悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。   作:日名森青戸

31 / 72
(・大・)<ここからミィ編です。


極振り防御と狂宴ゲーム。“じゃっく”。

決闘都市西門周辺

 

 

「――《紅燕》」

 

静かに呟かれたその言葉と共に、ミィの周りの炎から紅い燕が現れる。

右手を正面に翳すと弾丸の如く放たれ、被弾した寝返り組の全身が炎に包まれる。

 

「――《灼火》」

 

続けて街路の道幅いっぱいに【符】を貼り付ける。

そこに10人単位の寝返り組がミィの首を取らんと迫った時、手元に残した【符】を掲げる。

次の瞬間には炎が円の内側にいた寝返り組を包囲し、そのまま焼き尽くすかのように火柱となって燃え上がる。

 

「――《爆龍》」

 

最後に自らの正面の地面に【符】を貼り付け、それらが赤く輝く。

幾つもの符【符】から炎が巻き起こり、1頭の赤い龍となって夜空を昇る。

標的は夜空を我が物顔で羽ばたいていた、プテラノドン似のモンスターの群れ。真下から昇る炎の龍に対し、プテラノドンのモンスター達は旋回する暇も無く焼き尽くされ、跡形もなく消滅した。

 

「くそっ、別の女を狙え!」

 

寝返り組がミィに対して敵わないと判断すると、標的をミィから炎羅へと切り替える。

 

「あら、今度は私?」

 

炎羅は対して驚く様子もなく、軽やかで、それで一切の無駄の無い動きで寝返り組をいなしつつ、【符】を貼り付ける。

 

「なっ、なんだこの紙切れ?」

 

「はーい、お疲れ様ー」

 

戸惑う中、炎羅が指を鳴らすと火花が走り、一番近いPKに貼られた【符】が発火して瞬く間に寝返り組の身体を包み、そこからまた別の寝返り組の【符】が……そんな具合に連鎖発火が起きる。

70近い寝返り組も、気付けばたった2人に半数以下にまで減らされていた。

 

「まっ、まだだ!奴らさっきから炎しか使ってない!水属性で攻めろ!」

 

生き残りの一人が指示を下す。

そして魔術職に就いた者達が水属性の魔法を仕掛ける。

 

「よし!撃――」

 

しかし、その攻撃が2人に直撃することは無い。

突然背後から飛んできた何かが魔術職の面々の首を切り裂いた。当然持ち主を失った魔法はマスターの消滅と共に光の塵となる。

 

「な、何が起こっ――ぐあああ!?」

 

「ボサッとしてんじゃねぇよ」

 

先程の指示を出したマスターも背後からの刺突でデスペナルティとなり、消滅。

 

「すっごーい。あっという間にやっつけちゃった」

 

「凄い実力ですね」

 

戦闘終了後にそんな言葉をかけたのは、ルーク・ホームズとそのエンブリオのバビ。

2人も寝返り組を相手に抵抗しようとしたが、結果は見た通り、作業のような殲滅に手を貸す暇すらなかった。

 

「どうやら向こうも終わったようだな」

 

崩れた剣がひとりでに元の長剣へと戻り、金と銀の双剣を納めながら中継を見て安堵を得る。

中継映像の先は、まさに【聖騎士(パラディン)】殺しと言わんばかりのギミックを詰め込んだ異形を風の爆弾によって吹き飛ばし、再生途中の外殻に腕を突っ込みそこから火炎放射で焼き殺したレイの姿が。

まるで、悪夢の終わりを告げるように【炭化】した右手を上げていた。

 

「ありがとうございました。えっと……」

 

「ああ、紹介が遅れたな。俺はシン・ライアース。〈炎帝の国〉所属だ。こっちの赤いのがうちのオーナーのミィ・フランベルと、サブオーナーみたいな立場の炎羅だ」

 

「エンブリオのバビだよー。こっちがマスターのルー……ク?」

 

バビが自己紹介しながら振り向くとルークは未だ中継を見上げたまま険しい顔を崩していなかった。

まるで、レイがあの怪物を倒したことが前哨戦だったのではと疑問を残しているように。

 

「どうした?まだなんかあんのか?」

 

「いえ、あのマスターから少々今回の計画を伺ったのですが、少々不可解な点があったんです」

 

「不可解?」

 

目線で拘束されているユーゴーとキューコを示し、そして2人から聞いたプランを説明する。

 

