悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
冒険者ギルド【
「で、これが条件……」
冒険者ギルド到着した私達は、さっそく受け取った分厚いカタログから【
【盾巨人】への転職条件は「【盾士】のレベルが50に到達」、「亜竜級モンスターのHPを30%以上盾の攻撃で削って討伐する」「自分の身長の3分の1以上の盾を装備」の3つ。
3つ目は既にクリアしている。1つ目も今のレベルは30なのでレベ上げしていけばすぐだ。
「亜竜級を討伐しなきゃならないんだ……」
よくよく考えたらロクに飛ばない《シールドスロー》や一々体当たりをしなければならない《シールドアタック》よりも《第1の首は猛毒滴る竜鱗》で倒した数が多い。
このあたりに亜竜級のモンスターはいないか相談してみたら、間の悪いことにギデオン周辺には存在しないんだとか。
「あれがアクティブだったのは幸いだったな。もしパッシブだったら諦めるしかなかったし」
ヒドラも遠い目で自分のスキルを思い出して呟く。確かに防ぐ度に毒液をまき散らしていたんじゃ盾で討伐なんてできやしない。
「ともあれ転職条件はわかったんだし、討伐系のギルドクエストで戦闘に慣れていこう」
転職カタログを受付に返し、討伐系クエストを見る。なるべく今のレベルに合った討伐クエストを探して。
「――うん、これが良いんじゃない?」
そう言ってあるページを指した。
難易度:三【【ブルーレミングス】討伐依頼―決闘都市ギデオン】
【報酬:50000リル】
『ギデオン周辺に生息しているブルーレミングスの討伐を依頼します。今後の食糧保存の為にも100匹討伐してきてください。討伐数が100匹以上の場合、10匹の追加討伐で報酬も追加されます』
「……群れで行動してるが弱いモンスターなんだな。これならメイプルにピッタリじゃないのか?」
「そういうこと。まずは戦うことに慣れていかないとね」
よくよく考えれば私が戦闘をしたのは昨日のレイさんとの【瘴炎手甲ガルドランダ】の実験とベルメン湿地帯のみ。ここを拠点としている割には聊か経験が足りなすぎる。
盾で30%削ってしまえばいいのだから、残りは防御に回って仲間に削らせてもらえばいい。まともに戦闘するならこのモンスターで大丈夫だろう。もう受注したけど、サリーはいかにも満足して異様な顔をしている。
「あれ?ひょっとして気に入らなかった?」
「ああ、違う違う。幾ら弱いと言っても100匹もの群れで襲われたら私達じゃキツイと思ってね」
「パーティを組もうっていうんだね。クロムさんは?」
「〈超級激突〉の立見席チケット手に入れたから無理っぽい」
「カナデは?」
「まだログインしていない」
「イズさん」
「あの人多分生産系ビルドで埋めてると思うから無理」
「ドレッドさんやフレデリカさんは?」
「強すぎて話にならない」
……知り合いほぼ全滅じゃないですかーやだー。
……知り合い?
「「あ」」
私とサリーが同時に声を上げた。
そうだ、まだ3人いた。
「「ちょっと探してくる!そっちも?じゃあ後でここに集合ってことで!ヒドラはここで待ってて!」」
「お前ら息ぴったりだな!?」
同時にお互い提案し、そして去って行く。
†
冒険者ギルド 【毒葬紫龍】ヒドラ
「「ちょっと探してくる!そっちも?じゃあ後でここに集合ってことで!ヒドラはここで待ってて!」」
「お前ら息ぴったりだな!?」
俺の〈マスター〉、メイプルとサリーはほぼ同時に言うと冒険者ギルドを弾き飛ばされたように出ていった。多分、メイプルはアイツを探しに行ったんだろう。
俺といえばメイプルが待ってろと出て行ってしまった為に、同行したかったが待機することに。
つーか、自分の〈エンブリオ〉置き去りにする〈マスター〉がいるか?
