悲しませるのが嫌なので、防御力に極振りしたいと思います。 作:日名森青戸
(・大・)<話の都合上、いつもより倍の長さになってしまいました。
決闘都市ギデオン西門周辺。
複数の悪魔を従えるオーンスタインを討つべく、ミィ、ドレッド、シン、炎羅が迎え撃つ。
1体1体は大した力は無い。だが、降り注ぐ槍は致死の雨と言っても過言ではない。
【イヴィル・ランスバード】は持続時間こそ短く、【ソルジャー・デビル】に比べると、MPは0、LUCは3、AGI以外は50と脆弱であるものの、AGIが300という高速特攻を持ち味とする。尖った性能と軽いコスト。使いこなせれば【ソルジャー・デビル】の物量戦以上の成果を果たせる尖兵だ。
それだけでも十分厄介なのに、【
「ミィ、大技で吹っ飛ばして!」
「それができたらもうとっくにやっている!」
【大炎龍道士】に限らず、【
相手もそれを見越してか、【イヴィル・ランスバード】をすぐに全軍特攻させるわけではなく、突撃する悪魔を数体に分け、時間差で突撃を指示して攻撃の合間が途切れずに襲い来る。
「ただの物量戦のごり押しよりも、波状攻撃で隙を極力減らしてんのか」
ある種理に適っている戦闘方法であり、【
しかし、悪魔の特攻を捌きながらもドレッドにはある疑問が生じていた。
「おい、もう2分以上経ってるだろ?」
「……何のことですか?」
「そいつの時間だよ。上で旋回してる奴ら、もうとっくに消滅してても良いんじゃねぇのか?」
ドレッドの言う通り、【イヴィル・ランスバード】の召喚時間はたったの10匹召喚して2分。3千というAGIでも【狙撃名手】の有効射程範囲程度しか届かない。
それなのに、オーンスタインの頭上で旋回する10匹の鳥型の悪魔は時間を経過した後でも旋回を続けている。
「ああ、彼らですか?私の〈エンブリオ〉をコストに使っているからですよ」
そう言って腰に下げた袋から一握り分の土を取り出す。
「“我、ここに己の系統樹の証を捧げる――開け放たれる地獄の窓より現れて、天を覆え魔鳥”――《コール・イヴィル・ランスバード》」
その土が光の塵となり、地面から闇が瘴気のようにあふれ出る。その瘴気から巣立つように現れる、【イヴィル・ランスバード】の群れ。
だが、注目するのはそこではない。
旋回している【イヴィル・ランスバード】が自らの肉体から、別の【イヴィル・ランスバード】が産まれたのだ。
直後に抜け殻の役割を担った【イヴィル・ランスバード】が突進してきた。
「……増殖スキルか!?」
思わず叫ぶミィ。
その推測は、半ば当たっていた。
†
オーンスタインのエンブリオ、TYPE:アームズの【増殖捲土ソクジョウ】。
補正ステータスも低く、単体では何の意味も効果も与えないただの土で、当初彼も生産系〈エンブリオ〉と思い作物に試してみたが、それが育つ形跡は見受けられなかった。
お陰で彼はクランの中での活動は主に事務処理をこなしているだけだった。
クランが皇国からの破格の褒章を貰っても自分に回ってきたのは微々たるものだった。
他のメンバーから嘲笑交じりの陰口を叩かれても何もできなかった。
それでも彼は感情を表に出さなかったが、彼の中の不満は日に日に増していった。
彼が自分の〈エンブリオ〉の真価に気付いたのは、第一次戦争から2週間ほど後のことだった。
【降魔士】として自身の〈エンブリオ〉を生贄として悪魔を召喚したとき、戦闘を終えて悪魔が還る時時に気付いたのだ。
召喚した覚えのない2体目の悪魔が存在していることに。
それこそがソクジョウの唯一かつ、絶対的なスキル――時間経過による分裂増殖。
