悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

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極振り防御と狂宴ゲーム。かーれん。

『クソッ。あの女、もうそこらの〈UBM〉より厄介だぞ……』

 

ライザーが忌々しく呟く。

状況は極めて最悪。民間人を人質に取られ、5人のうち3人は呪いを受けてポーラを攻撃できない。

加えてこちらは守る状況に立たされ、ただでさえ制限された行動が5人を更に縛る。

 

「貴様、なぜこんなことをする?」

 

「何故?何故ですって?決まってるじゃない」

 

カスミが目の前の理不尽な状況を繰り出した元凶に尋ねた。

その元凶、ポーラは下らないことを言うなと言わんばかりに答える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「このゲームが楽しいからよ」

 

『……なんだって?』

 

返って来たのは至極意外な、そして単純な答えだった。

 

「だってそうじゃない?このゲームでは誰もが主役。そう、この私が主役となり、世界を動かすの。私がこの世界の一番に君臨するの!当然彼らは私の手駒。こんなに代えの効く道具はどこにあるのかしら?ねぇ?」

 

高らかにティアンを指して断言するポーラ。

だが、5人にとっては神経を逆なでるのと同じだ。

狂っている。彼女の価値観は、傍から見ればそう表現しかできないもの。

彼女は自分がこの世界の頂点であるかのようにふるまい、手駒として使う者を、その事情を無視して利用してしまおうという意思が彼女にはあった。

彼女の価値観は、自分が頂点として称えられること。自分以外はすべて劣った存在だということを信じて疑わない。自分以外の価値観は捨てて当然と言ってティアンを操り、無法地帯の如き同士討ちを引き起こす。

遊戯派なら彼女の行動は狂っているとしか言い表せない。仮にこの場に遊戯派のマスターがいたとしても、彼女の価値観は相手によっては彼らと同じようなことを思い浮かべただろう。

それほどに、彼女の価値観は他者からすれば破綻していると言っても過言ではない。

 

「……ねえ、一応作戦があるんだけど」

 

「なんだ?この際どんなものでも構わない。奴に一撃加えられるなら何でもいい」

 

カスミに促され、カナデは自分の【テレパシーカフス】を装備して念話で伝える。

 

【――ってわけ】

 

【ああ、理解した。しかし……】

 

【どうしたの?】

 

【一つ聞くが、お前は遊戯派なのか?その割には相当怒っていたようだが?】

 

【……ああ、遊戯派さ。だけどね、彼女は明らかに遊戯派としての節度を逸している。それに、彼女のルールが気に入らないだけだ】

 

カナデの価値観からすれば、〈凶城(マッドキャッスル)〉も〈K&R(カアル)〉も、〈超級殺し〉も節度を守ったロールプレイをしていた。〈ゴブリンストリート〉のような輩はカナデ視点からはグレーゾーンではあるが、やられて“監獄”に送られる覚悟があるならそれもよしとする。

自分たちのルールを守り、そのルールを破ることなくプレイし続けた。

だが、彼女は明らかにそのルールを逸脱した存在だった。

最早、悪以外の形容では彼女を指す事はできない。

 

(何かを考えてるつもりだけど、無駄なあがきね。連中はティアンを攻撃できない。《バビロニア戦闘団》は特にね。こいつらを殺した後、私は東から抜け出して彼にこの手駒どもを渡して……)

 

ポーラがそんな打診をする中、一人の少女が立ち上がった。

 

「……」

 

「サリー?」

 

その少女、サリーが音もなく立ち上がる。

だが、様子がおかしい。カスミの声に反応している訳でもなし、まるで自我を失ったまま身体だけ立ち上がったようだ。

 

「あら、もう起きたの?なら丁度良いわ。お願いの変更よ……《サリー・ホワイトリッジ。あなたは子供をその武器で刺し貫くのよ》」

 

『貴様ッ、この期に及んで……!』

 

