悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
また来てトラウマ。
アルター王国王都アルテア中央広場 メイプル・アーキマン
いきなりのスカイダイビングにまだ心臓がバクバクしてる……。初ログインした人は毎回こんなのを経験してるんだね……。
だけど、ふらつく足で南門をくぐった先の光景で、さっきのスカイダイビングの恐怖が嘘のように消え去った。
往来する人々、肌を撫でる風、耳から入る活気の音や声、日の光に照らされる光と影。全てがゲームとは思えない臨場感だった。
「そういえば理沙がここで待ち合わせとか言っていたけど……」
よく考えたら私の姿がどうか向こうは知らないし、私も理沙がどんな姿なのか知らない。
一応まっすぐ進んで見つけた噴水広場には到着したので、とりあえずそこで待っていることにした。
「えーっと……楓、だよね?」
右に左に、誰が理沙なのか目で追っていること10分。
一人の少女が声をかけてきた。その声はリアルで何度も聞いたことのある声。
黒に近い茶髪と瞳。私より背の高い155センチくらいの女の子。服は私と同じレザー調の服とショートソード。
「ええ。私は楓ですけど……ひょっとして」
「そ、改めて自己紹介ね。こっちの名前はサリー・ホワイトリッジよ」
理沙も名前を逆転して白峯の英読み。顔もリアルをベースにしていたので予感あった。
「宜しく……って、向こうで毎日会ってるからおかしいよね」
「いやいや、リアルネームは余程の人じゃなきゃマナー違反みたいなものよ」
「じゃあ私も、メイプル・アーキマンです」
早速理沙――サリーとフレンド登録してギルドホームへ。この世界じゃ職業に就かないとレベル0のままなんだって。因みにステータスはこんな感じ。
メイプル・アーキマン
レベル:0(合計レベル0)
職業:無し
HP:96
MP:11
SP:19
STR:9
END:12
DEX:10
AGI:7
LUC:18
サリー・ホワイトリッジ
レベル:0(合計レベル0)
職業:無し
HP:80
MP:15
SP:20
STR:11
END:8
DEX:11
AGI:15
LUC:10
†
冒険者ギルドで私は【
これで冒険者として準備万端になった。今は雑貨店で2人の路銀、合わせて1万リルを使ってアイテムを揃えている最中だ。
雑貨店の棚には様々なポーション、攻撃魔法を封じたジュエルというアイテムに許可証も――。
「あの、この許可証は?」
「それは王都に所属するマスターが〈墓標迷宮〉に入る為の許可証だよ。聖騎士様なら話は別だけどね」
「それは必要ない!」
ティアンらしき店員と許可証の話をしてるとサリーが青い顔をして拒否する。そういやお化けの類駄目だったんだっけね。
それからサリーは初期ポーション数本と一応の閃光玉を買って、改めて準備完了。
その後は王都の色々なところを見て回って、気が付いたら夕方になっていた。
「これから戦闘なんだねー。うまくいくかな?」
「んで、どうする?王国の東西南北が初心者狩場だけど……」
この王国には東西南北に分かれた狩場がある。
北は〈ノズ森林〉、
東は〈イースター平原〉、
西は〈ウェズ海道〉、
南は〈サウダ山道〉。
どこに行っても面白そう。街を観光するのも良いけど、サリーは今にも戦闘を楽しみたいみたい。
「じゃあサウダにしよう」
「賛成!」
早速その〈サウダ山道〉に行こうとした時、早速問題に気が付いた。
「ところでどうやって行くの?」
「あ」
サリーもそこまで考えてなかったみたい。こういうのは誰かに話を聞けばいいんだけど……。
往来する人の中、一人のプレイヤーを見つける。
金髪のポニーテールを揺らし、煌びやかな装飾が施された杖、魔法使いらしいローブ。ブーツ。腰にはポーチ。見るからに魔術師風の私達と同い年の女の人だった。左手の甲に紋章があるからプレイヤー……もとい〈マスター〉に違いない。
