悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と《円卓議決会》。

決闘都市ギデオン とあるカフェ【盾士】メイプル・アーキマン

 

 

現実で日を跨いでログインした私達。

あの後ギデオンに帰る途中でサリーが得た【箱】を開けてみた。

結果、中身は泥の塊だったが、洗い流してみると【亜竜蜊蛄】の甲殻と換金アイテムである【エメンテリウム】と判明。甲殻のあの量は昨日のザリガニさん丸ごと1匹分はあったと思う。

それで今は2番街のカフェでフレデリカさんとばったり合流。こっち側での朝食をとっている。因みにヒドラの食癖を見てたフレデリカさんは「大丈夫なの?」ってドン引きしていた。

 

「強くなりたい?」

 

「ああ。あの鎧のデカブツをぶっ潰す為にな」

 

「なるほどなるほど」

 

事情を知るフレデリカさんはうんうんと頷く。自分がPKテロの渦中へ追いやった負い目からか、すんなりとアドバイスをしてくれた。

 

「今回レベル差や〈エンブリオ〉の到達形態は置いといて。あいつは十中八九END重視のタンク型ね」

 

「つまりそれ以上の攻撃力を持たなきゃならないって事か……でも痛いのは嫌だし……」

 

「メイプル、痛覚設定OFFにしてあるの忘れてたの?」

 

え、痛覚設定?そんなのあったの?

サリーに言われてメニュー画面から設定を見てみると、確かに【痛覚設定】がOFFを示している。

 

「そういや第0の俺をぶっ叩いた時も痛覚感じてなかっただろ?」

 

……見てたんだ、あれ。

でも衝撃は感じるからあんまりダメージ受けたくないんだよなぁ。

 

「それにヒドラのスキルがある以上、メイプルは相手の防御力を無視しても構わないわ。毒で耐えきって勝つってのが板についてきたし」

 

「でも、相手が大人しく状態異常になってくれるかな?」

 

「だったら答えは一つ。ヒドラが盾のアームズなら、ステップ1は【盾巨人(シールド・ジャイアント)】を目指しなよ」

 

「盾巨人?私背は低いほうだって自覚はしてあるけど……」

 

「違う違う、職業の話。【盾巨人】は盾スキル特化型で、【盾士】の派生型上級職なのよ。強力な盾スキルに高いEND。STRもそれなりだし、ピッタリでしょ?」

 

「なるほど。――あ、スキルって言ったら昨日私達第2形態に進化したんです!」

 

そう言って私達は〈エンブリオ〉のスキルを見せる。

 

 

我、毒をもって試練を制す(グラッジ・ウォー・ヴェノム)

 

自分が毒物、または毒が混入されたアイテムを捕食した時、エンブリオの到達形態に合わせてHP、MP、SP以外のステータスが倍増する。

このスキルの発動中、自分の耐性値を無視して【毒】または【猛毒】になり、2分間解毒不可。

※ONOFF切り替え可能。

※最大5倍。現段階の第2形態の場合は2倍。

※効果時間は2分。

パッシブスキル。

 

 

 

 

 

「毒を自分で飲んで強化なんて、随分変わった特性だこと」

 

「あと、《死毒海域》も50メートルまで広がって最大50%まで耐性を削れるんです」

 

「私は《拘束耐性》と《呪怨耐性》がアップしました。あと、メイプルは《カバー》も覚えたらしいんです」

 

 

 

《カバー》

【盾士】や【守護者】が覚える味方をかばう防御技。

対象が自分以外かつ、自分の周囲1メートル以内にいる味方1人へのパーティメンバーへの攻撃をENDを10%上昇して防御する。

パーティを組んでいない場合、このスキルは使えない。

アクティブスキル。

 

 

 

「《カバー》ね。パーティを組むなら最適なスキルじゃん」

 

守って、【猛毒】にして、耐え抜いて勝つ。私の理想としてはそれが一番だ。

けど……。

 

「問題は〈エンブリオ〉のスキルね。私も〈DIN〉から情報を買ったんだけど、あいつの〈エンブリオ〉の特性は超重力と拘束は間違いないと思う。そこはサリーも同意見でしょ?」

 

フレデリカさんの指摘にサリーもうなずく。あの鎧のスキルを体感したからこそ、それに勝つ対策をしなければならない。

 

「重力のほうはSTRを高めれば抵抗できるけど、〈エンブリオ〉の【拘束】は話がちょっと変わってくるわ。対抗系アクセサリーの2つ3つじゃ、どうにかならないかも」

 

