悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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(・大・)<やっと投稿です。

(・大・)<今見返してみたら11話分もあった。

(・大・)<原作3章のフランクリンのゲーム開始時から終了までの話数が22話だったので、

(・大・)<実質2/1はあります。


極振り防御と狂宴ゲーム。ぱにっく。

 

中央闘技場 付近街路。

 

 

あれからメイプルとヒドラはアレハンドロ商会に行き、素材の売却した金額でポーションと念のための解毒剤を購入し、中央大闘技場へ。道中サリーとも合流し、そのまま中央大闘技場に向かっていく。

道中もう一回、さっきの《真火真灯爆龍覇》という火柱と同等といっても可笑しくない光の柱が昇った。あれで観客が無事だというんだから、闘技場のシステムに改めて驚かされるメイプル達だった。

 

「クロムさん、きっと楽しんでるんだろうなぁ……」

 

「私が入ったカフェからも見えたよ。〈超級〉ってのも凄いんだね」

 

あれだけの力の領域に入れるのは、職業系列1つにつき1人と受付の人から聞いたことがあるとメイプルは思い出す。

そんなことを思い出しているうちに、中央大闘技場に差し掛かった。

 

「……」

 

「サリー、どうしたの?」

 

「あの人たち、おかしくない?」

 

「え?」

 

「ほら、闘技場の外」

 

急に建物の影に隠れたサリーがある一点を指す。

そこには何人かのマスターが外で往生しているが、入る様子は無い。

まるで外に出てくる相手を待ち構えているような……。

 

「……〈超級激突〉のあぶれ者、って感じじゃなさそうだな。メイプル、一旦引くか?」

 

「……そうしたほうがいいかも」

 

「ここまで来て戻るのは癪だけどね」

 

今闘技場へ向かうということは、あの〈マスター〉の集団を相手にするということ。

そんな自殺行為は〈サウダ山道〉で十分だ。

早々に立ち去って、後で出てきた〈マスター〉に事の事情を説明してもらえばいい。

とりあえずさっきメイプルとヒドラが寄っていた店にでも避難しようかと思ったその時。

 

『何やってんだ?』

 

後ろから反響する声が聞こえてくる。

サリーの背後に突然サイを獣人化したようなデザインの、3メートル大の鎧の大男が現れていた。

 

「……!」

 

その姿にメイプルはある光景がフラッシュバックする。

サリーを殺したあの鎧のPKの姿を。

 

「あ……ああ………!!」

 

『ハハッ、俺が一番乗りだなぁ!』

 

斧を振り上げてサリーに凶刃を振り下ろそうとする。

振り下ろされるその瞬間、ヒドラの跳び蹴りがサイの鎧の顎に叩き込み、サリーがメイプルを抱えて広場に飛び出る。

 

「ん?どうした?」

 

『闘技場から抜け出た奴だ!』

 

「何ッ!?――近くにいる連中は奴らを始末しろ!」

 

革鎧の男は面食らったリアクションを取る者の、すぐに指示を出す。

その指示と共に近くにいた〈マスター〉が襲い掛かる。

 

「メイプル、立てる!?」

 

「えっ、あっ……」

 

脚を動かそうにも震えで言うことを聞かない。

腰から下が力が抜け落ちたように動かせない。

 

「――だったら!」

 

サリーはメイプルを抱えたまま中央大闘技場へと走り出す。

今最も近い安全地帯はそこしかない。持てるAGIをフル活動してPKの群衆から一目散に逃走する。

 

女の狩人が放った矢が、魔術師の放つ魔法が、投擲された短剣が襲い掛かる。

普通なら立ち止まって防御するのが一番だが、サリーのステータスでは防ぐような術は無いし、レベル200以上もの差を持つ相手の攻撃を受けては確実に死ぬ。

 

「なんのぉ!!」

 

それらをサリーは、【闘牛士(マタドール)】の持つ《回避》を発動。

メイプルを抱えて、背後から迫る攻撃を、自分とメイプルが被弾しない場所へと大きく回避する。

 