「あの、すみません」
「ん?」
「私達、今日ここに来てこれから〈サウダ山道〉に行こうとしてるんだけど、どこにあるのかわからなくて」
「ああ、それなら南門を出て道なりに行けばすぐだよ」
「「ありがとうございます」」
幸い親切な人だったみたいで、その人にお礼を言うと早速南門へ向かっていった。
今思えば、これが私の運命の転換だったのかもしれない。
「おい聞いたか?」
「ああ、最近ここらの狩場で網を張ってるガラの悪いクランの連中のことか?」
「今日もマスターが何十人もやられたらしいんだ。でもあいつらなら3日もすればここに戻ってくるんだろ?」
「西の奴らは誰彼構わずだ。マスターじゃない奴らも被害に遭ってるって聞いたぞ」
「お陰で都市間の往来が難しくなって困ってるんだよな。確か南は……」
「忘れたのか?凶城だよ。あいつらティアンはスルーだからまだいいけど、それでも網を張ってるから行商人がビビっちまって困ってるんだよな……」
†
サウダ山道
「よっ、ほっ、ふっ!」
夕方から夜に代わる黄昏時、到着早々狩りを始めた私とサリーは出くわした3体のゴブリンとの戦闘へ。
とはいえ現在3匹のゴブリンの3方向攻撃をまるでおちょくるようにスレスレで回避している。
一方のゴブリンといえば、何度剣や斧を振っても当たらない現状を延々と繰り返しているうちに疲弊が溜まってきたのか、肩で息をしている。お互い目配せしているから、「俺達は蜃気楼でも相手にしてるのか?」と感じているかもしれない。
「ハイ終わり」
『『『!?』』』
瞬間、3対のゴブリンの胴体がすっぱりと切断される。当のゴブリン達は自分の身に何が起きたか理解するより早く、光の塵となって消滅した。
「すごいすごーい!」
「うん、3体までなら余裕かな?」
対するサリーは大きく息を吸って脳に血を巡らせる。サリーのこの神がかった回避は集中力と洞察力の高さからだとか。
ゴブリン達が落としたアイテムをサリーが拾い、アイテムを確認しているとサリーの左手の甲から光があふれる。
「おっ、これは……」
〈エンブリオ〉の孵化が始まったのを、サリーも直感で感じた。
左手の甲に填められた宝石が外れ、それがサリーの履いている靴と同化し始め、靴からも光を放つとともに変化が起きた。
革のブーツから動きやすさを重視したスニーカーのような赤い靴に。光が収まるとサリーの左手の甲に、青い線で踊る女の人の紋章が刻まれる。
これが、〈エンブリオ〉の孵化……。
思わず感嘆に浸っていたが、ふと我に返った私がサリーに尋ねる。
「サリーに赤は似合わないよね?」
「ぅッ……た、確かにそうだね。私もどっちかっていうと青が好きだし……」
若干好きな色と異なる変化を遂げて肩を落とすするサリーだったけど、早速〈エンブリオ〉のステータスを確認する。ついでに私も横から。
「名前は……【呪転舞踊 カーレン】。TYPE:アームズね。モチーフは【赤い靴】みたい」
「赤い靴って、童謡の?」
「ううん、童話のほう」
それって、切り落とされた足を履いたまま踊り続けた靴だよね?大丈夫?
「大丈夫。呪いの類は無いみたい。疲労軽減と拘束耐性がセットになってる……。私に合ってるかも」
そう言ってサリーはステータス画面を閉じ、コンコンとつま先で地面を小突く。
「……うん、割と気に入った」
「呪われないよう気を付けてね?」
サリーがご満悦ならいいか。
それでも、早く孵化しないかな。私の〈エンブリオ〉。
どんな〈エンブリオ〉なのか、名前は?姿は?能力は?
そんなことを思ってた次の瞬間、
『よぉ』
「……え?」
私とサリーの前に、巨大な鎧が降ってきたのです。
第2話タイトル
《極振リ防御/ト/初心者/ガ/狩ラレル場》