その数日後、上級職の【
そこから彼は、まるでカードゲームのデッキ構築を考えるかのように、召喚可能な悪魔を片っ端から召喚しまくり、実験と称して日頃彼の陰口を叩いてストレスを発散していた〈マスター〉を皇国の初心者狩場で潰しまくったのだ。
時間を追うごとに増える悪魔。最初彼を侮っていたマスターは泉の如く増え続ける悪魔の軍勢に半ば恐怖を覚え、とうとう力尽きて悪魔の蹂躙を受けて消滅していった。
その頃から暫くして、クラン内でも度々彼に対してこんな評価が上がっていき、口々にぼやかれた。
――『ローガンが別の超級職に就いていたなら、コイツが最も【魔将軍】に相応しい戦い方をしているんじゃないか』と。
†
ふいに、鳥型悪魔の1匹が4人の防衛線を通り抜ける。その標的は、拘束されたユーゴー・レセップス。
「――ッ!」
その攻撃を、《炎帝の国》のマスターの一人が体当たりをしてユーゴーを突き飛ばし、【イヴィル・ランスバード】に貫かれる。
「――おい!」
「ミィ様……シン様……!後は……」
身を挺してかばったマスターは後を託して消滅。
己の不甲斐に苛立つのを抑え、ミィは火炎魔法で悪魔を焼き払う。
「――よし!」
ドレッドが焼き払われた悪魔の陣形の隙を見出し、《跳躍》を駆使して間合いを詰める。
オーンスタインもそれに気付き、【デビル・ソルジャー】で正面を固める。
「避ける訳ねぇだろ?」
悪魔の軍勢が正面に現れたのを見計らい、跳躍。壁として集まった悪魔の頭を飛び石の要領で踏み越えていき、オーンスタインへと迫る。
そして完全にオーンスタインを捉え、構えた短剣ですれ違いざまに切り裂けば終わる。
「――!」
だが、その刃はドレッド自らが収め、手甲から街灯に鎖を飛ばし、巻き付ける。
そして着地するように両足を前に出すと、オーンスタインの前方3メートルのあたりでダンッ!と足を付け、そして跳躍で距離を取る。
「なんだ、防がれた!?」
「あれは――【
「防衛の術は会ったほうが良いでしょう?」
ちらりと後目にいる〈マスター〉を見ながらさも当然だと言わんばかりの言葉を返す。
【障壁術師】――魔術師系統の派生下級職。
攻撃魔法のほとんどを犠牲に防御に特化したものであり、地属性に分類される粒子魔法の応用たる《クリスタルバリア》はその代表的な魔法スキルだ。
更に言えば【
それならば、自衛スキルを持ち込み自らは指揮する悪魔の支援に回るのが一番適した戦い方だ。
「ねぇ、もうそろそろ教えてくれないかしら?どうして彼らを狙うの?」
「理由ですか。それは至極簡単ですよ。――彼は裏切った。それですよ」
「裏切った?」
一瞬疑問符が上がったが、すぐに納得した。
本来のフランクリンの計画なら、ユーゴーはこのままギデオンを拠点とするマスターを凍結で足止めさせ、レイ以外を通さない算段だった。
それをフランクリンが発動したプランCを知った時、彼は自らの意思で《地獄門》を解除した。
オーンスタインはそれを裏切り行為とみなし、襲い掛かってきた。遊戯派の彼の行動は当然と言えば当然だ。裏切り者を放置すれば、いずれフランクリンの計画に支障が出る可能性を放っておく訳が無い。
「やはり、まとめて吹き飛ばしたほうが効果的ですね。頼みます」
やがて痺れを切らしたようにオーンスタインが指示を下す。同時にオーンスタインは《コール・デヴィル・レジメンツ》で【ソルジャー・デビル】を呼び出した。
そして指示を受けたマスターが先程よりも激しい銃撃を行い、後方で待機していたマスターが1メートル台の球状の岩塊を作り上げる。
「ったく、面倒ごとを次から次へと――!」