「だったらこれならどうだぁ!《魔法射程延長》ゥ、《魔法発動加速》ゥ、《魔法多重発動》ゥ!――《ヒート・ジャベリン》!!」

 

モヒカン頭の男が、二重に《詠唱》を重ね、灼熱の槍を放つ。

高速で放たれた灼熱の槍は、狙撃銃の弾丸の如き速度で2人を迫る。

 

「死んでたまるかぁ!」

 

炎の槍に対しては《回避》のスキルではクールタイムが間に合わない。

それでもサリーは1発目を跳んで回避。2発目を再度ステップで左へ避け、3発目を身を屈めて回避した。

 

「んなぁ!?」

 

卓越した回避を目の当たりにして屯していた〈マスター〉達があ然となる。

あの回避はサリーのこれまでのゲームで成したプレイヤースキルによる賜物。スキル頼りの技術では到底成し得ない技だ。

 

「……って、何やってんだ!もうすぐ闘技場に入っちまうぞ!レッド、さっきのをもう一発だ!」

 

「わ、分かった!」

 

再びモヒカン頭の〈マスタ―〉が詠唱を開始する。

その時、彼の足元に斧が突き刺さる。

拍子に魔法を思わず中断した〈マスター〉を筆頭にその方向へ振り向き、絶句する。

彼らの目に映ったのは、戦士風の褐色の〈マスタ―〉をハンマー投げの要領で振り回すヒドラの姿。

 

「――あああぁああぁああぁあぁあぁぁぁぁ!!?」

 

「うぅ……るぅあああッ!!!」

 

特大のフルスイングで放り投げられた先程まで詠唱していた魔術師風の〈マスター〉を直撃。

その隙に乗じて中央大闘技場へと猛ダッシュする。

 

「こんの……ッ!!」

 

先回りした戦士風の〈マスター〉が両手剣を地面スレスレに、斬り上げるように振るう。

剣閃を跳び越え、男の頭を足場に更に加速。一気に闘技場内部にまで転がり込んだ。

 

「どうだ!?」

 

滑り込むと同時に振り返る。

襲ってきたマスターはヒドラが闘技場内に入ったのを見て地団太を踏み、仕方なく持ち場へと戻って行ったのを見て安堵した。

 

「メイプル、大丈夫?」

 

漸く安全な場所が取れて安心したサリーがメイプルを下ろす。

だが、降ろされたメイプルは俯いたまま沈黙していた。

 

「……メイプル?」

 

「……もう、嫌だ」

 

「え?」

 

柱を背にうずくまったまま動かなくなってしまう。

 

「こんな世界、もう嫌だ……」

 

心の底からの恐怖から解放された弱音。それはまるで、絞り出したかのようにか細く、嗚咽を交えているようにも聞こえた。

原因はわかっている。先程の全身鎧のマスターからの襲撃で、燻ぶっていたトラウマが再発してしまったのだ。

下手をすれば取り返しのつかない領域にまで悪化してしまうかもしれない。

それを恐れているのか、サリーは慎重に言葉を選ぼうにも言葉が出なかった。

 

「何があったんですか?」

 

その時、横から聞きなれた声を耳にする。

振り向くと昨日会ったルークとバビ、レイとネメシス。そしてクロムと着ぐるみのシュウだった。

 

「それが……」

 

「トラウマ、ですね」

 

事情を放そうとした途端、ルークがサリーの言葉の先を伝えだす。

 

「え?なんでわかったの?」

 

「メイプルさんの僅かな痙攣、表情、呼吸から推測したんです。おそらく原因はそう――例のPKテロの時にですね?」

 

まるで直接記憶を漁ったかのような推測にサリーも言葉を失った。

嘘や誤魔化しをしても、まるで何事も無いように見透かされる。思わずそう評価し、同時に警戒もしてしまうサリー。

沈黙の後、サリーは彼らだけに届くような声で伝えた。

 