「貴方達はティアンの2人の動きを止めなさい。多重命令、《マスクド・ライザー、カナデ・ベアトリス、カスミ・ミカヅチ、あなたたちはサリー・ホワイトリッジへの命令に対して妨害できない》」

 

起きて早々に残酷な命令を出してきた。

当然止めようと動き出したが、サリーを止めようとした途端また体が硬直してしまった。

 

「……」

 

「あ、ああ……」

 

「よせっ、やめろサリー!」

 

コツコツと歩くサリーの前に、少年が立ちはだかる。当然自分の意志ではなく、ポーラに操られて無理矢理動かされている。

すらりと引き抜いたレイピアが、数秒もすれば正面で泣きじゃくる少年の血で染まるだろう。

そしてサリーは……、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――少年の横を素通りした。

 

「は?」

 

「え?」

 

「あ?」

 

『なんで?』

 

「あれ?」

 

「どした?」

 

「……うそ?」

 

それを見た6人――少年とMiss.ポーラを含めた――が現状に合わない間の抜けた声を出した。

それでもコツコツと歩みを止めないサリーに、我に返ったポーラが命令を下す。

 

「……ッ!命令変更!《サリー・ホワイトリッジ、あなたは操られた者を攻撃できない》!」

 

命令の直後、不意に風が吹いた。

数秒後に何かが落ちる音が6番街の大通りに響く。

 

「……え?」

 

それは彼女にとって非常に見慣れたものだった。

昨日貴族街で見つけたお気に入りの宝石をちりばめた指輪をつけた左手。

それは……自分の左手だった。

 

「い………ッ!ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!??」

 

「アナタの演目は、つまらない」

 

初めて上げるポーラの悲鳴に、サリーはやっと声を上げる。

だが、その声色はサリーであって、口調はサリーではない。

 

「アナタは、ジブンだけを主役とした舞台で、独りよがりの踊りを続けている――」

 

血に染まったレイピアを振り払う。曲線を描くように撒かれた血が、石畳を汚す。

 

「独りよがりでジブンだけを照らして高笑うのなら――」

 

続けて左耳目掛けた突きを放つ。かろうじて避け掠っただけだが、そこから【凍結】し、壊死した耳が崩れ落ちる。

 

「アナタを舞台から降ろしてしまいましょう。血だまりの舞台でワタシが踊りましょう」

 

サリーが顔を上げる。

顔も、声も、視線も、その何もかもがサリー・ホワイトリッジだった。

しかし、動きで、口調で全員が察してしまった。

目の前のサリーは、白峯理沙が操作していないという事実に。

 

「嘘みたい……」

 

今のサリーを《看破》したカナデが、間の抜けた声を上げた。

今の彼女の簡易ステータスには異変は無い。

――【肉体操作権限喪失】という項目以外は。

 

「クッ、《デッドマンズ・バインド》!」

 

すぐさまポーラが右手の指輪型のマジックアイテムに搭載された禁呪を発動。それは【拘束】、【呪縛】、【脱力】の三重状態異常。

かつての【大死霊(リッチ)】がレイに与えた状態異常は、下級職のサリーには脱出不可の拘束が施される。

 

「斜ァ!」

 

「うごぉ!?」

 

だが、その状態異常を物ともしていないかのように鋭い刺突がポーラを襲う。

胴の直撃は【身代わり竜鱗】で防がれるが、それでも下級と上級のステータス差を感じさせない連撃で、残る【身代わり竜鱗】も一瞬で4枚を粉々にする。

 

「くっ、お前達!私を守るのよ!メアリー・スー、サリー・ホワイトリッジにとり憑きなさい!」

 

すぐに4人を取り押さえていた手駒を呼び戻し、サリーを包囲する。そして同時に自身の〈エンブリオ〉をサリーを標的に定めようとした。

だが、紙人形は周囲を探すように左右を見渡すばかり。まるで紙人形にはサリーの存在が、視界から消え失せているように。

 