銃弾をはじきながらドレッドがぼやいた直後、岩塊の陰に回ったマスターが銃撃。ビリヤードの要領で転がる岩塊を放ち、直線状にいたドレッドを轢き潰す。
「よっし!1人殺ったぞ!」
「――クソッ!《紅燕》!」
ミィが悪態と共に、【符】を用いた魔法を放つ。
標的はそろってオーンスタインへと定めて突進し――吸い込まれるように消滅した。
「何!?」
「時間ですね」
ミィ達の驚愕と同時、オーンスタインが呟く。
それと同時に周囲の悪魔が次々と消滅していく。
そしてオーンスタインの頭上に、禍々しい炎が集まっていく。それがバズーカを構えたマスターの砲口へと吸い込まれていく。まるで先程ミィの《紅燕》が消えていったように。
「……シン、防御に徹しろ」
「待て、君はどうするつもりだ?」
その光景を見て腹を括ったかのように指示を下すミィに対し、ユーゴーが彼女を呼び止める。
ミィはユーゴーを一瞥すると、袖の中から仕込んだ【符】を取り出し、告げる。
「あの攻撃を相殺する」
「待て!君一人であれをどうにかするというのか!?並大抵の海属性の【符】でもあれは防ぎようが――」
「悪いが海属性の【符】は使ったことも作ったことも無い。だが、減衰は無理でも相殺爆破は可能だろう」
バズーカに炎が溜まっていく中、ユーゴーは防げないと断定する。
それでもミィは動じることはない。
「いいから離れなさい。巻き添え喰らっても知らないわよ。そこの番兵も急いで!」
ユーゴーとキューコを下がらせる。番兵もシンの後ろへと集めた所で、SP回復ポーションを嚥下したシンが金の刀身の剣と銀の刀身の剣を構える。
「いきなり最大だぜ!《
10万もの分裂体が宙にばらまかれると、刀身の無い剣を振るう。分裂体はそれに応じて自らシンの正面の地面に次々と突き刺さり、巨大な壁を作り上げる。
その直後、ミィが【符】をばら撒き、それらが紅く光るのと、チャージを完了したマスターが砲口を正面へ向けた。
「《炎龍灼火――紅龍炎》!!」
「《
片や奥義、片や必殺スキル。2つの炎がぶつかり、爆発と共に衝撃と熱波が周囲へと広がっていく。
「あっつ……!」
「しっかり気ィ張れよ!これでも全力の防御なんだからなぁ!」
炎から守られたといえど、熱気は止めようがない。シンも、ユーゴーも、番兵も熱波と黒煙を受けて【熱傷】を負う。
やがて爆発からの煙が晴れると、西門周辺は凄惨な有様となっていた。
家屋の木造部分は芝生は火を立て、石は表面を焦がして煙を立ち上らせ、街灯は熱で歪んでしまい、もう街灯として機能しないだろう。
そしてミィは、炎と熱をまともに食らい、ヒトのカタチを保っているとはいえ、その身体は完全に【炭化】してしまっていた。
地獄の業火でも投下されたかのようなその光景に絶句していたが、やがて一人のマスターが声を上げる。
「やりぃ、超級職の丸焼き一丁」
それが発せられたのは、オーンスタインの側だった。
心無い言葉を発したのは、石壁の先でバズーカを構えたマスターだった。
「味方の土魔法で余波を防いでいやがったのか」
「当然でしょう?彼の必殺スキルは膨大な熱量を欲していてね。前にさっきの奥義を使えるかどうか試したのが功を奏したよ」
男の〈エンブリオ〉、【真火砲哮チャンティコ】。
外部リソースの炎の熱量を吸収し、蓄えた熱量を弾として砲撃するTYPE:アームズのエンブリオ。
蓄える炎は自然火でも魔力火でもなんでも良い。蓄えれば蓄えるほど弾も増え、威力も上がる。例えば【
最大の必殺スキルは60秒のチャージ後、ストック全てを使い切った火炎の砲撃。例え直撃を防いでも、爆心地の熱や炎が空気を焼き尽くし、【窒息】を齎すだろう。
