悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
〈ベルメン湿地帯〉【盾士】メイプル・アーキマン
あの後、何とか調子を取り戻した私はサリーと合流して草原へ向かって行った。。草原に行くまで私達は、お互いのこれまでの経緯を話していた。
サリーは【壊屋】姉妹のユイちゃんマイちゃんの事、《DDC》のイズさんの事。
私は決闘場での【鬼武士】のカスミと出会った事。
そして現在、私達は〈ジャンド草原〉――から南西の〈ベルメン湿地帯〉でのレベ上げに専念していた。
「メイプル、3体連れてきた!」
「わかった!」
サリーが全速力で私の元へ戻っていく。後ろには灰色のトカゲが迫ってくる。普通のサイズじゃない、どれも大人の柴犬くらいの大きさで赤い目をしている。
【スワンプ・リザード】。あのトカゲの名前だ。湿地帯に住み、毒を吐いて獲物を弱らせる性質を持っている。
サリーが私の後ろへと駆け抜けていくと同時に、私が大盾を構えて待ち構える。【スワンプ・リザード】の毒液を盾で防ぎ、飛び込んできたところを盾で防いで短刀で切りつける。
「まだまだ!」
すかさず、鋭く踵を返したサリーがレイピアで私が傷つけた個所を的確に突く。そこから氷が浸食していき、三度突きを受けた【スワンプ・リザード】が光の塵となって消えていく。
残る1匹は遠くから見ていたが、仲間がやられたのを見て逃げ出した。
「行くよヒドラ!《シールドスロウ》!」
『任せろ!』
そこへ私が大盾をハンマー投げの要領で放り投げる。盾は放物線を描き、3メートル弱の所で盾から人へと姿を変え、着地と同時にそこから一気に駆けていき、逃げだした【スワンプ・リザード】の首を掴み、鋭利な刃物と化した爪で【スワンプ・リザード】の首を裂いた。
「よっし!アームズとハイブリッドのアポストルやメイデンって、こんな戦い方もできるんだね」
「いやいや、そんなの思いつくのメイプルくらいでしょ?普通自分の〈エンブリオ〉投げる?」
「俺としてはお勧めしないが、メイプルが思いついたんならやるしかないだろ」
「ごめんね。思いっきり投げて……って、何飲んでるの?」
戻ってきたヒドラは首からの出血で虫の息の【スワンプ・リザード】の血を傷口からゴクゴク直飲みしていた。
待って。確かそのトカゲって毒持ってなかった?飲んで大丈夫?
「何が?」
……これ以上は何を言っても無駄なのかもしれない。あのトカゲのドロップ品の中に【沼トカゲの血毒】があったから、ヒドラ用に幾つかとっておこう。
それにしても……ヒドラがおいしそうにゴクゴク飲んでいるのを見て、私も思わず口の中の涎を嚥下した。まずい、あのトカゲを料理したらおいしそうと思ってきた。最近ロクにご飯食べてないから、誰かがおいしそうに食べてるのを見てるとこっちもお腹が空いてくる。
「普通に食ったら死なないまでも、身体壊すぞ」
……読まれてた。
でも、毒とか気にしないで食べられる方法ってないかな……。
「にしても、トレインを応用したやり方がここまでうまくいくとはね」
サリーが袖で汗を拭く。おっとこっちも思考を戻さないと。
トレイン。モンスターを大量に自分に引き寄せて、他者に送り付けるPK行為だ。MPKとも呼ばれている。当然多くのゲームでは悪辣なマナー違反であり、処罰対象になっている。
だけど今回はPK目的のそれとはちょっと違う。【スワンプ・リザード】の生態を利用し、サリーが思いついた効率的な“狩り”だ。
このトカゲたちの特徴は現実のトカゲのように15匹ずつの群れを作り、そこから狩り要員として3匹ずつのグループに別れて行動する。そのうちの1グループを目安にサリーが周辺を偵察しながら、目を付けたグループにわざと見つかりやすい場所に現れる。
そこを見つけたトカゲが追うのを諦めないような絶妙なスピード調整でおびき寄せ、そこを待ち構えていた私がサリーと一緒に倒す。仲間がやられてしまった時、最後の1匹は逃げて他のグループに知らせるのだが、そこはヒドラかサリーが追って迎撃。
お陰で余計なモンスターを引き寄せることも、好奇心で足を踏み入れ、強力モンスターと鉢合わせるリスクも偵察のおかげで極力減ってきている。当然安全にレベ上げに専念できるのだ。ついでにさっきヒドラの食癖も知れたし。それに、これまでの狩りで戦闘にもいろんな面でだいぶ慣れてきた。
「今のでどれくらい倒した?」
「5グループかな。多分遠目から見ていた他のグループが身の危険を感じてさっさと引き上げたのかも」
この湿地帯には彼らの巣もある。だけど2人で10匹以上相手取るのはしたくない。その危険性は今朝のレイさんのテストに付き合った時に経験済みだ。
おっと、まだなんでここにいるのか説明してなかったね。
〈ジャンド平原〉で私達は狩りをしていたけど、途中ニッサ伯爵領から来たティアンが、「湿地帯には特殊なモンスターがいるらしい」と教えてくれたのだ。