「そうですか……」

 

あの【拘束】はカーレンの【拘束耐性】をあっさり破ってしまった。現状有効な打開策が無いために私達はがっくりと肩を落とす。

 

「なら、今は見える場所からカタを付けたほうが良いかもな」

 

そんな時、ヒドラが声をかける。その言葉には自然と私達を元気づけるものが感じられた。

 

「そうね。ならまずは【盾巨人】になることから始めようか」

 

「おっけー。冒険者ギルドで【盾巨人】への転職条件があるから、まずは4番街に行ってみなよ」

 

「ありがとうございました。あ、じゃあフレデリカさん達のクランにも立ち寄らせて良いですか?」

 

そう言って私達は会計を済ませて3人で【集う聖剣】のクランホームへと向かっていった。

今は立てられるだけの対策を立てる。レベルアップと【拘束】への対策手段は追々考えることにしよう。

 

 

 

 

 

2番街《集う聖剣》本部。

 

 

 

《集う聖剣》の本部は2番コロシアム付近の大きなお屋敷だった。

50人前後の〈マスター〉で構成され、活動内容は自警。つまり衛兵やギデオンの騎士団と連携しての警護に当たっているとか。

フレデリカさんの案内でそこを訪れた私達は、ロビーでペインさん、ドレッドさん、ドラグさんと再び出会った。

 

「よく来てくれた。歓迎するよ」

 

「ありがとうございます」

 

内部の部屋はホテルのような場所であり、私達は客間へと案内された。

 

「おいおい、この2人を勧誘するつもりか?」

 

「馬鹿言わないでよ。私はうちに立ち寄りたいって言ってる2人の後輩を案内しただけ。〈月世の会〉の勧誘じゃあるまいし」

 

「ああ、あの2人は気にしないでくれ。さて。何から話す?うちに入りたいって訳じゃないだろ?」

 

「んじゃあ早速聞いてみるか」

 

 

 

 

 

 

 

「お前ら、なんで近衛騎士団を避けてる?」

 

遠慮のないヒドラの質問に客間の空気が一変する。

一気に張り詰めたものとなり、全員口を重く閉ざしている。

その空気に私は戸惑っていたが、ヒドラの質問も決して無視できるようなものじゃない。

フレデリカさんがこの場所へ案内している時、巡回中の近衛騎士団のティアンを避けているように見えた。「指名手配にでもされたんですか?」と尋ねた所、「そんなんじゃない」と返された。

少なくとも指名手配されたのが理由じゃないらしいけど……。

 

「外に掲示板、あるだろ?」

 

ペインさんの言葉に私達は窓の外へと視線を移す。窓の外からは第2闘技場の付近の広場の噴水、そしてその傍に佇む立派な掲示板。

 

「あれは王国のランキング掲示板だ。デンドロ内で3ヶ月、現実では1か月ごとに更新される」

 

あの掲示板が掲示するランキングは3種類。

モンスターの討伐数を競う『討伐ランキング』。

決闘の戦果がそのままランキングに直結する『決闘ランキング』。

クランの規模によりランキングが決定される『クランランキング』。

その上位30組があの掲示板に表示されるシステムらしい。

因みに〈集う聖剣〉はクランランキング18位。ランキングでは中間地点にあるとはいえ、王国のクラン全体で見れば相当実力派のクランらしい。

 

「うちのクランは、《円卓議決会》というクランの残存のメンバーを集めて作ったものなんだ」

 

「《円卓議決会》?」

 

はて?あの掲示板にはそんなのは無かったはず。

 

「半年前に解散したんだから無理もねぇよ」

 

「解散?何かあったんですか?」

 

「その理由を知るためにも、これから面白くない話をするが、良いか?」

 

ドレッドさんからも重い雰囲気が感じられる。多分、彼らにとっては自分の傷を抉る話なのかもしれない。私と同じように。

それでも、聞く価値はあると思った。

 

「現実で2ヶ月前、こっちで半年前に機械皇国から王国への侵略戦争があった」

 

ドライフというと、王都から更に北にある機械文明が発達した国だったはず。プレイヤーが開始時に選べる所属国家の一つだね。

 

「結果は王国の惨敗。領土の三分の一を奪われ国王、大賢者、騎士団の半数が犠牲となった……」

 

「酷い……」

 

「…あの、ドライフってそんなに強いんですか?そんなに戦力差が傾くとは思えないんですけど」

 

嘆く私に対して、サリーはあくまで冷静だった。

 