ま、メイプルがそうしてくれって言ったんなら大人しく待ってるつもりだけど……なんか不安。あいつの記憶を漁ってみたんだが、あいつ警戒心は2桁未満の子供程度なんだよなぁ。
「あれは……手配書か?」
暇を持て余しているうちに、掲示板に貼られている顔写真付きの紙に目が行った。紋章も記されているから〈マスター〉だろう。
手配書には『被害増大中!討伐求む!』と書かれていて、懸賞金も今受けた【ブルーレミングス】の報酬が塵芥にも思える額が記されている。
「こいつ等は?」
「戦争以前から王国を騒がせている〈マスター〉です」
受付の一人から手配書の〈マスター〉に関して話を聞いてみた。多少の暇つぶしにはなるし、不安もまぎれるだろう。
まず《同胞殺戮》のMiss.ポーラ。
容疑は『千単位のティアンの大量虐殺』。“監獄”にいるキャンディ・カーネイジとかいう奴と比べれば軽いほうだ。虐殺に重いも軽いも関係ないと思うんだが。
ある村のティアンが突然動機も無い相手を殺害したことがきっかけで、伝染病のように次々と『ティアン同士の殺戮』が始まり、結果的にその村が滅んでしまった。
その後、一部始終を目撃した〈マスター〉の聴取であるマスターが起こした事件だったと発覚。その後間をおいてマスターのみで編成された討伐隊が向かったが、見つける前にその村のティアン同様に理由もなく同士討ちを始めた。
結果的に野放しとなり、今も王国の不安の種だという。
そして《魍魎船長》のヴァルデューム。
こちらは『千単位のティアン大量虐殺』に加えて『町村及び森林壊滅』。
コイツは構成員が全員アンデッドのクラン《魍魎船団》のオーナーであり、生きた人間を次々とアンデッドへと変えていき、村3つを滅ぼしたとされる。
こちらも到底無視できない被害を叩き出した為に討伐に向かったものの、当然の如く返り討ち。というか、こちらはティアンの騎士団だったために相手にとっては餌がこちらに来たといっても過言じゃない。しかも通った場所はあらゆる命が奪われたかのような凄惨な跡地だけが残っているという。
「
こんなことするマスターがいたんじゃ、ティアンからの評判も駄々下がりになるに決まってる。実際、報酬を出さなかった為に王国の〈マスター〉は戦争に加わらなかった。それも拍車をかけているんだろう。
こんな連中と会わなきゃいいと思っているが、なんでもこいつらは王国在住。ギデオンにいないとも言い切れない。
「お待たせー!」
その時、マスターとサリーが戻ってきた。当然の如くメイプルはカスミを、サリーは俺やメイプルには初見の双子を連れて。
全く、今度はちゃんと注意してやらんとな。
†
〈サウダーデ森林〉【
メイプルからいきなり「クエストに行こう!」と呼ばれたときには仰天した。
ギルドでサリーという【闘牛士】から事情を聞くと、どうやらメイプルの上級職への条件達成に手を貸してほしいんだそうだ。
因みにメイプルはヒドラからこってり絞られた。雷の如き説教の類じゃなく、無言の重圧で。
そのサリーからユイとマイの姉妹〈マスター〉とも知り合った。
さて、上級職への道のりを駆けあがる肝心のメイプルは……。
「《シールドアタック》!《シールドアタック》!《シールドアタック》!《シールドアタック》!《シールドアタック》!《シールドアターーック》!!」
……ご覧の通り、唯一まともに使えるという《シールドアタック》の乱打で【ブルーレミングス】を潰していた。
本来なら盾を使った殴打だというのに、武器化したヒドラ――武器化したヒドラを見たユイマイ姉妹は大層驚いていた――は小柄なメイプルの肩から下まである大盾なので、ラグビーのタックル、もとい飛び跳ねるカエルのような動きだった。
恐らく大半は『死毒海域』と私を毒に陥れたアクティブスキルのコンボを主用していたらしく、今までの戦闘経験は皆無に近い。ログイン最初期もサリーの戦闘を見ていただけと言っていた。亜竜級モンスター討伐の為の練習のつもりだが、私からすれば相手の実力不足で正直効果的とは思えない。
因みに今の役割分担はサリーが偵察。メイプル、ユイとマイが討伐。私は3人の護衛。この中で唯一上級職の私はパーティを組まずに、極力殺さない程度にダメージを与え、メイプル達に放って彼女たちの経験値稼ぎに助太刀している。
目の前の30匹単位の群れを片付けた直後、サリーが叫ぶ。
「みんな、5時の方角に50匹!」
「えぇーっ!?」
さっきからこんな調子でぶっ続けでネズミの群れを相手にしている。
ロクに休憩してないし、このままじゃ身が持たないぞ?
