悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と狂宴ゲーム。はんげき。

決闘都市ギデオン 中央大闘技場【盾士(シールダー)】メイプル・アーキマン

 

 

「ごめんなさい!」

 

それはもう見事な直角での謝罪だった。

謝罪の対象であるネメシスも出会い頭に頭を下げた私に一瞬たじろいだが、すぐに気を取り直してくれた。

 

「そ、そうか」

 

「どうやら迷いが晴れたみたいですね」

 

その指摘は一時的かもしれない。だけど、今は逃げたくない。これが私が作った、今私がやりたい事だと決めたんだ。

 

「それで、この騒ぎは何なんだ?」

 

「フランクリンが起こしたゲーム、だそうだ」

 

レイさんが言うには、〈超級激突〉の直後に乱入したフランクリンが第2王女を誘拐。そこで彼は自分を倒して王女を救い出せというゲームという名のテロを宣言した。

1時間もすれば闘技場内にいる【オキシジェンスライム】などのモンスターがギデオン中にばらまかれる。

それを止める方法は2つ。

フランクリンの持つスイッチの破壊か、フランクリン自身をPK()すこと。

そこでフランクリンを探そうと中央大闘技場を出ていこうとしていたが、結界が張られていて出るに出られなかったという。攻撃すればモンスターが解放される罠付きで。

今思えば襲ってきた〈マスター〉もフランクリン側に付いていたんだろうと思う。そうでもない限り今頃モンスターの対応に追われているはずだ。

でも、私達には疑問が残っている。

 

「結界ってあった?」

 

「なんだ、おぬしらは元からいたのではないのか?」

 

「元からも何も、俺らは外から来たんだぞ」

 

顎をしゃくって後ろを指すヒドラ。

後ろでは、まだ私達を襲ったマスター達がこれ見よがしに待ち構えている。

そんな時、あるマスターが私に質問をなげ駆けた。

 

「なあ、君らの合計レベルは?」

 

「え?39ですけど?」

 

「私は41……あぁ」

 

その答えにサリーも納得し、ベテランたちが他にも伝えようとこの場を後にする。

さっきまでのパニックとは一転、活路を見出したように行動が早い。

 

「要するに、レベル50以下なら素通りされちゃうのよ」

 

「そっか!」

 

そこで私も理解できた。

つまり、私やレイさんのように低レベルのマスターならここから出て外の援軍に行くことができる。

理解した時にはもう既に集め終えたのか、20人前後の低レベルのマスターが集まっていた。

 

「外は任せた。俺はモンスターの始末に回る。おそらくペインたちは外にいるはずだ。見つけ次第合流しておけ」

 

「お願いします」

 

現状、クロムさんはここから出られない。闘技場内のマスターと共に、暴れるモンスターの対応に出てくれる。

あとは、私達が外にいる人たちと一緒にこのゲームを終わらせるために奔走する。

 

「はいはーい、ちょっと良いかしら?」

 

後は出撃といった所で、一つの声がマスター達の注目を集めた。

音頭を取ったのは、水色のロングヘアの女の人だった。傍らには白い聖女のような人、いかにもな吟遊詩人風の人。全員〈マスター〉だ。

 

「イズさん?」

 

「私達もちょっと協力させてほしいのよ」

 

「ちょっと離れてくれる?」と集まったマスターを、直径5メートル以上離して空間を作る。

そしてイズさんが左手を掲げて宣言した。

 

 

 

 

 

「ブリギッド、レベル3」

 

瞬間、イズさんの眼前で巨大な鍋が現れる。いや、むしろ西洋の暖炉と竈、そして中世時代の工房を合わせたと言ったほうが近いか。

私が疑問を浮かべているうちに竈に火が灯され、臨戦態勢の如く燃え上がる。

それを見たイズさんは、アイテムボックスから取り出した袋の中身を鍋の中にぶちまけた。

そして眼前に現れたウィンドウを操作する。

 

「《制作》【御守り竜鱗】、製造数100。コスト、【三重衝角亜竜(トライホーン・デミドラゴン)の竜鱗】100枚を確認。製造開始」

 