「嬢ちゃんの指摘通りだ。国力、兵士のレベル、主要人物の戦闘力は互角だ。だが、上乗せされる〈マスター〉となると話は別だ」

 

「参加者の差って事か?」

 

ヒドラの指摘に4人とも黙り込む。まるで図星と言わんばかりのリアクションが私にもわかった。

そんな空気の中、今度はドラグさんが口を開く。

 

「割と近いな。参加可能だった王国側の〈マスター〉の大半が参戦を見送ったんだ」

 

「見送った?」

 

「王国側は国王の威光があって、褒賞を出さなかったんだ。対して皇国は明確に褒賞を設定した」

 

ドラグさんの口から語られた戦争の経緯で、ドライフが賜った褒賞は傍から見ても破格だった。

王国兵を倒せば一人5000リル。

王国所属の〈マスター〉ならその10倍の50000。

王国側の主要人物を倒せば別途でレアアイテムや国内での優遇といった特典が与えられた。

中には「ドライフで参加したい」、「国が滅んだら何かのイベントが始まるのか?」などと言い出す〈マスター〉もいたらしい。

 

「それが理由で皇国と王国で士気の差が著しくなっていったんだな」

 

正直、その人の心境が考えられない。考えたくもない。

その人はゲームだからと楽しんでいたわけだが、国が滅ぼうが国王が死のうがおかまいなしというのは正直どうかしている。

 

「で、そこからさらに決定打になったのは双方の国の〈三巨頭〉の参加への応否ってわけ」

 

討伐ランキングトップ。名称不明の【破壊王(キング・オブ・デストロイ)】は『不用意に顔を曝したくない』とのこと。この直後ドラグさんが「森林丸ごと吹っ飛ばしてよく言うぜ全く」と呆れていた。

 

決闘ランキングトップ。【超闘士(オーヴァー・グラディエーター)】フィガロという人は『雑な戦いに興味ない』とのこと。

 

クランランキングトップの《月世の会》オーナーの【女教皇(ハイプリエステス)】扶桑月夜は『国との交渉で折り合いが付きませんでしたので』と。何の交渉をしたっていうの?

 

ともあれ結果的に低いモチベーションがさらに失せてしまったようだ。

そうして多くのランカーを欠いたまま戦いは始まってしまった。

参加したのは少数のランキング入りクランと、そこに間借りしたティアンのファンクラブのメンバーや、純朴なプレイヤーばかり。ペインさん達〈円卓決議会〉もその中にいた。

結果は当然の如く、戦場の光景は蹂躙としか呼べない惨憺たる有様だったという。

そしてドライフの〈三巨頭〉が全員参加していたこと。

 

討伐ランキングトップ。名称不明の【獣王(キング・オブ・ビースト)】。

 

決闘ランキングトップ。【魔将軍(ヘル・ジェネラル)】ローガン・ゴッドハルト。

 

クランランキングトップ。《叡智の三角》オーナー、【大教授(ギガ・プロフェッサー)】Mr.フランクリン。

 

3人のうち2人は〈超級〉であり、その力も絶大だった。

そのまま行けば間違いなく亡国になるはずだったが、その〈三巨頭〉が皇都から離れたことを機にカルディナが進行してきたことで攻め落とした領土の駐留軍を残して撤退。

間一髪、王国は首の皮一枚つながった。

 

「………」

 

「………」

 

「………」

 

……なるほど、確かに面白い話じゃない。

この国が滅びかかっていたなんて今の今まで気付かなかった。

 

「ペインがローガンを追い詰めたとはいえ、倒せたとしても状況は変わらなかったかもな」

 

「……え?」

 

ドレッドさん、今なんて?

ローガンって、決闘ランキングの?

ペインさんが、追い詰めた?ドライフの闘技場の王者で、〈超級(スペリオル)〉を?

 

「【将軍(ジェネラル)】系統は基本物量戦を得意としていてね。大規模な配下の《軍団》を使った人海戦術モドキを得意とするの」

 

それからフレデリカさんはどこからか用意した紙とペンで、さらさらと〈超級職(スペリオルジョブ)〉の分類を簡単に説明してくれた。

 

 

(キング)】・【(プリンセス)】系統:得意分野のステータス特化。数種のスキルも得られる。

将軍(ジェネラル)】系統:《軍団》による物量戦特化。4桁以上の配下の軍団をスキルで強化しながら戦う。所謂自前の《軍団》専用の支援職。

(ザ・ワン)】系統:技巧特化。スキル数が最も多く、スキルの手数だけでなく、スキルそのもののカスタマイズや、新たに作ることもできる。中には「開始直後(生誕)からリセット引退(死亡)まで全く武器を装備しないこと」でしか成れない捻くれた職業も存在する。