「何をしてるのメアリー・スー!!目の前の女にとり憑くのよ!!」

 

「……もしかして」

 

「何かわかったのか?」

 

「うん。その為にも始めるよ。カスミはティアンの武器を叩き落として。ライザーさんはこれを」

 

目の前の現状をいち早く理解できたカナデが、操られていない衛兵から剣を抜き取る。単に装備する為じゃない、逆転への布石を用意する。

ライザーもカスミも半ば理解できないままだったが、それでも行動を開始する。

 

【サリー、おいサリー!聞こえているか?】

 

【――カスミ?】

 

【あ、通じるんだ……って、お前大丈夫か?】

 

作戦を決行する中、カフス越しに聞こえてきたサリーの声。

思わず動きを止めたが、それでも住民が振り下ろそうとした包丁を峰打ちで叩き落す。

 

【……平気。今私の集中力を回復するためにカーレンが頑張ってる】

 

【……聞き捨てならない台詞が飛び出てきたんだが、それは後だ。私が武器を落とす。お前は武器の無い奴らの相手をしてくれ。あと、血眼でお前を殺そうとしてる奴の相手も】

 

手駒から次々と武器を払い落し、蹴りを入れて遠くへ滑らせるカスミ。手駒の包囲の中で、攻撃を次々と回避するサリー。

着々と準備が進む中、ポーラの怒りは最高潮に達していた。

 

「このガキがぁ……!調子に乗るなぁ!!!《世界は私のためにあるの(メアリー・スー)》!!!!!」

 

激昂と共に本を取り出し、必殺スキルを発動。

同時にカスミから、ライザーから、カナデから、サリーから、手駒としていたティアンから紙が剥がれ落ち、ポーラの頭上に集まってくる。

それだけではない。出現した本型の〈エンブリオ〉からも、街道にカムフラージュされていた全てのページが、同じように一点に集まる。そしてそれらが意思を持ったかのようにぐるりと、サリーの周囲を包囲した。

 

「あれは……」

 

「……2人とも、今なら身体が動く。今のうちに避難させるぞ!」

 

カスミが肩を回すが、別に問題は無い。

好機と言わんばかりにティアンの衛兵と共に、操られていた市民や騎士たちを避難させる。

 

「よくもこの私にこんな傷を……この私への大罪を……!!《さあ、私の気持ちを空の果てに》、《ブラッドリィ・リバー》!!」

 

サリーを包囲する紙が、次々に折り紙の要領で簡易な紙飛行機へと姿を変え、赤黒く染まっていく。

程なくしてが赤黒く染まった包囲の中、紙飛行機はついにその薄い矛先をサリーへと向けた。

 

「掠った瞬間そこから【出血】の呪いを施したわ!私を侮辱したお前は簡単には殺さない!真っ赤に染まっていく自分の身体に絶望しながら死になさい!!」

 

「何が何でもワタシを殺すつもりですか。先程の余裕はどこへやら、ですか?」

 

傍から見れば絶体絶命の中、サリー――もとい取り憑いたカーレン――はポーラを煽る台詞を述べる。

 

「赤の他人にジブンの世界が崩され、今もなおジブンの世界に縋りつく。ああ、なんて悲しい事でショウ。自分の描く物語が駄作だと気づかないなんて」

 

「黙りなさい!格下の分際で、この私に指図するな!」

 

「あらあら、なんてこと。もっと悲しいことを知ってしまいました」

 

 

 

 

 

 

 

「ジブンが最低最悪の駄作だと気付かないまま部隊を進めていたなんて」

 

その時に見せた表情が、まるで憐れみを通り越して滑稽だと言わんばかりの微笑が、ついにポーラの限界を突破した。

 

「こッ……!殺せメアリー・スウウウゥゥゥゥゥゥ!!!!この女を血祭りにしてしまええええええええええ!!!」

 

怒号の刹那、赤黒い紙飛行機が即死の刃と化して迫る。

 