弱点の一つは1発1発の弾の威力は固定されており、弾2つ分を一撃で放つことはできても、1発分を割いて威力を低い弾として放つことはできないということだ。
ある種、〈炎帝〉と呼ばれるミィに対してのメタとも言えるだろう。
強いて言うならレイ対策として《煉獄火炎》を封じる事も、《カウンター・アブソープション》のストックを減らせることも出来ただろう。最もフランクリンは、一発でも撃てば《復讐するは我にあり》で反撃されるリスクを知って配置しなかったが。
「さ、もう良いでしょう。あなたがたのオーナーは今灰燼となった。もう受け入れなさい、負けを」
もう終わりだと言わんばかりに、オーンスタインが投降を促す。
最早目の前でミィも倒され、残る〈炎帝の国〉の面々もその光景で折れているだろう。後は残る雑兵とシン、裏切り者のユーゴーを始末して任務に戻ればいい。
「全く、舐められたものね。〈炎帝〉のミィ様も西方には名を轟かせ切れなかったのかしら?」
勝ちを確信していたオーンスタイン達の思考を遮り、炎羅が呆れたように声を上げる。
オーンスタインもチャンティコのマスターも、ユーゴーとキューコさえも呆けていた。
「というか、ミィを炎で殺そうなんて100万年早いわよ。そうでしょ?」
すたすたと焦げ付いた石畳を歩み、焼死体と化したミィに呼びかける。
「は、はは……何言ってんだあの女。とっくにくたばってる相手に抜かしてやがるよ」
「……おかしい」
ユーゴーは炎羅の言葉で異変に気付く。
〈マスター〉であるミィの焼死体が
「…まさか……!」
何かに気付いて言い切る前に、突如発火した炎がミィの焼死体を包む。
異様な光景にオーンスタイン達やユーゴーがが戸惑う中、必殺スキルを解除したシンがユーゴーに言葉を投げかける。
「お前、さっき訳が分からないって言ってたよな?」
「え?ええ……」
「アイツは最初っから避ける気なんて無かったんだよ。後ろにいるルーキー達に被弾しないためにもな」
「あ……」
「お前、フランクリンの件で気が動転してたんだろうな」
確かにミィが回避の指示を出していれば必殺スキルで“スーサイド”シリーズの掃討にあたっているレイやルークを含めたマスターを吹き飛ばしてしまっただろう。
それを阻止するためにもミィは奥義を用いて必殺スキルの相殺を選んだのだ。
「……馬鹿げている」
オーンスタインが絶句する。今の行動は【符】の量を誤れば味方諸共やられてしまう諸刃の剣だ。多すぎればより周囲への被害は甚大となり、少なければ押し負け、シン達すらその攻撃に巻き込まれていた。その絶妙な力配分をミィはあの一瞬で成し遂げたのだ。
それに、それ以前に、いかに不死の〈マスタ―〉といえど、自ら炎の奔流に身を置こうと考える者はまずいない。それこそユーゴーが昨日共に戦った、フランクリンが宿敵と見定めたルーキーのような人でもない限り。
それでも自分たちの目の前でそれを成した相手は、やがて炎に包まれながらむくりと形を起き上がる。
――まるで、中にいる人間が生き返ったかのように。
「――やるぞ、炎羅」
「了解よ」
炎をかき分けるように振り払った炎帝に、彼女は答える。
同時に2人が駆け出す。
「1分お願いしますよ」
「任せとけ!」
すかさず先程のバズーカのマスターが【紅蓮魔術師】の火炎魔法と共に砲撃を繰り返す。
ミィは火球の攻撃を回避し、炎羅が炎を引き裂いた。そして一瞬で肉薄すると、その肉体に掌底を叩き込む。
吹っ飛ばされると同時に全身に炎が纏わりついた。
「うごぁ!?」