「ユイ、マイ。あの群れは私達で数を減らすぞ。メイプルはその間に少しでも身体を休めておけ」
「え、でも……」
「ここで死んだら元も子もないだろ」
「メイプルさんは回復に集中してください!」
「私達が数を減らしておきます!」
私の後ろにユイとマイが立ち並ぶ。さながら将棋の美濃囲いと言った所か。将棋は齧った程度だから詳しくないけど。
「とにかく数を減らすよ」
「うん」
マイとユイがそれぞれ岩にしがみつく。その大きさは姉妹の得物と同じく1.5倍はあるだろう。
しかし【壊屋】の極振りSTRで地面から引き抜く。それをウェイトリフティングで胸から頭上へと上げるように岩を持ち上げた。
となると彼女らの次の行動は――。
「「《投擲》!!」」
やはり【
「まさか、壊屋固定砲台理論をする奴がいるとはな……」
†
〈サウダーデ森林〉【盾士】メイプル・アーキマン
森林に突入から30分。最後の1匹を倒すとアナウンスが流れ、ようやく目標の討伐数を稼げた。
それを知った私は地面に大の字で仰向けになる。
「こ、これで100匹討伐……」
長かった……本当に長かった……。
もうそれしか言う台詞が無い……。
「一応付け足しとくが、クエストは報告するまでだからな?」
「ああ、そうだった……」
正直どれだけ倒したのか数えてないけど、こんな事になるとは思ってなかった。3人を誘ってなかったら返り討ちにされたと思うし、正直疲れた。
「ユイちゃんマイちゃんもお疲れ様ー」
「こちらこそパーティに誘ってくれてありがとうございました」
「お陰で【投手】のレベルも12になりました」
おお、この中じゃ最年少なのにもうそこまで行ったんだ。
私も負けていられない。今度は亜竜級モンスターと対決して――。
「みんな、ちょっと岩場か何かに上ってくれる?」
休憩を終えて帰ろうとした時、サリーが声を上げる。
いやになく、トーンの低い声色だったので、尋常じゃないことだと瞬時に感じ取った。
「あの、何が……?」
「良いから上っておこう。ほら、ユイちゃんも」
「は、はぁ……」
ユイちゃんとマイちゃんは何が起きたのかわからないままに、私の身長の1.5倍くらいある岩のてっぺんへ上る。てっぺんの面積も5人乗っても十分なスペースだ。残るサリーはそのまま、とカスミは他の木の枝に上って待機。
そして10秒後、軽い地響きのような振動の後に茂みの影から大量の【ブルーレミングス】が、私達の正面から川のように我先にとこちらへ向かってきた。
「なっ、なにこれ!?」
『明らかに1000匹近くいてもおかしくない大群だぞ!?ギルドの連中観測を誤ったのか!?』
正確には私達を通り過ぎ、森林の中の誰かに住処を追われた幾つかの群れが膨れ上がり、森林から出ていくようだった。
私とユイちゃんマイちゃん姉妹はネズミの大群が去って行った方向を見ていたが、サリーとカスミは正面を見据えたまま動かない。
「この奥、相当強い奴がいるぞ。どうする?」
「どうもこうも、正直今の私達じゃ全滅は必至。けど襲ってくる気配はないみたい」
「となると、逃げの一手か。私が
「お願い。――3人とも、もうクエストは達成したんだし帰ろう。ゆっくり、相手を刺激しないようにね」
サリーがこちらを振り返らずに私達を先に森林から出ていくよう促す。
