って、嘘を吐かれて激怒して蛇になったお姫様が、お坊さんをお寺ごと焼き殺したって伝説のアレだよね。
それにしては随分とピーキーなスキルだ。対人戦ならまだしも、モンスター相手には完全に特性が死んでいる。それを補うために今の職業を選んだんだ。
「それでは話を変えるぞ――お前、この世界を好きとは思ってないな?」
ふと鋭い目線に射抜かれた。
まるでさっきの刀のように鋭く、嘘を吐いた途端今度こそ殺されそうなさっきも滲ませながら。
「……確かに、さっきの言葉は嘘になります」
観念した私は、この世界に対して率直な感想を述べた。
正直、私は余りこの世界は好きとは思えない。他のVRゲームならPKされてもいざ知らず、<Infinite Dendrogram>でのPKは私の中では“本当の殺人”にしか思えなかった。それが今も怖くて、辛い。
「やはりそうでしたか」
私の感想を聞き終えたベヘモットのマスターは、思った通りだと言わんばかりに頷いた。
「あの、今のってどういう意味だったんですか?」
「《カテゴリ別性格診断》ってのを知ってますか?」
「なんですかそれ?」
「〈エンブリオ〉のタイプから逆算して〈マスター〉の性格を知ろうっていう話です。私の知り合いはそれを嫌ってましたけど」
〈エンブリオ〉は卵の期間の間、〈マスター〉の行動や心理を観察してから生まれる。
〈エンブリオ〉はイコール〈マスター〉のパーソナリティに起因するから、結構精度が高そうだ。
TYPE:アームズなら猪突猛進、傷つくことを恐れない人。
TYPE:ガードナーなら臆病な人、傷つくことを恐れる人。
TYPE:キャッスルなら内向的、協調性のある人、職人肌。
TYPE:テリトリーなら独善的、一匹狼、自分ルールを持つ人。
TYPE:チャリオッツは残念ながら憶測の域を出ないが、演技派やノリが良い人らしい。
こうしてみると、私としてはガードナーがあってると思っていたんだけどな。アームズなんて性に合わないし。
「ん?アポストルやメイデンはどうなるんだ?」
ここでヒドラが疑問を口にした。
今までは基本カテゴリの5つ。ヒドラの《アポストル》やネメシスのような《メイデン》はまだ知らされていない。
「まずメイデンのマスターは、この世界をゲームだと思っていない、この世界の命が現実と同価値と感じているとみられています」
そういう点は……意外にも理解できた。
ラングレイさんや道中出会ったアレハンドロさん、宝石店のスタッフなどNPCと呼ぶにはリアルすぎる。ティアンだけじゃない、モンスターもまるで現実のように思えた。
「そしてアポストル。これも憶測でしかありませんし、観測例があなたを含めた3つしかありませんが……共通する点は一つ――」
「第0形態から<Infinite Dendrogram>に対して嫌悪感を抱いている、だそうです」
ベヘモットのマスターの矛盾した言葉に私は息を呑み、そして納得した。
今や5桁を優に超える〈マスター〉に<Infinite Dendrogram>が好きかどうか尋ねても、<Infinite Dendrogram>に興味を惹かれたから、<Infinite Dendrogram>が好きだから始めたと答えるだろう。サリーもその中の一人だ。だけど、〈エンブリオ〉が孵化するまでの間に<Infinite Dendrogram>を嫌いになる人なんてまずいない。
ましてや目の前で友人を殺された私のような異分子なんて、広大な砂漠の中から一粒のジグソーピースを探すくらいに少ないだろう。
というか、今のって逆説的に私以外にも2人はいるってことだよね?
