悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
決闘都市ギデオン12番街【
サリーと別れた私はその後、〈集う聖剣〉のマスターと合流。〈炎帝の国〉のマスターと一緒にモンスターやPKの掃討に当たっていた。
そして、累計して10体近いモンスターを討伐した頃。
「こっちはあらかた片付いたな。次は西のほうへ行くぞ」
指示に従い次に西門へ。
ふと見上げると、空中に映像がホログラムのように映し出されていた。
白衣の男の人――おそらくこの人がフランクリン――は自ら端末を不気味な怪物に食べさせてしまった。あの怪物を倒さない限り、あと10分もすれば怪物は解き放たれ、ギデオンは壊滅してしまう。
今すぐにでもあそこに駆け付けて助けに行きたいけど、今はそんなことを言ってる場合じゃない。
あんな人の陰謀を野放しにするわけにはいかない。
ギデオンを潰させる訳には行かない。
何より……あの場所にいない私達は、フランクリンには手を出せず、あの場所にいるレイさん達に任せるしかない。
「……我々は手筈通りモンスターとPK討伐に向かうぞ!」
《集う聖剣》のメンバーが私達を促す。
あの場に向かってフランクリンを止めたいのは、私たち以上のはず。
だけど、レイさんに任せるしかない。
最短ルートで西門に向かおうとした時――、最後尾にいた《炎帝の国》のマスターが倒れた。
背中にククリ刀を刺された状態で、直後に消滅した。
「なっ!?」
「なんだ、誰にやられた!?」
「これは……《バックアタック》!【
確か、【奇襲者】はドレッドさんの部隊に多くいたはず……。
でも、それって《集う聖剣》側のマスターに裏切った人がいるって事……?
『メイプル後ろだ!』
「え?」
ヒドラのひっ迫した声に振り返ると、黒い鎧のマスターが刃物をこちらに向けていた。
このまま突き刺されて終わってしまう――かに見えた。
鳴り渡る金属音。割り入ったのは短剣。刹那に貫かれた相手の悲鳴。
「ハッ、この程度の不意討ちなんざ余程油断してた奴か初心者くらいしか狩れねぇよ!」
現れたのは、闇夜に紛れて短剣を装備したドレッドさんだった。
「メイプル、大丈夫?」
「お前らも無事みたいだな」
そこからフレデリカさん、ドラグさんも駆け付けてくる。
「どうやら相手は素人――半年前に就いたばかりのようだな」
「どうしてわかるんですか?」
「奇襲の仕方にムラがある。こんなに隠れる場所が限定的なところでやらない筈だ。少なくとも、俺や《集う聖剣》に残っている【奇襲者】系統に就いている奴らはな」
ドレッドさんが説明ている間にぞろぞろと、先程のマスターと同じような装いをしたマスターが次々と包囲するように現れる。その数は10や20なんかじゃない。50人は下らないだろう。
「こ、この人達って……!?」
「《円卓議決会》の連中か……!」
周囲の敵にドレッドさんは短剣を構え、フレデリカさんは召喚獣を呼び出し、ドラグさんは身の丈の1.5倍もある斧を構える。
「……お前ら、他のモンスターを潰してこい」
「ああ」
「ちょっ、本気ですか!?」
「こいつ等相手にしてもたついてたら街への被害がデカくなる。つか、俺に寄越せ」
ドラグさんの言葉は怒りを抑えているのか、斧の持ち手を圧し折らんばかりに歪みかけている。
私はその威圧に圧され、フレデリカさんが呼んだ召喚獣に、彼女と一緒に乗り込む。
それを合図に――
「――《
ドラグさんが自分の必殺スキルを発動し、呼応するように両刃斧の刃の部分が光を帯びる。
刹那、地を裂かんばかりの衝撃波が私達の正面の退路を塞いでいたマスターを吹き飛ばした。
「お前らも全力で走れ!巻き込まれたら死ぬぞ!」
ドレッドさんが先陣切って駆け抜け、次いで私達。最後に〈炎帝の国〉と〈集う聖剣〉のマスターが包囲網を突破する。
私は包囲網を抜ける中、ただ一人残ったドラグさんを不安そうに振り向き、言葉を失った。
「おい、奴を止めろ!拘束系魔法だ!!」
「だ、ダメだ!止まらねぇ!!」
