悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と狂宴ゲーム。さりー。

 

???【闘牛士(マタドール)】サリー・ホワイトリッジ

 

 

 

自分が夢の中にいたのはすぐに理解できた。

姿は<Infinite Dendrogram>のアバターのままだが、全身にもやがかかっている。明晰夢という奴か。

しかし、周囲の様子や自分の状態は良く分かる。

この夢が過去の、それも楓の心に深い傷を負ったのを知った夜。

ベッドに顔を埋めて泣きじゃくる私が良く見える。

 

『…………』

 

さらに言えば、隣では持ち主のいない靴が隣にいた。

いや違う、この靴の持ち主は私。私の〈エンブリオ〉のカーレンだ。

普通こんな光景を見れば誰の目にも止まるだろうこの景色も私がこれを夢だと判断した材料。

そうでなければ、私が2人いるというこんな馬鹿げたことは起きない。

 

『…………』

 

「……どういうこと?」

 

『さ…い…げ、ん……』

 

再現?

つまりあなたの仕業なのね。

靴が発した声の主は私が会った中にはいない。

いや、それより重要なことがある。

 

「私は、死んだの?」

 

『い、きて…ま、す、……き、ぜ、つ』

 

多分誰かが首を絞められた私を助けてくれたんだ。それでデスペナを免れたらしい。

というか、それっていつでもトドメ刺せる状態じゃない。

 

「どうやったら目が覚めるの?」

 

『みお、わっ、た、ら…おき、ま、す』

 

「何を?」

 

『あな、たの…ぱあ、そな、る』

 

私のパーソナル?

 

『いま、の、あな、たに、は…“じ、ぶん、は、さばか、れるべ、き、そんざ、い”と…あり、ました』

 

「……そういうこと」

 

私のパーソナル。

当初の『回避特化になる』というパーソナルから私の〈エンブリオ〉はこの姿になった。

そしてカーレンから告げられたのは、『自分は裁かれるべき存在』というもの。

 

……後者に関しては、心当たりは大いにある。

あの時、楓の家から逃げ帰った後、私は泣きじゃくった。

私が楓を傷つけて、壊しかけた。その事実を前に、堪える事なんてできなかった。抑えられるはずがなかった。

 

 

 

 

 

――神様。

お願いです。

親友を傷つけてしまった私を罰してください。

私に、楓と同じ苦しみを与えてください。

私に、楓と同じ傷を与えてください。

私の心を、楓の代わりに砕いてください。

 

 

 

 

 

私は欲した、自分自身への裁きを。

宵の月にすがり、願った。

ただ……神様は何もしてくれなかった。

<Infinite Dendrogram>を去ろうとした私に、楓は再び自分を壊しかけた世界に足を踏み入れた。私のやりたいことを奪いたくないという理由で。

そうして理解した。私に下された判決は、――赦し。

苦痛も傷も与、奪われることも、絶交されても、恨まれることも覚悟していた私を、赦してくれたのだ。

メイプルのあの一言は、今も私の心に強く絡みついている。希望ではなく、呪縛として。

 

 

 

――違う。私は赦してもらいたい訳じゃ無い。

私のわがままであなたを壊しかけたというのに!!

どうして私を赦すの!?どうして私に友達だと呼べるの!?どうしてあなたを壊しかけた私を恨まないの!?

私はあなたの親友である資格なんて無い!私が赦される資格なんて無いのに!!

 

 

 

その言葉を出そうとして横やりを入れられ、結局伝えることができなかった。

今思えば、意識を失う前に見えた騎士の顔も、あの時の私と同じ目をしていた。

手駒として踊らされ罪を重ねるよりも、殺されて命を失ったほうが楽になると考えていたのかもしれない。

 

「……赤い靴と一緒ね」

 

『そ、れ、は、?』

 

私は本棚の中、ゲームの攻略冊子の片隅にある絵本を手に取る。既に紙も古く、所々色褪せた跡があったが、それでも私は手放さなかった絵本。

タイトルは『赤い靴』。

幼稚園の時に買って貰ったのはいいけど、その時は内容が怖くて二度と開くことは無かった。

中学に入ってあの絵本と同じものを図書室で見つけて、今度はパソコンを使って調べてみた。

あの童話は、キリスト教からすれば傲慢に値する罪を、少女がその後の慈善活動で赦されたというもの。

 

「本当に……バカみたい……」

 

自然と涙が頬を伝い、ぽたぽたと足元の床に小さな水たまりを作る。

今思えば、私はこの童話の主人公と同じだったのかもしれない。

自分の身勝手な我儘を楓に押し付けてしまった私と、赤い靴に夢中になって養父母の恩を忘れてしまった少女。

PKテロに巻き込まれ、私自身が犠牲になったと同時に楓の心を傷つけてしまった私と、恩を忘れたが為に延々と踊らされ続け、終いに自らの足を切り落とした少女。

小さな欲望と大きな代償。

私は、サリー・ホワイトリッジというアバター(ドレス)を着て<Infinite Dendrogram>(舞台)の上で延々と踊らされ続けている。

今更泣き喚いた所で、自分がしでかした罪を悔いた所で、踊るこの身は止められない。例え、全身をバラバラに切り刻まれたとしても。

本当に私の今は、カーレンという少女とそっくりだった。

 

『もし……あなたが、あやま、ちを……ざんき、してる、の、なら……』

 

赤い靴が言葉を発する。

……今気付いたけど、なんかどんどん言葉が滑らかになってきているわね。

 

『あなたが、すべ、き、つぐないは、いきること』

 

「生きる……?」

 

『あなたが、生きて、しんゆうを、悲しませないために、ひつような時、しゅ段を、えらばない……誰もが、生きのこる、せんたく……』

 

「……生き残って可能性を掴め、か」

 

夢の世界に亀裂が走り、崩落していく。足元の感覚も無くなり、私も落下していった。

不思議と、その時は恐怖は感じられなかった。

欠片と共に落下する中、靴が私のもとにふわりと寄ってきた。

 

『私は道具。貴女の償いが終わるまで、そしてあなたが赦された後の世界で、共に踊る靴』

 

「カーレン……」

 

『私は、あなたの罪を、理解できました。貴女も、私を、仲間を理解してください』

 

落下する中で聞く言葉は、私の心を縛る枷をしずかに、確かに溶かしてくれるように優しい声だった。

 

『だから、あなたも、無数の絶望の中にある、希望を掴み取ってください。私と、貴女の全部で、これまであって来た仲間と共に』

 

その言葉を最後に、私は次第に現実へと帰還していく。

 

「……ありがとう」

 

 

 

 

 

【第三形態への進化を完了しました】

【スキル《この身朽ちるまで踊りましょう(タンゴ・ウィズ・ディペンデント)》を獲得しました】

 

そんな折、現れたウインドウを横目で見て、私は現実へと帰還した。

 

 

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