悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

18 / 70
防振り原作の運営の苦悩を管理AIの皆さんでやってみましたwww


エピローグ:極振り防御と運営るーむ。

少し戻って、とある運営。

 

 

 

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー!!」

 

一人の女性が叫ぶ。その女性は人間と呼ぶには所々おかしな点が見られる。

耳や手足などに肉食動物のパーツがちらほら見られる。それに伴い顔も人間のものをベースに肉食獣の要素を合わせたような出で立ちだ。

服装は王冠に赤いドレスと、ファンタジーの王女そのものといった所だろう。そんな女性がモニターを前に喉が張り裂けんばかりの悲鳴を上げた。

 

「ちょ、どうしたのクイーン?急に大声なんて上げて」

 

引きつらせながら訊ねたのは管理AIのチェシャ。メイプルをはじめ、数多くのプレイヤーを<Infinite Dendrogram>に送り届けたAIだ。今はチュートリアルのほかに他のAIの補佐もこなしている。

今はモンスター担当の管理AI、クイーンの補佐をしている。

 

「【亜竜甲殻蜊蛄(デミドラグ・クレイフィッシュ)】がやられた!!私の自信作が!!」

 

「あれって、クイーンが〈UBM〉候補として作ったボスモンスターだよね?でもあのマップって【マッドスワンプ・ゴーレム】もいなかった?」

 

「その通りだ……マッドスワンプは個体ごとにランダムに異なる部位に出現するコアが弱点だから、まだ何とも無いが……というか正攻法じゃなくて裏技のほうが何倍も手っ取り早く設定したはずなのに!」

 

「裏技抜きでやっつけちゃったのかー。逆にすごいねー」

 

クイーンの言う通り、【マッドスワンプ・ゴーレム】は時間が経てばコアが生成され、神造ダンジョンのモンスターのように別個体として復活する変わったモンスターだ。だがボスクラスではないものの、個体ごとに同じ場所に弱点であるコアが異なっている。1体目が右目であっても2体目が脇腹にコアがあるように。当然泥ゆえに【毒】や【麻痺】などの大抵の状態異常も通用しない。

彼女の言う裏技は、火炎魔法による泥の蒸発からのコアもろともの粉砕、または【マッドスワンプ・ゴーレム】をコアごと潰す範囲型物理攻撃。あらゆる属性耐性が高い中、火炎魔法に対する耐性だけはマイナス補正に調整されている。つまり流動体の泥の水分を蒸発して固め、そうすることでどこにコアが生成されても関係なく、適正レベルの【戦士】の攻撃で粉砕すれば簡単に倒せる。その分ドロップするアイテムも減るが。もう一つの範囲攻撃は単純に個体であるコアを流動体の体内から探す必要も無いが、そんな方法は数ある<Infinite Dendrogram>のスキルの中でも、あの湿地帯の適正レベルの〈マスター〉のジョブで覚えられるものは少ない。〈エンブリオ〉であろうとそうはいないだろう。

だが彼女の悲鳴の問題はそこではない。事故同然に斃された【亜竜甲殻蜊蛄】だ。

 

「アイツは泥の中から音を探知して、地上のモンスターを倒して油断したところを泥の中に引きずり込む奇襲を得意としていた……!それが奇襲どころか泥の中にいた時点でやられたんだぞ!?条件特化型を目指してたアイツが!!!」

 

「ちょっとモニター失礼するよー。あ、メイプルちゃんだ」

 

ヒステリックを起こしているクイーンの横でモニターを再生するチェシャ。

モニターには丁度【マッドスワンプ・ゴーレム】を倒した直後だった。そこから、問題のシーンがどこにあるのか巻き戻していく。

 

「へえ。あの子《アポストルWithアームズ》になったんだ。てっきりガードナーになるかと思ったんだけど……って、うわぁ……何あの動き?」

 

「人型と武器形態を切り替えて戦っている。ルーキーのくせにあんなトリッキーな真似できるものなのか?」

 

「《Withアームズ》だと、無意識に武器形態に頼らざるを得ないからねー。メイプルちゃんみたいなやり方は、僕らが知ってる限りじゃ片手で数えられるくらいだよ。あ、ここか」

 

メイプルの戦い方に若干引いたが、問題のシーン付近まで巻き戻した。戦闘自体に変なところは無い。バグが発生したとしてもすぐに〈マスター〉に気付かれない程度に収束させるし、外部からの攻撃はバンダースナッチが対処してくれる。

“監獄”のフウタの〈エンブリオ〉みたいに世界を糧にバグモンスターを産み出したわけでもないし、モンスターのドロップも正常。どうしてこんな事態に至ったのかチェシャも眉間にシワを寄せて考えていたが、【マッドスワンプ・ゴーレム】の攻撃を防いだメイプルを見て、あることに気付く。

 

「ねぇ、【マッドスワンプ・ゴーレム】って火炎系以外はあまり効かないんだよね?」

 

「ああ。元々エレメンタルを基礎にゴーレムの形にしたものだし、奴には毛ほどにも感じてないはずだ。あのレイピア程度の【凍結】なら、そこごと泥で押し流してしまえば問題ない」

 

「じゃあ相手から受けた毒はどうしてるの?」

 

「どうって、一旦体内に集めて自分の真下の地中に集中させた毒を丸ごと浸透させていく。あそこは基本毒を栄養に変えて成長してるのが多いから環境に問題はない」

 

「【亜竜甲殻蜊蛄(デミドラグ・クレイフィッシュ)】の毒耐性は?