「……なるほどのう」

 

沈黙の後、ネメシスが未だ蹲るメイプルの前に立つ。

一呼吸分の間を置いた後、ネメシスが言葉を投げかけた。

 

「お主、鎧のPKとリベンジをするのであろう?」

 

「……もういい。そんなの」

 

「今動かなければ、この国は戦争の前に立ち向かう気概を折られてしまう。それでもいいのか?」

 

「……そんな大きなこと、私の知ることじゃない」

 

「この場で逃げるというのか?目の前に可能性が転がっている中で、それらに目を背けるというのか?」

 

「……自由なんでしょ?私が辞めようが関係無いでしょ」

 

投げやり気味に返したメイプルの後、沈黙が走る。だが、一つだけ違う点があった。

ネメシスの握る拳の力が、掌に爪が食い込んで血を流さん勢いで力が込められていっている。

そして沈黙が破られる。

痺れを切らしたネメシスがメイプルを引っ(ぱた)いた。

 

「な……何するん――」

 

メイプルの激高するより早く、ネメシスがメイプルの胸ぐらを掴んでぐいと迫る。

 

「いい加減にせぬかこのたわけがぁ!その腑抜けた根性でリベンジを果たす!?目の前の悲劇から逃げうせる臆病者が戯言をぬかすなど100万年早いわ!!私もマスターを、レイを目の前で殺された!己の無力さに腹を立てた!けどレイは2人で強くなってリベンジしようと誓った!その言葉は本当に嬉しかったのだぞ!!!ただただ目の前の可能性を否定する貴様が、雪辱を果たすなどおこがましい!!」

 

息もつかせぬ怒号の後、ネメシスは突き放すようにメイプルから離れた。肩で息をするその様は、自分自身がメイプルに対しての不満不服の爆発の跡を物語っていたようにも取れる。

 

「……ちょっとだけ、考えさせて」

 

ふらつく足でメイプルが入り口から去って行った。ヒドラも、彼女の元へついていくのだった。

 

「……追わなくていいの?」

 

「うん。ヒドラがいてくれるし、メイプルも一人でいたほうが頭も冷えるかもしれないから……」

 

――それに、私にはそんな資格は無い。

人ごみに紛れるメイプルとヒドラを見て、どこか寂しそうにサリーはその背中を見るのだった。

 

 

 

決闘都市ギデオン 中央大闘技場ロビー 【盾士(シールダー)】メイプル・アーキマン

 

 

ネメシスの怒号のあと、私はふらつく足で通路に設置されたベンチに腰を下ろした。

さっきまで私を蝕んでいた恐怖も、ぶり返したトラウマも、今は落ち着いてきている。事実、【恐怖】も【脳波異常】も消えている。

 

――目の前の悲劇から逃げうせる臆病者が戯言をぬかすなど100万年早いわ!!

 

――私もマスターを、レイを目の前で殺された!己の無力さに腹を立てた!

 

――けどレイは2人で強くなってリベンジしようと誓った!その言葉は本当に嬉しかったのだぞ!!!

 

――ただただ目の前の可能性を否定する貴様が、雪辱を果たすなどおこがましい!!

 

さっきのネメシスの怒号が幻聴のように聞こえてくる。同じ幻聴だけど、あの鎧のような恐怖心を掻き立てるようなものではなく、今の自分を非難する声。

思い返せば自分と同じ立場の私に対しての苛立ちだったのかもしれない。

 

ふと、自分の手を見る。私の手はまだ小刻みに震えていて、ついさっき訪れた恐怖がまだ消えていない証拠。

 

「私は……」

 

「メイプル、ちょっと良いか?」

 

どうすればいいのかわからない。そんな時、横から声をかけられた。だが、サリーではない。

振り向くと紫一色のコートを着た人型の〈エンブリオ〉、

 

「ヒドラ……」

 

「隣座るぞ」

 