第1のプランA。決闘都市の一大イベント〈超級激突〉を観戦に来た多くのマスターを中央大闘技場に閉じ込めたうえで王女を誘拐。次いで街中にモンスターを放つという脅迫で内部のマスターの動きを封じ、結界に捉えられない者や闘技場外のマスターをPKやユーゴ―、“クラブ”と呼ばれたベルドルベルの手で押さえ、フランクリンは王女を連れギデオンから逃げおおす。これで追う国民からのマスターへの信用は失墜というもの。

超級職のベルドルベルというマスターやユーゴ―がいれば十中八九成功するはずだった。

それが崩れた場合のプランB、仕掛けたモンスター解放装置を起動させ、ギデオンが混乱している間に逃走するというもの。フランクリンが想定外の不意討ちを喰らったとしても、こちらに移行していた。もしそれに気付かず彼をデスペナルティになってしまった場合、今以上の混乱になっていただろう。

仮に〈超級〉クラスのマスターが観戦しに行ってない場合でも、予めギデオンに楽団として馴染ませておいたベルドルベルと、同種族の討伐数に応じて相手を凍結させるという、決闘都市を拠点とするマスターにとって天敵のユーゴーのスキルがあれば問題ないとフランクリンは踏んでいたという。

 

「で、どうですか?」

 

「……変じゃねぇか?」

 

シンの疑問にルークは無言で答えを待つ。

だがその顔は、予想通りと言わんばかりのものだった。

 

「前に俺は、あいつをデスペナしたっていう奴がモンスターに殺られるのを見たんだ。そいつの知り合いから聞いた話だと、かれこれ1か月以上殺され続けているらしくてな。ありゃ相当執念深い性格だぜ」

 

「でしょうね。僕も彼がこの程度で済むハズが無いと思っています。何より……これまでのプランは意図的にティアンへの被害を抑えている」

 

「……おい、なんか嫌って程お前の言葉が察せてしまったんだが?」

 

「――ティアンへの人命被害を度外視したプランを残してる、でしょ?」

 

炎羅がつないだ言葉にルークは肯定を示すよう頷いた。

そこに否定するかのように叫んだのは、この計画の“ハート”の役割を持っていたユーゴ―・レセップス。

 

「馬鹿な、ありえない!あの人は私と同じだ!ティアンをタダのNPCではなく、命であると理解している!あの人が虐殺なんてするものか!」

 

フランクリンは虐殺を辞さない人間と断言するルーク。それは決してユーゴーが許容できるものではない。

必死にその理論を否定するように怒気を露わにして訴える。

 

「あの人はそんなことはしない!私は、ずっと前からあの人を見ていたんだ!ただの赤の他人の君らに何が分かる!」

 

「確かに私はフランクリンという者は伝聞と今回の事件でしか知らない。だがな、これは誰にでも推測しようと思えばできる事実だと私は断言する」

 

「何故だ!?」

 

「知らないからこそ、といった所か。奴の所業を並べたその先を予想すれば、それくらいしか思いつかない。最も、さっきも言ったがこれは誰でもしようと思えばできる推測だ。それほど感情を露わとしている以上、私の言い分の例外はお前くらいだろう」

 

ミィの推測は当然のことだった。

前回の戦争で多くの兵士と国王をモンスターの餌にした者であり、この国の王女を攫い、王国のマスターに対しての信頼を失墜させるためにギデオンの破壊しようとした者。

そんな相手が……たった2度の頓挫で終わりだとは思えない。

大多数の意見を言うミィの中、ただ一人と言っても過言ではない少数派にいるのは、ユーゴーだけだと言う。

 

「ずっと前から見ていたなどとのたうち回っておきながら、貴様はフランクリンという上辺だけの見てくれしか気づいていない。ろくに本質を知ろうとしない。言い換えれば犯罪を犯した子を、「全て被害者が悪い」と弁論してる母親同然だ」

 

辛辣な言葉を下すミィに対し、ユーゴーは鋭く彼女を睨む。もし拘束されていなかったらユーゴーは彼女を殴りかかっていただろう。

ミィの後ろでルークが「僕の言いたい事全部盗られた……」と苦い顔をしていた。

中継映像の先のフランクリンは両方のプランの失敗を察して頭を抱えていた。だが、悔しさは無く、苦笑しているといったほうが表情が正しい。

 

『全く、本当に参っちゃうよねぇ。プランAもダメ、プランBもダメ……。もうすぐ闘技場から怖ーい脳筋共が出てくるだろうし、もうこうなったらプランCを開始させるしかないよねぇ?』