それでもそのマスターは致命傷とはならなかった。彼の懐から砕けた【ブローチ】が零れ落ちる。
直後に他のマスターが銃撃で炎羅を引き離し、火だるまになったマスターも地面を転がって鎮火させる。
「炎を使う〈エンブリオ〉だ!」
彼らからすれば、炎羅は掌に炎を宿し、炎属性を付与する武術を得意とすると判断する。それに今まで隠していたのは近接攻撃のみということ。それなら銃撃で制圧してしまえばいいと安易に判断する。
だが、一部のマスター――ユーゴーは半ば確信していた――そうでないと言いたかったが、あえてその言葉は口にしなかった。
「準備完了ですよ――《コール・デヴィル・メガロファイター》」
オーンスタインが合図とともに召喚したのは、人間大の悪魔だった。
1.5メートル強の身体に金属鎧を纏い、ヴァイキングの兜を被った頭部は人の頭蓋骨にそのものに色を変えたようなものだった。そして自分の身の丈と同等の、メイスのような棍棒を担いでいる。
これまで召喚した【イヴィル・ランスバード】や【ソルジャー・デビル】とは比べ物にならない、【悪魔騎士】が召喚しうる最大級のインスタントの悪魔。その性能は、逸話級と同等の力量を誇る悪魔の戦士。
『WOOooo……』
「まったく、本来これはベテラン連中を潰す為の切り札だったんですがね」
「どういう意味だ?」
「逸話級〈UBM〉相当なんですよ。この悪魔はね」
「その通りだ!AGIは2千5百、STRとENDは3千もあるんだぞ!」
口調は変わらずとも、絶対的な自信がその口ぶりから感じられる。取り巻き達も切り札の登場に興奮している。
それでも彼女らは引く気などない。もし引いたり、倒されたりしたら彼らは奥で足止めしているルーキー達にこの悪魔をけしかけるだろう。
「ミィ、ここで止め――」
シンも必殺スキルを解除して迎撃しようとし、炎羅がミィに投げかけた所で――言葉は遮られた。
亜音速で肉薄した【メガロファイター】に棍棒をまともに受け、壁に叩きつけられ風穴を開ける。
「よっしゃぁ!まず1人!」
「流石【メガロファイター】!一撃でデスペナだぁ!!」
「――いいえ」
他のマスターが炎羅のデスペナルティを確信していたが、オーンスタインだけは未だに土煙を上げる民家の壁を見て動かない。
直後、土煙が晴れた場所に炎羅は倒れていた。所々出血し、ボロボロになっているものの、呼吸を示すように胸が僅かに上下している。即死とまでは至らなかったようだ。
「今ので死なないとは。やはり【ギーガナイト】より下なのは否めませんね」
だがそれでも炎羅に抵抗する力は残っていない。
ゆっくりと迫る【メガロファイター】は、倒れる炎羅の前まで近づくと棍棒を彼女の顔に向け、振り上げる。
そして棍棒を振り上げ、炎羅に止めを刺そうとした時――、
背後から飛んできた炎が炎羅を焼き尽くした。
『Wo!?』
「――んなっ!?」
「はぁ!?」
召喚された【メガロファイター】を含め、〈炎帝の国〉所属のマスター以外の全員が絶句した。
その炎を放った人物は他の誰でもない、ミィ本人だったのだ。
「あ、貴女何を……!?」
「悪いが、もうこれ以上お前達に付き合う必要はない。次で決めさせてもらう」
「そっ、それが今の攻撃とどう関係してるんだよ!?」
チャンティコのマスターの言葉はこの場にいるほとんどの者の代弁に聞こえた。
彼の言葉を受けてミィは言葉を返した。
「――《紋章偽装》解除」
それは、スキル解除の宣言だった。
凛とした声と共に、炎に包まれた炎羅の左手の甲に刻まれた紋章が、炎に焼き尽くされるかの如く消える。