ウィンドウの操作を終えると、煮えたぎる液体が踊るように泡を吹き、炎も一段と威力を増す。

すると、1分も経たない内に「チーン」というレンジで聞くような音と共に鍋から白煙が立ち上る。それが全て消え、イズさんが鍋がひっくり返すとその中から、楕円形の緑色の竜鱗が砂の如くこぼれ出る。

 

「これは?」

 

「簡単に言うと劣化版【身代わり竜鱗】といった所かしら。相手の攻撃を1回だけ30%軽減させるわ」

 

「凄い、こんなに沢山!」

 

全員が2枚ずつ持ち込めば、【身代わり竜鱗】や【救命のブローチ】よりは低いものの、生存率は高まった。

ルーキーにとってはこれだけでも十分戦力の増強につながる。

 

「それでは、次は私ですね。少々集まってくれますか」

 

次々にイズさんにお礼を言う中、次に出たのは聖女。手にしている杖は、赤い液体の入った3つのペットボトルのような筒がリボルバーの弾倉のように束になっている。

彼女に言われるままに20人単位のマスターが彼女の元へ集まってくる。

 

「まず初めに、私の〈エンブリオ〉【鉄血聖杖ディンドラン】は回復と支援強化に特化したものです。あらかじめ装填しておいた自分の血を糧に、味方へのバフを強めることもできます」

 

……それってつまり、その液体は自分の血って事ですよね?

意味を理解した途端、何人かのマスターが若干引いている。当人も苦笑していたものの、聖女は血で満たされたストックの2本を空にする。

 

「二重発動、《我が命よ、呪病を祓いたまえ(ディンドラン)》」

 

杖の石突を床に打ちつけると、私たちの頭上から赤い光の粒子が降り注ぐ。

何かのバフか何かと思いきや、降り終わってステータスを確認しても何の変化も無い。必殺スキルにしてはやけに地味な気がする。

何が起きたのか尋ねる前に聖女は下がり、次に前に出たのは旅人。彼はまるで演劇の役者のように大げさな身振りで声を上げる。

 

「さあさあご来場の皆様方!これよりお聞きかせ願うは、狂宴ゲームに参加せし勇猛なるルーキー達への応援曲!この【管楽王(キング・オブ・ウィンド)】バルミッドと我が〈エンブリオ〉パイモンと共に鳴り響かせて、混沌の戦場の地を踏む者たちに万人勝りの力を――」

 

「ねえ、ちょっといい?」

 

「あらぁ!?」

 

旅人の演説を遮り、フードの男性が声をかけた。演説の中断に思わず旅人はずっこけ、一同はそのフードのマスターのほうを見る。

 

「マルクス、どうしたのですか?」

 

マルクス、と呼ばれた〈マスター〉は立体映像として映し出されたマップを見せる。

マップには赤い点と青い点、緑の点が映し出されていて、緑と赤は散らばり、青い点の殆どが中央に集まっている。多分この青い点は私達で、赤い点は敵だ。そこにルークが割って入って尋ねてきた。

 

「これはあなたの〈エンブリオ〉ですか?」

 

「いいや。これは特典武具のスキルだよ。広域の敵味方を把握できる能力を持っててね。まあ情報の無い相手にはただの生命探知程度しか使えないけど。それより問題はここだよ」

 

マルクスさんがある一点を指す。中央大闘技場の傍の裏路地の一点、隣り合って動かない2つの青い点。その付近にある4つほどの赤い点は何かを探しているように右往左往し、やがて散り散りに去って行った。

 

「ここの点、敵対者に追われてあの場所に隠れたって思うけど、2人一緒ってのがおかしいんだ」

 

「そうですね。路地裏なら隠れる場所は限定されていますし、下手に戦闘となっても得物の取り扱いにも制限があります」

 

「昼間、路地裏に空の樽がいくつかあったのを見たんだけど、あんなの子供くらいしか隠れられないよ?」

 

子供……?