何か嫌な予感がしながらも、私達はカスミを最後尾にして森林の奥の何かにおびえながら遠ざかり……〈サウダーデ森林〉を脱出した。
†
〈サウダーデ森林〉深部。
ふぅ。今回の狩りも上々だったが……いかんせん獲物の量が悪い。これなら西まで足を運ぶ必要はなかったな。
ネズミや狼なぞ、幾ら狩っても1日の食料で終わってしまう。今なら純竜級なら倒せると思うが……そういう自惚れから成る挑戦心は捨てておこう。
隠れ、見て、学んで、習得し、自分の力にする。強くなるにはこれが一番都合が良い。隠れて相手の弱点を探るのは、強くなる方法と同じくらい重要な強者を斃す方法だ。
戦闘そのものを生き甲斐とする奴らの心情は理解できん。
「……」
向こうに5人――いや、6人分の気配を感じる。
恐らく自分の気配を察したのだろう。だが襲ってくる気配はない。
こちらも無駄に暴れてエネルギーを消費する上に、騒ぎになると狩りに支障をきたす。
相手のほうも実力不足と感じて下がってくれているのだろう。ありがたいことだ。
奴らと鉢合わせないようにも、少し遠回りするか。
†
「♪~」
やはりあのハプニングはこちらにとってもプラスになるものだった。道中追加の獲物を狩って、今日の分はこれで十分だ。
味も――うん、悪くない。が、いかんせんオオカミやネズミだと小さいし数が足りない。
紋章持ちが餌だったら腹の足しにはなったんだがな。消えて食えないものを遺すなんて空気読めなさすぎる。
――もういい、帰りに亜竜級を狩って住処に戻ろう。あそこは今までの中で最高の住処だから。
どこかの誰だか知らないが、馬鹿みたいにデカいクレーターを作ってくれた奴には感謝しないとな。
【
【
魔術師同様枝分かれし、それぞれに特化した物を投げつける。ステータスで見ればSTRとDEX、SPがよく伸び、次にAGI。
一番最初に覚える《投擲》は汎用スキルであり、【投手】系統では基本であると同時に最も重要なスキル。短剣であれ礫であれ鉄球であれ、片手で投げられるものなら何でも投げられる。
上級職は精密性と飛距離を追求した【
飛刃を投げ範囲攻撃に特化した【
短剣を投げ状態異常や近接の武器スキルなどを習得する、手数重視の【
槍を投げ敵を壁越しに貫く【
STR次第で両手で担ぎ上げなければならないような重い物も大きい物をも投げられる【
※某兄妹デンドロ記にも投手はありましたが、こっちは種類の多様性を出しました。
『壊屋固定砲台理論』
【破壊者】と【剛肩投手】のビルド。
単純ながら、低レベルの純竜クラスでも頭に何度も当てられたら【気絶】まで追い込める威力がある。ただしその分アイテムがかさばる上に常に補充しなければならないことと、射程がかなり短い欠点を持ち合わせている。クランやパーティに生産系職業を持たせて事前補充する人もいたらしい。
『地属性魔術師投擲理論』
『壊屋固定砲台理論』の応用ビルド。上級の【黒土魔術師】や【鋼鉄魔術師】の魔法職の味方から球や槍を生成してもらい、【名投手】や【投槍投手】の《投擲》で投げる『地属性魔術師投擲理論』も存在する。こちらは費用=味方のMP回復ポーションというコストパフォーマンスに優れた分、パーティ運用前提である為にソロ専を決め込んでいるマスターには無縁。