悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
極振り防御と暗躍の夜。
決闘都市ギデオン 某所
「……随分も盛り上がってんな」
ギデオンを見下ろす建物の屋根の上で、一人の青年がつまらなそうにつぶやく。
その男の風貌は、ペインのように鎧に包まれた騎士。だが、右腕だけ素肌を曝した左右非対称のものだった。色は幾多の血を吸ったかのような黒地に赤のライン。銀の鎧に青のラインのペインとは真逆のデザインだ。
顔はまるで肉食獣そのもの。獲物を噛み裂かんばりの犬歯を生やし、双眸も獲物の息の根を止めるかのように鋭い。上空ゆえにエメラルドグリーンのような翠緑の髪が風になびいている。
「……頭に来やがる」
彼が口にしたのは、怒りを孕んでいた。自分達が蹂躙した死にかけの国だというのにまるで巻き返してやると言わんばかりの活気。皇国から遠い故の慢心か、それとも本当に逆転の秘策があるのか。
原因がその2つでなくとも、この活気は彼を不快にするには十分な素材だった。
そんな折、彼の懐から軽快な音楽が鳴る。音源である【携帯式通信魔法器】を取り出し、通話を受ける。
「どうした?」
『こんばんはぁ。そっちはどうですか?』
「ああ。今設置を完了した。明日ここがモンスターの群れになると思えばワクワクするな」
電話の向こうの人物は男の言葉に大爆笑する。余程ツボにはまったのだろう。
『こちらは“クラブ”と“ハート”、“クイーン”、“ジャック”も準備は万端だそうです。計画が始まったらこの街もおしまいですからねぇ』
彼は内心、「管理AIにも同じ名前がいたよな?」と突っ込んだ。そして直後に「ああ、こっちはトランプで向こうは登場人物だからセーフか」と結論付けていた。
「そうだな。特に【集う聖剣】の本部がある2番街は徹底的に潰してくれ。ま、最終的に“スペード”で吹っ飛ばすつもりだろうけど」
『私としてはあれは使いたくない、もし使うとしても対【地神】用ですからね』
「つーかお前もあの男を殺すつもりだけってのに、随分手の込んだ復讐劇をするんだな。今朝方毒殺しちまえば早かったんじゃないのか?」
『私もそうしたかったんですがねぇ。情報の無い〈イレギュラー〉相手に博打をするほど無謀じゃありませんよ。当初の計画通り混ぜ物仕込んだものを渡してよかったです。馬鹿正直に毒を渡してたら、そもそもの計画が破綻する危険もありましたから』
「例の〈アポストル〉連れの〈マスター〉か」
『獣王から送られたレポートがこちらにありますが、概ね私の予想通りでした。今はモンスターの命令を追加するだけで十分でしょう。死なない限りは私の描いた結果とだいぶ離れますが』
「まるで後々脅威になりそうな言い草だな。ただのルーキーだろ?あ、お前の計画もレベル0のルーキーに潰されたんだっけ?」
『……痛いとこを突いてくれますねぇ。あ、ペイン・トーマスが討たれるところを将軍閣下に見せれば、面白いリアクションしてくれるでしょうねぇ』
「ペイン……?」
通信機越しの相手が口にした名前に眉を顰める。
『おっと失礼。禁句でしたっけねこれ』
「あいつは俺が殺す!近衛騎士団の首を一人ずつ撥ねて、最後に姉弟子のあいつを何度も串刺しにして殺したあとで殺す!!」
男は直後に怒りを爆発させる。
まるでペインが仇敵であるかのように、怨恨を交えた怒声は通信機越しの相手も思わず耳を遠ざけたらしい。
『おー怖い怖い。ですが近衛騎士団は『RSK』のテストに使いますから、副団長はともかく下っ端は勘弁してください。私も彼と当たるのは勘弁です。相性最悪ですし』
「だったら精々俺があの男の息の根止めるのを録画しときな」
『はいはい。じゃあそう言うことで』
電話越しの相手との通話を終え、男は眼下に映る大闘技場を見下ろし、手にした槍をそこに向ける。その槍は円錐状に伸びた騎士槍であり、根本はドリルの機関のような溝が見られる。
「首を洗って待っていろペイン、待っていろ【集う聖剣】。このアドルフ・ペンドラゴンと【
翌日に控えるは一大イベント〈超級激突〉。
だがその裏で、もう一つの計略の歯車も着実に動かしていた。
――To be NEXT EPISODE.
第3章は原作の〈超級激突〉に沿って動きます。
けれど……はっきり言って、執筆期間もめっちゃ長いです。原作第1部のクライマックスみたいなもんですから、詰め込みまくるのでご容赦ください。
※ひょっとしたらいくつか溜まったら各話数日おきに投稿するかもしれません。