「■■■■■■―――!!!」
私の視界に飛び込んできたのは、木の葉宜しくなぎ倒される黒い騎士たちと、それを薙ぎ払うドラグさん。
いかつい顔は狂相に変容させ、殺気の混じる呼気と共になぎ倒す一騎当千の光景だった。
†
2番街市街地
「あの、ドラグさんは大丈夫なんですか?」
「大丈夫よ。正直ドラグの〈エンブリオ〉って、味方も巻き込み上等の範囲攻撃メインだからね。必殺スキルはステータス極強化だけど」
私の不安を拭うようにフレデリカさんが説明する。
ドラグさんの〈エンブリオ〉、【激情激斧サグラモール】はまさしく使用者に【
もし私があの場に残ろうと言い出しても、ドレッドさんかフレデリカさんが無理矢理私を引き離していただろう。
「フレデリカ・クーパー!」
不意に、下からの声がフレデリカさんを呼び止めた。
召喚獣が足を止め、フレデリカさんが下を見ると、さっきの人たちとは異なる鎧を着たティアンの人たちが見上げていた。
「あんたら……近衛騎士団?」
疑問の念を交えてフレデリカさんが近衛騎士団の3人の呼び止めに応じて止まる。
私もフレデリカさんが抱えている疑問に察しが付いた。
フランクリンが王女を攫った今、近衛騎士団は当然王女奪還に向かうはず。そして今レイさん達と共に戦っているはずだ。
普通ここにいるはずないと感じたフレデリカさんだったが、近衛騎士団の一人が答える。
「実は昼間に少しだけあなた方を見かけて……それを報告したら、副団長から我々はあなた方と合流してほしいとの言伝を頼まれた」
「……そう。――ッ!?」
さっきからフレデリカさんは騎士団から目をそらしている。
1回目の戦争で彼らの団長、ひいてはリリアーナのお父さんを守れなかった負い目からなんだろう。
刹那、フレデリカさんが袖口に隠していた宝石を砕く。
「《クリスタルバリア》!」
同時と言ってもいいタイミングで杖を翳すと私達を守るように四方に障壁が展開される。
次の瞬間、黒い暴風が建物を砕き、障壁も破壊され、吹き飛ばされた。
その攻撃に私の【御守り竜鱗】が3つ破壊されて消滅する。攻撃が終わった後フレデリカさんの元へ駆け寄り、言葉を失った。
「ふ、フレデリカさん……脚が……」
「だっ、大丈夫よこんな傷……!」
フレデリカさんの右脚、膝から先が切り落とされていた。脚はすぐそばで見つかったものの、私にこの脚を取り付ける術も、だらだらと湧き出る血を止める術も無い。
私が混乱に陥る中、フレデリカさんは冷静にアイテムボックスからポーションを取り出し、傷口に振りかけてる。が、ある程度の出血は抑えられたが、まだ止血に至っていない。
「な、なんだ今の攻撃は!?」
私達を吹き飛ばした一撃は、建物を抉り貫いていた。
高レベルのフレデリカさんがこんな目に遭った以上、私や近衛騎士団は耐えられないだろう。
その相手が、再びこちらに向けて構えているのが見えた。影りで誰か分からないが、ドリルのような回転音を唸らせる機械音は、明らかにこちらを狙っている。
「――ヤバい…!」
その時私は、ここにいる全員は理解してしまった。
――次の攻撃に、私達は確実に殺される。
否応無しに迫る死に恐怖を抱いた刹那――、
「――《
†
「――え?」
目の前の逃れない死から待っていたのは、中央大闘技場の前の広場だった。
助かったの?普通なら起こりえなかった光景に、私は周囲を見渡す。
脚を損失したフレデリカさんと、その脚を持つ近衛騎士団の3人。
『……誰だか知らないが、助かったみたいだな』
一足先に現実に思考が戻ったヒドラの一声を聞いて、私も胸を撫で下ろした。
――って、そんなことしてる場合じゃない。急いでフレデリカさんを直さないと。
「ミザリーさん!急患です!」
「どうしたのメイプル――って、フレデリカ!?」
「話は後です!とにかくフレデリカさんを……えっと……その……と、とにかく脚を縫ってください!」
「おーぅ、ルーキーにぬいぐるみ扱いされちゃったよ」
ともあれ近衛騎士団の人達の手伝いもあってフレデリカさんを闘技場内に連れ込む。