 

「…………え?」

 

中継映像からのフランクリンの言葉に、ユーゴーの口から疑問の声が漏れた。

彼だけじゃない、今宵の計画に加担したフランクリンと、残る“キング”と“ジャック”を除くマスター全員が、ユーゴーと同じリアクションを取っていた。

 

『プランC……残った私の戦力と五万六千八百二十六体の私の改造モンスターによるギデオン殲滅作戦を開始しちゃいましょうか』

 

「ごま、……ッ!?」

 

フランクリンが言い放った本命に、炎羅が言葉を詰まらせる。

 

「冗談……な訳無いよな?実は同数のリトルゴブリンでしたってのも冗談にしては心臓に悪すぎるぞ?」

 

顔を引きつらせながらミィがルークに尋ねる。

それもそうだ。超級職の【大教授(ギガ・プロフェッサー)】や【従魔師(テイマ―)】系統などの従属キャパシティが高い職業に就き、アクセサリー全装備で底上げしたとても、そんな数値に届くはずがない。

キャパシティをオーバーすれば、モンスターはフルスペックで戦えない。パーティ枠使用でも【指揮官(コマンダ―)】系統でパーティ枠を増やしてどうこうできる問題じゃない。

 

「僕も【女衒(ピンプ)】に就いています。ですが、この前のログアウト中に攻略サイトを見たんですが、5万なんて数値は不可能なはずです。仮にその数値に到達できたとしても、ギデオンを蹂躙するには亜竜級以上のモンスターが必要最低限……従属キャパシティだけではそれだけの数を補えません。ですが、あの人の〈エンブリオ〉は伝聞によればモンスターの製造と運搬……キャパシティに無いモンスターを運搬することは可能……」

 

「……ねぇ、私なんか予想できちゃったんだけど。あいつがやろうとしてること」

 

真っ赤な装いの炎羅が顔を青くしてルークに尋ねる。しかしルークの顔は炎羅の予想を知っているかの如く険しいものとなっていて、無情にも彼女の答えを読心術で導いてしまった。

 

「予め用意した改造モンスターの“従属権利を片っ端から放棄する”。ですね」

 

要領は発想の逆転。

逃がすことで、制御を放棄することで従属キャパシティによる制限を無視し、モンスターの本領を発揮させる唯一の方法。

自分にも牙を剥くリスクも、制作時にあらかじめ命令を刷り込ませればいい。フランクリンが自ら作り上げたモンスターだからこそ簡単に実行できるのだ。

フランクリン自身に及ぶリスクは、再生産のコストが莫大に膨れ上がること以外、大した損害はない。

 

「それに、彼は逃走経路に南北は最初から除外しています。南のレジェンダリアは王国と同盟で、下手に刺激して得になることはありません。北は当然ドライフ。東もカルディナの行動を警戒していて、残るは海に続く西のみです」

 

それでも旧ブリティス伯爵領にとんでもない被害が出る事は確定ですが、とルークは続けた。

 

「……ルーク、お前はそこのルーキー達と共に〈ジャンド草原〉に行け」

 

「ありゃ、気付いてた?」

 

申し訳なさそうに路地裏から出てきたのは【蛮戦士(バーバリアン・ファイター)】イオ、【魔術師(メイジ)】ふじのん【召喚師(サモナー)】霞。

ルークやレイと共に西側に行き、モンスターの討伐に当たっていたルーキーだ。これだけでは戦力としては心許ないが……。

 

「――《地獄門》、解除」

 

澄んだ声が響いた瞬間、凍結していた30人のマスターが次々と氷結地獄から解放される。

その声の主、ユーゴーは沈んだ顔でルークに言う。

 

「少しは戦力の足しになる。早く行け」

 

「あなたはどうするんです?」

 

「……少し、考えさせてもらいたい」

 

絶対にティアンを殺さない。そう信じていたユーゴーにとって、この計画は大打撃を受けることとなった。

ルークはユーゴーとキューコを解放する。周囲から「また攻撃されるんじゃないか?」と異議を唱えられたが、「だとしたら皆さんとっくにやられています」と一蹴。

そしてミィとシン、炎羅のほうに向きなおる。

 

「ミィさんはどうするんですか?」

 

「奴は残った戦力と言っていたし、もうそろそろ結界が破られてもおかしくない。私達はメンバーと合流して、奴の戦力の討伐を――」

 