 

「20%前後。言っただろ?条件特化型の〈UBM〉を目指してたって……あ」

 

「多分それだよ」

 

さて、ここでクイーンの証言を踏まえてあの時の事故を考えよう。

あの時メイプルは《死毒海域》を展開したまま《第1の首は猛毒滴る竜鱗の盾》を発動。その毒は体内に収束され、足元から地中に送られる。そして【亜竜甲殻蜊蛄(デミドラグ・クレイフィッシュ)】は《死毒海域》の影響下で、20%の病毒系状態異常の耐性を削られ、ダメージ量が増えた【猛毒】での継続ダメージ。

そんな中で起こる結果は……こちらとなります。

 

「つまり地中で獲物が油断してるのを待ってる時にいきなり【猛毒】を食らってゴリゴリHPを削られて、訳も分からないままにとりあえず地上に出たはいいけどその瞬間絶命したという訳です」

 

「ふざけんなああああああああ!!!」

 

「条件特化型は条件が噛み合った相手には弱くなるからねー。もう運が悪かったって受け入れるしかないよー」

 

チェシャの冷静な指摘にクイーンも激昂して椅子を放り投げた。余程あのモンスターに自信を持っていたのか、こんな事故同然の最期に怒りが火山噴火の如く爆発する。

周りから見れば迷惑極まりない八つ当たりだが、管理AIにとっては日常的なものだと認識している。現にチェシャもその一人だ。

 

「じゃあ僕はジャバウォックの補佐に行ってくるよー。暴れるのもいいけど仕事忘れないでねー」

 

「お、応……。私も少し頭も冷えてきた。とっとと仕事に――」

 

一通り暴れた所でクイーンも頭が冷えたのか、仕事に戻り――、

 

 

【(〈UBM〉認定条件をクリアしたモンスターが発生)】

【(履歴に類似個体確認――類似個体無し。〈UBM〉担当管理AIに通知)】

【(〈UBM〉担当管理AIより承諾通知)】

【(対象を〈UBM〉に認定)】

【(対象に能力増強・死後特典化機能を付与)】

【(対象を逸話級――【怨霊牛馬ゴゥズメイズ】と命名します)】

 

 

「……あ゛?」

 

「……あっちゃー」

 

――掛けた瞬間最悪すぎるタイミングで、クイーンが今最も聞きたくないアナウンスにチェシャも声を上げる。

兎に角八つ当たりの対象になる前にそそくさとジャバウォックの元へ避難しようとした時、後ろから首を掴まれた。

 

「どこへ行く。クソ猫」

 

「ジャバウォックの補佐に行くって、さっきも言ったよ」

 

「……少し待て。逃げたら皮を剥いで天地特有の弦楽器(シャミセン)の素材にしてやる」

 

意外にも冷静、かつ冗談抜きの脅しを彼に伝えると手紙のようなものを書き始めた。

そして3分後、無言で突き出されたそれを受け取ったチェシャは改めてジャバウォックの補佐に向かうのだった。

チェシャが出ていった数秒後、クイーンの激昂した悲鳴とそれに伴う破壊音が彼女の仕事場から響いたのは言うまでもない。

 

 





〈ベルメン湿地帯〉

この作品オリジナルのマップ。
ギデオンから西南にまっすぐ進んだニッサ伯爵領内辺境の湿地帯。
推定レベル20前後のモンスターがはびこる狩場だが、「いきなり発生する毒の状態異常がウザい」、「【マッドスワンプ・ゴーレム】の対処が面倒くさい」、「倒したと思ったらいきなりデスペナされた」などの理由でマスターからは〈旧レーヴ果樹園〉に次ぐ不人気狩場として名高い。
実をいうと管理AIのクイーンが【亜竜甲殻蜊蛄(デミドラグ・クレイフィッシュ)】を〈UBM〉になるまで育てるための飼育所であり、【スワンプ・リザード】等のモンスターや毒沼ギミックは彼に有利な環境を作って狩られないようにするためのもの。また、【スワンプ・リザード】以外の毒物も採取しやすいのでたまに【毒術師】が素材集めに来る。

感想OKです。
あとちょっと編集したりしておいたりするのでご了承ください。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。