(グレイト)】・【(オーヴァー)】系統:バランス型。万遍なくステータスが伸び、スキルもある程度覚えられる。癖が無い。

 

※大の名を関する職業は名前が上級職から変わったものであり、超は下級職から使われている職業になる。

 

 

 

なるほど。種を明かせばそのローガンって人は、決闘でも物量戦、ひいては召喚した何かで勝ってきたという訳か。

 

「物見遊山を決めている相手ほど、いきなり戦線の真っただ中に放り込まれれば誰だってパニックになるって事ね」

 

サリーのおっしゃるとおりである。型にはまると中々抜け出せないのはその人によるサガというものだ。

 

「ペインの〈エンブリオ〉は条件を満たせば強いし、相手の数も必殺スキルでどうにかできるからね。んな状況になったら前衛職対戦闘経験ゼロの支援職みたいなものよ」

 

「必殺スキル?」

 

「〈エンブリオ〉が持つ、その特性に関した最大の必殺技よ。最低でも所得までには上級に進化する必要があるけど」

 

そうまでして追い詰めたけど、勝てなかったってことですか?

 

「……《円卓決議会》の、うちの前のオーナーがね、ドライフと通じてたんだよ」

 

「なんですって?」

 

サリーが思わず声を上げた。

それってつまり、オーナーが自分のクランを裏切ったってこと?

 

「あのクランは元々、『アーサー王伝説』が好きな奴らで組んだんだ」

 

ペインさんはそう言って《円卓決議会》について語ってくれた。

 

 

当初は『アーサー王伝説』に興味を抱いた人たちがサークルを組み、クランへと至ったという。そのメンバーは王都の自警団だったらしく、近衛騎士団ともよく顔を合わせていたし、合同訓練も行っていた。

けどオーナーには、『王になる』という夢を抱いていた。次第に夢は野望となっていき、サブオーナーだったペインさんとの衝突も絶えなかった。以降、ペインさんのような近衛騎士団とも友好的だった世界派の〈マスター〉の『ペイン派』と、オーナー同様遊戯派で占められた『オーナー派』に別れていたらしい。フレデリカさん、ドレッドさん、ドラグさんは勿論『ペイン派』のマスターだ。

そして戦争の前日、そのオーナーはドライフのある〈マスター〉を通じて皇族に交渉を持ち掛けた。

 

 

 

 

 

 

――『内側から王国を潰すので、そちらへの転属を所望したい』。

 

 

 

 

 

最初、皇族を始めとした多くの人たちがその要求を突っ撥ねた。多額の褒章を提示したから勝ち戦は目に見えているからだろう。

だが宰相だけはその要求の詳細を尋ねた。すると返答代わりに送られたのは、彼が編成する陣形の詳細と主要人物の配置場所。自分のクランメンバーの詳細なデータを纏め上げた資料だった。

宰相はそれを受け、それに準じた陣形を〈三巨頭〉以外の〈マスター〉に伝えた。

当日、オーナーは自分のクランの配置を事細かに伝え、『ペイン派』の人間がうまいことばらけるよう配置した。

そして戦争がはじまり、蹂躙が始まった時――『オーナー派』が王国に牙を向いた。

結果、兵士を始めとした騎士団の犠牲者の大多数や〈マスター〉を襲い、ドライフのマスターを支援し、『ペイン派』のマスターも次々と彼らの手に掛かって倒された。

奇襲から免れたペインさんは先代騎士団長、リリアーナという人の父親の元へ駆け付けた。【魔将軍】との決戦で窮地に立たされていた騎士団長の元に間一髪駆け付けた。その後は【魔将軍】を追い詰めたものの、オーナーの不意打ちでペインさん倒され、騎士団長も死なせてしまった。ペインさんが倒された後、『オーナー派』のマスターが士気を強めていき、倒され、自決した人もいたらしい。

 

結局、戦争終結まで生き残ったマスターはドレッドさんと、彼が率いていた【奇襲者(レイダー)】をメインとした少数のマスターだけ。

戦争後、ドレッドさんから惨憺たる戦争の結果を知らされたペインさんは当然の如く絶望のどん底へ突き落された。ショックで10日ほどこの世界へ来なかったと言う。それはきっと、私がサリーを、理沙を殺されたのを目の当たりにしてしまったものと似たようなものかもしれない。