「で、どうする?今のは事故みたいなものだったし……続けるか、やめるか?」
カスミさんの言葉は決闘を続けるかどうかという質問だったけど、私には<Infinite Dendrogram>から去るのか残るのかという疑問に聞こえた。
「続けます」
今度は心の奥底から、自分の意思を伝えた。
「もう、友達を殺されるのを見過ごしたくないんです」
†
それから4本続けて行われた。
2回目は《死毒海域》を展開した直後に首を落とされて敗北。3回目は短刀と盾で挑んだものの、技量の差で敗北。4回目、刀スキルが見てみたいと言ったばかりにカスミさんの持ちうる全ての刀スキルで文字通り全身解体。ご丁寧に光の塵となって消えるまでに帝王切開で内臓まで幾つか摘出して。この時は解体されるニワトリさんや、船の上で包丁の露と消えるお魚さんの恐怖が分かった気がします。またトラウマ増やすつもりですか。あ、増えたトラウマの原因はほぼ自業自得か。
そして最後の5戦目。ここでベヘモットのマスターが声をかけてきた。
「カスミさん、これを」
そう言って渡したのは解毒用ポーション。一応結界はアイテム使用の許可不許可も設定できるので、今度はアイテム使用の許可をした状態で結界を展開。
「そろそろスキルの一つでも見せてもらいたいものだな」
「分かってます。じゃあ今度は盾に攻撃してください」
今更だけど、《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》は盾状態のヒドラで相手の攻撃を受けなければならない。盾そのものが壊れてしまえば当然発動は不発に終わる。
5度目のカウントダウンが始まり、私は《死毒海域》を展開し、その中でカスミさんは刀を構える。
そしてカウントが0を刻み、カスミさんは瞬時に盾越しにいる私ごと攻撃する。さっきまでとは異なる直線的な攻撃に私は対応し、今度こそ大盾で受け止めた。
「《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》!!」
5度目の正直といった所か、扇状に広がる毒液をまともに食らうカスミさん。そして毒液が意思を持ったようにカスミさんの体内の中へと浸透していった。
「……ぐふっ!?」
すると、数秒もたたない間にカスミさんが血を吐いて倒れる。
よし、これで一気に止めを――。
――ドクン……。
あれ?この光景、どこかで……。
【警告。心拍数上昇、脳波異常を感知】
――ドクン。
そうだ、あの時と同じだ……。
【バイタリティの異常値を確認。早急なログアウトを推奨します】
――ドクン!
サリーが死んだ、あの、山道の……!
†
決闘都市ギデオン 2番闘技場【
「……ぐふっ!?」
いきなりの吐血で、思わず倒れてしまう。
まいったな、自分から提案したとはいえここまでとは。
状況を説明する前に、私の職業【鬼武士】について説明しておこう。
東方限定の職業【
しかし鬼武士は【
その特徴の一つが、人ならざる者、鬼への転身。アバター制作の時のような見た目だけの変化じゃなくて、ステータスにも影響を及ぼす意味で、だ。
鬼になってしまえば新たに職業を得たとしても、二度と人間へと戻ることは無い。【
そしてその鬼の特徴はSTR、END、AGIの強化補正。そして耐性補正だ。炎、闇、毒に強く、光、聖に対して弱くなる。ティアンだけしか得た者がいないと言われる《聖別の銀光》もこれの範囲に入る。
【鬼武士】としての私も、キヨヒメのスキルデメリットを考えてこれを選択した。まあ鬼になっても髪が白くなって肌が赤くなって角が生えた程度だから気にはしていない。固有スキルの中に《人化の術》があったから普段はこれを使っているが。
とはいえ格下相手に常に毒の体制を得ていた私が毒で倒れるとは思っていなかった。鬼の身になってから毒に対しての耐性が上がったのは自覚している。
倒れ伏した自分に何やっていると私喝しながら起き上がり、ベヘモットのマスターから渡された解毒ポーションを呑下した。