サリーも興味があったらしく、足場の悪い場所での立ち回りをしてみたかった理由でこの湿地帯まで足を伸ばしたのだ。
「あっ」
「どうしたの?」
レベルも7上がって私が22、サリーが24にまで上がった所でさあ帰ろうかと思ったところであるものを見つけた。
7メテル程先の湿地。そこから地面が人型を形成するように、植物を巻き込んで5メートルほどせり上がっていた。頭部は球体の頭に目と口に穴を開けたようなシンプルなもの。腕も手の形が分かる五本指に、胴体は飲み込まれた木々以外はオウトツの無い身体。表面は絶えず湿地帯の泥のような沼のようなものが、フォンデュに使うファウンテンという装置のように上から下へ絶えず流れ落ちている。
「あれ、何かな?」
「ボスモンスターじゃない?なんか雰囲気違うし」
「……最後にアレに挑む?」
「本気?」
「うん。ちょっと闘技場の件でヒドラの弱点が分かったし、多分あれ生物の類じゃない」
そもそもあんな生物がいるんだったらゾンビも生物の類に入ってしまう。明らかにゴーレムかスピリットの類かもしれない。
「一応試しておきたいんだ」
「OK。未知の相手に攻略を挑むってのもゲーマーとして燃える要素だからね」
茂みに隠れ、泥の怪物が背後を向けたのを見計らって背後から奇襲を仕掛けるサリー。背中を刺された箇所が凍り付くが、すぐに泥に覆われて氷を、凍った泥を押し流す。
振り返った泥の怪物――【マッドスワンプ・ゴーレム】――はゆっくりと振り返り、サリーと私に気付いて雄叫びを上げる。
『UOOOoooooo!!』
さっき振り返った時よりも素早く腕を振り下ろす。けど、サリーからすれば遅いほうだ。私でも見切れるくらい。
腕よりギリギリ外側に身体を置いて避け、弱点を探るべく胴体へと連続で突きを放つ。
『UOO!!』
【マッドスワンプ・ゴーレム】も黙っておらず、サリーを潰そうと再び彼女目掛け拳を放つ。
だけど今度はサリーは避けようともしない。
「任せて!《死毒海域》!」
訂正。避ける必要が無かったんだ。
もう既に私が前に出て、サリーをかばうように盾を構える。
私自身も、【スワンプ・リザード】の体当たりで散々経験した。
普段の足場より重心を前のめりにするイメージで、力み過ぎないように、
「《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》!!」
――インパクトの瞬間だけ脚の踏ん張りを強める!
防御した瞬間をトリガーに放たれる毒液。それが【マッドスワンプ・ゴーレム】に毒液が浸透する。
普段ならこれで倒れる……はずだった。
『???』
まさに、何をされたと言わんばかりのリアクションだった。毒で苦しむ様子もない。
予想通り。闘技場から抱いていた私の疑問が解消された。
「どういうこと?毒が効いてる様子は無いんだけど?」
「ううん。私としては予想通りだよ」
「ヒドラ、分かる?」
『ああ。一応こっちに来るまでに話しておくべきだったが、メイプルが疑問に気付いた時からいずれ気付くだろうと思ってあえて言わなかった』
やっぱりヒドラも気付いてたんだ。まぁ、自分の能力を自分が一番理解できるのは当然だ。
「《毒が効くのはあくまで生物の範囲内》。そうでしょ?」
「……ああ、そういうこと」
サリーもここでやっと気付いたようだ。
ヒドラの特性は毒による状態異常。守り切ると同時に相手のHPを毒で削り殺す。
だけど<Infinite Dendrogram>は誰も彼も簡単に無双できるようなものじゃない。モンスターにもジョブにも、〈エンブリオ〉にも当然欠点がある。ヒドラの場合、それは【非生命体には効果が期待できない】ということ。
この能力はあくまで対生命体によるもの。ゾンビやスピリットに効くのかと言われれば、今なNOと自信をもって答えられる。
そして闘技場で知ったもう一つの欠点。普通の状態異常と同じく【回復されてしまえばそれまで】だということ。
『GIEEEEEEE!?』
突っかかっていた疑問を解消して《死毒海域》を解除しようとした次の瞬間、別の場所から全く別のものの悲鳴が上がる。
悲鳴の先は【マッドスワンプ・ゴーレム】の2、3メテル先の泥の中。そこから泥を纏ったザリガニのようなモンスターが苦しみながらはい出てきた。だが、地上へ出るまでに最後の気力を振り絞ったのか、出た瞬間にばたりと倒れて消滅した。
どうやら【マッドスワンプ・ゴーレム】に与えた毒が流れて湿地帯の泥の中に浸み込んでしまったらしい。あ、レベルが上がった。ザリガニさんごめん。
『UOO!!』
おっと、こっちの戦闘にも集中しなければ。【マッドスワンプ・ゴーレム】のボディプレスを回避して、生じた泥の波を私の盾が防ぐ。
起き上がった所でサリーが前に出て今度は頭部を突く。
――ガキン!