「マスター、そちらの準備は如何ですか?――そうですか。なら……」

 

無数の紙飛行機が迫る刹那、サリーが誰にでもなく呟き、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……任されよ!」

 

サリーへと戻った瞬間、紙飛行機を回避した。

 

 

 

 

「なんというか……凄まじいな」

 

メアリー・スーから解放された市民たちの避難を終えたカスミが、現状を見て率直な感想がこぼれる。

衛兵も最初助けに入ろうとしたが、目の前の光景に手を出す気すら失せて、いや、自分達の手が出せない領域に達したそれを本能的に理解してしまったのだ。

サリーを今も襲う、無数に近い即死の紙飛行機の編隊からの総攻撃に自分が突っ込んでも、犬死にだと。

 

「おい、あれじゃあまるで……」

 

「ああ……」

 

「……踊っている」

 

最早助太刀する気も失せてしまった衛兵が、目の前の事象に感服するかのごとく感想を述べた。

 

「なんで……?」

 

死角から襲う編隊を、タンゴのターンの要領で回避。

 

「なんで……なんで……!?」

 

左と足元から襲い来る編隊を、フィギュアスケートアクセルの如く身体を捻っての跳躍で回避する。

 

「なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで!?」

 

上から濁流の如き紙飛行機をバックステップで避け、包囲網の付近に迫った所を、前へ踏み込むステップで避ける。

 

「なんで……なんで当たらないのよぉ……!?」

 

掠った瞬間絶命不可避の紙の刃を、まるで踊るように回避し続ける。

目の前の理不尽な現実を、ポーラは否定したかった。

『自分以外はすべて、自分の存在を目立たせるだけの存在』というパーソナルから産まれ、他者を操り続けたメアリー・スー。

モンスターを、ティアンを操り同士討ちを引き起こして経験値を上げてきた。

ある裏ワザを発見してから、マスターも今までの方法とのコンボで始末してきた。

だからこそ、第6形態に進化して必殺スキルを得たメアリー・スーの能力で、確実に仕留めてきた。

それなのに、今目の前にいるルーキーに、自分の全力がまるで児戯の如くあしらわれている。

確実に殺すための必殺技たる無数の紙の刃を、悉く回避され続けている。

 

【サリー、準備ができたぞ】

 

【了解。相手も気付いていないみたいだから、このまま注意を惹き続けるよ】

 

カスミからの伝言に応じ、サリーも回避を続ける。

チャンスは一度きり。これを逃せば彼女は逃げだしてしまい、またどこかで今夜のような惨劇を繰り返すだろう。

そんな惨劇をさせないためにも、彼女は何としても、ここで倒さなければならない。

 

「ポーラァァァァァァ!!!」

 

「ッ!」

 

雄叫びと共に、あるものをポーラに向けた。

コイルのように螺旋を形作る鉄に巻き付けられた鉄のパイプ。それがまるで銃のように、こちらにパイプの口を向けていた。

コイルのほうには電気が帯びており、まるでレールガンのように、電気の道の如く遮蔽物の無い空間をつないでいる。

 

カナデが昨日の昼間、フォンベル宝石店でメイプルに見せた鉄の棒。

その正体は、磁力線の密接して作り上げた電磁銃、コイルガン。

今時実験として造るだけなら、カナデでなくとも簡単だった。

造るだけなら科学で十分。そしてそこに動力である電撃系魔法を使えば、それこそ鉄パイプ程度の簡単な素材を足し算形式で組み合わせれば、現実で得た技術や知識で実用化されたコイルガンが出来上がる。

金属の加工、形状変化に特化した【鋼鉄術師(メタルマンサー)】や【彫金師】なら、銃弾の弾頭を作るのも容易いだろう。現にカナデもそれを作った経験があるので<Infinite Dendrogram>でも作ろうと思い至った。

 