……なるほど。どうやら治せない、という訳ではなさそうだ。ポーションを飲み終えた瞬間【猛毒】の状態異常が消えた。
「どういう理由で私の毒耐性を削ったか知らないが、タネはわかった。さぁ――」
仕切り直しだ、と言いかけた所でメイプルの様子が変わったことに気付いた。
呼吸が乱れ、瞳孔が開きっぱなし。何かに対する恐怖に捕らわれている。私以外の何かに。
ついにメイプルの体制が崩れ、胸を押さえて両膝をつく。
「メイプル、どうした?」
『やばい……!早く決闘を中止しろ!!早く!!!』
いち早く異変に気付いたヒドラが叫ぶ。
私も言われるままに決闘を中断して、パニック寸前のメイプルを連れて闘技場のグラウンドを後にした。
†
決闘都市ギデオン 2番闘技場ロビー【盾士】メイプル・アーキマン
「ごめん……」
漸くトラウマによる発作が収まり、一息吐く。
私は今、カスミさんとベヘモットのマスターと一緒にヒドラが買ってくれたドリンクを一気に飲み干したところだ。後の2人はまだカップにドリンクが残っているけど。
「アポストルの理由はそれですね」
ベヘモットのマスターが推測を立てる。
多分、その憶測は当たっている。
「現実で10日前、〈サウダ山道〉でPKに遭ったんです」
忘れかけていた、あの時の恐怖を私は語る。震える声で、時折恐怖がぶり返しそうになったのをヒドラが懸命に私の背中をさすって抑えてくれたりして余すことなく伝えきった。
「なるほど、その状況と私の今の状況がダブってしまった、という訳か」
「折角付き合ってくれたのに、ごめんなさい」
「気に病むな。私の落ち度もある」
最後の最後で決闘が中止となっては、相手のほうにも不完全燃焼が起きるだろう。
だけどカスミさんは自分のほうにも落ち度があると言って宥めてくれた。
「さて、私はこの辺で」
「あ、闘技場のレンタル料工面してくれてありがとうございました」
ベヘモットのマスターが席を立つ。
一応お礼を言うと、その人は去って行ってしまった。
ともかく、私も少し落ち着いたらレベ上げに行こう。
「なら、私とフレンド登録するか?」
「いいんですか?」
「ああ。あと、敬語はいい」
こうして私はカスミさ――いや、カスミとフレンド登録した。第2闘技場を後にした私は、重くなった足を引きずりながら気晴らしに〈ジャンド草原〉へと向かうことにした。
†
2番街街道【??】???
正直、がっかりしました。
彼女は期待外れのようです。
――あのアポストルの能力が見れただけでも収穫だったけどね。レポートはコピーしておいて。
確かに。
こちらの観測レポートを早々に済ませて、片方はフランクリンに渡しておきましょう。“ゲーム”には参加しないとしても、あなたの言葉を借りるのであれば、不穏分子への対策は基本ですから。
しかし彼女……メイプルとい言いましたけど、ああいうタイプは壊れやすいです。
――そうだね。あんな症状抱えてでもこっちに来るなんて正気の沙汰じゃない。それが強迫概念だったら何かの拍子に壊れちゃう。
そして壊れてしまった以上、二度と直ることは無い。
ああいう手合いはとっとと引退してくれたほうがせいせいします。
――あのさ、今思ったんだけどね。
どうかしました?
――私達を倒せるくらい強い人を、私達が育てるってのは?
……そういうのは戦争が終わった後にしてくれませんか?冗談でも笑えませんよ?
というか、本気だったとしても私達を倒せるレベルなんて、それこそ現実で何十年かかると思ってるんです?
――ごめん、今のは忘れて。どうかしてた。
それこそ賢明な判断です。
《緊急ログアウト》
〈マスター〉のリアルでの体調異常を検知し、【推奨】の黄色から【強制ログアウト】レッドゾーンまでの状態でログアウトを選択すると、30秒間の待機時間を要することなくログアウトされる。
ただし、次のログインの時には強制的にログアウトした場所でのスタートとなる。
※次の話とエピローグは15:00以降掲載予定です。それまで感想やコメントはお控えください。