「その必要はないぜ」

 

ミィの言葉を遮って、凍結したマスターの頭上に着地する一人のマスターが呼び止める。ドレッドだ。

 

「《集う聖剣》のメンツから情報が入った。“クイーン”はライザーとルーキーたちが倒して、“キング”はペインが抑えている」

 

「となると、俺らは“ジャック”の捜索だな」

 

「とりあえずマルクスとごうりゅ――危ない!!」

 

炎羅が捜索に当たろうとした次の瞬間、悲鳴を上げた彼女が咄嗟にユーゴーとキューコを突き飛ばす。

刹那、巨大な影が先程まで2人のいた場所の頭上に現れ、その空間を刺し貫いた。

 

「炎羅!?」

 

ミィの叫びを合図に、上空から鋭い何かが降り注ぐ。

いきなりの不意打ちにシンとドレッド、ミィは対応できたが、ルーキーや凍らされたベテランはいきなりの不意打ちに対応が遅れ、幾人かが貫かれて光の塵となって消えてしまう。

 

「ありゃあ……【イヴィル・ランスバード】!」

 

突き刺さったのは槍のようなくちばしを携えた鳥型の悪魔。

1体のコストが30と召喚される悪魔全体から見ても軽く、高速移動の貫通付与の攻撃は上級の壁役の防御を容易く貫く威力を持つが、1回攻撃した後はそのまま消滅するという【魔将軍(ヘル・ジェネラル)】系統の上級職のひとつ、【悪魔騎士(デビルナイト)】が使役する下級悪魔の1体だ。

 

「総員迎撃に当たれ!ルーキーたちが草原に駆け付けるまでの時間を稼ぐぞ!」

 

ミィの素早い合図とともに、《炎帝の国》のマスターとシンが急降下する悪魔に魔法を放ち、分裂体で迎え撃つ。

ドレッドも持ち前の機動力で【イヴィル・ランスバード】をすれ違いざまに切り裂いていく。

 

「――そこか!」

 

3体目を斬った後、クロスボウ機能を付けた手甲を向け、射出。

円錐状の鎖は何も無い空間に、堅い壁に当たったかのように弾かれた。

 

「テメェが“ジャック”だな?」

 

「いかにも。私は盤上の“ジャック”、《LotJ(ロウ・オブ・ザ・ジャングル)LotJ》所属の【悪魔騎士】、オーンスタインです」

 

空間が歪み、光学迷彩で姿を消していた相手が、お目当ての名乗りを上げた。

その相手は口元をマスクで隠し、サングラスのように鏡面が黒いゴーグルに黒コートと逆立つ白髪以外は全身黒尽くめ。

そして背後には5人のマスター。恐らくオーンスタインの仲間だろう。

そしてオーンスタインが従えるのは、十数体にも及ぶ悪魔の兵隊。

 

「〈LotJ〉……皇国3位のクランの奴らが相手か……」

 

すらりと剣を抜き、構えるシン。

 

 

 

 

 

明らかにただの戦力じゃない。それを直感した3人は武器を構えなおす。

 

 

 

 

〈ジャンド草原〉【聖騎士】レイ・スターリング

 

 

かつて俺は、フィガロさんから「墓標迷宮の逆光でモンスターと間違えた」と攻撃されたことがあった。

だが、そんな事はプランCを始めたと同時にフランクリンが見せた光景に比べれば、果てしなくどうでもいい事だった。

黒大剣のネメシスよりも圧倒的に異様で、圧倒的な存在感を見せつける〈エンブリオ〉。

TYPE:プラントフォートレス【魔獣工場】パンデモニウム。

第七形態に達した、俗世で言う〈超級(スペリオル)エンブリオ〉。

蜘蛛の脚と竜の頭、そして巨大な立方体を合わせた異形は、竜の口から改造モンスター、“スーサイド”シリーズを文字通り解き放つ。

こうしちゃいられない。数分もあればモンスターの波はギデオンの街を蹂躙し、街を壊滅するだろう。

HP残量は1万近い最大HPの内、半分も無い。

――訂正。半分もある、だ。

 

『は、ハハハ……おいおいおいおい、その満身創痍でまだやれるってのかい?君は自分の戦いを終えたんだから、あとはお休みしてれば良いじゃないか』

 

「終わってなんかないさ」

 

『……?』

 

「まだ終わりじゃない。この歩みと件を振る腕を止めるにはまだ早い。――眼前に、お前と悲劇がある限りな」

 

それは多分、俺でも無意識だったと思う。

目の前の悲劇を放っておけない。これから起こる悲劇は何として求めて見せるという、俺の心底からの決意の言葉だったのかもしれない。

そんな俺を見たフランクリンは盛大に溜息を吐き、言い放った。

 

『やれやれ。こうなるんだったらイレギュラーにバレるのを承知で、毒薬を飲ませるべきだったかな?』

 

なんだって?