高密度の磁気の渦の中で押し出された鉄の礫は、それこそ音速の領域に入らんばかりの速度に達し、ポーラの横をかすめた。

心臓が飛び出す勢いの衝撃が襲ったが、狙いが逸れたお陰でデスペナルティを免れた。

 

「な、なによ……とんだハッタリじゃない!私の隙を見て殺すつもりだったでしょうけど、詰めが甘かったわね!」

 

「ちっ……!《起動(アクション)》!」

 

「《デッドマンズ・バインド》!!」

 

再び横に逸れてコイルガンを撃とうとし、ポーラの呪縛で封じ込められた。

 

「アナタはそこで見ていなさい!この女を殺したら次はあなたたちよ!そしてこの街中の奴ら全員を操って同士討ちをさせてやる!王も奴隷も、ティアンもマスターも関係ない!仲間と争うバトルロワイヤルを開催してやるのよ!!」

 

高笑いするポーラは、既に勝ちを確信していた。

もし、ポーラの精神面がもう少し気丈だったら、この時より前にこの異変に気付いていただろう。

この時点でポーラは我に返って2つの異変に気付いた。

1つはこの場に2人、マスクド・ライザーとカスミがいないことに。

もうひとつは剣が等間隔で、まるでレールのように敷かれていたことに。

 

「《影縫い》」

 

刹那、死角からカスミが投げた短刀がポーラの足元の影に突き刺さる。

同時に突然金縛りに遭ったかのように固まる。

忍者系統、隠密系統のスキル《影縫い》。相手の影を刺すことで実体をも《拘束》に陥らせる。拘束系スキルにしては能力は低いが、一瞬でも確実な拘束を施す。

その一瞬さえあれば良い。

音速で突っ込んでくるマスクド・ライザーのルートに固定できれば。

剣の道に差し掛かった瞬間、ライザーの〈エンブリオ〉、ヘルモーズは一気に音速を抜け、超音速の領域に差し掛かった。

 

「な……っ!?まさか、この布石の為に!?」

 

彼女の目には、某特撮ヒーローのライザーが、死人の首を片手に霊馬を駆ける死神に見えただろう。

だが彼女も終わらない。

念のために必殺スキルに集めた紙の内、1枚だけライザーに貼ったままにしておいたのだ。

 

「わっ、《私のお願いは何でも叶えてくれるの》!、“マスクド・ライザー。あなたは私に近付いたらブレーキをかける”!」

 

命令を放つ。

これで止まった後、上書きして命令を放って小娘を殺す。

ポーラの算段は既についていた。自分は負けるはずないと確信した。

それこそ、自分の欠点に微塵も気が付かずに。

 

『《悪を蹴散らす嵐の男(ヘルモーズ)》!』

 

「なっ!?」

 

 

 

――憶測だけど、多分あいつの命令スキルは“自分の認識”に依存していると思うんだ。

 

 

――つまり、自分が認識していたものが消えると、その命令も無効化されると思う。

 

 

――さっきはそれに従っての結果かどうかわからないけど、やるだけの価値はあると思う。

 

 

――あなたの必殺スキルって、一体化するんだよね?バイクと。

 

 

 

予めカナデから命令のトリックを聞いたライザーは、命令を聞いた直後に必殺スキルを発動。命令の対象としていたヘルモーズと一体化して命令を無効化し、勢いを維持することに成功した。そして刺した剣に電気を通し、並べられた武器1つ1つをN極とS極に設定し、ライザーはスタージャンの効果範囲内でヘルモーズを《ストーム・ダッシュ》で可能な限り飛ばし、今必殺スキルを用いてキックを放たんとするポーズをとっていた。

要領はリニアモーターカーだ。磁力によって遠くへ行く乗り物。

剣はレール、ライザーとヘルモーズはリニアモーターカー。撥ねる相手は【同胞殺戮】と言わしめたMiss.ポーラ。

全ては策略。確実に目の前の悪を“監獄”へと送るリニアモーターカーを作るための。力を合わせて作った産物。

 