私が闘技場内に入るとミザリーは急いで手渡した脚の接続の為に回復魔法を始める。
「……でも、どうやって助かったの?」
「奇怪の源は青銀の鎧纏いし聖剣の担い手の異能なり」
疑問を口にした私に後ろから答え――という割には意味不明だったけど――を述べてきた。
そこを向くと、ゴシックドレスらしき軽装を纏った剣士。
「ジュリエット。丁度良いわ、私の代わりにメイプルを4番街まで連れてってくれる?」
「然り」
『誰だコイツ?』
「大丈夫よ。口調と見た目はともかく、ジュリエットは強いよ。私が保証する」
フレデリカさんが私達を安心させるようにかみ砕いた説明をしてくれる。
対してゴシックアーマーの少女、ジュリエットは「ともかく…」と呟いて軽くショックを受けているようだった。
だけどすぐに気を取り直して私に手を差し伸べてくる。恐る恐る彼女の手に触れると、背中から黒い翼を翻す。
「え?」
「我が翼、危難の地へ」
ぐい、と引っ張られる感覚を受けた直後、私は飛んだ。
†
時はメイプル達が消えた直後に遡る。
「――外したか」
男は舌打ち気味に標的を仕留め損ねた事を知る。
そして自分の穿った建物の隣から来る足音の主のほうへ槍の矛先を向ける。
「まだ呑気に騎士ごっこをしてたのかペイン」
「お前も相変わらずか、アドルフ」
相対するのはペイン・トーマス。彼もまた両手剣たる自身の〈エンブリオ〉の切っ先を相手に向ける。
「何故この場所に来た?自分から王国を捨てた癖に、フランクリンのテロに加担する必要性があったのか?」
「そうだな。強いて言うなら……《集う聖剣》を完全に叩き潰す為、だな」
「叩き潰す?」
「そうだ。例の皇国との戦争で実力差は嫌というほど理解しただろう?それなのに王国は〈マスター〉が参加しなかったからという理由でまだ活気を残している……」
王国は皇国との戦争で国王を【
そこまで言うと、アドルフの言葉に苛立ちを爆散させるかの如く叫ぶ。
「いい加減ウンザリしてるんだよ!!俺の要望を聞き入れなかった王国の分際で、まだ抵抗しようってのか、あぁ!?〈超級〉が参加してたら勝てました見たいな言い訳してんじゃねぇよ!!テメェらもテメェらだ、くたばり損ないの国にいつまでもすがってんじゃねぇよ!!」
「――黙れ」
怒声を一括するかのごとく、ペインが相手の怒声を切り捨てる。
再び沈黙。アドルフもその沈黙で落ち着いたのか、再び構えなおす。
「それを聞いて吹っ切れた。アドルフ、改めてお前を倒す。ギデオンを、王国をこれ以上お前らに壊されてたまるか!」
「そうかよ。じゃあこっちはテメェを潰してテメェの守りたかったもの全部を蹂躙し尽くしてやる!」
無人となった空間は、アドルフとペインの決闘の場となった。
この空間から出る方法はたった一つ。どちらかが倒れ、決闘に終止符を打つことのみ。
それがペインの〈エンブリオ〉――【血戦王剣ペリノア】の必殺スキル。
「
「盤上の“キング”兼、
まるで騎士の試合でも始めるかのように、自ら名乗りを上げる両者。
そしてペインは同時に思う、【呪槍王】という職業は、【槍士】の派生上級職【呪槍士】の超級職のであると。
(……ただでさえ奴の能力は厄介なんだが、超級職のオマケ付きか)
エンブリオの能力も、到達形態も、ペインは自分が知っている時のものより強大になっているだろう。
だが、仮に必殺スキルを使わずに逃げたとしても、彼は破壊を繰り返す。放置して何のメリットも無い。
(触れたら終わりと同意義の相手に敵うのは少ない。一番の最善は、リリアーナ達がここに来る前に奴を倒すことか)
嘗ての裏切り者を前に、リリアーナは果たして平静を装えるだろうか。
自分の知る限りそんな人間ではないのだが、ふとした拍子にタカが外れてしまうという可能性を捨て去るほど、ペインは愚かではなかった。
「――とっとと片付けてやるよ裏切り者」
「――その台詞ノシ付けたついでに返してやるよ」
呪槍と聖剣が交差する。
たった一人、王に坐する名を持つ裏切り者との決闘は、部外者を追い払った地で始まる。
感想書いたって~。