『UOo!?』
頭を刺した途端、ゴーレムが反応を見せた。明らかにダメージを受けたリアクションである。
『弱点は頭か!』
5メートルもある相手の頭部に弱点当てなきゃなんて、【
と、そんなボヤキが許される状況じゃない。
相手の身長は5メートル。私達はその1/5にも程度。
またボディプレスを仕掛けてくることを祈るより、直接飛んで頭を狙ったほうが早い。
けど、ジャンプすれば回避の手段がなくなり、泥の腕で叩き潰されるのは明白。
「だったら……」
そこで私は思いつく。
回避できない空中なら、攻撃する前にサリーを回収すればいい、と。
「サリー、攻撃は任せていいね?」
「言われるまでも無いよ」
サリーが湿地を駆け、跳ぶ。そこからゴーレムの頭、内部の弱点目掛け刺突を繰り返す。
【凍結】の起きたのか、内側から濁った色の氷が目から飛び出し、直後に泥に流れて消える。
『UOoooo!!』
それは同時にゴーレムにもチャンスが訪れる。両手で拍手の要領で潰そうと両手を広げ、サリー目掛け振るう。
空中にいる相手ほど捉えるのは容易なことだ。同時に空中での完璧な回避は難しい。
だがそれは、1対1の状況でならの場合だ。
足元で私が盾を下から上へ、すくい上げる要領で振り上げる。
「ヒドラ、人に戻って!」
『分かってる!』
瞬時に粒子が盾から人へ形を変え、ヒドラが人型になる。
そして尻尾がサリーの近くまで伸ばし、サリーがそれを足場にさらに飛ぶ。
直後、サリーがいた地点に泥の両腕が叩いた。
『UO?』
潰したはずの感触が無い。叩いた手を見ても潰れたマスターがそこにはいない。
ならどこに行った?消えたサリーを探そうと左右を見渡していると――。
「《スラストス・トライア》!」
3度の刺突。それらすべてが弱点に直撃した。
『UOoooo!?』
たまらず頭上のサリーを振り払おうと頭の上で振り回す。
だがもうそこにはいない。着地して再び私の元へ戻ってきている。
そしてサリーを見つけたと同時に彼女から頭を攻撃され、ヒドラの脚や尻尾を足場に再び頭部へ追撃。
そのループをかれこれ8分以上繰り返していき……。
『UOOOoooaaaaa……』
ついに力尽きたのか、【マッドスワンプ・ゴーレム】の身体が崩れていく。まるで足元の湿地に同化していくように溶けていき、最後は光の塵となって消滅した。泥の中から手のひらサイズの泥まみれの花が出てくる。
「まさかヒドラの尻尾を足場に利用するとはね」
「うん。サリーならいけると思ったし、ヒドラの尻尾も踏ん張りを利かせるかもって」
「よくまあホイホイ思いつくよな、うちのマスターながら。俺の弱点の件もあるし」
そう?頭の中でふっとよぎったんだけど。
それに、ヒドラの弱点の克服のヒントみたいなものも無かったし。
「あ、ザリガニさんの【箱】はサリーが貰って」
「良いの?」
「うん。あのモンスターのがあるし」
「というか、あれボスじゃなかったのね。なんか苦労の割に合わないなー」
ザリガニさんが消えた場所には【箱】があった。多分あれがボスモンスターだったんだ。
【適正レベルにおける特定行動の規定値達成を確認。武器スキル【カバー】を習得しました】
「え?」
「お」
「あ」
私が【マッドスワンプ・ゴーレム】からの戦利品を拾っていると、イベントリが開き、サリーとヒドラと共に同時に声を上げた。
「なんかスキルゲットした!」
「「第2形態に進化した!」」
3人――いや、ヒドラは私の〈エンブリオ〉だからノーカンで2人か――同時にって、マジですか。
「どうする?見てく?」
「うーん……もう疲れたし、ギデオンに帰ってお風呂入って、その日はログアウトして明日見てみよう」
「賛成」
新品の装備品も泥だらけだ。早くお風呂に入って洗濯して、さっぱりしたい。
その前に私はザリガニさんが消えた場所に木の棒を突き立てた簡易的なお墓を作って、黙とうをした後で私達はギデオンへと帰っていった。
次はエピローグ。
カバーの詳細等は次の章となります。