どかり、とベンチに腰を下ろしたヒドラ。

眼前には何かのパニックに直面していたのか、〈マスター〉達があちこち右往左往している。

 

「ネメシスに言われたこと、気にしてんのか?」

 

「うん……」

 

「まぁそうだろうな」

 

「凄いよね、レイさん……」

 

思わず口に出てしまった。

 

正直、レイさんは凄いと思っている。それは事実だ。

昨日のレイさんの話を聞いた。〈ノズ森林〉で〈超級殺し〉というPKに殺された。

けど、あの人は微塵も諦めていなかった。2人の力不足だったと改めて自覚し、強くなるために前へ進んでいき、ガルドランダとゴゥズメイズという2体の〈UBM〉を討伐した。

 

それに比べて私はどうだろう?

サリーが殺されるのを目の当たりにしておめおめとログアウトし、PTSDを発症して悪夢にうなされて、昨日今日で連続して収まりかけてたPTSDを発症。

情けない。情けなくて惨めで、この世界からさっさと消えて、メイプル・アーキマンではなくてただの本条楓に戻りたいと思ったこともあった。

 

「お前はレイ・スターリングじゃない」

 

自己嫌悪に陥っていた私を、ヒドラの言葉で引き上げられた。

今も彼の目線は正面のマスターたちの往来を見ている。

 

「同時にレイ・スターリングはメイプル・アーキマンじゃない」

 

けど、その言葉は正面じゃなくて、私に向けられたものだと解った。

 

「要は真似ても結局は真似事。そればっかじゃ本物には敵わないってことだ」

 

「じゃあ、どうするの?」

 

「自分なりの強さを見つけていく、それしかねぇだろうよ」

 

自分なりの……。

 

『ちょっと失礼するクマ』

 

再びの横槍。

今度は大きな、2メートルくらいありそうなクマの着ぐるみだ。サリーから聞いたけど名前は確か……。

 

「シュウ、さん?」

 

『アイツは目の前の悲劇を見過ごせないからな。それが強さの地力となっているんだろう』

 

悲劇を見逃せない、か……。

――私はどうなんだろう?

 

『自分の強さを見つけていきたいなら、今自分が望むことを探せばいい。自分の強さってのは、そうしていくうちに自然とついてくるもんだ』

 

「やりたいこと……」

 

『やりたいことが見えないなら、他の奴らとも話をしたほうが良いだろうな』

 

やりたい事。それには私の心の中に思い当たるところがあった。

いや、多分この感情は私が、私がもう一度〈Infinite Dendrogram〉(この世界)に入ろうと決意したときから、既にあったのかもしれない。

 

 

 

 

 

「私は――」

 

逃げたくない。

 

「――強くなりたい」

 

見捨てたくない。

 

「サリーを、友達を殺されたくない」

 

また、誰かが起こした悲劇で――、

 

「だから……誰かが悲しむのを見たくないんです!」

 

『……十分だな。心の底から言えるその思い、大切にしとけよ』

 

思いの内を曝した私の頭に、シュウさんが着ぐるみの手を置いてくれた。

自然と、私の中で枷が取れたような気がした。のしかかっていた恐怖も和らいで今ははっきりと、自分のやるべきことを言えるかもしれない。

 

「……ヒドラ」

 

「解ってる。俺はお前の〈エンブリオ〉だ。お前がやると決めた以上、止めるつもりは無ねぇよ」

 

「……ありがとう、ネメシスにも後で謝らないと」

 

状況は理解できない。けど、これから起こるのは悲劇であることは間違いないだろう。

足取りは重い。けど、鬱屈によるものじゃない。これからの戦いの決意のような、そんな力強く闘技場の床を踏みしめる。

 

 




(・大・)<原作読んでる人は気付いてるけど思うけど……。

(・大・)<クマニーサンは常時着ぐるみですので、

(・大・)<シリアスな絵面でもなんかファンシーに思えてしまうでしょう。

(・大・)<そんなわけで今日は2話分投稿します。

(・大・)<
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