ポーラが逃げようともがく中、

 

『《ライザーキック――』

 

ライザーの足がポーラの顔を捉え、

 

『――超加速式――』

 

《影縫い》のスキルが限界を迎え、スキルに使った短刀が影から弾かれるように宙を舞い、

 

『――超電磁砲(レールガン)バージョォォォォォォォォォォォォォン!!!』

 

ポーラもろともに射出されたライザーが彼方へと飛ばされていった。

同じ上級職、第6形態のマスターであるにも拘らず、【疾風騎兵(ゲイル・ライダー)】と【高位呪術師(ハイ・ソーサラー)】ならどちらが勝つか?

――結果は言うまでもない。

 

『KYAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!!!』

 

ポーラとライザーが夜の決闘都市の果てへと消えた直後、紙の怪物が断末魔と共に消滅した。

それは、ポーラの確実な死を意味し、戦いの終わりを告げるものだった。

 

「……勝ったか」

 

「……みたいだね」

 

強敵を下し、倒れる様に寝そべるカナデ。カスミも刀を納め、店の壁に寄り掛かる。サリーもまた、壁に背を預け座り込んでいた。

 

「さて、私はメイプルの所にいかないと、っと……」

 

それでも立ち上がったサリーの足元はおぼつかなかった。

倒れる所をカスミが受け止める。

 

「無理をするな。先の戦闘のダメージが深刻じゃないのか?」

 

「大丈夫。首絞められた以外でダメージ受けてないし」

 

「あれ全部避けてたって事?凄いというかなんというか……」

 

「というか、ライザーさんは?」

 

「あー、あのままどっか行っちゃったみたい。止める方法考えてなかったし。後で蹴り食らわされるかも」

 

「ともあれ、あの下衆を倒せたことに変わりない。まずは身体を休めて、次の戦いに備えておけ」

 

〈エンブリオ〉の特性で疲労を軽減しているとはいえ、相当な激戦だった。

削られたHPやSP、MPをポーションを嚥下して回復していった。

 

 

【フランクリンのゲーム第2試合:6番街の戦い】

 

敵陣:盤上の“クイーン”ことMiss.ポーラ、及び彼女の手駒。

 

自陣:サリー、カナデ、カスミ、マスクド・ライザー。

 

勝者:サリー・ホワイトリッジ、カナデ・ベアトリス、カスミ・ミカヅチ、マスクド・ライザー。

 

備考:援軍のティアン2名の衛兵と共に、手駒兼民間人のティアンの生き残りを救出に成功。

 

 

 

 

〈シャンド平原〉【大教授(ギガ・プロフェッサー)】Mr.フランクリン

 

 

機動性、良し。

耐久性、良し。

攻撃性、良し。

 

近衛騎士団を相手にした【RSK(レイ・スターリング・キラー)】のテストも順調。

彼を潰す算段は着実に揃いつつある。そして目の前にはたった今駆け付けた私の宿敵が。

 

「クハッ」

 

思わず変な笑い声をあげてしまった。

彼のお得意の戦法が通じなかった時の顔が思い浮かぶ。いやはや楽しみだ。

その傍ら、エリザベート殿下に渡した端末の予備機を見て、ある一点に気付く。

 

(ありゃ。“クィーン”がやられちゃいましたか)

 

予備機のレーダーの示す地図の中で、“Q”のマークが消えていました。

彼女がいた地点には青い光点――王国のマスターの現在地――が3つと、そこから来たに離れた所に赤い点の群れを消した青い点1つ。

 

(彼女には〈炎怒〉や〈炎帝〉には近づくなと念押ししましたが、何分女王気質が凄まじいですからねぇ)

 

計画の説明の為に集まった時、彼女は「あなたのお粗末な計画が無くたって、この私1人でも十分落とせるわよ!」と息巻いてました。ありゃ将軍閣下と良い勝負ですね。

ついでに私の計画をお粗末と言った彼女が“監獄”に送られてちょっとスカッとしました。直接手を下す手間も省けて一石二鳥です。

 