その後、オーナーはメンバーの了承も無くクランを解散。《円卓決議会》の8割を占めていた『オーナー派』のマスターと共にドライフへ転属。残る2割の『ペイン派』のマスターは王国を離れた者もいたが、ペインさんや王国を心配して自分なりに王国を助けていこうと残った人もいた。

それから立ち直ったペインさんを中心に、拠点をギデオンに移して新たに《集う聖剣》として活動を再開したという。

 

「これが、うちができた経緯だ」

 

「……」

 

話を聞き終わって、全員の感想は沈黙だった。というより、私達は言葉が出せなかった。

自分の野望の為に、それまで親しかった騎士団を裏切るなんて……。

 

「あンの野郎……!もうオーナーでもなんでもねぇ!!奴に加担して出ていった奴らも、全員ただの売国奴連中だ!!!!!」

 

怒りに耐えかねたドラグさんが壁に拳を叩きつける。思わず壁に放射状に亀裂が走った。

信頼していたオーナーに突然裏切られて、剣友であるティアンの騎士たちの命を奪っていった人を、許せるはずがない。

 

「それに、俺はグランドリア団長に剣技を教わった身でな。リリアーナも姉弟子みたいなものだったんだ。彼女や生き残りの騎士たちからすれば、俺達も戦争に参加しなかったマスターも同類と捉えているだろうな」

 

 

 

 

あれから《集う聖剣》の本部を後にした私達。

だけど足取りは重かった。私達の脳裏にはついさっき聞いた話と、それに伴うペインさんたちの沈んだ表情。

 

「まさか、あんなことになっていたなんてね……」

 

「うん……」

 

「ペインさん達、大丈夫かな?」

 

「うん……」

 

「メイプル、聞いてる?」

 

「うん……」

 

サリーに横からほっぺをひっぱられ……べへへえぇい!?

 

「何すんの!?」

 

「絶対聞いてなかったでしょ?」

 

「あ、うん……」

 

「あの人たちの事は、あの人たちに任せるしかないよ」

 

「そういうことだ。今は【盾巨人】への転職を考えておけ」

 

ヒドラにもそう言われた。

私も両頬をぺちぺち叩き、気合いを入れ直した。

 

「よしっ、冒険者ギルドに行こう!」

 

 

 

 

《集う聖剣》本部。

 

 

「みんな、よく集まってくれた」

 

メイプル達がクランホームから出ていった後、ペインはクランメンバーを招集した。

 

「実は街の熱気に交じって、妙な連中がいた。王国所属だったが、近年の情勢から寝返りする予定らしい」

 

「そいつらは潰していいのか?」

 

「いや。今はまだ機会を伺っているだけにしか見えない。今の状況でPKしたって意味は無い。が、用心するに越したことはない」

 

「つまり今は用心して見張っておけ、って事?」

 

「そういうことだ。今日は夜にサブイベントにロードウェルVSチェルシー、そしてメインの〈超級激突〉もあるが、全員中央大闘技場の周囲を中心に警戒にあたってくれ」

 

「あの、一つよろしいですか?」

 

的確な指示を与えている中、一人のクランメンバーが挙手する。

 

「どうした?」

 

「先程ギデオンの周辺警護にあたっていたんですが、中国風の衣装の赤い奴らを見かけました。全員〈マスター〉です」

 

「赤い〈マスター〉?――おそらく黄河帝国の者だろう。黄河は王国と同盟を組んでいるから問題は無い。有事の時には彼らと連携するかもしれないから、そこはオーナーに伝えておく」

 

「じゃあ俺らは主に周辺警護で良いんだな?」

 

「ああ。多分夕刻までにはこちらを訪れるだろう。じゃあこれで解散だ、各自行動に移ってくれ」

 

そう言ってクランメンバーは警護へと向かっていった。

そして残ったのはペインを含め4人。

 

「しっかし、サブオーナー時代の杵柄ってやつか。もしかしたら【天騎士(ナイト・オブ・セレスティアル)】になれるんじゃないのか?」

 

「空席だったとしても取るつもりは無いさ。むしろリリアーナが【天騎士】になってくれればって個人的に思っているよ」

 

「歴代の騎士団長の仕来りってやつか。んじゃあお偉いさんの件は頼んだぞ」

 

そう言ってドレッド、フレデリカ、ドラグも部屋から去って行った。

残るペインは一人、だれにでもなく呟いた。

 

「まるで、立ち直ったばかりの本部みたいだな……」

 

思い返し、感傷に浸っていたペインも頭を振って自分のやるべきことを果たすべく、部屋を後にしていった。

 

 

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