 

『本来これはプランBとして、やってきた近衛騎士団を物量戦で皆殺しにするつもりにだったんですよ』

 

『あやつ、最初からギデオンにモンスターを解き放つ気だったではないか!』

 

「だったらなんで最初からそれを使わなかった?」

 

俺をデスペナにしてしまえば、【RSK】――【レイ・スターリング・キラー】――だけでも【聖騎士】で編成された近衛騎士団を楽に蹂躙できたはずだ。それに街中にモンスターを解き放つ仕掛けもしなくて済む。

元々1度ミリアーヌを餌に、リリアーナを殺そうとした計画を潰した俺を折るための計画だ。あの執念深さなら、俺にギデオンが壊滅される様を見せつける意図もあると思うのだが。

フランクリンはその質問にわざとらしく考え込むポーズを取り、指を3本立てた。

 

『大まかに理由は3つ。1つは君が予想している通り。王国もとい、君を完膚なきまでに圧し折らせる為だよ』

 

「となると、2つ目は【RSK】をより完璧に近づける為か?」

 

ついさっき、【RSK】との戦闘中に種明かししたのを思い出す。

昨日の今朝方、【劣化快癒万能霊薬】と【ケモミミ薬】のブレンドポーションに潜ませた【PSS(ピーピング・スパイ・スライム)】を飲ませ、ゴゥズメイズ山賊団との戦いで俺の戦法を――1つを除いて――全て把握していた。

ネメシスのスキルも、《煉獄火炎》も、《地獄瘴気》も、聖属性攻撃も効かず、ただの攻撃も、《地獄瘴気》と《逆転》のコンボもさせない。

近衛騎士団がここまで苦戦したのも、俺が左手を【炭化】させてようやく倒せたのも、【RSK】に【PSS】で得た情報を基に改造したのだから。

――ヤバい、思い出したらまた吐き気がしてきた。

 

閑話休題。

 

 

だが後の1つ、奴の言うイレギュラーはなんだ?俺は朦朧となっている頭を必死に回転させて該当する人物を探していく。

見当の付いている〈超級殺し〉。

圧倒的な攻撃力で寝返り組のマスターを蹂躙した姉妹。

決闘ランキングにも名を刻んでいる、実力者の面々。

どれもこれも俺の中で違うと思っている。が、それ以外に俺が知りうる人物はいないはずだ。フィガロさんや迅羽も候補に入りかけたが、闘技場に閉じ込められていることを前提の為すぐに除外した。

やがてフランクリンが腕を交差させてバツ印を作る。

 

『ざんねーん!タイムアップでーす!』

 

すげー腹立つ。

 

『じゃあ改めて正解は……メイプル・アーキマンの〈エンブリオ〉さ』

 

『「あ……」』

 

俺とネメシスが同時に、我ながら間の抜けた声を出してしまった。

 

 

 

――俺は毒の混入を見抜けるんだよ。

 

 

 

至極、あっさりした答えだった。こんな状況でも思わず呆けてしまった。

あの時ヒドラが、ひいてはメイプルがいなかったら俺はこいつに毒殺されてたのか。

 

『あの時の大立ち回りは凄かったねぇ。お陰でこっちも情報得られてラッキーってことで、彼女の分はチャラにしておいたよ。まあ、先んじて用意した五百体には『彼女が特定のスキルを発動した時、15メートル以内から離れ、近付かないこと』と急ピッチで命令したもんだから忙しかったですよ』

 

『このツケは君に払ってもらうからねぇ』とフランクリンは肩を回す。相当大変だったんだな。

どのみち俺の戦術を知るため【RSK】を投下。それが無理なら数の暴力で潰してしまおうという算段か。

無駄な話に思わず足を止めてしまったが、俺のやることは変わりない。

俺は少しでも時間を稼ぐべく、ギデオンへと突き進む五千の悪意の先頭へとシルバーを駆けさせた。

 

 




(・大・)<本日連続投稿。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。