(あの様子だと、自分の欠点に気付いてないんじゃないんでしょうかねぇ……)

 

彼女の〈エンブリオ〉は人を操る能力に関しては【傀儡】のそれを上回る。

が、強者を操る為には同じ命令を何枚も用意しなければならない。それに加えてジョブの構成も察しが付く。

高速で諸本をコピーする【高位書記(ハイ・セレクタリー)】。

紙にデバフが籠められるのを知ったということで呪いの成功率を高める為の【高位呪術師(ハイ・ソーサラー)】。

そしてカムフラージュの為の【絵師(ペインター)】。

 

ほら、上級2つに下級3つ。所得できる職業が残り下級3つになっちゃってる。

それにあの〈エンブリオ〉自身のステータスは私の勘では皆無。範囲外からの狙撃や不意討ちもそうですが、さっき“クラブ”がデスペナしてやったビジュマルのような炎を操るタイプは天敵。

つまる所総合的に彼女は、『他者を操る事にリソースに特化した為に、事前に情報を知られていると対策を立てられやすい』ということ。

私も彼女と対峙した場合、オキシジェンスライム――愛称デストロイヤー君――をぶつけりゃ彼女はほぼ詰みます。

 

(むしろ鬼門は“ジャック”と“キング”といった所でしょうか)

 

“ジャック”と“キング”は私の用意した戦力の中では“クラブ”同様トップクラス。

といっても“ジャック”の場合作戦内容はほぼそちら任せですからね。

“キング”は……思案するだけ無駄といったところでしょう。

 

「まあそれはともかく……」

 

この思考は一旦保留ということで。

まずは彼を叩き潰す算段が組み上がった【RSK】をぶつけて、彼を散々に甚振ってやりましょう……!

 

 

 

 

 

 

 

「――俺は、アンタを、ブン殴る。首を洗えよ、〈超級(スペリオル)〉」

 

「やってみろ……ルーキー!」

 

宣戦布告を宣言した彼は、私の作り上げた【RSK】へと駆け出した。

 




(・大・)<ちなみにメアリー・スーの弱点はフランクリンが言ったもの以外にも幾つかあり、ざっくりまとめるとこんな感じ。


1:〈エンブリオ〉の補正ステータスがアポストル並み、つまり皆無。
2:〈エンブリオ〉の操作にはより紙を使う上に、判定はレベルや本人のキャパシティにも通じる。
3:操る相手は“貼り付ける”必要があるので、実体のある“生物”限定。生物でない無生物やアンデッド系、実体の無いゴースト系やスピリット系は対象外。
4:『この〈エンブリオ〉のマスターの命令を絶対に遂行する』という具体的な指示が無い命令は無効。
5:そもそも本体は“普通の紙”なのでメッチャ脆い。
6:防具越しにも通過先の肉体に触れれば命令は伝えられるが、【鎧巨人(アーマー・ジャイアント)】の場合だと指先等に貼っても操れない。



《この身朽ちるまで踊りましょう》:第3形態に進化したカーレンが会得したスキル。カーレンの意志をサリーに憑依させる。【操作権限喪失】により相手の呪術の対象から自分を除外する。サリーの意識を集中力の回復に回したり、相手の攻撃の癖やモンスターの弱点を見抜くのに回ったりなど、応用性は意外と高い。憑依している間はMPを消費し、0になると強制的に解除される。途中で切り替え可能で、マスターに切り替わればMP消費も止まる。クールタイムは3時間。

《納刀術》:アクティブスキル。《居合い》等の一部スキルを除く刀系スキルと通常攻撃を鞘に納めたまま放つ。ダメージは0になる代わりにすべての攻撃にノックバックが付与される。当たり所によっては【気絶】も起きる。
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