 

 

 

――中央大闘技場に行ってきますね。

 

 

 

 

「……まさか、サリー!」

 

「今連絡してる!」

 

あの点は間違いなくユイちゃんとマイちゃんに違いない。

青い点は消えていないから生きているとはいえ、巻き込まれたなんて言うのは心臓に悪い。

やがて【テレパシーカフス】からの通信を切ったサリーが、私に知らせてくれた。

 

「あの2つの点、間違いなくあの2人だった」

 

「うわぁ……」

 

本当にうんざりするほど嫌な予感って当たるものなんだね。

目の前には数十人の敵対マスター。奴隷やテイムモンスターも含めればルーキー2人が敵う相手じゃない。

 

「それはここにいる俺らにも言えるんじゃないのか?」

 

……確かに。

ただのルーキーであるのは私達も同じだ。真正面から挑めば敵うはずがない。

 

「あの、僕に作戦があります」

 

そんな時、ふいにルークが挙手した。彼の顔には自信にあふれている。

それに興味を持ったのはマルクスさんだった。

 

「作戦って、どんな?」

 

「それは――」

 

ルークからの作戦は、この状況では非常に強い物だった。

相手からすれば、こんな強力な反撃は予想していないだろう。

 

「その為にも……バビ、これを外の2人に渡してきて。《透明化》を使えば比較的楽に辿り着けるから」

 

「おっけー!」

 

ルークからバビが受け取った物、それは上級〈マスター〉から貰った2本のボトルを渡す。

見慣れないそれを周りの人に尋ねてみると、それはあらゆる状態異常を治癒するというアイテム、【快癒万能霊薬(エリクシル)】というものらしい。

それを受け取り、《透明化》のスキルで姿を消すと闘技場の外へと出ていく。

 

「よし、目の前の彼らはルーク君の作戦を採用。こっちの案も流用させてもらうよ。そのあとは僕が指示するから、各所味方の上級〈マスター〉と合流して鎮静に当たって。それとミザリー、旅人の人。長らく待たせてごめんね」

 

「いえいえお気遣いなく」

 

折角の見せ場を邪魔されたのに、この旅人はまるでどこ吹く風といわんばかりのリアクションで返してくれた。

 

「ではでは改めまして。――《連結演奏》、《演奏圧縮》、《ハイ・ソングス・ストレングス》、《ハイ・ソングス・エンデュランス》、《ハイ・ソングス・アジリティ》」

 

旅人風のマスターが手にしたフルートらしき横笛を手に、演奏を開始する。

この緊急事態には似つかわしくない軽快な演奏に、思わず私達も心を弾ませてしまった。

 

「《オーディナル・ブレッシング》」

 

演奏と共に聖女が再びスキルを使う。

そのスキルに《蘇聖》、《祝福》が得られる。

演奏も佳境に入り、激しい旋律が闘技場全域に響くようなフルートの音色が私達の耳に溶けていく。

そして演奏が終了し、ステータスを見ると、聖女の使った2つのほかに《活力》、《速度強化》、《胆力》エトセトラと、数えるのも面倒なほど大量のバフが与えられた。

 

「これで30分はバフの効果が得られました」

 

「30分!?」

 

聖女、ミザリーさんの言葉にベテランの一人が声を上げた。

大抵のゲームでのバフは3分前後が基本。明らかに長すぎる。けど、質問する前に私は今初めて聖女の必殺スキルが理解した。

凡その予想だが、あのスキルは「ストック1つにつき、次に自分か味方の使うバフの時間を10倍にする」。多分2回使ったから聖女と旅人のバフがこんなになったんだろう。

 

『3つの演奏を1つ分に繋ぎ、範囲を縮めてルーキーのバフを強化しまくったのか。普通の演奏の効果よりバフの威力は下がる分、範囲を広めたんだな』

 

「然様でございます、着ぐるみ殿」

 

これで準備万端。

目の前のマスター達をなぎ倒して、フランクリンの元へと急ぐ。

その為の前哨戦で、躓いている暇はない。

 

「往くぞ、レイ」

 

「応」

 

「トラウマ克服の前哨戦だ。気ィ抜くなよ?」

 

「解ってる」

 

レイさんがネメシスの手を取って、黒い大剣へと姿を変えたネメシスを握りしめ、私も大盾と短刀へと変じたヒドラを握りしめる。サリーも私の隣で、レイピアの持ち手を握りしめた。

 

「行くぞみんな!反撃開始だ!!」

 

総勢26名。この闘技場から出られるルーキーは、〈超級〉の仕組んだゲームの中へ足を踏み入れた。

 

 




(・大・)<感想OKです~。

(・大・)<明日は広場戦とサリー戦を投稿します。
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