キューコが「やっぱり」という呟きと同時。炎の中で炎羅がむくりと起き上がり、同時に人の姿を捨て去ってその身に炎を纏う。
5メートルを誇る体長、その肉体全てが炎で形容されているかのような、赤々と燃え滾るその姿となり【メガロファイター】を焼き尽くして飛翔する。あたかも、ミィの内に宿る炎を具現化したような威容。
これこそがミィ・フランベルの〈エンブリオ〉。
TYPE:メイデンwithガーディアン――スザクの真の姿。
そこでオーンスタイン達は思い知らされたのだ。
自分達がとんでもない大ハズレを引いてしまった事に。
「めっ、【メガロファイター】!早くミィのほうを――」
「《スニーク・レイド》!」
今度はオーンスタインの言葉が途切れた。
背後からの一閃で首を斬られ、【救命のブローチ】を砕かれる。そして瞬く間に他のマスターにも斬撃が浴びせられ、身代わり系アイテムが全損。攻撃を防ぐ手立てが無くなってしまった。
いきなりの不意打ちに混乱する最中、火の鳥と化したスザクが炎を滾らせて急降下。避ける間も無くオーンスタイン達を中心に大爆発が巻き起こった。
爆心地からは炎が立ち上り、人影は跡形もなくなっていた。
「……ドレッド、いつからだ?」
「悪いな。あの悪魔が出た時にケリをつけるつもりだったが、お前の〈エンブリオ〉を利用させてもらったよ」
すらり、と黒い刀身の短剣を見せるドレッド。
『全く紛らわしいわね。死んじゃったかと思ったじゃない』とガーディアン形態の炎羅が呆れたようにずい、とドレッドに顔を寄せる。
「まあいいさ。お前はこれから向こうの援軍に行くのか?」
「そのつもりだ。シン、お前らは――」
「解ってる。お前ら、俺らはギデオンのモンスターとPKを潰しに行くぞ!」
HPポーションとSPポーションで体制を立て直したシンが残った〈炎帝の国〉のマスターに声をかける。
彼らは素直に応じたが、一人だけそこに待ったをかけた。
「あの……シン様、彼はどうするのですか?」
「ああ、放っておいても問題はねぇよ。さっきの連中の独断であれそうでなかったであれ、アイツにできることはない」
シンはそれだけ言うと〈炎帝の国〉のマスターと共にPKやモンスター征伐へと行動し、ドレッドもまた単独行動。ミィは炎羅と共に〈シャンド草原〉へと飛んでいった。
「…………」
そして、一人残されたユーゴーは深く息を吐く。
正直、シンの言っていたことは半ば否定しきれない。
それでも彼は、彼女――ユーリ・ゴーティエはフランクリンを――フランチェスカ・ゴーティエをこのまま見捨てる選択を持ち合わせてはいない。
「…………私は、どうすればいいのかな」
その呟きに対して、誰も答える者はいなかった。
【フランクリンのゲーム第3試合:西門周辺の戦い】
敵陣:盤上の“ジャック”ことオーンスタイン及び、〈
自陣:ミィ、シン、ドレッド。
勝者:ミィ・フランベル、シン・ライアース、ドレッド・ジェフリー。
備考:ユーゴー・レセップスの防衛成功。
※ミィの〈エンブリオ〉
(・大・)<炎羅がミィの〈エンブリオ〉だったんだよ!!
( ̄(エ) ̄)<ナ、ナンダッテー(棒)
(・大・)<何その知ってたような口ぶり。
※LotJの5人。
(・大・)<一応あいつらはクランの中じゃ中の下。
(・大・)<オーンスタインは中の上辺り。
※クラン内のぼやき。
(・大・)<ざっくり比較するとローガンは強い悪魔を使ってのごり押し蹂躙。
(・大・)<オーンスタインは自身は指揮官に徹して相手や戦略に応じて悪魔を使い分けるタイプ。
※ドレッドの不意打ち。
(・大・)<トリックのタネはまた後日。
感想OKです。